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階段をのぼる
事後処理③
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ひと月もすると、城もほとんど落ち着いた。少なくともルシェル派は瓦解し、後宮の人間も余すことなく投獄され、罪人や容疑者を押し込めた塔は満員御礼状態だ。
まだ色々な仕事が山積みのベリオルには、もう充分働いてくれたからガキはもう休めとヴィーと一緒に執務室や王さまの部屋から放り出され、ならばと隈がとれるまで休みに休むことにした。
警護の問題で寝室はヴィーと一緒なので、わざわざ別々の寝台で寝るのも馬鹿らしい(発言者・ヴィー)とのことで一緒に寝続けた。添い寝含め誰かと寝るというのははじめての経験だったが、お互い寝相がよく、たまにどちらかが抱き枕になったりしつつもまったりと姉弟水入らずの時間をとることができた。
そうして体調を整えると、どこから聞き付けてきたのか、これまで忙しいと面会を謝絶していた連中がまたぞろ申し込みをはじめ、とうとう部屋の前まで突撃してくることにもなった。そんなにアピールしてこなくても言いたいことはわかってる。まあ応えてやる気はないけど。それでも毎日毎日懲りずにうるさくなってきたところだった。
「困りましたねぇ」
そこで活躍したのが、気弱そうにへらりと笑う金髪茶眼の青年だった。
「日中は、陛下からの命と王女、王子両殿下のたっての要望で私が教師となって勉強会を執り行ってるんです。それをこんなに遮られると、捗らないんですよ」
どんな高位貴族相手だろうと、柔和な物腰にも関わらず頑としてそう門前払いを仕掛ける青年は笑顔を崩さない。相手が身分差を盾にとって不躾なことを言ってきても強権的に押し退けようとしても、賄賂を掴まれそうになってさえ。ただほんわかと笑って、お引き取りを願う。
そうして相手は焦れてこの無礼な(主観的意見)男を排除しようと目論む……その瞬間を狙われていたことに気づかずに。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私はミシェル・エリオットと申します。ユーリ辺境伯爵の名代を任じられておりますが、現在エルサ・ユーリ個人の正式な代理人だと陛下に認められております。以後、長い付き合いになると思いますので、よろしくお願いしますね、ローゼン伯爵」
そう言って、自身の長衣の襟に付いていたブローチをとん、と叩く。折り曲げられた裾に隠されるようだったそれを初めて注視した哀れな子羊は直後、がたがたと震えながら退散することになったのである。
私とヴィーはそれを部屋の中からばっちり聞いて笑った。
初対面の時はいかにもひ弱に見えたのだが、エルサが気に入る人物がそれだけで済むわけがないのだった。
「お見事です、ミシェルさま」
「あ、聞こえちゃってました?参ったなぁ」
帰ってきたミシェルは本当に困ったように笑って頭を掻いた。このいかにもな雰囲気が見せかけでないことが恐ろしい。
この人は腹黒ではないのだが、切り替えが上手いのだ。この人が政治の舞台に立っているところを見たことがないが、油断した隙に死角からの一手を叩き込む姿は簡単に想像できた。
(そりゃあエルサも気に入るよ、この人)
柔らかくて、毅いのだ。これまで身近にいないタイプだから物珍しい。
「あー……と、その顔をみると、さっきの私の言ってた意味もばっちりですね?」
「使えるものを全部使ってるんですね。そこまでやってもいいのですか?」
「師匠からのお達しですので。わざわざ印章入りのブローチまで送って来られたんですし、私個人も無力なので、ここは全力で虎の威を借ります!」
「……リィ、どういうこと?」
溌剌と拳を握りしめたミシェルにくすくす笑っていると、ヴィーに袖を引かれた。のけ者にされたのが気に入らないらしい。
「今のミシェルさまはエルサさま――『ジヴェルナの守り刀』のお墨付きをもらった立場なのよ」
見て、とミシェルの襟のブローチに目を向けさせる。
「王家の紋章とユーリ辺境伯の家紋の混合紋なのよ、あれ。エルサさま個人を示すもの。あの紋章は威厳も権力も含めたものだから、おいそれと他人に真似を許せないし、使うのは本人か……その委任を受けた、エルサさまにとても信頼を受けている者のみ」
