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第一部
0ー6
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「ルア――あ、ここにいたか」
「なに、どうしたのローナ」
探すと簡単に見つかった。
「ユエたちは?」
「晩餐の準備中よ」
「ルアが手伝わないなんて珍しいな」
ルアはひょいと肩をすくめ、絨毯の上にへたりこんで虚空を見上げるナジカに目をやった。
「ベスタが『若い女の子となに話せばいいかわからない』って、ユエの手伝いに逃げちゃった。一人にもさせられないから、私が残ったの。まあ、無理もないだろうけど」
ルアは複雑そうな顔だった。尊敬していたハヴィン家当主の独断専行もここまで来ると、そりゃあ怒りも覚えるはずだが、その辺ルアは優秀で、ナジカに対してもちゃんとコミュニケーションをとろうとしたらしい。失敗しているのはローナの目にも明らかだが、一概に誰のせいとも言えないだろう。ナジカはずっとあの調子で、ベスタやユエが話しかけても上の空だったらしいから。
「ちょっと自分の対人スキルに自信がなくなってきたわ……。ハルジアの方たちは?」
「いるよ。もうすぐ帰るそうだ」
「そう。あの方たち、晩餐食べるかしら……」
「いいや、ご相伴に預かりたかったが、少し急いでいてね」
ひょこりと顔を出したカイトが笑顔でいい、ローナを見つけて少しだけ目を細めた。
さっさとしろという副音声が聞こえて、ローナはそそくさとナジカに近づいた。その時、手に持っていた紙をルアに渡した。
「ローナ?なにこれ」
「持ってて」
折り畳まれた紙を開いて数秒後に息を飲んだルアを横目に、ローナはナジカの前にかがみこんだ。
「……ナジカ」
宙をぼんやりと見上げていた目がローナの茶色の瞳にぶつかる。夢から覚めるようにゆっくりとした瞬きを、ローナは見守った。
「ちょっと失礼するね」
次の瞬間、ナジカは唐突な浮遊感を感じていた。足が絨毯から離れ、ぶらーんぶらーんと手足が揺れる。なんだと思うその真下に、ローナと名乗った自分の義理の兄がいた。すごくぎこちない笑顔で。
実際にローナはひどく緊張していたのだった。
「……た、高い高ーい」
恐ろしい棒読みに場の空気が一瞬にして凍りついた。
カイトとその頭ごなしに部屋を覗いていたケイトは無表情のまま絶句し、ルアに至ってはとうとう狂ったか……!とでも言いたそうな顔で笑顔で硬直している。
しかしローナはめげなかった。じいっとその変化を見逃さないよう少女の能面のような顔を見つめ……。……見つめ……。
ナジカも同じように見返してきたので、にらめっこのようになっていた。
「……」
「……」
「……。……」
ローナはそっとナジカを下ろした。ナジカは勝ってもずっとローナを見つめるままだ。ぴくりとも表情筋が反応していない。
「……いや、うん、その……ごめん」
謝ったローナの後頭部にスパーンと衝撃が走った。振り返ると案の定ルアだった。
「このばかローナ!何がしたいのこんなおっきな子ども捕まえて!」
「い、いや、冗談だから。ちょっとは和むかなーと思って」
「ボケが相変わらずずれてるのよこの頓珍漢!」
カイトとケイトは、ローナが彼なりにナジカの緊張を解こうとしていたのにようやく察しがいって、呆れた顔をした。……これまた清々しい阿呆だ。ルアに胸元を捕まれがくがくと揺らされるローナに向けるナジカの視線は、全然無感動なものだった。……と、その場の全員が思っていたのだが。
「……ローナ、ごめん」
ぽつりと、久々に声を出したナジカを見てルアは黙って手を離し、ローナはナジカに向かい直した。
「……なにか、謝ることがあったか?」
「……わからない。でも…………私、こんなだから」
ぼそぼそと呟き、さっきまでためらいなく合わせていた瞳は下に伏せられている。
「いいよ。君にその余裕がないのは、わかってる。……ずっと、考えてるんだろう?」
他の三人にはわからなくとも、ナジカには通じた。しゃがんだローナをはっとした顔で見つめるナジカに、ローナは悲しげな笑顔で頷いた。
「ルア、紙をちょうだい」
「……え、ええ」
ルアはさっきの怒りでぐしゃぐしゃに握りつぶしてしまっていた紙を気まずく見下ろし、ローナに手渡した。ローナはその養子縁組解消の署名済みの紙を、ナジカの前に差し出した。
「……って、ローナ!?」
「――ナジカ。文字は読める?」
「……」
わずかに横に首が振られたのを確認して、ローナはそれを開いて見せた。
「これは、君とおれが赤の他人になるのを認める書類だ。ここにおれの署名がある。あとは役所に提出するだけでいいんだけど……君の好きにしていい」
反応が薄いナジカのだらりと下がった手を拾って書類を握り込ませる。
「はっきり言ってこれはおれのわがままだ。もうすぐ王族の外戚になる、セレノクール公爵家なんかとは違って、おれん家は見ればわかるように斜陽も斜陽、傾きまくっていつ倒れるかわかったもんじゃない。護衛だってろくに雇えないしユエたち使用人は手放すしかないし住む家もなくなるし」
「……」
「こんなだから、君が満足に暮らせるようには、おれはできないかもしれない」
気の利かないローナは、女の子に何をあげれば正解なのかわからない。そもそも今なんとか流木に引っ掛かっているだけで、辛うじて濁流に流されずに済んでいるのだ。危険に晒される可能性の高いナジカをちゃんと見ていられる自信もない。それどころか我が身の安全すらも。
……それでも、ローナは選ばせたかった。選びたかった。
「でもね、おれは今、君の兄だから。血も繋がってないし、今日初めて出会ったんだけどね」
兄貴面したくなったんだ、と頭をかくローナを、ナジカはじっと見つめている。わずかな綻びも許さないよう真剣に、集中してローナの一挙一動に注目していた。兄という言葉の意味はナジカも知っている。昔持っていたから。一滴の血の繋がりがなくても家族と呼べる、そんな環境で育ったから。
……全て、粉々に破壊されてしまったけれど。
家に帰って、呆然と立ち尽くすナジカの前に「兄」がいて、ナジカの代わりに痛みを受けて、……代わりに、ナジカが生き残ったのだ。
ぶるりと体が震えた。
「……ローナ」
いらない、と言おうとした。目の前で沢山人が死んでいく。ナジカはいつも死に損なって、一人取り残されるのだ。なぜかみんな、ナジカを死なせようとしないので。
「おれね、身内がもう殆んどいないんだ。もう両親いないし、伯父さんがいるけど、こんなことになっちゃ迷惑なんてかけれない。同じことがルアたちにも言えるし、親戚なんていないし」
ルアがローナの後ろで、ローナをぎらりと睨みつけていた。ナジカにはあまり簡単に切れる繋がりではないと思うのだけど、ローナはそう思ってないらしい。
「そう大したことなんてなくてね、単に寂しいってだけ」
能天気で日和見主義のローナだって、失ったことがある。自分のそばを誰もが離れていっても仕方ないと思って、追いかけることもしない。そうやって心を守ろうと、ずっと思っていたのだ。
……それが、今回の件に繋がってしまったのを、ローナは理解してしまったのだ。
「繋がりが欲しくなって」
でもこれは最初に言ったようにわがままだから、とローナは笑った。今度は快活な笑顔だった。受け入れて、前を向こうとする決意が滲んでいた。
「君は君の好きなように生きていい。おれに止める権利なんてないんだから」
「……やれやれ」
ルアの隣に足音なく並び立ったカイトはため息をついていた。
「これは予想していなかったな」
ナジカは、まだ希薄な繋がりを保つことに決めた。ほぼ泣き落としのような説得方法は気に入らないが、あれが彼なりの精一杯だったのだろうとカイトは諦めた。わずかながら自覚できはじめているなら、それでいい。
(彼女を守るのは、離れていたってできるから)
昔、行き場をなくしたケイトやセナトを拾った姉のお人好しをカイトも真似してみたのだが、そううまくはいかないものだ。
『私を監視するついでにナジカも見ることって、できますか』
妙に鋭いのが誤算と言えば誤算であった。
「……本音をいうなら、彼女も、君も。セレノクール家で保護したいんだが」
ルアは同じ背丈のカイトを睨み付けた。薄い青の瞳にわずかな驚愕がにじんでいたが、カイトにしてみればそれは見くびられているも同然であり、調査の甘さに自嘲するしかない。
「十五年……生きて、ここにいたとはね」
「なんの話でしょうか」
「アンナ大叔母さまの墓はどこにある?」
大叔母、という言葉にルアが眉を跳ね上げた。ルアはここまでされてとぼけられるほど面の皮は厚くない。悄然とうなだれた。
「……旦那さまのお計らいで、ハヴィン家の墓地に」
「そう、ありがとう。……それで」
カイトはちらりとルアを見た。
「彼は君を手放すようだけど、セレノクール家に厄介になるつもりはある?」
ルアは改めてその青年を見つめた。ぐるぐると思考が渦を巻くが、最終的にルアが下したのは、「あり得ない」だった。
「そこで、匿われて、一生日の光を見ることなく生きろと?冗談じゃないです。王都はそんな優しい場所じゃないのでしょう」
ルアはこれまで学校に行かせてもらえなかった。普段の外出も、庭より外に出ることはローナの父から禁じられていた。長じるにつれて、戦闘訓練を受けたベスタと一緒なら街まで出歩けるようにはなったけれど、それはこんな田舎だからなんとかなっただけの話だ。
「監視はまとめてやった方が効率がいいんじゃないですか?」
そしてルアは怒っていた。激しく怒っていた。ローナに向けた視線は鋭く、強い。
一人ぼっちなのは自分だけだとでも思っているのか。寂しいのが自分だけだとでも思っているのか。
帰る場所がないのは、ルアだって同じなのに。
「なに、どうしたのローナ」
探すと簡単に見つかった。
「ユエたちは?」
「晩餐の準備中よ」
「ルアが手伝わないなんて珍しいな」
ルアはひょいと肩をすくめ、絨毯の上にへたりこんで虚空を見上げるナジカに目をやった。
「ベスタが『若い女の子となに話せばいいかわからない』って、ユエの手伝いに逃げちゃった。一人にもさせられないから、私が残ったの。まあ、無理もないだろうけど」
ルアは複雑そうな顔だった。尊敬していたハヴィン家当主の独断専行もここまで来ると、そりゃあ怒りも覚えるはずだが、その辺ルアは優秀で、ナジカに対してもちゃんとコミュニケーションをとろうとしたらしい。失敗しているのはローナの目にも明らかだが、一概に誰のせいとも言えないだろう。ナジカはずっとあの調子で、ベスタやユエが話しかけても上の空だったらしいから。
「ちょっと自分の対人スキルに自信がなくなってきたわ……。ハルジアの方たちは?」
「いるよ。もうすぐ帰るそうだ」
「そう。あの方たち、晩餐食べるかしら……」
「いいや、ご相伴に預かりたかったが、少し急いでいてね」
ひょこりと顔を出したカイトが笑顔でいい、ローナを見つけて少しだけ目を細めた。
さっさとしろという副音声が聞こえて、ローナはそそくさとナジカに近づいた。その時、手に持っていた紙をルアに渡した。
「ローナ?なにこれ」
「持ってて」
折り畳まれた紙を開いて数秒後に息を飲んだルアを横目に、ローナはナジカの前にかがみこんだ。
「……ナジカ」
宙をぼんやりと見上げていた目がローナの茶色の瞳にぶつかる。夢から覚めるようにゆっくりとした瞬きを、ローナは見守った。
「ちょっと失礼するね」
次の瞬間、ナジカは唐突な浮遊感を感じていた。足が絨毯から離れ、ぶらーんぶらーんと手足が揺れる。なんだと思うその真下に、ローナと名乗った自分の義理の兄がいた。すごくぎこちない笑顔で。
