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五ヶ月経過②
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完結の目処が立ったので、これから完結まで毎日複数話投稿していきます!
話ごとの文字数がただでさえ少ないのに話数が多くてすみません(今さら)!
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まだパーティー会場に登場して一時間と過ぎていないのだが、明らかにぶっ倒れる寸前という様子のクソガキを後ろから見ていて、呆れを通り越して真顔になった。
(感受性が強すぎんのも困ったもんだ)
おっさんが事前情報として教えてくれていたことだが、まさかここまでとは思っていなかった。なぜ長男が死んでから重い腰を上げるようにして王都に呼び出したのかがよくわかる。十一歳――ある程度自我が確立される年齢だが、その歳でもこんなに影響を受けるのだ。恐らく生まれてからずっと王都で暮らしていれば、五歳になる前にはぶっ壊れていただろう。それがなく精神が健やかにいられたのは、閑散とした地方の町屋敷にひっそりと住まわせていたからだ。
バルコニーに出ると、後ろで響いていた楽団の音楽や客どもの笑いさざめく声が遠退き、クソガキの顔色が土気色から青白い色にまでは復活した。
(……向いてねーよなー)
初めてこのクソガキに同情を覚えたかもしれない。人から感情を敏感に察知するくせに、これまで守られていたからこそ無防備で、性格も嫌になるほどまっすぐと来た。曲がる前に折れそうだ。あのおっさんがそれをあらかじめ理解していなかったはずがない。
それでも、遠ざけたままでいられなかったのは――……。
「これは……失礼しました、御曹司がいらっしゃるとは……」
嘘こけ。ちらちらと中から様子見てたくせにさもばったりバルコニーで出会ったみたいな雰囲気作りやがって。クソガキが騙されるだろーが。
「…………いえ、構いません」
「短い間ですので、同席させていただいても?」
「……ええ」
クソガキが断れねえのも、顔色悪いのもわかってるくせに、わざわざ下手に出ているような態度が鼻につく。これまで寄ってきた連中より見下してますオーラが流れ出てんだよ。――ああ、ほら。復活した顔色が一気にマイナスだ。相手が好奇しか持ってなくてもクソガキにとっちゃ精神攻撃となんら変わりないのにうぜってえ。
「ああ、君、アルコールの入っていないドリンクを一つ頼むよ」
おい今おれにほざいたかクソ豚。おっさんの思惑があって招待状を贈られなければ自力でディオ家に正面から訪問もできない小悪党の分際で、おれを小間使い扱いしたか、今。
「……私に、仰られたのでしょうか」
「ここには君以外にその役目を果たせる人間はいないと思うが?」
「…………」
おっさーんこいつ今殺してもよくねー?
……ああ、駄目か、そうか。おい爺わかったから遠くから殺気飛ばすのやめれ。人混みやらでこっちが見えてねーのにわかりきってやがるなあの二人。
だから本気で飛ばすなってクソガキが倒れる……あれこれ短気なおれのせいってなるのか?いや、倒れた方が即退場できるし目の前のクソ豚から絡まれるのも回避で、いいこと尽くめなのか。めんどくせーなホントに。
「どうした。使用人の分際で客のもてなし方も知らんのか?御曹司、ディオ家の客人のもてなしはずいぶんと特殊なのですね」
おいお前は命拾いしてるくせにこの期に及んでクソガキを地味に煽ってんじゃねーよ。
クソガキ、流されんなよ頼むから。
「私はディオ家当主であるライオネルさまから直接に、レオナールさまの護衛を仰せつかった身でございます。お二人の許可なくお傍を離れるわけにはいきませんので、どうかご容赦ください」
わかったらさっさとおっさんのとこに行って罠に嵌められてこい。
「だが、御曹司は見るからに体調が悪い様子……気遣って水をやることもできんのか?御曹司も、お疲れなのでしょう?喉を潤せば気分は変わりますよ」
――だからお前が今すぐ消えれば全部解消されんだよクソ豚!
もうクソガキを無理やりぶっ倒れさせるしかねぇか……左手をこっそりこきりと鳴らしていると、くん、と袖を引かれ、思わず素に戻って振り返った。
「…………いい」
「おい」
「……対応しなくて、いい」
目を見開いた。――このクソガキ。
一瞬だけ見つめ合ったあと、自然と瞳が伏せられた。上体を小さく、しかしまっすぐなまま曲げ簡単な礼をする。クソガキは満足そうに頷きつつ、土気色な顔のまま気丈に一歩踏み出した。
「……私のような若輩を気遣ってくれることはありがたく思います。が、この男は当家の使用人。他の家ではどうか私は存じていませんが、筆頭貴族家たる当家においては罰するのも命令するのも私や父の役目です。ご指摘は甘んじて受けますが、それ以上を強要するのは越権行為だということをご承知願いたい。……ところで、貴殿のことはなんと呼べばいいのでしょうか」
思わず顔を伏せた。ついでに腹筋を使って吹き出すのを堪える。表情筋も腹筋も明日筋肉痛になっていたらどうしてくれるんだクソガキ。
「ヴィオスも謝罪だけはしておきなさい。ご不快な思いをさせたのは確かなのだから」
「は、はい……」
ちょ、おま、この状況で振んなまだ笑い噛み殺せてねーんだよ!
「ヴィオス」
「……も、申し訳、ありま、せん?」
「貴様……!」
「やり直しなさい、ヴィオス」
あー、クソ豚の真っ赤通り越してどす黒くなった顔見たらようやく冷えてきた。こんだけ笑わせてくれたんだ、ご主人さまの期待に応えて、おれ史上最高な礼でも披露してやるよ。
「ご不快な思いをさせて申し訳ありません……お名前は存じていないので、これ以上はお許し頂きたく願います」
完結の目処が立ったので、これから完結まで毎日複数話投稿していきます!