「……じゃあ、ミシェルさまはエルサさまに認められていることを、証拠つきで示したってこと?」
そのだめ押しが王さまだ。ミシェル自身は男爵位に養子に出された王族の庶子であり、権限は寄家に依存する以上、上位の者には逆らえない。しかしユーリ辺境伯の名代であり、エルサ個人の紋章を使うことをエルサ本人と最高権力者たる王さまにも認められている……。これで相手が手を出そうとすれば、逆に破滅する。
「そういうことですねぇ」
いつの間にかミシェルはほのぼのと姉弟を見つめていた。それに思わず半目になる。
「……ミシェルさま、のほほんとしてますが、わざとですよね?もっと目立つところにそのブローチを身に付けることも、最初から名乗ることもできたでしょう?」
「あはは。あなたさまを確実に守るためですよ。ああやって最初は丁寧に言い寄ってくる人たちって、自分たちが後ろ暗いことをやろうとしたときに釘を刺されるのが一番効くんですよ。これからは無闇に突撃してこないと思うので、安心してくださいね」
……やっぱり、いかに軟弱そうでも中身はしっかりエルサの色に染まっていた青年だった。
ちなみに勉強会は口実ではなく本当に行っている。外交の話はエルサにも聞いたことがなかったので、実に新鮮だった。六年前はお披露目の準備だけで精一杯だったのだ。
ミシェルの宣告通り、以降私を懐柔しヴィーを排除しようとする輩はめっきりと来なくなった。エルサのご威光とミシェルの機転に感謝である。
☆☆☆
そういえば、と、余裕が戻れば振り返らなくてもいいことを振り返ってしまう。
(……ザルム近衛騎士長とは、あれ以来会ってないけど……)
これまで忙殺されていて思考に掠りもしなかった人物が頭に過って、酢を飲んだように顔をしかめた。……思い出したくなかった。
(王さまたちも何も私に言ってこなかったんだから、当人たちで水に流したのよね)
そりゃあ王国第一位の若き騎士を手放せるわけがないのだ。このひと月ほど全く姿を見なかったのはそういうことだ。
一度思い出すと芋づる式に自分の弱さも思い出して、情けないやら恥ずかしいやらで身悶えしたくなった。一人相撲感が恐ろしい。
(……ほら、やっぱり来ないんだからあのあとの私が正解だったのよ。何が『勢いで決めた訳じゃありません』よ。『言葉を撤回するつもりはありません』よ。そこまで言っておいて……まあ私もこれまで忘れてたわけだけど、一言もないっていうのも勘に障る)
「……王女殿下?どうしました?」
ミシェルから呼びかけられてはっと我に返った。
ぱちぱちと瞬いて見回すと、ミシェルとヴィーがこちらを注意深く見守っていた。どうやら考えごとに集中しすぎていたらしい、と申し訳なくなった。
「すみません」
「どうしたの?リィ」
「何でもないわよ」
にこっと笑ったらヴィーは信用ならないとばかりに半目になったが、受け流すくらいは私もできるのだ。
……夕方、ミシェルが帰り、私たちも晩餐をとろうということで部屋を出た。王さまたちもある程度仕事が片付き、体調も戻った王さまが、ここ一週間ほど休養で会えなかった私たちに会いたいとか抜かしたために設定された晩餐会である。暗殺の心配は絶えなかったが、外宮の料理関係者の信頼は篤いらしい。さしもの私も致死毒には耐性がないから不安だが、王さま曰く「死なばもろとも」なので、今さら気にしても遅い。王族直系を一辺に殺すことはみんな避けるだろうという意味だったが、それでももう少し言葉を考えてほしかった。
そうして部屋を出て、一瞬後に固まった。手を繋いでいたヴィーが、歩きだそうとしてつんのめるように止まっても、驚愕冷めやらず立ち尽くした。
「リィ?」
「あれ?王女殿下、どうしました?」
ヴィーに被ったその声に耳を疑う。視覚は残念なことに正常だったらしい。聴覚も。……なぜここに。
「……ええと、ザルム近衛騎士長?」
「ようやく目があったと思ったら、ガルダって呼んでくれないんですか」
そういってその男は唇を尖らせた。……間違いなく本物だ。思い出したその日になぜ出会ったのだ。というか私たちの部屋の前で何をしているのだこの人は。
「何って。警護ですよ。これまでだって何度も会ってるじゃないですか」
「……はあ?」
思わず呆けてしまった。……会った?何度も?ここで?