実際にローナはひどく緊張していたのだった。
「……た、高い高ーい」
恐ろしい棒読みに場の空気が一瞬にして凍りついた。
カイトとその頭ごなしに部屋を覗いていたケイトは無表情のまま絶句し、ルアに至ってはとうとう狂ったか……!とでも言いたそうな顔で笑顔で硬直している。
しかしローナはめげなかった。じいっとその変化を見逃さないよう少女の能面のような顔を見つめ……。……見つめ……。
ナジカも同じように見返してきたので、にらめっこのようになっていた。
「……」
「……」
「……。……」
ローナはそっとナジカを下ろした。ナジカは勝ってもずっとローナを見つめるままだ。ぴくりとも表情筋が反応していない。
「……いや、うん、その……ごめん」
謝ったローナの後頭部にスパーンと衝撃が走った。振り返ると案の定ルアだった。
「このばかローナ!何がしたいのこんなおっきな子ども捕まえて!」
「い、いや、冗談だから。ちょっとは和むかなーと思って」
「ボケが相変わらずずれてるのよこの頓珍漢!」
カイトとケイトは、ローナが彼なりにナジカの緊張を解こうとしていたのにようやく察しがいって、呆れた顔をした。……これまた清々しい阿呆だ。ルアに胸元を捕まれがくがくと揺らされるローナに向けるナジカの視線は、全然無感動なものだった。……と、その場の全員が思っていたのだが。
「……ローナ、ごめん」
ぽつりと、久々に声を出したナジカを見てルアは黙って手を離し、ローナはナジカに向かい直した。
「……なにか、謝ることがあったか?」
「……わからない。でも…………私、こんなだから」
ぼそぼそと呟き、さっきまでためらいなく合わせていた瞳は下に伏せられている。
「いいよ。君にその余裕がないのは、わかってる。……ずっと、考えてるんだろう?」
他の三人にはわからなくとも、ナジカには通じた。しゃがんだローナをはっとした顔で見つめるナジカに、ローナは悲しげな笑顔で頷いた。
「ルア、紙をちょうだい」
「……え、ええ」
ルアはさっきの怒りでぐしゃぐしゃに握りつぶしてしまっていた紙を気まずく見下ろし、ローナに手渡した。ローナはその養子縁組解消の署名済みの紙を、ナジカの前に差し出した。
「……って、ローナ!?」
「――ナジカ。文字は読める?」
「……」
わずかに横に首が振られたのを確認して、ローナはそれを開いて見せた。
「これは、君とおれが赤の他人になるのを認める書類だ。ここにおれの署名がある。あとは役所に提出するだけでいいんだけど……君の好きにしていい」
反応が薄いナジカのだらりと下がった手を拾って書類を握り込ませる。
「はっきり言ってこれはおれのわがままだ。もうすぐ王族の外戚になる、セレノクール公爵家なんかとは違って、おれん家は見ればわかるように斜陽も斜陽、傾きまくっていつ倒れるかわかったもんじゃない。護衛だってろくに雇えないしユエたち使用人は手放すしかないし住む家もなくなるし」
「……」
「こんなだから、君が満足に暮らせるようには、おれはできないかもしれない」
気の利かないローナは、女の子に何をあげれば正解なのかわからない。そもそも今なんとか流木に引っ掛かっているだけで、辛うじて濁流に流されずに済んでいるのだ。危険に晒される可能性の高いナジカをちゃんと見ていられる自信もない。それどころか我が身の安全すらも。
……それでも、ローナは選ばせたかった。選びたかった。
「でもね、おれは今、君の兄だから。血も繋がってないし、今日初めて出会ったんだけどね」
兄貴面したくなったんだ、と頭をかくローナを、ナジカはじっと見つめている。わずかな綻びも許さないよう真剣に、集中してローナの一挙一動に注目していた。兄という言葉の意味はナジカも知っている。昔持っていたから。一滴の血の繋がりがなくても家族と呼べる、そんな環境で育ったから。
