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第10話 ユイの葛藤
しおりを挟む---翌日の朝、リョウスケとユイの教室---
ユイはミウがハルカに依存し始めてから、孤独になっていく心細さを感じていた。毎晩のようにユウスケにSNSのメッセージを送っては適度に返してくれる返信が嬉しかった。
本来なら恋人のリョウスケと毎日会って話しがしたい。だが生徒会長である自分が率先して学校内で恋人とイチャイチャしていると他人に思われるのが辛かった。また、恋人のリョウスケが高校生活最後の部活の大会に向けて頑張っている姿を見守っていたいという気持ちも強い。
本当は......全部言い訳に過ぎないとユイは自覚していた。リョウスケは鈍感で自分の悩みに気付いてくれない、電話もSNSのメッセージの返信もなかなか通じない。だけど、それはリョウスケが忙しいから、頑張っているから......だと自分に言い訳している。何も気づいてくれない、構ってくれないリョウスケと接触することも辛くて避け始めていた。
学校では同じクラスのリョウスケと毎日顔を合わせていたし、とりとめのない会話はしていた。だが、ただそれだけの会話しかしていないのも事実である。
「おはよう、ユイ。最近お互い忙しくて会えないが俺の部活やお前の生徒会の活動が落ち着いたら、色々遊びに行こうぜ」
「おはよう、リョウスケくん。嬉しいな、楽しみにしているね?」
何気ない会話ではあるが、それ以上深く話すと、リョウスケは周りの目が気にしてそこで会話が途切れるのである。
最近のユイは無意識に、そんなリョウスケとリョウスケの弟ユウスケを比べてしまっていた。
リョウスケは女性慣れしていないせいか、照れてしまってハルカの目を見て話せない。そんなリョウスケを見て、以前のユイはリョウスケを可愛いなと感じていた。だがユウスケはユイの目をきちんと見つめて話しをする。逆にユイが頬を赤らめてしまうことが多いぐらいだ。ただ目を見て話しをする...それだけでも心が通じ合うような心地良さを感じていた。
また、ユウスケはハルカと一緒に藤原家に訪れて、最近ミウと一緒に登校し始めていた。毎朝早い時間、水泳部の朝練の時間に合わせているのだろう。
ユイはユウスケに聞いた事がある。
「毎朝早く朝倉さんと学校に行くの大変じゃないの?...。それに、ミウまで一緒に登校させてもらってユウスケくんには本当に感謝してるの、ありがとう」
「いいんですよ、ハルカは危なっかしい性格しているから、人通りの少ない早朝に女の子1人で学校に行かせるのは心配なんです。それにミウちゃんも一緒に行きたいと言ってくれたので、折角ですから、毎朝お預かりさせていただいてます」
ユウスケとハルカが交際しているという話しは聞いた事がないが、幼馴染であるだけでこんなに心配してもらえるんだ......と羨ましくてなる。胸が切ないほど痛い......。
ユイは楽しそうに登校するミウの表情を見て、リョウスケに提案した。
「ね、リョウスケくん?......野球部の朝練がある時間でいいんだけど、私も一緒に登校してもいい?」
「気持ちは嬉しいよ、ありがとう。だけどユイは受験勉強で睡眠時間がちゃんと取れていないだろう?無理して朝早く起きる必要はないよ」
リョウスケなりに気を遣ってくれているのことを、ユイは理解していた。だけど求めている答えはそんな答えではない、どうしてわかってくれないんだろう。
「それじゃ、私お弁当作っていくから、お昼一緒に食べない?」
「ユイは本当に優しいな、ありがとう。だけど昼は簡単に食べて少しでも部活の練習をしておきたいんだ。もう少しの間待っててくれないかな?」
リョウスケは爽やかな笑顔で答えているが、ユイはそんな答えを欲していたのではない。
短い時間でも一緒にいたいと目で訴えかけてもリョウスケに伝わるはずもなかった。ユイはいつも笑顔で頷いていたが待つばかりの日々が寂しい。付き合い始めて間もないのにいきなり我慢しなきゃいけないの?......そう思うと心が疲れてしまう。優しいのではない、一緒にいたいだけなのに......と思いながら、ユイの性格ではそんな言葉を伝えられなかった。
ユイは恋愛に対して、とても不器用だった。そして本質は寂しがり屋で甘えん坊なところがある。ミウという妹の存在がユイを姉らしくさせていたが、今は妹がいるようでいないも同然の日々だ。
ユウスケには「友達のことなんだけどね...」とか「あくまで一般論だけどね...」と言葉を濁して相談するが、相談には丁寧にのってくれるし、ユイが欲しい返事を常に返してくれる。誰かと繋がっていられることが心地よく感じる。
だがユウスケは兄の恋人として振舞っているのか一定の距離感を保っていて、ユイの気持ちが切なくなっても、紳士的な言葉を返してくれていた。ユイも同様にユウスケにこれ以上踏み込んじゃいけないと、ブレーキをかけていたが、ユウスケの態度に焦れてしまいそうな気持ちもある。
いつしかユイはSNSのメッセージのやり取りがもどかしく、毎晩ユウスケに電話を掛けるようになっていた。そして、ユウスケの声を聞くことで心が癒されていることに気付いていなかった。そして、ユウスケが恋人の弟だから大丈夫...という安心感を言い訳に、言葉を交わす機会が増えていった。