「え、いなかったでしょあなた」
「……リィ。話が進まなそうだからぼくからも言うけど、いたよ、この人。昼は違うけど、夕方から明け方まではずっとここで警護してるんだよ、ティオと一緒に」
「………………え?」
そのわりに全然顔を見た記憶がない。というか……ここの護衛のことを気にしたことがなかったような気がする。
「リィ、これまで忙しかったからね。気にする余裕なんてなかったんでしょ。終わったと思ったらずっと部屋に引きこもって休んでたしね」
なぜか弟から可哀想な子を見るような目を向けられた。なぜに。
ばっと、にこにこ無邪気に笑っている男を振り返った。
「ま、毎日?」
「はい」
「嘘でしょ?」
「たまに挨拶をしても無視されたりしましたよ。避けられてると思ったら存在自体認識されてなかったんですね」
おれってそんなに影が薄いですかね、とやはり笑う男の気が知れない。だから、なぜに嬉しそうなのだ。それだけ聞くと私とんでもなく失礼な人間じゃないか。しかも私の記憶に全くないから本当に質が悪い。どんな態度を受けても負けじと築いてきた礼儀正しい王女像が危うくなっている気がする。
「……殿下、そろそろ時間が」
ティオリアが視界の端でヴィーに耳打ちしているのが聞こえる。混乱しすぎてどうすればいいのかわからないので、それに乗っかることにした。
「ヴィ、ヴィー!早く行こう!」
ここでついてこられたら本気でどうしようかと思ったが、ティオリアがヴィーについていくので自動的に居残りらしい。
めちゃくちゃほっとした。
「それで、どういうことなの?」
道中で尋ねると、ヴィーは要領を得なかったようで首をかしげた。
「どうって?」
「……どうしてあの人が夜に私たちの警護に回されてるの。本来なら王さまでしょう」
「え、あの人が警護してるのはリィだけだよ。だから一人で充分なのにティオリアもついている訳だし」
「だから、どうして私についてるのよ」
「……リィ、まさか聞いてなかったの?」
「何が」
ヴィーは心底あきれた、という顔でため息をついた。
「父上たちも性格が悪いなぁ…………」
そうして教えてくれたことに、とうとうキレてしまった。
「――王さま!!」
警備の近衛騎士たちが目を丸くする前で、ばたーんと扉をぶち破った。壁に当たった扉が返ってくる勢いだ。ここまで全力疾走してきたので肩でぜはぜはと息をつき、目当ての人物にぎろんと目を向ける。
先に席についていた王さまは少しだけ目を見張っていた。ベリオルのように口をぱっかーんと開けていないのは、これが性格の違いか。王さまがそんな顔をするのはたしかに気持ち悪いのでそれでいいのだが。ってそんなことはどうでもいい。
ずかずかと取り繕うことも忘れて王さまに歩み寄る。
「……どうした」
「どうしたもこうしたもない!ザルム近衛騎士長が私の従者ってどういうこと!?」
ばんばんと机を叩いてみるが、王さまはすぐに表情を戻した。今さらか、という顔だ。……むかつく!
「王さま一発殴らせて」
ぎゅっと拳を握りしめて振りかぶる。
「わあー!姫殿下をお止めしろー!!」
様子を恐る恐る窺っていた近衛騎士たちが血相を変えて全力で阻止しようとしてきたので、王さまの顔面を殴ることは叶わなかった。王女相手に羽交い締めまでしてきた彼らにちくりと嫌味でも言おうと思ったが、王さまの前にはすでに一人近衛騎士が立ち塞がっている。見ない間にずいぶんと反応が早くなってるじゃないか!
「離しなさい!」
「ままま待ってください殿下ー!」
「顔はっせめて顔はやめてください!」
「じゃあ蹴る!」
「……何やってるのさ、リィ」
「王子殿下!お願いします止めてください!」
暴走する姉が嘆息した弟からお説教を食らうという珍しい光景のあと、ようやく食べたご飯が立派に冷めきっていたことは言うまでもない。
ところ変わって王さまの執務室。ヴィーは先に部屋に返されたので、私と王さま二人きりだ。
「それで、どういうわけなの。どうしてザルム近衛騎士長が私の従者になってるの」
「私たちはなにもしていないぞ」
「そうじゃなくて、どうして手放したの!彼は必要な人間でしょう!」
「落ち着け」
しごくうるさそうに眉間にしわを寄せている王さまにまたむかついたが、確かに腰は落とすべきだった。こんなところをエルサに見られでもしたら、一週間特訓コースだ。
深呼吸して、聞きたいことをざっと頭の中でまとめて、ようやく目を開いた。
「……あのあと、彼と会ったんですね」
「ああ。クロリエの暴走に踊らされた謝罪と、近衛騎士長の役目を返上する旨を聞いた」
「それを受けたんですか」
「あやつを引き留める手段がそなたにしかない以上、受けるしかなかろう。そなたが受け入れても拒んでもあやつはどのみち家名も役職も捨てるつもりだったからな」
なんだそれは。どんだけ面倒くさいんだあの人。
「……私以外は通用しなかったんですか」
「あやつも自分の腕に自信があるからな。身一つで放り出されたところで傭兵になるか他国に渡るか……。自力で成り上がれる以上、金も地位も必要なかろうよ。ちなみに私は従者になれとあやつに命じたわけではない。そなたの一存に委ねると言ったら、認められるまで頑張るとは言っていたな」
「…………あほですかあの人」
それでは今はまだ従者候補というわけか。認められるまではって、今日まで私、存在に気づいていなかったんだけど。
「そなたにも損はないと思うがな。昼はミシェル・エリオットがそなたを懐柔してくる者共を排除し、夜はあやつがそなたを暗殺しようと訪れる刺客を排除している。……よくやるものだ。どうせ、そなたは勘づいてもいなかったのだろう?」
「……確かに、毒が効かないなら実力行使に出る可能性はあるとは思っていましたが……まさかあの人が対処していたとは」
道理で平和に体を酷使できたわけだが、どうにも過剰戦力に思えてしょうがない。王さまの警護はどうなってるのか気になっていると、そこはザルム近衛騎士長に性根を鍛え直された騎士たちがいるからさほど心配はないらしい。
「昼は練兵、夜は護衛。そこまでやってもそなたに認知されていなかったとは……哀れな男よ」
……え?
