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第一部
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ナジカは街歩きやローナの職場へ行ったりと、外出する時はいつも帽子を被った。自分でも髪が目立ちすぎることはわかっていた。……でも時折、こうして隠さないと穏便に散歩もできない自分は、どこまでも異質な存在なのだということを見せつけられるようで、道に迷った風になる。
ナジカはローナの手を取ったが、今でもここにいていいのか、自信があまり持てない。ただ、ローナが自分勝手な提案をしてきたので自分もやってみようかと……後先など考えず。
レイソルが死んで、カイトたちに連れ出されて見た青空が、とても高くて広くて、眩しかったのだ。……ただ、それだけ。
『……ずっと、考えているんだろう?』
もう、考えるのに、ナジカは疲れきっていた。
今日の街歩きも例外なく帽子を被った。ルアお手製の、レースとリボンのついた可愛らしいデザインのもの。ナジカは、実はルアはおとぎ話に出てくる働き者の妖精ではないかと思っている。
今着ている服だって、採寸されて一日後にはしっかり仕上がっていたのだ。「リボンはさすがに買っちゃった」とか言ってるが、ワンピースのように長いシャツもエプロンドレスのような紺のスカートも、ひらひらの袖だって。一日で全部手作業で、しかも他の家事をこなしながら仕上げてしまうなんてどんだけ超人なんだろう。
「……」
そこで我に返って、足を止めて周囲を見渡した。近くにあるはずだった金色の輝きが見当たらない。訝しげに見てくる人々の視線を掻い潜るように探すが、やはりナジカは一人きりになってしまったようだった。
(……はぐれた)
あまり緊張感もなく心の中で呟く。後で怒られるかもしれない。
ルアの髪は、家事をしてる最中はひっつめだが、今はおろして上半分だけ白のリボンで結んでいるはずで、ナジカほどではないがそのきんきらの髪はいい目印になるはずだった。ナジカはどっちも好きだが、おろす髪型の方が髪油(やはりルアの自家製)のいい匂いがふんわり漂って、より好みだった。
けれど、見当たらない。
……ルアも、いなくなったのに気づいて、探してくれてるだろうか……。
(…………)
まずい、と思った。ずっと無愛想なんだから、さっさと見捨てればいいのに。ルアもローナもクラウスも、みんな気にかけてくる。苛立たない。どうしてなのだろう。
(……そういえば、どうしてローナはわかったのだろう……)
ああ、だめだ。引きずられる。
帽子のつばをぎゅっとつまんでうつむき、首をふるふると振った。
どしん、と横からなにかがぶつかった。
「……わ、悪い。大丈夫か?」
はっと息を飲む音がして、尻餅をついたときに帽子がどこかへ行ったことを知った。
起き上がろうとすると、すっと手を差し伸べられたので、その人を振り仰いだ。昼過ぎの太陽が逆光で髪色などは見えなかったが、声も体格も紛れもなく少女のものだった。
「すまなかった。怪我はないか?」
「……ない」
立ち上がって言うと、ほっとしたように微笑まれた。日焼けを知らないような真っ白な肌、長い赤髪に、紫の瞳。ナジカにぶつかってきたのは、まるで太陽のように輝かしい人だった。
昔義兄に教えられた城からの抜け道を使ってまんまと街に降り立ったミアーシャは、ぶらぶらと当てもなく歩いていたところだった。
髪色も目の色も目立つが、本人はそんなことに気づいていない。加えて、男装しているからか、少女らしい美貌が中性的に輝いているのも無自覚だ。涼やかで凛々しいつり目も、すっと通った鼻筋に形のいい顎、すらりと伸びる手足も、全部が城の者たちがあまり知らないミアーシャの本来の性格を表している。
普段の落ち着きを取り戻していればよかったのだろうが、初めて目にする大勢の人、ブーツではじく石畳の感触、物珍しい屋台の群れはミアーシャにとって何よりも魅力的なものだった。