リョウスケと甘い時間を過ごせない寂しさを紛らわせるため、ユイは放課後、図書室に通うようになってしまっていた。放課後の図書室には、ハルカを待つユウスケがいる事を知っている。
図書室で無言でユウスケの隣の席に座ると、小声で話す会話がお互いの秘密めいていて、ユイの小さな冒険心と欲しかった刺激を満たしていた。そして、ユイのどんな言葉にも相談にもユウスケは求めていた答えを返してくれたのだった。
◇
---放課後、帰宅時間---
週末はいつも水泳部の練習があったが、プールの清掃があり珍しく練習が休みになった。
ハルカはミウに声を掛けた。
「ミウ、土日の予定って何か入ってる?」
「特に何も無いですよ、家に居ても暇なので買い物にでも行こうかな...と思ってました」
「そうなのね、私、ユウスケと日帰りで温泉に行く約束してるんだけど、ミウも一緒にどう?」
「え?お二人で行かれるのに、お邪魔しちゃっていいんですか?」
ユイは大好きなハルカと一緒に温泉などと聞くと、嬉しそうに身を乗り出していた。ユウスケが一緒であることが少し残念でもあるが、ユウスケの優しさや立ち振る舞いに、ミウは好感を持っていた。何よりハルカとミウを更に近い関係にしてくれたのはユウスケだったからだ。
「じゃ、明日の朝迎えに行くね」
◇
---土曜日、朝---
夏の陽射しが照り付ける中、ユウスケとハルカ、ミウはバスに乗って温泉街に向かっていた。目的地の旅館はハルカの親戚が経営していて、時々ユウスケとハルカでリフレッシュしに行っているとミウは聞いていた。
バスに揺られて2時間弱...目的地の温泉街に到着すると、ミウははしゃいでいた。そのはしゃぎっぷりから、姉の窮屈な束縛から逃れられて相当に嬉しいのだろうと感じる。
温泉宿に到着するとハルカは手続きを済ませた。お客さんが来ない部屋を休憩場所として貸してくれたそうだ。
荷物を置いて、窓の外を眺めているミウにハルカが声をかける。
「ミウ、ここの露天風呂、景色も良くて気持ちいいからお勧めよ?」
「ありがとうございます。ハルカ先輩もユウスケさんも慣れてるんですね、時々来るんですか?」
「俺はハルカに誘ってもらった時ぐらいかな。二か月に一度くらいだろうか」
日常から離れる機会の少ないミウが嬉しそうに微笑んで、テーブルの上に置かれていたお茶菓子に手をつける。
「ユウスケ、今日は空いてるみたいで貸し切りのお風呂が2時間予約できたけどすぐ入る?」
ハルカが何気ない口調で俺を誘うと、ミウが興味深そうに視線を向けてくる。
「ハルカ先輩、貸し切りのお風呂ってどんなお風呂なんですか?」
「内湯なんだけど、さっき言っていた景色も和風の庭園も窓から眺められて、私のお気に入りのお風呂なの。私はユウスケと一緒に行くんだけど、ミウも行く?」
、てっきり男女別々に温泉に入りに行くと思っていたミウは硬直する。しかもハルカが当然のようにユウスケと一緒に温泉に入ろうとする様子に驚いた。ミウはユウスケを意識しながらも、ハルカと一緒に温泉に入れるのを楽しみにしていたようだ。
「無理しなくていいよ?ミウ...恥ずかしいのなら、後で一緒に露天風呂にでも行きましょう?」
ミウは悩んでいた様子だったが、少しでもハルカと一緒にいたいのか、恥ずかしそうに頷いた。結局3人で貸し切り風呂へ向かうと更衣室が分かれている訳でもないことにミウがまた固まっていた。その可哀そうな様子に、俺は手早く衣服を脱ぐと先に湯に向かっていった。
「ミウ、緊張してるの?男の子とお風呂ぐらい入ったことないの?小さい頃とか?」
ハルカが可笑しそうに笑みを浮かべて、ミウに問いかけた。
「無いですよ......昔は姉と一緒にお風呂入ってましたけど」
「そう。私はリョウスケさんや、ユウスケといつも入ってたから...」
ハルカがリョウスケを思い出しながら、恥ずかしそうにしている姿がミウにとっては新鮮だった。ハルカとミウも衣服を脱ぐとバスタオルを身体に巻いて温泉に向かう。既にユウスケは身体も洗い、広い浴槽に浸かっていた。温泉は乳白色の濁り湯で湯煙が立っていた。ミウとハルカも身体を洗うと温泉に浸かっていく。
「はぁ...ぁ......気持ちいい。時々ここに浸かりにこれるなんて贅沢よね」
ハルカが吐息を漏らしているのを聴くだけで、ミウがドキドキしているのが分かる。ハルカが無造作にミウを抱き寄せて優しく横抱きにする。
「見て、ミウ。ここ位置からの眺めがいいの。ミウが良ければこれからはミウも誘うから考えておいてね」
「え?...いいんですか?嬉しい......ぁ♡......んぅ♡」
ハルカとミウの正面にはユウスケが裸身で湯に浸かっていた。そんなユウスケに見せつけるように、優しくミウに口づけていく。今にも咲きそうにふくらんだ花のつぼみのようなミウの唇を塞いでいく。いつものように甘く啄んで耳や首筋をなぞりながら、濡れたハルカの柔らかい唇が這うようにミウの唇を開かせて舌の先で粘液を移し、恥ずかしさで閉じようとするミウの唇を、ほぐすように舐っていく。
「くちