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一ヶ月経過③
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主人が誘拐されたことは紛れもない真実。
なおかつ、誘拐犯の目的は知らないが規模は(資金的に)割と大きめ。もしかしたら出資者がいるかもしれないが、そこの調査はひとまず横に置く。
これらを総合して、おれのするべきことは、一つ。
「クソガキをボコることのみ……!」
「違うだろ!」
ぺしーんという音と共に頭に衝撃を受けてよろめいた。
「何をする」
「いや、お前の言うクソガキって主人だろ?ボコるなよ。それより先にすることあるだろ。助けろよ」
ぱしっぱしっと手でハリセンの調子を確かめていた女が呆れたふうに見上げてきた。おれはそれを横目で見ながら後頭部をさする。さっきまでハリセンのハの字もなかったのに、どこから持ってきやがった。
しばかれた頭はすぐに痛みが引いたが、最初の衝撃が大きすぎた。ハゲたらどうしてくれる。
「一度くらいハゲてみろってんだ。貫禄になるぞ?」
「同情と哀れみしか生まんわ」
「変に脱力するから二人ともちょっと黙って」
女の影に隠れるように立っていた小柄な男がぼそりと言った。陰気な黒目はどこまでも果てしなく呆れていた。
「一応わかってる?本丸目の前だよ?」
そう言いつつ、物陰から外の建物を伺うように目を向ける。おれと女もつられて顔を向けた。往来の途絶えた閑散とした郊外は、ずいぶんと見晴らしがいい。
「殆ど人員は中に引っ込んでるみたいだけど、警羅はいるじゃん。騒いでばれたらどうするのさ。……十人かな?」
「いや、十ニ人だ。二人伝令として動いているな」
目を眇めて訂正すると、心底嫌そうな目で見られた。
「何だ」
「……ルティの言うことじゃないけど……よく余裕ぶってられるね。あんたの主人の危機だってのに」
その台詞がおかしかったので、ふっと鼻で笑ってやった。危機?これのどこが?
馬鹿にされたのだとわかって、小男はぴくりと眉を動かしたが、ルティと呼ばれた女はあからさまに顔を歪めた。
「甘えな、どいつもこいつも。おれは辻褄合わせに来ただけだ。そのついででクソガキをボコるけどな」
「……どういうこと?辻褄?あんたはあの坊っちゃんを……」
「傍観者は傍観者らしく、野次馬根性だけ持って黙って見てろ。手を出す気はねぇんだろーが」
「…………」
「おれは最優先事項を遂行する」
腰に提げた剣の柄を肘置きにし、ふらりと歩き出す。何も隠れたりする気はない。その様子を見た女が慌てていたが、知ったことではない。
「……誰だ?てめぇ」
すぐこちらに気づいた警羅の一人が警戒心を持って寄ってくるが、それを気にすることもしなかった。相手には自信満々に見えるんだろう。誰何しながらも既に腰の山刀に手をかけている。
おれは何もしなかった。する必要がどこにもなかったから。右手をだらりと下げ、ただにっこりと笑む。
「我が主レオナール・ディオが下僕、アルフ・ヴィオス。お守りに参上した次第だ」
――さて。拳骨の他に何をお見舞いしようかな?
なおかつ、誘拐犯の目的は知らないが規模は(資金的に)割と大きめ。もしかしたら出資者がいるかもしれないが、そこの調査はひとまず横に置く。
これらを総合して、おれのするべきことは、一つ。
「クソガキをボコることのみ……!」
「違うだろ!」
ぺしーんという音と共に頭に衝撃を受けてよろめいた。
「何をする」
「いや、お前の言うクソガキって主人だろ?ボコるなよ。それより先にすることあるだろ。助けろよ」
ぱしっぱしっと手でハリセンの調子を確かめていた女が呆れたふうに見上げてきた。おれはそれを横目で見ながら後頭部をさする。さっきまでハリセンのハの字もなかったのに、どこから持ってきやがった。
しばかれた頭はすぐに痛みが引いたが、最初の衝撃が大きすぎた。ハゲたらどうしてくれる。
「一度くらいハゲてみろってんだ。貫禄になるぞ?」
「同情と哀れみしか生まんわ」
「変に脱力するから二人ともちょっと黙って」
女の影に隠れるように立っていた小柄な男がぼそりと言った。陰気な黒目はどこまでも果てしなく呆れていた。
「一応わかってる?本丸目の前だよ?」
そう言いつつ、物陰から外の建物を伺うように目を向ける。おれと女もつられて顔を向けた。往来の途絶えた閑散とした郊外は、ずいぶんと見晴らしがいい。
「殆ど人員は中に引っ込んでるみたいだけど、警羅はいるじゃん。騒いでばれたらどうするのさ。……十人かな?」
「いや、十ニ人だ。二人伝令として動いているな」
目を眇めて訂正すると、心底嫌そうな目で見られた。
「何だ」
「……ルティの言うことじゃないけど……よく余裕ぶってられるね。あんたの主人の危機だってのに」
その台詞がおかしかったので、ふっと鼻で笑ってやった。危機?これのどこが?
馬鹿にされたのだとわかって、小男はぴくりと眉を動かしたが、ルティと呼ばれた女はあからさまに顔を歪めた。
「甘えな、どいつもこいつも。おれは辻褄合わせに来ただけだ。そのついででクソガキをボコるけどな」
「……どういうこと?辻褄?あんたはあの坊っちゃんを……」
「傍観者は傍観者らしく、野次馬根性だけ持って黙って見てろ。手を出す気はねぇんだろーが」
「…………」
「おれは最優先事項を遂行する」
腰に提げた剣の柄を肘置きにし、ふらりと歩き出す。何も隠れたりする気はない。その様子を見た女が慌てていたが、知ったことではない。
「……誰だ?てめぇ」
すぐこちらに気づいた警羅の一人が警戒心を持って寄ってくるが、それを気にすることもしなかった。相手には自信満々に見えるんだろう。誰何しながらも既に腰の山刀に手をかけている。
おれは何もしなかった。する必要がどこにもなかったから。右手をだらりと下げ、ただにっこりと笑む。
「我が主レオナール・ディオが下僕、アルフ・ヴィオス。お守りに参上した次第だ」
――さて。拳骨の他に何をお見舞いしようかな?
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