「王さま、練兵って」
王さまは今度こそ呆れ果てたため息をついた。やれやれと首まで振られて。……いや、待ってよ。初耳だよ。
「そなた、あの男に仕事を投げ出すなと言ったそうだな?ならば後進を育てるまで、と近衛を叩き直していたのだが、ベリオルがついでだからと軍までそれに参加させてな。現在、軍は近衛の直属の配下にあたる。まだあやつは表向き近衛騎士長として軍も鍛え直しているところだ」
聞いたところによると、私の中途半端な目論見通りにあの時誰も殺さなかったことで、あの人はすんなりと元の鞘に戻り、即座に軍を掌握に動いたのだそう。後宮の私の部屋を見張っていた兵士の態度も私がさらっと暴露していたところに、ベリオルに頼まれてなおさら火がついたらしい。軍もルシェル派の癒着がひどかったからちょうどいい機会だったようだ。
「あと数週間で軍の再編成も練兵も完了すると報告が来た。近衛も規律が見直され、あやつに勝る騎士長は選べんが、無難な者なら発掘できた。そなたの心配事は一つ減るわけだ」
「なっ……」
……まさか外堀が着実に埋められつつあることに愕然とする。
「軍はその後はまた独立させるぞ」
新しい声が聞こえたと思ったら、書類を抱えたベリオルだった。
「リエン姫もいたならちょうどいい。話したいことがあったんだ」
「……ベリオル!!」
我慢できずに怒鳴るとベリオルはは?という顔をした。なんの話をしているのか分かっていないまま軍のことを言ったらしい。
「何だよ、珍しく騒がしいな」
「ザルム近衛騎士長のことどうして後押ししたの!!」
「ああそれか。お前、ほんと自覚ないよな。エルサ殿までたらしこんどいて」
「……はあ!?」
「ここに名代送り込んできたのはあの方が張り切ってるからだ。外交面での問題全部力ずくで捩じ伏せてお前にいい格好したいんだよ。近衛騎士長もどっからどう見ても同じだろーが。……そんなことより」
「そんなことより!?」
「――あの女と後宮の連中の処刑の日取りと方法が内定した」
――空気が一瞬で張り詰めた。
☆☆☆
後宮の者は庭師や医者を含め、リエン姫の殺害未遂と虐待に荷担したうえでの不敬罪も適用された。特に平民となったクロリエとその専従侍女だった女たちは、リエン姫たっての希望で、既に舌切りと手の腱の切断がおこなわれている。しかしそれで終わるはずがなかった。
「あとは鞭打ちと毒杯、だが」
ベリオルは紙をペラペラめくりながらちらりとこちらを横目で見つめてきた。
「……本当にこれでいいのか?」
その瞳に浮かぶ思いを感じながらしっかり頷いた。
「それでお願い。他は我慢できるけど、この人だけは許すつもりはないの。もっと苦しんでもらわなきゃ私の気が済まない」
「…………殺したふりで街に捨てて、それだけで?」
ベリオルは不信そうだ。でもそれでいいのだと言った。
「だってあの人、これまで貴族として生きてきたんだよ?生まれてからこれまで全部誰かの手に身の回りの世話をやらせていた。……それが満足に喋れず一度転んだらうまく立ち上がれない状態で、誰の手を借りれると思う?見るからに罪人だとわかる格好で。誰も助けようとしないあの人はすぐに苦しみ出す。自分からも手を伸ばそうとはしないだろうしね」
予想では一週間もてばいい方だと思う。その頃には確実に死ぬ。
「あの人は貴族として生まれ、最後に何もかも奪われて汚い路地裏で野垂れ死ぬ。……それが私の復讐。あの人にはちゃんとした絶望を与えたいの」
言い切って、神妙な顔をして黙りこむ二人に気づいて苦笑した。
「……私を軽蔑する?」
自分でもまともじゃないことは自覚している。でもこの方法ではないと、私は身の内の炎に焼き殺されてしまうのだ。
「しないさ。誰もな」
ぽん、とベリオルが頭を軽く叩き、王さまはこくりと一つ頷いた。
「……王さまは、いいの?奥さんだった人だけど」
「いい。あれに愛を感じたことはいつでもないからな、思い出の一つも存在していない。……だが、あれは違うだろう」
「……うん。でも、ヴィーにはこのことは言わないで。あの子は私の行いを肯定するでしょうけど……それじゃヴィーにとってあんまりだから」