そうして何にでも目を輝かせているうちに、人にぶつかってしまったのだった。
「……」
その少女を助け起こしたあと、ミアーシャはじっとその顔を見つめてしまった。少女も同じように見つめ返しているので、その瞳の色がよくわかった。周囲はさっと避けて歩いていくが、同じように目を見張っていた。
「お前、髪も目も、きれいな色だな」
ぽつりとこぼすと、少女は我に返ったようにふるりと反応した。
無表情ながら慌てたように広くなった地面を探し、紺と白の帽子を拾って被った。しかし、戸惑ったようにミアーシャを見上げている。
せっかくの髪が隠れてもったいない、と正直に思っていたら、その少女が初めて自分から声を発した。ややもすれば雑踏に掻き消えてしまいそうなくらい、蚊の鳴くような小さな囁きだった。
「……あなたの髪と目も、きれい」
もう一度、ミアーシャは少女を見下ろした。
髪の色が隠れると、表情がずいぶんと際立って見えた。血色のあまりよくない肌と、暗く凝った澱のように鈍い瞳の虹彩、色の薄い唇。まるで昼の陽気な空に溶けていきそうなほど儚いと思ってしまうのは、少女の整った容貌に印象を強く与えるものがないからだ。
(まるで、人形だ)
血の通った暖かさを感じず、思わずその陶磁器のような頬に触れてしまったほどだ。
少女がびくりと身を固くさせるのと、ぱっと手を離したのが同時だった。
「温かいな、一応」
「……あなた、も」
「ん?」
手を握ったり開いたりして感触を思い出していると、少女もこちらに手を伸ばしていた。
「どうした?」
「……この髪、きれい」
「そうか?お前ほどじゃないと思うが」
背中にぶら下がった三つ編みを差し出すと、わずかだが少女の口許が緩んで、なんとなくむず痒くなった。
「……私は、ミア・リーズ。お前はなんて言うんだ?」
「……ナジカ」
「姓はないのか?」
ひとしきり髪を観察していたナジカは、ぎくりと手を離した。ためらうように視線を揺らし、深くうつむいた。ミアーシャは何が琴線に触れたのかわからず首をかしげた。
「…………うん」
対するナジカは、堂々と名と目立つ姿を晒しているミアを羨ましく思った。一度も失ったことなんてないような無傷の微笑みが、太陽のように温かい。
「一人で街を歩いてたのか?」
「ううん。はぐれた」
「そうか」
ミアーシャはなんとなく妹を見ているような気持ちになって、仕方ないなぁと少し上から目線で思った。頼りなく、意思表示も覚束ないこのナジカという少女は、今から別れて街歩きを堪能するには心配すぎる。
天真爛漫な義妹が持っていないような陰りを感じ、同類に出会ったような心地になったというのも、ある。
ミアーシャは朗らかに言った。ナジカの前に手を差し出して。
「なら、一緒に探しながら、街を歩こう」
二人とも新鮮な気持ちで街をうろつき回った。ルアとも手を繋いでいたのにはぐれてしまったという、迷子の才能を持っているとも言えるナジカは、この時ばかりは思い悩むこともなく、ミアとの街歩きを楽しんでいた。……おかげで、ルアを探すことを失念しかけていたが。
出ている屋台を冷やかし、水路の脇を小魚を追いかけ、小腹が空いて果物を買って、道端で二人でかじったりした。
ナジカが驚いたのは、ミアが惜しげももったいぶりも全然なく金貨を懐から取り出したことだ。なんとなく浮世離れして見えるのはミアも同じだったが、思った以上にお嬢様だったらしい。それも、変わり者の。
手入れがきちんとされている髪や肌、自然と目を惹く姿勢のよさは大切にされた証だろうが、男勝りな口調と闊達な言葉選び、ズボンがよく似合う伸びやかな体の使い方が、想像したお嬢様像を粉々にしている。足取りのどこにも迷いがないくせに、物を買うときや食べるとき、意外に世間知らずなところを見せるので、思わずナジカもはらはらしてしまう。
「ミアは、お金持ち?」
「ん?」
