孤独な王女

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「リィおはよう!」
「ぐっ……!……わ、わかったから、抱きつかないで。おはよう、朝ごはん食べよう」
「うん!」

 ヴィーは朝から凄まじい後光を放つ笑顔で居間のソファーに腰かけた。私もその対面に座って、先ほどの衝撃を受けた腰骨をさすった。結構痛かった。

 建国記念式典から城に滞在しているエルサに同じ寝室で寝起きしているのを知られて、それはそれは物凄い笑顔で窘められたので、寝室を分けてもらった。すると図々しいこの弟は「リィ成分が足りない」と、毎朝私の腹にタックルを決めるようになったのだ。近衛に混じって体を動かしているせいか衝撃も重くなったし、身長が伸びてこれまでは腰にあった頭が危うく鳩尾にめり込みそうで、毎日戦々恐々としているところだ。

 ちなみに分けてもらったのは寝室――私室だけで、居間は当然共用だった。それでも隣国からのお偉いさんとかが来たときに使う来賓用の部屋だけあって、設備が充実している。だからこそ、自分の寝室にお手製の『鍵』をかけて、誰も彼も立ち入り禁止にできているのだ。寝室から続くクロゼットルーム、浴室。引きこもろうと思えば引きこもれる。
 付け加えると、ヴィーにまで侵入を許さないのは前科があるからだ。あれはほんとに許せなかった。容赦なく粉々だったんだもん。

 ヴィーがヴィー付きの侍女に給仕をしてもらっている目の前で自分の分を取り分け、さっさと口に運ぶ。侍女が何か言いたげな顔をしているが無視した。この度新しく就任した侍女長は、私のせいだとよくわかっているはずだから、あなたが仕事しなくても怒られたりはしないよ、たぶん。

「リィ、今日の、ちゃんと覚えてる?」
「……覚えてるよ、ちゃんと。昼からだよね」
「うん!その後戻ったら晩餐会もちゃんとあるからね!『昼一緒だったからいいや』は駄目だからね!!」

 よく私の性格をお分かりで、と思ったら、王さまの入れ知恵らしい。全くもって抜け目ない。

「……気づいたら晩餐会も毎日になってたけど、やる必要ある?そんなに顔合わせなくても……」
「いいじゃない。父上なりの努力だよ。それに、たった三人だけの家族なんだもの。減るものじゃないよ。少なくともぼくは嬉しい」
「うぐ」

 急所をぐさりとやられて言葉に詰まった。ここぞとばかりに儚げに笑いおって……。腹黒めと思っても、結局強く出られず、渋々黙り込むことにした。最後に切り捨てたのはヴィーであっても、私がやったことは変わらないんだから、ちゃんと背負うべきだった。

「……わかったよ」
「ありがとう。ところで、その格好で午前中何するの?ばれたらまたタバサさまに怒られるよ」
「ばれる前に逃げるから大丈夫。練兵場で体を動かしてくるだけだよ。ヴィーは?」
「父上のところで勉強。最近ようやくわかり始めてきたんだー」
「そ、楽しい?」
「うん!みんな優しいし」
「ならよかった」

 正直、ベリオルやネフィル、最悪王さままでヴィーに対して微妙な感情を持ってるんじゃないかと思ったけど(実際八年くらい前、ベリオルとネフィルは嫌っていた)、どこかで吹っ切れてたらしい。私がてこ入れに動かずにすむなら何よりだ。
 ごはんが終わって、侍女が片付けしていくのを見送って、二人で部屋を出た。

 開けた扉のすぐ脇に、二人の青年が立っている。一人は金髪金目の近衛騎士。最近昇進して、胸に綾かな組紐を付け、身分証も銀ぴかになったらしい。
 もう一人は茶髪紺目の下級騎士の出で立ち。騎士には不釣り合いな大剣を提げている。防具も必要最低限しか身に付けておらず、実際この軽装で兵士たちを十数人吹っ飛ばせるのだから、誰も何も突っ込まない。
 もう皆さんおわかり、ティオリアとガルダだ。
 二人は揃って礼をした。この辺は近衛の癖が染み着いてるな。

「おはようございます、我が主」

 文言もお揃い。仲良くなったよなこの二人。
 私たちも自然と微笑んで、挨拶を返した。

 建国記念式典が明けてひと月。私たちの道行きは、一人ぼっちじゃない。








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