二人とも、納得してくれた。……私のこの望みを知るのは、この場にいる者以外は、偽物の毒を用意して街にあの人を捨てるネフィルとサームたちだけ。
……考えたいことはあるけど、ひとまずはここで気持ちの整理をつけたいところだった。
まだ色々な仕事が山積みのベリオルには、もう充分働いてくれたからガキはもう休めとヴィーと一緒に執務室や王さまの部屋から放り出され、ならばと隈がとれるまで休みに休むことにした。
警護の問題で寝室はヴィーと一緒なので、わざわざ別々の寝台で寝るのも馬鹿らしい(発言者・ヴィー)とのことで一緒に寝続けた。添い寝含め誰かと寝るというのははじめての経験だったが、お互い寝相がよく、たまにどちらかが抱き枕になったりしつつもまったりと姉弟水入らずの時間をとることができた。
そうして体調を整えると、どこから聞き付けてきたのか、これまで忙しいと面会を謝絶していた連中がまたぞろ申し込みをはじめ、とうとう部屋の前まで突撃してくることにもなった。そんなにアピールしてこなくても言いたいことはわかってる。まあ応えてやる気はないけど。それでも毎日毎日懲りずにうるさくなってきたところだった。
「困りましたねぇ」
そこで活躍したのが、気弱そうにへらりと笑う金髪茶眼の青年だった。
「日中は、陛下からの命と王女、王子両殿下のたっての要望で私が教師となって勉強会を執り行ってるんです。それをこんなに遮られると、捗らないんですよ」
どんな高位貴族相手だろうと、柔和な物腰にも関わらず頑としてそう門前払いを仕掛ける青年は笑顔を崩さない。相手が身分差を盾にとって不躾なことを言ってきても強権的に押し退けようとしても、賄賂を掴まれそうになってさえ。ただほんわかと笑って、お引き取りを願う。
そうして相手は焦れてこの無礼な(主観的意見)男を排除しようと目論む……その瞬間を狙われていたことに気づかずに。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私はミシェル・エリオットと申します。ユーリ辺境伯爵の名代を任じられておりますが、現在エルサ・ユーリ個人の正式な代理人だと陛下に認められております。以後、長い付き合いになると思いますので、よろしくお願いしますね、ローゼン伯爵」
そう言って、自身の長衣の襟に付いていたブローチをとん、と叩く。折り曲げられた裾に隠されるようだったそれを初めて注視した哀れな子羊は直後、がたがたと震えながら退散することになったのである。
私とヴィーはそれを部屋の中からばっちり聞いて笑った。
初対面の時はいかにもひ弱に見えたのだが、エルサが気に入る人物がそれだけで済むわけがないのだった。
「お見事です、ミシェルさま」
「あ、聞こえちゃってました?参ったなぁ」
帰ってきたミシェルは本当に困ったように笑って頭を掻いた。このいかにもな雰囲気が見せかけでないことが恐ろしい。
この人は腹黒ではないのだが、切り替えが上手いのだ。この人が政治の舞台に立っているところを見たことがないが、油断した隙に死角からの一手を叩き込む姿は簡単に想像できた。
(そりゃあエルサも気に入るよ、この人)
柔らかくて、毅いのだ。これまで身近にいないタイプだから物珍しい。
「あー……と、その顔をみると、さっきの私の言ってた意味もばっちりですね?」
「使えるものを全部使ってるんですね。そこまでやってもいいのですか?」
「師匠からのお達しですので。わざわざ印章入りのブローチまで送って来られたんですし、私個人も無力なので、ここは全力で虎の威を借ります!」
「……リィ、どういうこと?」
溌剌と拳を握りしめたミシェルにくすくす笑っていると、ヴィーに袖を引かれた。のけ者にされたのが気に入らないらしい。
「今のミシェルさまはエルサさま――『ジヴェルナの守り刀』のお墨付きをもらった立場なのよ」
見て、とミシェルの襟のブローチに目を向けさせる。
「王家の紋章とユーリ辺境伯の家紋の混合紋なのよ、あれ。エルサさま個人を示すもの。あの紋章は威厳も権力も含めたものだから、おいそれと他人に真似を許せないし、使うのは本人か……その委任を受けた、エルサさまにとても信頼を受けている者のみ」
「……じゃあ、ミシェルさまはエルサさまに認められていることを、証拠つきで示したってこと?」
