どーでもいいからさっさと勘当して

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分厚い信頼

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 時は遡り、王城にて。

「おっ、おれらは金で雇われたんだ!誰にって、そんなん、そこにいる奴だよ!なあそうだよな!?助けてくれよぉ!」
「なんだと!?セシル・スートライト殿、どういうことだ!」
「どうもこうもありませんが。まさか私、疑われているんですか」
「とぼけんじゃねえよ!あんだけたんまりと前金をくれて、ここまで手引きもしてくれたってのに!今日はちょうどよく警備が手薄だって教えてくれたのもあんただろう!」
「な……」
「では本当に……!?」

 目の前で繰り広げられる大茶番に、アーロンはこいつら馬鹿じゃねえ?というあからさまな表情をしていた。







 内宮の日当たりのいい庭園にて、セシルを講師に弟と席を並べていたところで突然襲撃に見舞われたのが、ついさっき。相変わらずポンコツな自分の護衛を差し置いて真っ先に迎撃したのは講師とその従者だった。
 弟の護衛はすぐさま警笛を鳴らし、王族を守らんと、弟だけを庇うように建物の側まで退避していた。アーロンの護衛はセシルの一喝で我に返って、やっとアーロンを弟と同じ位置まで下げて剣を抜いた。
 ちなみに、武器の携帯が許されていないセシルとその従者は、鮮やかな手並みで賊の持つ剣を奪い取って無双していた。応援が駆けつける頃には十名近くいた侵入者のうち半分は、二人の手によって斬り伏せられていた。
 その後は応援の騎士と共に敵を倒し、生きているものは縛り上げ、なんとか終息したわけだが。急に始まったこの茶番劇である。

(おい、セシル本人もめっちゃ白けた顔してるぞ)

 この、ほぼ無に近い表情を、彼らはちゃんと見るべきだ。容疑者がこんな顔してたまるか。あ、目があった。肩竦めたぞこいつ。

「……殿下方、御前でこのように見苦しい騒ぎをお見せして申し訳ありません」

 セシルは優雅な色代をしてそんなことを言った。周囲の無能をあげつらっているこの皮肉に気づいたのはどのくらいだろうか。正直、アーロン自身も、ぼくたちいつまでここにいるんだろうなあと思っていたのだ。弟はそこで流れる血に隠しきれないほど怯えてアーロンにそっと、いやかなりあからさまに距離を狭めている。というかくっついてきた。
 それにも気づかず、騎士たちはセシルの挙動を警戒するだけ警戒している。だから無駄だってのに。
 仕方がないなと嘆息した。

「ああ、全くだ。ぼくらはいつまでこんなつまらないところにいなきゃいけないんだ?」

 衆目の中で弟の頭をくしゃりと撫でてやると、騎士たちが全員驚いた顔をした。……うわあ。やっぱりこの茶番って、そういうことか。ケリーが言ってた通りだ。

「あに、殿下」
「兄上って呼べ、オルトス。怖かったな」
「……うん」
「そこのお前、第二師団の者だな。後で師団長をこの事態の報告に寄越せ。そっちは先触れだ。ぼくはオルトスと共に母上の宮に行く。セシル・スートライト、シド・ユスティリア。一時ぼくらの護衛として召し上げる。供をせよ」
「仰せのままに」
「かしこまりました」
「なっ、殿下!ですがそれは!」
「なら二人、ついてこいつらを見張っていればいい。言っておくが、徒手でありなから真っ先に身を呈してぼくらを守ったこの者らは、遅参した上でまともに仕事も果たせないお前らよりも信に値する。オルトスは?」
「……ぼ、ぼくも、です」

 今度こそ驚愕に包まれた空気に、アーロンは内心で盛大に「けっ!!」と吐き捨てるのだった。
 セシルの方は断固として視界に入れなかったのが、アーロンのなけなしの意地だった。









 王妃宮に着くと、セシルとシドは待ち構えていた騎士たちに連れていかれた。容疑者として取り調べをという彼らの言に逆らわず、素直に従っていた。出迎えついでにそれを見送った母上は、あらましを聞いて、とてつもなく頭が痛そうな顔をした。端からは心配しすぎて辛そうな顔に見えるところがさすがである。