話ごとの文字数がただでさえ少ないのに話数が多くてすみません(今さら)!
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まだパーティー会場に登場して一時間と過ぎていないのだが、明らかにぶっ倒れる寸前という様子のクソガキを後ろから見ていて、呆れを通り越して真顔になった。
(感受性が強すぎんのも困ったもんだ)
おっさんが事前情報として教えてくれていたことだが、まさかここまでとは思っていなかった。なぜ長男が死んでから重い腰を上げるようにして王都に呼び出したのかがよくわかる。十一歳――ある程度自我が確立される年齢だが、その歳でもこんなに影響を受けるのだ。恐らく生まれてからずっと王都で暮らしていれば、五歳になる前にはぶっ壊れていただろう。それがなく精神が健やかにいられたのは、閑散とした地方の町屋敷にひっそりと住まわせていたからだ。
バルコニーに出ると、後ろで響いていた楽団の音楽や客どもの笑いさざめく声が遠退き、クソガキの顔色が土気色から青白い色にまでは復活した。
(……向いてねーよなー)
初めてこのクソガキに同情を覚えたかもしれない。人から感情を敏感に察知するくせに、これまで守られていたからこそ無防備で、性格も嫌になるほどまっすぐと来た。曲がる前に折れそうだ。あのおっさんがそれをあらかじめ理解していなかったはずがない。
それでも、遠ざけたままでいられなかったのは――……。
「これは……失礼しました、御曹司がいらっしゃるとは……」
嘘こけ。ちらちらと中から様子見てたくせにさもばったりバルコニーで出会ったみたいな雰囲気作りやがって。クソガキが騙されるだろーが。
「…………いえ、構いません」
「短い間ですので、同席させていただいても?」
「……ええ」
クソガキが断れねえのも、顔色悪いのもわかってるくせに、わざわざ下手に出ているような態度が鼻につく。これまで寄ってきた連中より見下してますオーラが流れ出てんだよ。――ああ、ほら。復活した顔色が一気にマイナスだ。相手が好奇しか持ってなくてもクソガキにとっちゃ精神攻撃となんら変わりないのにうぜってえ。
「ああ、君、アルコールの入っていないドリンクを一つ頼むよ」
おい今おれにほざいたかクソ豚。おっさんの思惑があって招待状を贈られなければ自力でディオ家に正面から訪問もできない小悪党の分際で、おれを小間使い扱いしたか、今。
「……私に、仰られたのでしょうか」
「ここには君以外にその役目を果たせる人間はいないと思うが?」
「…………」
おっさーんこいつ今殺してもよくねー?
……ああ、駄目か、そうか。おい爺わかったから遠くから殺気飛ばすのやめれ。人混みやらでこっちが見えてねーのにわかりきってやがるなあの二人。
だから本気で飛ばすなってクソガキが倒れる……あれこれ短気なおれのせいってなるのか?いや、倒れた方が即退場できるし目の前のクソ豚から絡まれるのも回避で、いいこと尽くめなのか。めんどくせーなホントに。
「どうした。使用人の分際で客のもてなし方も知らんのか?御曹司、ディオ家の客人のもてなしはずいぶんと特殊なのですね」
おいお前は命拾いしてるくせにこの期に及んでクソガキを地味に煽ってんじゃねーよ。
クソガキ、流されんなよ頼むから。
「私はディオ家当主であるライオネルさまから直接に、レオナールさまの護衛を仰せつかった身でございます。お二人の許可なくお傍を離れるわけにはいきませんので、どうかご容赦ください」
わかったらさっさとおっさんのとこに行って罠に嵌められてこい。
「だが、御曹司は見るからに体調が悪い様子……気遣って水をやることもできんのか?御曹司も、お疲れなのでしょう?喉を潤せば気分は変わりますよ」
――だからお前が今すぐ消えれば全部解消されんだよクソ豚!
もうクソガキを無理やりぶっ倒れさせるしかねぇか……左手をこっそりこきりと鳴らしていると、くん、と袖を引かれ、思わず素に戻って振り返った。
「…………いい」
「おい」
「……対応しなくて、いい」
目を見開いた。――このクソガキ。
一瞬だけ見つめ合ったあと、自然と瞳が伏せられた。上体を小さく、しかしまっすぐなまま曲げ簡単な礼をする。クソガキは満足そうに頷きつつ、土気色な顔のまま気丈に一歩踏み出した。
「……私のような若輩を気遣ってくれることはありがたく思います。が、この男は当家の使用人。他の家ではどうか私は存じていませんが、筆頭貴族家たる当家においては罰するのも命令するのも私や父の役目です。ご指摘は甘んじて受けますが、それ以上を強要するのは越権行為だということをご承知願いたい。……ところで、貴殿のことはなんと呼べばいいのでしょうか」
思わず顔を伏せた。ついでに腹筋を使って吹き出すのを堪える。表情筋も腹筋も明日筋肉痛になっていたらどうしてくれるんだクソガキ。
「ヴィオスも謝罪だけはしておきなさい。ご不快な思いをさせたのは確かなのだから」
「は、はい……」
ちょ、おま、この状況で振んなまだ笑い噛み殺せてねーんだよ!
「ヴィオス」
「……も、申し訳、ありま、せん?」
「貴様……!」
「やり直しなさい、ヴィオス」
あー、クソ豚の真っ赤通り越してどす黒くなった顔見たらようやく冷えてきた。こんだけ笑わせてくれたんだ、ご主人さまの期待に応えて、おれ史上最高な礼でも披露してやるよ。
「ご不快な思いをさせて申し訳ありません……お名前は存じていないので、これ以上はお許し頂きたく願います」
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