一瞬身分を見破られたかと冷や汗を一筋垂らしたミアーシャだったが、苦し紛れに「うん、商いをする家だよ」と言うと、ふうんと頷かれた。
「でも、そのわりに世慣れてないね」
ナジカは本来は言いたいことをすぱっと言う性格だった。自分でも薄々思っていたミアーシャはたじろいだ。
「あ、あれは、別に私は家を継がないし」
ふと自分が城で置かれている状況を思い出して、ミアーシャは落ち着きを取り戻した。気づいたら笑ってしまっていて、ナジカはそれを不思議そうに見上げていた。
「……義理の兄と妹がいて、私は別に何も望まれてないんだ。体が弱いのも相まって、ずっとこれまで奥の奥に引きこもっていた」
もうすぐ義兄が王位につく。可愛がってくれている義兄と未来の義理の姉と、継承権もない義姉を慕ってくれる義妹、こんな自分を主人にしてくれているランファだけれど、他の誰もがミアーシャを軽んじる。実際にミアーシャは自分が名ばかりの王女であることを痛いほど自覚していた。
――継承権もなく、病弱で、閉じ籠ってばかりいる足手まとい。陛下の温情で生き長らえているだけの大罪人の娘。
それがミアーシャの評価。
そうして変わっていく時代に取り残され、消えていってしまいそうな自分が嫌でお忍びを決行してみたというのが、今ここにいる理由だった。
「……まあ、外の世界が見たくなったんだ。体調がよくて、お目付け役の目が行き届いていないうちに……」
帰ったらランファに怒られるんだろうな、と苦笑してしまった。怒られるのは好きじゃないが、心配してくれてるのは嬉しく思う。そんな風に、帰らないと、と思えるほどにはまともに育ったのは、それこそ義兄やランファたちのお陰だ。
「……ミア、ここ、どこかわかる?」
そっと手を引かれて、ミアーシャは顔を上げて、ぎょっとしてしまった。考え込んでいるうちに全く人気のない場所に入り込んでしまったらしい。ナジカも驚いていたから、同じようにぼうっとしていたのだろう。人が多かった場所と違い、ここは淀んだ空気が溜まっている。汚れた路地、ごみなども多少散乱している。
二人とも、すぐに引き返そうと振り返った、その時だった。
「お嬢ちゃんたち、どうしたんだい?」
いつの間にか、複数の男たちに取り囲まれていた。
ナジカはローナの手を取ったが、今でもここにいていいのか、自信があまり持てない。ただ、ローナが自分勝手な提案をしてきたので自分もやってみようかと……後先など考えず。
レイソルが死んで、カイトたちに連れ出されて見た青空が、とても高くて広くて、眩しかったのだ。……ただ、それだけ。
『……ずっと、考えているんだろう?』
もう、考えるのに、ナジカは疲れきっていた。
今日の街歩きも例外なく帽子を被った。ルアお手製の、レースとリボンのついた可愛らしいデザインのもの。ナジカは、実はルアはおとぎ話に出てくる働き者の妖精ではないかと思っている。
今着ている服だって、採寸されて一日後にはしっかり仕上がっていたのだ。「リボンはさすがに買っちゃった」とか言ってるが、ワンピースのように長いシャツもエプロンドレスのような紺のスカートも、ひらひらの袖だって。一日で全部手作業で、しかも他の家事をこなしながら仕上げてしまうなんてどんだけ超人なんだろう。
「……」
そこで我に返って、足を止めて周囲を見渡した。近くにあるはずだった金色の輝きが見当たらない。訝しげに見てくる人々の視線を掻い潜るように探すが、やはりナジカは一人きりになってしまったようだった。
(……はぐれた)
あまり緊張感もなく心の中で呟く。後で怒られるかもしれない。
ルアの髪は、家事をしてる最中はひっつめだが、今はおろして上半分だけ白のリボンで結んでいるはずで、ナジカほどではないがそのきんきらの髪はいい目印になるはずだった。ナジカはどっちも好きだが、おろす髪型の方が髪油(やはりルアの自家製)のいい匂いがふんわり漂って、より好みだった。
けれど、見当たらない。
……ルアも、いなくなったのに気づいて、探してくれてるだろうか……。
