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兄妹の正念場

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後半戦闘シーン(流血含む)あり。
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「……暇だわ」

 のどかな陽射しを屋内からぼんやり眺め、アデルはそう呟いた。屋内といってもテラスにいるわけでもなく、頑丈な石と木に囲われた、アデルの私室――つまり病気で臥せっている予定の部屋で、カーテンを締め切り、念のため窓から離れたテーブルについて、勉強道具を開いていた。今回は前回のように勉強する暇がない、ということはないので、せめて休みの間の遅れを減らそうと自主学習に励んでいる。これでも熱心に時間を使ってきた方だが、ふとした時に何度か集中が切れてしまっていた。
 くるりと視線を回し、自分が部屋に一人きりなことに気づいてしまった。ニーナも他のメイドもいない。アデルが寝込んでいると聞いて見舞いの先触れは後を絶たず、もしくは先触れすら出さず直接乗り込もうとする輩もいる。以前はセシルがいた。彼自身が泣きまくったお陰で人前に立てる顔ではなかったが、的確な指示を出して、遺漏のない防壁でアデルを守りきった。
 今は、そのセシルもいない。
 一番の親友であるファリーナでさえも招けないのは、彼女の兄が以前、友人の兄という立場にかこつけてアデルと会おうとしたことがあったからだ。ファリーナはグレイ家での立場が低い。兄の愚行を止めたが押しきられてしまったのだった。その時はセシルが鮮やかな手並みで追い返したが、今回はそううまくいかないだろう。特に、屋敷の警備は、兵の一部がセシルと共に旅立ったので手薄になっている。見舞いに乗じて不審者を招き入れるくらいなら、面会を全て謝絶した方が確実に安全だ。

(……せめて、みんなのことはちゃんと労わないと)

「大輪」を守るのがスートライト家の使用人たちの仕事なのは当然といっても、ここ数ヶ月、別邸では全力で素で生活しているアデルの心境には変化があった。ほとんどの人が、「大輪」とかけ離れたアデルを見捨てないこと。もちろん嫌そうな顔をする人はいるけれども、あまり気にならないほどには少ない。
 そんな彼らが守ってくれてるうちは、まだ家出しないでいられる気がした。でも、時折無性に襲いかかる衝動があって、今まさにそれが来た。必死に抑えつつ震える手で呼び鈴を鳴らすと、そんなに待たずに扉が開かれた。

「お嬢さま、申し訳ありません、遅くなり――」

 ニーナの言葉は、アデルに全力で抱きつかれたことで尻切れとんぼになった。しかし、吹っ飛ばされることなくしっかりと受け止めたので、アデルとしては大満足だった。

「……仕事の邪魔をして、ごめんなさい」
「お嬢さまが謝られることではございません。私たちが不甲斐ないばかりにご心労をおかけしてしまって、申し訳なく思います」
「ううん。ありがとう……」
「お勉強にお疲れなら、他のことをいたしませんか?針と糸でもお持ちしますが」
「……そうね」

 ふと労う方法を思いついた。言葉だけでなく、針を刺したものをみんなに渡すのもいいのではないか。……喜んでくれるか、と考えたら尻込みしたくなってきたけど、でも……。

「……ニーナ。好きな図案、ある?」
「私の、ですか?」
「そう。他の皆のも、知りたいわ。あと木綿の布をたくさん欲しいの」
「……まさか、お嬢さま、私どものために?」
「……迷惑じゃなかったら、贈らせてほしいわ」

 なにこのご主人さま、超可愛い。
 ニーナは感動で全身を震わせた。抱きつかれたままの上目遣いという状態もさることながら、この健気さが直撃してしまえば、可愛い以外の語彙がぶっ飛ぶ。これを自覚してやっていたらセシルを上回る魔性の女だが、今のアデルは完全に素だ。ニーナはごくりと唾を飲み込んだ。

「ご、ご迷惑なんてそんな事ありません。他の者から聞いて、私のものも含めて、後程お伝えします。お時間がかかると思いますので、お兄さまやヒルダさんへもお作りになってはいかがでしょう」

 一瞬きょとんとしたアデルは、あどけなく笑った。

「そうするわ!ありがとう、ニーナ!」

 ニーナの脳内から「可愛い」以外の語彙が完全消滅した。










 そんなこんなで、貴族令嬢の嗜みとして身につけた刺繍の才を奮うべく、アデルは着々と針を動かしていった。疲れたら勉強し、それに疲れたら刺繍。休憩という休憩もないので勧めたニーナは失敗したかと危ぶんだが、アデルにとっては、余計なことを考えずにすむ最善手だった。
 しかし、知らないところで精神は削られていっていた。規則正しい生活は崩れ、食欲は減衰し、睡眠は浅い。美しさを保ったまま窶れていくその有り様に、ニーナや、相談を受けて駆けつけたシドはぞっとした。自分達は彼女をここに縛り付ける枷にしかなっていないことがまざまざと見せつけられたようで。
 しかし、アデルは、衰弱しかかった容貌で、二人を見上げて微笑んだのだ。