「アーロン殿下、オルトス殿下、お怪我はないですね?」
「はい」
「それはようございました。あなたたち、護衛はもういいからお行きなさい」

 そしてセシルたちを見張りについてきた騎士たちも追い払われると、母上は今度こそ全力のため息を吐いた。笑う気力も持っていかれたらしい。

「本当にそんなアホなことが通用すると思ってたのが、本当に、なんというか……残念ねえ。マリーナ、湯の用意はできている?」
「はい」
「じゃあ、アーロンもオルトスも、さっぱりしていらっしゃい。そのあとはお茶よ。この後の予定は全部私と陛下で処理しておくから、ゆっくり過ごしましょう。あなたたちの好物も用意してるから、楽しみにね」
「やった」
「あ、ありがとうございます、母上」

 一方のセシルとシドは、連行ついでに小突いてくる騎士とは名ばかりの連中の存在すら無視して、視線での会話を試みていた。

(どうしますか、セシルさま)
(このまま行くしかないだろう。逃げれば容疑者ではなく犯人確定だ。殿下のお言葉は頂いたが、あれでは弱い)
(ですが……)
(私はこのまま拘束されておくが、都合をつけて君は釈放させる。そのまま学園に向かってくれ)
(なぜですか)
(この貧相な手口、ヒルダがされたものと似ているだろう)

 案外やってみれば、大まかなことは伝わるものである。シドは視線と指ふりで学園に行くことを察したし、窃盗疑惑との関連はそもそも考えていたのだろう、はっとして主人を見つめた。

(二人が心配だ)
(かしこまりました)

 しかし、外宮の一室に着き、騎士たちの顔触れが変わって、予定は変更された。取り調べも適当に拷問しつつ行うつもりだったのだろう、新しい者とひと悶着あった末、国王の名前を出されて青い顔で引き下がっていった。
 そこで、新手がバルメルク公爵の手引きだと打ち明け、セシルをこっそり出してくれたわけである。シドはその代わりとして残り、セシルは途中でバルメルク家騎士団の鎧を身に纏って公爵邸へ向かったのだった。

 残されたシドも、数時間後には自由の身となっていた。今度は正式な手続きと言う名の国王命令の末である。ヒルダの窃盗疑惑と同様の理由でセシルが本当に王族暗殺を企んではいないという証明は難しいはずだが、この様子だと、真犯人でも捕らえたようだった。あまりにも早すぎるが、シドが口を挟めることではない。

(セシルさまはどこまで読んでいらっしゃるだろうか)

 一見王族暗殺に見せかけていたが、賊はセシルを真っ先に狙っていた。セシルの護衛のシドは一番にそのことに気づいたし、セシル本人も聡いからわかっていただろう。終わればあの茶番劇が始まったので、なおさら目的は見えてきた、が……襲撃に失敗した時点でもはやセシル排除の望みは絶たれている。まず被害者の王族兄弟からして、セシルがあんな下策すぎる暗殺計画に関与しているとは信じていないのだから。それを考えると、あの場にいた騎士はほとんどが敵だったのだろう。
 内宮に入るときに預けていた武器が釈放と同時に返却されたので装備し直した。やはり慣れた武器の方が気持ちが落ち着く。あの賊、なかなか粗悪な品を扱っていたようで、奪い取った剣を奮ったのはいいが、ずいぶんと心許ない感触だったのだ。

「まるで騎士のようですね」

 思わずといったようにかけられた声に、シドは静かに視線を向けた。

「私はスートライト侯爵家次期当主の従者兼護衛です」
「これは、失礼をいたしました」
「非礼を詫びるならば、その殺気を仕舞ってはいかがですか」

 シドの釈放手続きを実際に行った上級文官が目を白黒させる一方で、それに同行してシドの武器を持ってきた騎士見習いの装いの少年は、間抜けな赤い鼻を晒しつつ、にたりと笑んだ。
 文官は無関係だろう、とシドは当たりをつけて剣をすらりと抜いた。

