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まず足場を固めていこう
状況説明②
しおりを挟むさて、私自身のことも話しておこうと思う。さっきは一人格とは言ったけど、納得してないこともあるでしょう。だって私はリエンちゃんが経験してないことを実体験として記憶に残してるし。
平たく言うと、私は元々この世界とは別の世界で生きて、死んだ。
この世界がどんな名前なのかは知らない。少なくとも私の知る地球ではない。
だってあそこ一度滅んだんだもの。王女とか言うけど私の記憶が間違ってなければあの世界に国なんて存在しない。
そんな、あとは誰もが死んでいくしかないような世界で私は生まれて、孤児になって、途中でいい人に拾われてどうにか成長していった。
お伽噺のように語られる昔の世界の栄光の数々は現実との乖離甚だしく、私はいつだってひもじかったし喉は乾いてしかたがなかったし、昔は平和だったらしい日本という土地で、略奪強姦強盗という一時的欲求のみの行動で生きる人々の間で何度も命のやり取りをしてきた。心がすり減るけれどそれよりも先に死にたくなかったから。
それに私は「守り手」だった。私を最低の中から拾い上げてくれた人の役割を引き継いで、かつての私のように無力な子どもたちを拾い上げて、生き方を教えて、独り立ちするまでと、奪い続ける大人たちから守っていた。
誰もが自分が生き延びるだけで精一杯だった。
だからこそ見捨てられる存在があることを、助けられた私が忘れるわけにはいかなかった。
あの体の最後の記憶は、頭上に差し掛かる影とたくさんの大きな瓦礫の山。
何回目かわからない地震の中で子どもたちを逃がしていたら、ぼろぼろの廃墟が崩れてきたらしい。そのまま押し潰されて、死んだんだろう。
不思議と、リエンちゃんと出逢ったときに認識した以上の衝撃はなかった。死んだんだ、それだけ。我ながらあっさりしてるが、リエンちゃんの境遇を知って動揺する暇がなかったのだ。
と、まあ。ぶっちゃけただの人格な訳がない私。普通人格が独立して本人さえも知らない世界の記憶を精巧に覚えてるなんて、ないだろ。頭いかれてるのか。
何か生まれ変わったら~的な展開かもとは思ったが、それとも違う。あくまで体の持ち主はリエンちゃんで、彼女の自我はちゃんとある。ここで考えられるのは、一人格として「生まれた」のではなく、一人格に「なった」ということ。だから私の経験がリエンちゃんにも通用するのだろうな。
☆☆☆
「よし、今日の晩ごはんゲット」
手の中でびたびたもがくそれの首をきゅうっと締めて、動かなくなったら木の枝にぶっさした。片手にそれを持ちつつ、いそいそと窓から部屋に戻り、灰だらけの暖炉に突き立てた。
「マッチなんてよくあったなぁこの部屋」
毎度のごとく感心しつつ、暖炉に火をいれた。
焼けるのを待つ間に手足の泥を部屋の隅にある水瓶の水で洗い落とし、手拭いを濡らして髪を拭った。できるなら頭から水を浴びて輝かしい金髪の手入れをしたいものだが、職務怠慢な人間たちが不足分を持ってきてくれるわけもなく、水は貴重だ。リエンちゃんせっかく美人さんなのにもったいない。
昼に洗って、物陰に隠すように干していたワンピースを新しく身に纏う。うん、今日はよく晴れてたからお日さまの匂いがする、気持ちいい。
暖炉の火加減を見つつてきぱきと寝床を整える。徐々に香ばしい匂いがしてきて、きゅる、とお腹が鳴った。
「うん、そろそろかな」
とかげをひっくり返して表面を炙る。うむうむ、いいできだ。
「いただきまーす!」
ためらいなくかぶりついた。
はい、現在絶賛サバイバル中です。
突っ込まないで。王女がそれでいいのとか。仕方ないんだ、こうしないと飢えて死ぬ。
奈積の経験がお役立ちしまくってる今日この頃。
食べ物が極端になかったあの世界では生きてるものはとりあえず食べた。だから虫も食べるしとかげも、毒がなければ蛇だって捕まえて食べる。本当は石打でもしてより栄養価が高くいい感じにお腹のふくれる野鳥を捕まえたかったのだが、リエンちゃんに力が無さすぎるし、下手をしたら目立つので控えることにした。
部屋の外が庭だったのは幸いだった。こっそり人目を忍んでは、このひと月、庭から食べ物を調達してきた。植物は、食べなきゃなーとは思いつつ、動物と違って毒性の有無がわからなかったのだが、彼らがもくもく食べてるのを見て食べるようにした。ちょっと歩くとたまたま小さな野苺の実の群生を見つけて興奮したりはした。あれは美味しかった。
あっさり、冷遇に適応できてよかったと思う。
いちいち勘にさわることしかしない人間しかいなくても、会わなければどうってことはないし。むしろひと月の後半になると、何かしら部屋の外に感じる気配も消えていた。
お、放置か?とちょっと喜べばいいか怒ればいいかわからなくなったが、気が楽になったのは確かだった。
これ以上リエンちゃんが貶められなくてすむ。怪我をしなくなる。
この時のあいつらの行動に意味があったのを知るのは、しばらくあとのこと。
ちょうどリエンちゃんの幼い自我が回復して目を開けたのもこの頃だった。
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