(…………)
まずい、と思った。ずっと無愛想なんだから、さっさと見捨てればいいのに。ルアもローナもクラウスも、みんな気にかけてくる。苛立たない。どうしてなのだろう。
(……そういえば、どうしてローナはわかったのだろう……)
ああ、だめだ。引きずられる。
帽子のつばをぎゅっとつまんでうつむき、首をふるふると振った。
どしん、と横からなにかがぶつかった。
「……わ、悪い。大丈夫か?」
はっと息を飲む音がして、尻餅をついたときに帽子がどこかへ行ったことを知った。
起き上がろうとすると、すっと手を差し伸べられたので、その人を振り仰いだ。昼過ぎの太陽が逆光で髪色などは見えなかったが、声も体格も紛れもなく少女のものだった。
「すまなかった。怪我はないか?」
「……ない」
立ち上がって言うと、ほっとしたように微笑まれた。日焼けを知らないような真っ白な肌、長い赤髪に、紫の瞳。ナジカにぶつかってきたのは、まるで太陽のように輝かしい人だった。
昔義兄に教えられた城からの抜け道を使ってまんまと街に降り立ったミアーシャは、ぶらぶらと当てもなく歩いていたところだった。
髪色も目の色も目立つが、本人はそんなことに気づいていない。加えて、男装しているからか、少女らしい美貌が中性的に輝いているのも無自覚だ。涼やかで凛々しいつり目も、すっと通った鼻筋に形のいい顎、すらりと伸びる手足も、全部が城の者たちがあまり知らないミアーシャの本来の性格を表している。
普段の落ち着きを取り戻していればよかったのだろうが、初めて目にする大勢の人、ブーツではじく石畳の感触、物珍しい屋台の群れはミアーシャにとって何よりも魅力的なものだった。
そうして何にでも目を輝かせているうちに、人にぶつかってしまったのだった。
「……」
その少女を助け起こしたあと、ミアーシャはじっとその顔を見つめてしまった。少女も同じように見つめ返しているので、その瞳の色がよくわかった。周囲はさっと避けて歩いていくが、同じように目を見張っていた。
「お前、髪も目も、きれいな色だな」
ぽつりとこぼすと、少女は我に返ったようにふるりと反応した。
無表情ながら慌てたように広くなった地面を探し、紺と白の帽子を拾って被った。しかし、戸惑ったようにミアーシャを見上げている。
せっかくの髪が隠れてもったいない、と正直に思っていたら、その少女が初めて自分から声を発した。ややもすれば雑踏に掻き消えてしまいそうなくらい、蚊の鳴くような小さな囁きだった。
「……あなたの髪と目も、きれい」
もう一度、ミアーシャは少女を見下ろした。
髪の色が隠れると、表情がずいぶんと際立って見えた。血色のあまりよくない肌と、暗く凝った澱のように鈍い瞳の虹彩、色の薄い唇。まるで昼の陽気な空に溶けていきそうなほど儚いと思ってしまうのは、少女の整った容貌に印象を強く与えるものがないからだ。
(まるで、人形だ)
血の通った暖かさを感じず、思わずその陶磁器のような頬に触れてしまったほどだ。
少女がびくりと身を固くさせるのと、ぱっと手を離したのが同時だった。
「温かいな、一応」
「……あなた、も」
「ん?」
手を握ったり開いたりして感触を思い出していると、少女もこちらに手を伸ばしていた。
「どうした?」
「……この髪、きれい」
「そうか?お前ほどじゃないと思うが」
背中にぶら下がった三つ編みを差し出すと、わずかだが少女の口許が緩んで、なんとなくむず痒くなった。
「……私は、ミア・リーズ。お前はなんて言うんだ?」
「……ナジカ」
「姓はないのか?」
ひとしきり髪を観察していたナジカは、ぎくりと手を離した。ためらうように視線を揺らし、深くうつむいた。ミアーシャは何が琴線に触れたのかわからず首をかしげた。
「…………うん」
対するナジカは、堂々と名と目立つ姿を晒しているミアを羨ましく思った。一度も失ったことなんてないような無傷の微笑みが、太陽のように温かい。
「一人で街を歩いてたのか?」
「ううん。はぐれた」
「そうか」
ミアーシャはなんとなく妹を見ているような気持ちになって、仕方ないなぁと少し上から目線で思った。頼りなく、意思表示も覚束ないこのナジカという少女は、今から別れて街歩きを堪能するには心配すぎる。
天真爛漫な義妹が持っていないような陰りを感じ、同類に出会ったような心地になったというのも、ある。
ミアーシャは朗らかに言った。ナジカの前に手を差し出して。
「なら、一緒に探しながら、街を歩こう」
二人とも新鮮な気持ちで街をうろつき回った。ルアとも手を繋いでいたのにはぐれてしまったという、迷子の才能を持っているとも言えるナジカは、この時ばかりは思い悩むこともなく、ミアとの街歩きを楽しんでいた。……おかげで、ルアを探すことを失念しかけていたが。
出ている屋台を冷やかし、水路の脇を小魚を追いかけ、小腹が空いて果物を買って、道端で二人でかじったりした。
ナジカが驚いたのは、ミアが惜しげももったいぶりも全然なく金貨を懐から取り出したことだ。なんとなく浮世離れして見えるのはミアも同じだったが、思った以上にお嬢様だったらしい。それも、変わり者の。
手入れがきちんとされている髪や肌、自然と目を惹く姿勢のよさは大切にされた証だろうが、男勝りな口調と闊達な言葉選び、ズボンがよく似合う伸びやかな体の使い方が、想像したお嬢様像を粉々にしている。足取りのどこにも迷いがないくせに、物を買うときや食べるとき、意外に世間知らずなところを見せるので、思わずナジカもはらはらしてしまう。
「ミアは、お金持ち?」
「ん?」
一瞬身分を見破られたかと冷や汗を一筋垂らしたミアーシャだったが、苦し紛れに「うん、商いをする家だよ」と言うと、ふうんと頷かれた。
「でも、そのわりに世慣れてないね」
ナジカは本来は言いたいことをすぱっと言う性格だった。自分でも薄々思っていたミアーシャはたじろいだ。
「あ、あれは、別に私は家を継がないし」
ふと自分が城で置かれている状況を思い出して、ミアーシャは落ち着きを取り戻した。気づいたら笑ってしまっていて、ナジカはそれを不思議そうに見上げていた。
「……義理の兄と妹がいて、私は別に何も望まれてないんだ。体が弱いのも相まって、ずっとこれまで奥の奥に引きこもっていた」
もうすぐ義兄が王位につく。可愛がってくれている義兄と未来の義理の姉と、継承権もない義姉を慕ってくれる義妹、こんな自分を主人にしてくれているランファだけれど、他の誰もがミアーシャを軽んじる。実際にミアーシャは自分が名ばかりの王女であることを痛いほど自覚していた。
――継承権もなく、病弱で、閉じ籠ってばかりいる足手まとい。陛下の温情で生き長らえているだけの大罪人の娘。
それがミアーシャの評価。
そうして変わっていく時代に取り残され、消えていってしまいそうな自分が嫌でお忍びを決行してみたというのが、今ここにいる理由だった。
「……まあ、外の世界が見たくなったんだ。体調がよくて、お目付け役の目が行き届いていないうちに……」
帰ったらランファに怒られるんだろうな、と苦笑してしまった。怒られるのは好きじゃないが、心配してくれてるのは嬉しく思う。そんな風に、帰らないと、と思えるほどにはまともに育ったのは、それこそ義兄やランファたちのお陰だ。
「……ミア、ここ、どこかわかる?」
そっと手を引かれて、ミアーシャは顔を上げて、ぎょっとしてしまった。考え込んでいるうちに全く人気のない場所に入り込んでしまったらしい。ナジカも驚いていたから、同じようにぼうっとしていたのだろう。人が多かった場所と違い、ここは淀んだ空気が溜まっている。汚れた路地、ごみなども多少散乱している。
二人とも、すぐに引き返そうと振り返った、その時だった。
「お嬢ちゃんたち、どうしたんだい?」
いつの間にか、複数の男たちに取り囲まれていた。
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