「所属と姓名を名乗りなさい」
「ちょっと無理」

 目にも止まらぬ速さの刺突を、少年は軽やかに躱してみせた。追いかけるシドは柄にもなく舌を打った。先程の賊とは技倆が比べ物にならない。狭い室内から少年は一息に飛び出し、続けてシドが出た瞬間にナイフが襲いかかる。それを打ち払った時には、もう少年の姿など跡形もなかった。

「い、今のは!?」
「まだ賊がいたようです。報告に向かわれた方がいいでしょう。殿下方の警備の増員を進言します。あの者は危険です」
「は、はい!って、あなたはどこへ!?」
「どこへとは……帰宅させて頂きますが、なにかありましたでしょうか?」
「えっ!?」

 この状況で堂々と帰ると宣告されて驚愕する文官だが、シドははて、と首を傾げるのみである。
 自己中な主人にちょっぴり似通い始めていることに、本人の自覚は皆無なのだった。








☆☆☆








「やられたなぁ」

 報告を聞いたドルフはあーあと肩を竦めた。せっかくルーデル国と結託していた証人を確保したのに、全員始末されてしまった。目撃者の言からすると、恐らく、物置小屋でヒルダと対峙した少年だろう。スートライト家の従者にどんな目的で余計なちょっかいをかけたのかは知らないが、その時には、既に「後始末」を終えていた。今度こそ国外にでも逃げおおせたはずだ。
 物的証拠は全て喪失し、たった一つ、ヒルダの曖昧な証言だけではルーデルに抗議しようもない。
 国内の膿を出せるだけでも満足するべきなのだろう。

「学園内もおおよそ片は付きました。ライン・キルデア以下はもうこちらの貴賓牢に護送済みです。ただ一人、ナタリー・レーウェンディア嬢は、グランセス王兄殿下のご指示で、寮にて軟禁しております」
「ふーん、兄上、絆されたのか」

 侍従の報告に応えたるは国王アイザックだ。頬杖をついてつまらなそうな顔をしている。そんな時間稼ぎをしたところで無駄なのに、と言い、ケリーの鋭い眼光にぴゃっと姿勢を改めた。それを見てドルフはそっと笑いを噛み殺した。

「それでもグランセスさまはかの令嬢に情けをかけておられるのでしょうな。義理とはいえ父から切り捨てられたのですし」
「その父親は、これで権力争いから逃げられたって安堵してるんだろうな。愚かしいことだ。自分から娘をオルトスの婚約者に推してきたくせに」

 事の発端はそれと言っても過言ではなかった。

 レーウェンディア伯爵家は、地方貴族の中でも中央への野心が窺えるような家だった。先代当主も今代当主もグランセスを国王に推し、更に今代は遅くに生まれた娘を、年が釣り合うからとオルトスの婚約者に推挙した。アイザックそっくりのアーロンは嫌いらしい。同時に、内気なオルトスの方が御しやすいと考えたのだろう。嫌われているアイザックはといえば、オルトスには国王より領主の方が向いていると考えたので、その案に乗った。まだ二人とも十にも満たない年なので、内定としておいて公表は当分先の予定だった。そのため、婚約の事実を知る者は限られ、周囲からは婚約者候補筆頭という見識に落ち着いている。
 ちなみにナタリーは、元々レーウェンディアの分家出身で、両親を幼い頃に亡くした娘である。本家に引き取られ長女となったのは、本家が何年も子宝に恵まれなかった故だ。しかし、その五年後に直系の娘ヘレナが誕生し、ヘレナが次代のレーウェンディア家領主の妻となることが決定した。つまり、ヘレナと婚約したオルトスはいずれレーウェンディア伯爵にしかなれない身だった。それで王子派と名乗れるのは、万一の際はヘレナをオルトスの妃に、ナタリーをレーウェンディア伯爵夫人に据えることも可能だからだ。むしろ他の王子派はそれを目論んでいた。
 ナタリー本人は、伯爵家を出ていく心積もりだったのだろう。王立学園に入学したのは、己の婿探しとレーウェンディア家の縁作りのためだ。その途中で勉学に楽しさを見いだしたのか、素行調査では勉強熱心な女学生という評価に落ち着いている。