「ちょうどよかったわ、二人とも。見て」

 広げようとしたハンカチを途中で落としてしまったアデルの指先は疲労で震えていた。アデルの代わりに拾い上げたニーナはそれに気づいて泣きそうになったが、視線を落とした先、木綿のハンカチに刺繍された柄に、思わず目をみはった。
 ハンカチの上には、いくつも咲き並ぶスターチスと、ニーナの実家のユーフェン家の家紋があしらわれていた。針の目は細かく、生き生きとハンカチを飾り立てている。嗜みにしては度を越した完成度で、それはアデルがもうひとつ広げたものも同じだった。二人の驚嘆した顔を、アデルは恐る恐る覗き込んだ。

「……受け取ってくれる?」
「――もちろんです。すごいです、アデライトお嬢さま!」

 ニーナはアデルを抱きしめた。仕える者としては不遜すぎる行為だが、ヒルダ→アレン→シド→ニーナという流れで聞き出した、一番の必殺技である。「頭を撫でるとなおよし」との追記を思い出し、ニーナは存分にその髪を触った。

「ありがとうございます。とても、とても嬉しいです。こんなに丁寧に仕上げてくださって……家宝にしますね!」
「私も、額縁に入れて飾ります」
「え、いや、使いなさいよ」
「それももったいないほどなんです!」
「これは芸術品です」
「そ、そう……?」
「それから、私からもお嬢さまに、お渡ししたいものがあります」

 ニーナはシドの懐に遠慮なく手を突っ込み、それを引っ張り出した。シドが反応できなかったほどの早業である。アデルの目の前で丁寧に包装を解いて、中のメッセージカードと刺繍入りハンカチを取り出して、差し出した。
 アデルの目が生気を映して煌めいた。

「姉さま……!」

 アデルの刺繍の腕はヒルダ仕込みとあって、ヒルダの作品もまたとんでもなく美しい出来だった。薄緑の生地を草原に見立てて花や蝶が描かれ、縁の方には「我が最愛」と流麗な文字が記されている。これを身内以外が見れば盛大な誤解を招きそうだが、ニーナやシドからすれば「ここも相思相愛か」で終わる話である。姉妹の絆は鋼鉄より固い。ついでに果てしなく重そうなのも今さらだ。

 贈り主第一号の反応が上々だったことと、予期せぬ姉からの無言の激励に、やっとアデルは余裕を取り戻した。ニーナに言われるがまま寝、食事を摂り、さっぱりした顔でペンや針を執る。
 次々と出来上がる贈り物を受け取った使用人たちは士気を向上させ、温和かつ熾烈な籠城戦に挑むようになった。スートライト侯爵別邸がここまで一丸となったことはかつてない。

 そうして健気に待ち続けたアデルに、シドからヒルダの件が学園で終着を見せたと報告があったのだった。アデルはもちろん喝采の声を上げたが、直後、しょんぼりと眉を落とした。

 兄セシルは、まだ帰ってこなかった。








☆☆☆




 


 アデルが屋敷にこもって孤独と必死に戦い、ヒルダが完璧な布陣の中で学園内の目立つ澱みをかき集めていく順調な日々とは反対に、セシルはほんの少しだけ、予定外の問題と出会していた。

「御曹司!下がっていてください!」
「レンゲル、退路を確保しろ!デューダ手伝え!御曹司でしゃばんな!」
「でしゃばってなんかないさ」

 といっても、セシル本人は直面した事態に淡々と当たった。予定外だが、予想してなかったわけではない。セシルの私兵部隊――スートライト家に仕えずセシルが個人で雇っている――の彼らにもあらかじめ伝えておいたから、動揺は少なかった。彼らは聞いたときこそ呆れたり「貴族ってめんどくせーな」と嫌悪も露に吐き捨てていたが、セシルには忠誠――というより、絶対の信頼を寄せているのだ。相手がセシルの親かつ侯爵であっても、息子に勝ち目なしと見捨てることはしない。

「御曹司、あっちの雑木林、どう見る」
「伏兵はありえる。思ったより湧いているし、甘く見ない方がいい」
「だろーな。あんたの予想も越えてくるたぁ、あのいけすかねぇ親父も案外やるもんだな……っとぉ!」

 隊長であるヒューズは飛んできた矢を切り捨てた。セシルはヒューズの言葉にわずかに目の険を深めたが、こちらも強盗に見せかけた襲撃者の放つ矢を、身を伏せてかわした。

(――まさか私の目を掻い潜ってどこかと協力関係を結んだか)