そのだめ押しが王さまだ。ミシェル自身は男爵位に養子に出された王族の庶子であり、権限は寄家に依存する以上、上位の者には逆らえない。しかしユーリ辺境伯の名代であり、エルサ個人の紋章を使うことをエルサ本人と最高権力者たる王さまにも認められている……。これで相手が手を出そうとすれば、逆に破滅する。
「そういうことですねぇ」
いつの間にかミシェルはほのぼのと姉弟を見つめていた。それに思わず半目になる。
「……ミシェルさま、のほほんとしてますが、わざとですよね?もっと目立つところにそのブローチを身に付けることも、最初から名乗ることもできたでしょう?」
「あはは。あなたさまを確実に守るためですよ。ああやって最初は丁寧に言い寄ってくる人たちって、自分たちが後ろ暗いことをやろうとしたときに釘を刺されるのが一番効くんですよ。これからは無闇に突撃してこないと思うので、安心してくださいね」
……やっぱり、いかに軟弱そうでも中身はしっかりエルサの色に染まっていた青年だった。
ちなみに勉強会は口実ではなく本当に行っている。外交の話はエルサにも聞いたことがなかったので、実に新鮮だった。六年前はお披露目の準備だけで精一杯だったのだ。
ミシェルの宣告通り、以降私を懐柔しヴィーを排除しようとする輩はめっきりと来なくなった。エルサのご威光とミシェルの機転に感謝である。
☆☆☆
そういえば、と、余裕が戻れば振り返らなくてもいいことを振り返ってしまう。
(……ザルム近衛騎士長とは、あれ以来会ってないけど……)
これまで忙殺されていて思考に掠りもしなかった人物が頭に過って、酢を飲んだように顔をしかめた。……思い出したくなかった。
(王さまたちも何も私に言ってこなかったんだから、当人たちで水に流したのよね)
そりゃあ王国第一位の若き騎士を手放せるわけがないのだ。このひと月ほど全く姿を見なかったのはそういうことだ。
一度思い出すと芋づる式に自分の弱さも思い出して、情けないやら恥ずかしいやらで身悶えしたくなった。一人相撲感が恐ろしい。
(……ほら、やっぱり来ないんだからあのあとの私が正解だったのよ。何が『勢いで決めた訳じゃありません』よ。『言葉を撤回するつもりはありません』よ。そこまで言っておいて……まあ私もこれまで忘れてたわけだけど、一言もないっていうのも勘に障る)
「……王女殿下?どうしました?」
ミシェルから呼びかけられてはっと我に返った。
ぱちぱちと瞬いて見回すと、ミシェルとヴィーがこちらを注意深く見守っていた。どうやら考えごとに集中しすぎていたらしい、と申し訳なくなった。
「すみません」
「どうしたの?リィ」
「何でもないわよ」
にこっと笑ったらヴィーは信用ならないとばかりに半目になったが、受け流すくらいは私もできるのだ。
……夕方、ミシェルが帰り、私たちも晩餐をとろうということで部屋を出た。王さまたちもある程度仕事が片付き、体調も戻った王さまが、ここ一週間ほど休養で会えなかった私たちに会いたいとか抜かしたために設定された晩餐会である。暗殺の心配は絶えなかったが、外宮の料理関係者の信頼は篤いらしい。さしもの私も致死毒には耐性がないから不安だが、王さま曰く「死なばもろとも」なので、今さら気にしても遅い。王族直系を一辺に殺すことはみんな避けるだろうという意味だったが、それでももう少し言葉を考えてほしかった。
そうして部屋を出て、一瞬後に固まった。手を繋いでいたヴィーが、歩きだそうとしてつんのめるように止まっても、驚愕冷めやらず立ち尽くした。
「リィ?」
「あれ?王女殿下、どうしました?」
ヴィーに被ったその声に耳を疑う。視覚は残念なことに正常だったらしい。聴覚も。……なぜここに。
「……ええと、ザルム近衛騎士長?」
「ようやく目があったと思ったら、ガルダって呼んでくれないんですか」
そういってその男は唇を尖らせた。……間違いなく本物だ。思い出したその日になぜ出会ったのだ。というか私たちの部屋の前で何をしているのだこの人は。
「何って。警護ですよ。これまでだって何度も会ってるじゃないですか」
「……はあ?」
思わず呆けてしまった。……会った?何度も?ここで?