 そんな状況の中、ルーデル国から王女の婚姻について内々に打診があったとしたら、どうだろう。
 少なくとも王子派の一部は、地方貴族の後ろ楯よりも他国の王族の後ろ楯の方が魅力的に映った。王太子派も似たようなものだ。アーロンはどことも婚約はしていないから、アーロンの方が優勢である。
 焦った王子派諸人はレーウェンディア伯爵家に婚約者を辞退させようとする。この時点でレーウェンディア伯爵は中央の政争を煩わしく思い始めた。圧力をかけられるようになってはなおさらだが、よくこんな小心で派閥に加わったものである。
 王都で一人、渦中にいるナタリーもラインらに何度も脅された。健気なナタリーは屈しなかったのだが、知らぬ間に義父はそんな養女の努力を全て台無しにしたのだった。

「侍女の方はどうした」
「もちろん、ナタリー・レーウェンディア嬢とは離して拘束しております。彼女にはファリーナ・グレイ嬢への傷害未遂容疑がかかっておりますし」

 ナタリーの侍女エマは、シェルファの名前を勝手に使ったことも、そうしてアデルとファリーナを引き剥がしたことも、ファリーナに危害を加えようとしたことも、全て主人であるナタリーの指示ゆえだと自供している。そして自分が悪くないと喚くのだから、嵌められたにも関わらず潔く身内の罪を受け入れたナタリーとは大違いである。
 実際はレーウェンディア伯爵の指示であると、この場の全員が理解はしているが、その点においても物的証拠はなし。このままではレーウェンディア伯爵には「養女が勝手にしたことですので」と白を切られてしまうだろう。無論、だからといって伯爵を不問にするわけでは、当然ないのだが。

「スートライトより先にこっちの領地を接収してしまおうか」
「それはやりすぎです。本家の血を断絶し、城から監察官を派遣の上、当主には傍系から選出すれば充分でしょう。国境近いのですから、下手に付け入る隙を作るわけにはいきません」
「わかってる、言ってみただけだ」

 この顔触れだと自然と言動が若返ってしまうケリーのはきはきとした言葉に雑に答えたアイザックは、なにか思い出したのか、鼻を擦ってふっと笑った。

「スートライトといえば、だが。あいつにも何かしら目に見える褒章をつけないとな」

 とたんに侍従が物凄く変な顔をしたのは、昼間の王太子・王子襲撃の件で、報告を受けた国王が、飲んでいた紅茶を口どころか鼻から噴き出したのをこの目で見てしまったからである。それがたいそう痛かったようで悶絶していたが、その後には笑い転げて腹を痛めていた。そこまでは面倒見きれないので片付けに専念したものだ。

「今思い出しても笑えるんだが」
「私も思わず笑ってしまいましたなぁ」
「しかもその場の騎士たちが全員信じたというのが、なんともおかしいことです」
「まともな連中ほど『は?なに言ってるんだ?』となっていましたね。お陰で噂は全く浸透していませんし、それも真犯人早期発見に役立ちました」

 今も侍従以外は全員笑ってしまっている。
 あのセシルが、あんな低レベルな謀略を用いた、とか。あり得なさすぎて笑う以外にできないのだ。しかも襲撃に失敗したゆえの第二の策がそれというのだから、ますます笑いが止まらない。

「スートライト侯爵も伯爵に劣らぬ愚か者だな。自分の息子をどう評価していれば、こんなアホなことをしでかすんだか」
「『落星』を従える才が、文官畑に収まるものではありますまいに」
「城内でも勘違いしていた者は多いようですからな。これで認識は改められましょう」

 ちなみに、全て冷笑である。嘲り混じりの笑みは、そこらの者が見れば震え上がるような凄みを発していた。

 セシルを嵌めようとした連中は、王太子と一緒にセシルが死ぬと確信していたのだろう。実際、当時のセシルとその従者は丸腰だった。容易く始末してしまえると驕っていたに違いない。だから第二の策があんなに杜撰だった。王太子を守った功績をちゃちな容疑で帳消しにし、「全てセシル・スートライトの、点数稼ぎのための自作自演だ」と声高に叫ぶ。馬鹿かという話だ。