 スートライト家本邸へ踏み込むまでは全て順調だった。驚愕に揺れる屋敷を闊歩し父へ帰還を報告し母を見舞い、ついでのように領政の書類を確認し、領内を空いた時間でぶらついた。もちろん散歩などという生易しいものではなく、関係各所への釘刺しや力関係の調整のための外出だ。三日ほどそうしたあと、待ちに待ったアデルの病変の報せ(でっち上げ)で領を引き上げた。父がついて来たそうにしたが、さすがに母を置いていくのは駄目だとわかっているのだろう。とてつもなく憎しみと苦味のこもった顔で見送られた。
 そして、帰りの道中、少数とはいえ精鋭であるセシルたち騎馬の集団に強盗を挑む勇敢な戦士たち(意訳)が現れたわけだ。父はセシルの動向など知るはずもなかったから、これはセシルが本邸に滞在中に手配したものと思われる――のだが、予想より数が倍くらい多い。しかも地味に小癪で、できる限り弓矢で遠距離から狙いをつけるのもそうだし、功を焦って飛び出す者もいないなど、変に統制立って見えるのだ。伏兵を警戒するのもそのためだった。

 見くびっていたわけではないが、さすが馬鹿という人種である。セシルの予想外を追究するその姿勢だけは褒めてやりたい。褒めないが。

「お、連中、矢が尽きたみてえだな」
「なら突破しよう。日が暮れるまで足止めされたらかなわない」
「了解。――野郎共!蹴散らすぞ!」
「おお!」

 人気のない開けた場所で襲われたのは、セシルたちにとって好機ではあっても悪いことではない。障害が襲撃者そのもの以外にないからだ。これが林や森の中なら罠が仕掛けられていてもおかしくない。考えすぎだと普通なら一笑にふして終わりだし、いつものセシルでも考えるだけで用心はあまりしないだろうが、領地で父母の顔を見た後となっては、それを甘いと思ってしまうのだった。

 彼らは、久しぶりに再会したセシルを、かつてない憎悪にまみれた顔で出迎えたのだ。

 いまだに傷つく心があることに自分で驚き、自嘲したものだ。
 はじめからわかっていたのに。
 彼らにとって、もうセシルは「人並み外れて優秀な長男」ではなく、排除対象でしかないこと。病気と聞いていましたが、(息子を憎悪するほど)元気そうで安心しました、と思わず母に見舞いの開口一番で言ってしまったくらいだ。
 意外ではなかったはずなのに、やっぱりかと虚しさが押し寄せ――アレンにぶっかけられたワインの冷たさを思い出して、我を取り戻した。

 父母は、アデルのことは言っても、ヒルダのことは一度も、名前すらも、出さなかった。

 セシルやアデルがいなければヒルダが愛されたかもという淡い期待なんてしないし、罪悪感も、もうない。

 父母とセシルたちの間に横たわるのは、永遠の断絶だった。











 道中の宿は、身分と金にものを言わせて高級なところを借りた。もちろんそれは警備がしっかりしているから。そのため休んでいる間の襲撃の心配はなかったが、昼日中の襲撃はやたらと執拗だった。
 まさか毎日襲いかかってくるほどとは、とヒューズたちがげんなりしている。
 しかし、あまり笑ってばかりではいられない。連日こうも追い立てられていると精神も肉体も摩耗する。ヒューズたちで追い払えるくらいの腕前なのでそこの心配はいらなかったはずだが、最後にが登場して話が変わった。
 これまでのちゃちな腕前とは段違いに場数を踏んで鍛えられた盗賊たちである。

「――おいおい御曹司!これも予想内か!?」
「一応はしていた」
「ああそうかいありがてえこった!ルッツ、左固めろ!」

 元は傭兵だったところをセシルが商会立ち上げに当たって領から王都への商隊移動の護衛のためにかき集めただけあって、実戦経験は豊富な私兵部隊だった。そんな彼らが焦るほどには、敵は手強かった。まず、徒歩じゃなく馬を駆っている。高級品を乗り回せるくらいにはスポンサーはしっかりしているらしい。そして自由自在に馬を操った。何度か先を抜かれて挟み撃ちをかけられそうになったが、セシルの指揮とヒューズのフォロー、その部下の奮闘もあって、怪我人こそあれ死人もなく、窮地を脱している。
 しかし敵も、それで諦めるほどには生易しいものではなかった。セシルたちが目前の王都に逃げ込めば負けなのだ。苛烈な襲撃は果てしなく続き――セシルたちの方が先に瓦解した。

「ジャックが落ちた!」
「構うな!狙いは御曹司なんだ、殺されやしねえよ!それより走れ!」
「ヒューズ、デューダ、右だ!」

 セシルの声にヒューズはとっさに右腕で攻撃を弾き上げた。金属を革で覆った籠手から腕まで痺れが走ったが、剣を手放すのは論外だ。さっと離れていった騎影が滑らかに方向転換して突っ込んでくるので、不敵に笑って向かい討った。