「え、いなかったでしょあなた」
「……リィ。話が進まなそうだからぼくからも言うけど、いたよ、この人。昼は違うけど、夕方から明け方まではずっとここで警護してるんだよ、ティオと一緒に」
「………………え?」
そのわりに全然顔を見た記憶がない。というか……ここの護衛のことを気にしたことがなかったような気がする。
「リィ、これまで忙しかったからね。気にする余裕なんてなかったんでしょ。終わったと思ったらずっと部屋に引きこもって休んでたしね」
なぜか弟から可哀想な子を見るような目を向けられた。なぜに。
ばっと、にこにこ無邪気に笑っている男を振り返った。
「ま、毎日?」
「はい」
「嘘でしょ?」
「たまに挨拶をしても無視されたりしましたよ。避けられてると思ったら存在自体認識されてなかったんですね」
おれってそんなに影が薄いですかね、とやはり笑う男の気が知れない。だから、なぜに嬉しそうなのだ。それだけ聞くと私とんでもなく失礼な人間じゃないか。しかも私の記憶に全くないから本当に質が悪い。どんな態度を受けても負けじと築いてきた礼儀正しい王女像が危うくなっている気がする。
「……殿下、そろそろ時間が」
ティオリアが視界の端でヴィーに耳打ちしているのが聞こえる。混乱しすぎてどうすればいいのかわからないので、それに乗っかることにした。
「ヴィ、ヴィー!早く行こう!」
ここでついてこられたら本気でどうしようかと思ったが、ティオリアがヴィーについていくので自動的に居残りらしい。
めちゃくちゃほっとした。
「それで、どういうことなの?」
道中で尋ねると、ヴィーは要領を得なかったようで首をかしげた。
「どうって?」
「……どうしてあの人が夜に私たちの警護に回されてるの。本来なら王さまでしょう」
「え、あの人が警護してるのはリィだけだよ。だから一人で充分なのにティオリアもついている訳だし」
「だから、どうして私についてるのよ」
「……リィ、まさか聞いてなかったの?」
「何が」
ヴィーは心底あきれた、という顔でため息をついた。
「父上たちも性格が悪いなぁ…………」
そうして教えてくれたことに、とうとうキレてしまった。
「――王さま!!」
警備の近衛騎士たちが目を丸くする前で、ばたーんと扉をぶち破った。壁に当たった扉が返ってくる勢いだ。ここまで全力疾走してきたので肩でぜはぜはと息をつき、目当ての人物にぎろんと目を向ける。
先に席についていた王さまは少しだけ目を見張っていた。ベリオルのように口をぱっかーんと開けていないのは、これが性格の違いか。王さまがそんな顔をするのはたしかに気持ち悪いのでそれでいいのだが。ってそんなことはどうでもいい。
ずかずかと取り繕うことも忘れて王さまに歩み寄る。
「……どうした」
「どうしたもこうしたもない!ザルム近衛騎士長が私の従者ってどういうこと!?」
ばんばんと机を叩いてみるが、王さまはすぐに表情を戻した。今さらか、という顔だ。……むかつく!
「王さま一発殴らせて」
ぎゅっと拳を握りしめて振りかぶる。
「わあー!姫殿下をお止めしろー!!」
様子を恐る恐る窺っていた近衛騎士たちが血相を変えて全力で阻止しようとしてきたので、王さまの顔面を殴ることは叶わなかった。王女相手に羽交い締めまでしてきた彼らにちくりと嫌味でも言おうと思ったが、王さまの前にはすでに一人近衛騎士が立ち塞がっている。見ない間にずいぶんと反応が早くなってるじゃないか!
「離しなさい!」
「ままま待ってください殿下ー!」
「顔はっせめて顔はやめてください!」
「じゃあ蹴る!」
「……何やってるのさ、リィ」
「王子殿下!お願いします止めてください!」
暴走する姉が嘆息した弟からお説教を食らうという珍しい光景のあと、ようやく食べたご飯が立派に冷めきっていたことは言うまでもない。
ところ変わって王さまの執務室。ヴィーは先に部屋に返されたので、私と王さま二人きりだ。
「それで、どういうわけなの。どうしてザルム近衛騎士長が私の従者になってるの」
「私たちはなにもしていないぞ」
「そうじゃなくて、どうして手放したの!彼は必要な人間でしょう!」
「落ち着け」
しごくうるさそうに眉間にしわを寄せている王さまにまたむかついたが、確かに腰は落とすべきだった。こんなところをエルサに見られでもしたら、一週間特訓コースだ。
深呼吸して、聞きたいことをざっと頭の中でまとめて、ようやく目を開いた。
「……あのあと、彼と会ったんですね」
「ああ。クロリエの暴走に踊らされた謝罪と、近衛騎士長の役目を返上する旨を聞いた」
「それを受けたんですか」
「あやつを引き留める手段がそなたにしかない以上、受けるしかなかろう。そなたが受け入れても拒んでもあやつはどのみち家名も役職も捨てるつもりだったからな」
なんだそれは。どんだけ面倒くさいんだあの人。
「……私以外は通用しなかったんですか」
「あやつも自分の腕に自信があるからな。身一つで放り出されたところで傭兵になるか他国に渡るか……。自力で成り上がれる以上、金も地位も必要なかろうよ。ちなみに私は従者になれとあやつに命じたわけではない。そなたの一存に委ねると言ったら、認められるまで頑張るとは言っていたな」
「…………あほですかあの人」
それでは今はまだ従者候補というわけか。認められるまではって、今日まで私、存在に気づいていなかったんだけど。
「そなたにも損はないと思うがな。昼はミシェル・エリオットがそなたを懐柔してくる者共を排除し、夜はあやつがそなたを暗殺しようと訪れる刺客を排除している。……よくやるものだ。どうせ、そなたは勘づいてもいなかったのだろう?」
「……確かに、毒が効かないなら実力行使に出る可能性はあるとは思っていましたが……まさかあの人が対処していたとは」
道理で平和に体を酷使できたわけだが、どうにも過剰戦力に思えてしょうがない。王さまの警護はどうなってるのか気になっていると、そこはザルム近衛騎士長に性根を鍛え直された騎士たちがいるからさほど心配はないらしい。
「昼は練兵、夜は護衛。そこまでやってもそなたに認知されていなかったとは……哀れな男よ」
……え?