「そういや、ついこの間には『秘宝』が同じことやられたんだっけ?」

 それが誰を指すかはこの場の全員がわかっている。図らずも、その人物のお陰でこんなに早く片が付いたと言っても過言ではない。ふとアイザックは興味が向いた。

「やっぱおれも会いに……」
「いけません」
「妃殿下に吊し上げられたいのですか」

 ケリーとドルフは容赦なく言い切った。彼女を直接には知らない侍従は不思議そうにしている。アイザックは不満そうに唇を尖らせたが、二度は言わなかった。さすがに怒った嫁を相手にしたくはない。

「その御歳でそのような見苦しいお顔はお止めください」
「おい辛辣すぎるぞケリー!アーロンには甘いくせに!」
「ご子息と比べてどうするのですか、陛下。それよりスートライト侯爵家においては、まだ当分、私に任せていただけますかな」
「ああ、今全員お前の家にいるんだったか」
「ええ。少々気になることもできましたし」
「ルーデルとの関与か。急いで確保しないとまた暗殺されるんじゃないか?」
「その辺り、どうにも、私には信じがたいものでしてな。セシル殿が帰郷した直後にこの騒動です。それにしては、セシル殿がなんらその気配を察知していなかったことが気にかかる」
「確かにな」

 しかし、これも推測である。侯爵への暗殺の危険性は拭い去れないのに、言ってみた国王もその他も「じゃあ保護しよう」とは言わなかったし、動く気もない。むしろここで死んでくれた方がいいというのが暗黙の一致である。秘宝を追い出してから――いやその行為そのものも含めてだが、あの男はろくなことをしでかさない。

「侯爵の企みに、ルーデルが便乗したか」
「そんなところでしょうな」
「そういや我が義弟が遭遇した強盗も歪に手練れだったらしいな。……息子を亡き者にし、残った次女に自分の選んだ婿をあてがい、それを次期侯爵とする、か。学生ごときにすらまんまと利用されてるから世話がない」
「可愛さ余って憎さ百倍という言葉はありますが、あれだけ目をかけていたのに、ずいぶんとひどいなさりようですね」
「可愛がってはなかっただろ」

 アイザックの言葉が意外だったのか、三人ともふっと黙った。視線が集まる中、アイザックは片方の唇を吊り上げた。

「あの夫婦は、子どもを自分たちの装飾品アクセサリーにしていた。世に名を上げる者を生んだ自分たちの功績を声高に叫びたいがために秘宝を差別し、絶氷と大輪を連れ歩くだけで、子どもに集まる称賛と名声を我が物顔で受け取っていた。盗人猛々しいとはあれらを指して言うのだろうよ。目をかけてたのは、磨けば磨くほど自分たちを飾り立ててくれるからだ。本当に可愛がってるなら、兄妹に孤立の道を進ませるわけがない」

 ケリーよりよっぽど辛辣な文句だが、否定の言葉は出なかった。兄を押し退けて王位に着いた――それほどまでに並外れた才を持ち、ともすればスートライトの至宝と同じ道を辿りかねなかったアイザックが言うからこその、説得力だった。

 政府最上層部で行われた報告会もとい井戸端会議は、そのまま、微妙な空気と共に閉会した。












ーーー
主要王族全員登場できたので、一応名前を紹介します。
・国王 アイザック
・王兄 グランセス
・王妃 リーシャン
・王太子(長子) アーロン
・王子(次子) オルトス

四人娘とその侍女の名前もどうぞ。
・アデライト→ニーナ
・ファリーナ→エメル
・ナタリー→エマ
・シェルファ→アリシア



スートライト親子間の関係について。
アイザックのような第三者とセシルのような身内では、認識に相違があります。セシルだって人の子だし、長男長子なりに憧れていたものがあるので、それがアイザックとの見解の落差になりました。

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