「馬上槍たあ、ずいぶんな道楽してやがるじゃねーか!」

 またも弾丸のように迫り来る槍は、脇を締めた完全なる刺突の構えをとっていた。躱すしかない攻撃だったはずだが、側面からデューダが斬りかかれば、その殺意も逸れた。上出来だ、と叫んだヒューズは槍の穂先を剣の鍔で絡めとり、相手を馬から叩き落とし、それを振り返ることなくセシルに襲いかかる次の騎士へ突っ込んだ。もう、とっくにセシルを守る防護陣は崩されていたのだった。
 しかし、ヒューズたちの中で一番実戦慣れしていないセシルとはいえ、一人は倒した。その直後に両方向から来る攻撃を、一つは受け止め、一つは避け損ねた。肩を走る痛みに一瞬硬直した隙を狙って次なる刃が迫るが、ヒューズが馬ごと体当たりして狙いを逸らせた。持ち直したセシルが追撃をかけ、また一人、落馬させる。
 それでも、血と悲鳴、騒乱は止まらない。ぽろぽろと櫛の歯が欠けるように味方が減っていく。セシルのすぐそばを陣取るヒューズの剣は血塗れだった。セシルの剣も似たようなものだ。しかし、動きの冴えは、ヒューズよりもセシルが上だった。
 セシルの優秀さは、頭脳だけに限らず、身体にも及ぶらしい。明らかに直前よりも敵の挙動の見切りが早くなり、剣先が鋭くなり、馬との呼吸がぴったりと重なりあうようになっている。爆発的に得られた経験値がセシルの実力を押し上げていた。
 ……それも、疲労が明らかな不調を及ぼすまでだった。ある時、斬撃を受けた剣がぼろりと手を離れた。とっさに二の太刀を胸をそらして躱したが、バランスを崩して馬上から転げ落ちた。

「くっ――」

 とっさに受け身を取って跳ね起きたセシルの眼前に槍の穂先が迫る。また転がって回避し、落とした剣を拾って次なる攻撃を払い除けた。

「御曹司!」

 ヒューズたちが駆けつけるより先に、敵の馬の蹄がセシルを踏み潰さんと押し寄せてきた。複数方向からだ。

 ――お留守番は、ちゃんとするわ。だから帰ってきてね。

 セシルがぐっと剣を握りしめた時だった。

「退けい賊ども!!」

 凛々と響き渡る声に、弓弦の弾かれる音。セシルはその中ですばやく逃げ道を見つけて、舞うように騎馬の間を潜り抜けた。馬上からの攻撃がなかったのは新手の登場に気をとられていたためだ。
 ヒューズたちは戸惑う敵を蹴散らしてセシルの元に駆け集った。すると、そこを避けるように騎馬の荒波がどっと押し寄せ、敵を側面から突き上げた。セシルはその波の発生源である方角を向き、その馬車の家紋を目にして――会心の笑みを浮かべた。
 敵も気づいたのか、誰かの「退くぞ」という号令一下、鮮やかな逃げ足を見せた。新手はセシルたちの近くから敵を排除したあとは追撃を駆けることはせず、セシルを守るヒューズたちをさらに囲うような布陣を固めた。中から進み出る一つの騎馬にヒューズたちはとっさに剣を向けたが、セシルは片手を上げて制し、剣を収めつつ上がる息を落ち着け、朗々と語りかけた。

「そちらはルーアン公爵家の騎士の方々とお見受けする。ご助勢、感謝する」
「――貴殿は……もしや」
「いかにも、スートライト侯爵家次期当主、セシルだ」

 騎士はその返答で慌てたように馬を降りた。ヒューズたちも、敵意のなさを完全に悟ったためか、剣を収めて馬から降りた。それでも最後の警戒心は捨てないとばかりに、抜け目なく騎士たちを睨み付けている。

「失礼をいたしました」
「詫びは必要ない」

 遠くで待機していた馬車がこちらにやって来る。中には、許嫁に会うために領地を訪れて今王都へ帰りつかんとしているルーアン公爵家嫡男がいることだろう。セシルたちの窮地を救う指示を騎士たちに出してくれたメイソンには、丁重に礼を述べるべきだった。その心根に賭けて本当によかった。

 あくまでも、心優しいメイソンと、この場所でかち合ったのは偶然だった。しかし、限りなくセシルは偶然に近い旅程を設定し、その通りに進んできたので、ある意味必然とも言える。

「まじで来やがったよ……」

 馬車の家紋を見たヒューズがぼそりと呟くが、セシルは笑顔のまま黙殺した。最悪を考えて物事を準備し、行動するのは、ヒルダが勘当されたことからより意識して心がけてきたことだ。馬鹿が相手なので、どんなに考えても、考えすぎることはないのだった。 
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