……全て、粉々に破壊されてしまったけれど。
家に帰って、呆然と立ち尽くすナジカの前に「兄」がいて、ナジカの代わりに痛みを受けて、……代わりに、ナジカが生き残ったのだ。
ぶるりと体が震えた。
「……ローナ」
いらない、と言おうとした。目の前で沢山人が死んでいく。ナジカはいつも死に損なって、一人取り残されるのだ。なぜかみんな、ナジカを死なせようとしないので。
「おれね、身内がもう殆んどいないんだ。もう両親いないし、伯父さんがいるけど、こんなことになっちゃ迷惑なんてかけれない。同じことがルアたちにも言えるし、親戚なんていないし」
ルアがローナの後ろで、ローナをぎらりと睨みつけていた。ナジカにはあまり簡単に切れる繋がりではないと思うのだけど、ローナはそう思ってないらしい。
「そう大したことなんてなくてね、単に寂しいってだけ」
能天気で日和見主義のローナだって、失ったことがある。自分のそばを誰もが離れていっても仕方ないと思って、追いかけることもしない。そうやって心を守ろうと、ずっと思っていたのだ。
……それが、今回の件に繋がってしまったのを、ローナは理解してしまったのだ。
「繋がりが欲しくなって」
でもこれは最初に言ったようにわがままだから、とローナは笑った。今度は快活な笑顔だった。受け入れて、前を向こうとする決意が滲んでいた。
「君は君の好きなように生きていい。おれに止める権利なんてないんだから」
「……やれやれ」
ルアの隣に足音なく並び立ったカイトはため息をついていた。
「これは予想していなかったな」
ナジカは、まだ希薄な繋がりを保つことに決めた。ほぼ泣き落としのような説得方法は気に入らないが、あれが彼なりの精一杯だったのだろうとカイトは諦めた。わずかながら自覚できはじめているなら、それでいい。
(彼女を守るのは、離れていたってできるから)
昔、行き場をなくしたケイトやセナトを拾った姉のお人好しをカイトも真似してみたのだが、そううまくはいかないものだ。
『私を監視するついでにナジカも見ることって、できますか』
妙に鋭いのが誤算と言えば誤算であった。
「……本音をいうなら、彼女も、君も。セレノクール家で保護したいんだが」
ルアは同じ背丈のカイトを睨み付けた。薄い青の瞳にわずかな驚愕がにじんでいたが、カイトにしてみればそれは見くびられているも同然であり、調査の甘さに自嘲するしかない。
「十五年……生きて、ここにいたとはね」
「なんの話でしょうか」
「アンナ大叔母さまの墓はどこにある?」
大叔母、という言葉にルアが眉を跳ね上げた。ルアはここまでされてとぼけられるほど面の皮は厚くない。悄然とうなだれた。
「……旦那さまのお計らいで、ハヴィン家の墓地に」
「そう、ありがとう。……それで」
カイトはちらりとルアを見た。
「彼は君を手放すようだけど、セレノクール家に厄介になるつもりはある?」
ルアは改めてその青年を見つめた。ぐるぐると思考が渦を巻くが、最終的にルアが下したのは、「あり得ない」だった。
「そこで、匿われて、一生日の光を見ることなく生きろと?冗談じゃないです。王都はそんな優しい場所じゃないのでしょう」
ルアはこれまで学校に行かせてもらえなかった。普段の外出も、庭より外に出ることはローナの父から禁じられていた。長じるにつれて、戦闘訓練を受けたベスタと一緒なら街まで出歩けるようにはなったけれど、それはこんな田舎だからなんとかなっただけの話だ。
「監視はまとめてやった方が効率がいいんじゃないですか?」
そしてルアは怒っていた。激しく怒っていた。ローナに向けた視線は鋭く、強い。
一人ぼっちなのは自分だけだとでも思っているのか。寂しいのが自分だけだとでも思っているのか。
帰る場所がないのは、ルアだって同じなのに。
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