「王さま、練兵って」
王さまは今度こそ呆れ果てたため息をついた。やれやれと首まで振られて。……いや、待ってよ。初耳だよ。
「そなた、あの男に仕事を投げ出すなと言ったそうだな?ならば後進を育てるまで、と近衛を叩き直していたのだが、ベリオルがついでだからと軍までそれに参加させてな。現在、軍は近衛の直属の配下にあたる。まだあやつは表向き近衛騎士長として軍も鍛え直しているところだ」
聞いたところによると、私の中途半端な目論見通りにあの時誰も殺さなかったことで、あの人はすんなりと元の鞘に戻り、即座に軍を掌握に動いたのだそう。後宮の私の部屋を見張っていた兵士の態度も私がさらっと暴露していたところに、ベリオルに頼まれてなおさら火がついたらしい。軍もルシェル派の癒着がひどかったからちょうどいい機会だったようだ。
「あと数週間で軍の再編成も練兵も完了すると報告が来た。近衛も規律が見直され、あやつに勝る騎士長は選べんが、無難な者なら発掘できた。そなたの心配事は一つ減るわけだ」
「なっ……」
……まさか外堀が着実に埋められつつあることに愕然とする。
「軍はその後はまた独立させるぞ」
新しい声が聞こえたと思ったら、書類を抱えたベリオルだった。
「リエン姫もいたならちょうどいい。話したいことがあったんだ」
「……ベリオル!!」
我慢できずに怒鳴るとベリオルはは?という顔をした。なんの話をしているのか分かっていないまま軍のことを言ったらしい。
「何だよ、珍しく騒がしいな」
「ザルム近衛騎士長のことどうして後押ししたの!!」
「ああそれか。お前、ほんと自覚ないよな。エルサ殿までたらしこんどいて」
「……はあ!?」
「ここに名代送り込んできたのはあの方が張り切ってるからだ。外交面での問題全部力ずくで捩じ伏せてお前にいい格好したいんだよ。近衛騎士長もどっからどう見ても同じだろーが。……そんなことより」
「そんなことより!?」
「――あの女と後宮の連中の処刑の日取りと方法が内定した」
――空気が一瞬で張り詰めた。
☆☆☆
後宮の者は庭師や医者を含め、リエン姫の殺害未遂と虐待に荷担したうえでの不敬罪も適用された。特に平民となったクロリエとその専従侍女だった女たちは、リエン姫たっての希望で、既に舌切りと手の腱の切断がおこなわれている。しかしそれで終わるはずがなかった。
「あとは鞭打ちと毒杯、だが」
ベリオルは紙をペラペラめくりながらちらりとこちらを横目で見つめてきた。
「……本当にこれでいいのか?」
その瞳に浮かぶ思いを感じながらしっかり頷いた。
「それでお願い。他は我慢できるけど、この人だけは許すつもりはないの。もっと苦しんでもらわなきゃ私の気が済まない」
「…………殺したふりで街に捨てて、それだけで?」
ベリオルは不信そうだ。でもそれでいいのだと言った。
「だってあの人、これまで貴族として生きてきたんだよ?生まれてからこれまで全部誰かの手に身の回りの世話をやらせていた。……それが満足に喋れず一度転んだらうまく立ち上がれない状態で、誰の手を借りれると思う?見るからに罪人だとわかる格好で。誰も助けようとしないあの人はすぐに苦しみ出す。自分からも手を伸ばそうとはしないだろうしね」
予想では一週間もてばいい方だと思う。その頃には確実に死ぬ。
「あの人は貴族として生まれ、最後に何もかも奪われて汚い路地裏で野垂れ死ぬ。……それが私の復讐。あの人にはちゃんとした絶望を与えたいの」
言い切って、神妙な顔をして黙りこむ二人に気づいて苦笑した。
「……私を軽蔑する?」
自分でもまともじゃないことは自覚している。でもこの方法ではないと、私は身の内の炎に焼き殺されてしまうのだ。
「しないさ。誰もな」
ぽん、とベリオルが頭を軽く叩き、王さまはこくりと一つ頷いた。
「……王さまは、いいの?奥さんだった人だけど」
「いい。あれに愛を感じたことはいつでもないからな、思い出の一つも存在していない。……だが、あれは違うだろう」
「……うん。でも、ヴィーにはこのことは言わないで。あの子は私の行いを肯定するでしょうけど……それじゃヴィーにとってあんまりだから」
二人とも、納得してくれた。……私のこの望みを知るのは、この場にいる者以外は、偽物の毒を用意して街にあの人を捨てるネフィルとサームたちだけ。
……考えたいことはあるけど、ひとまずはここで気持ちの整理をつけたいところだった。
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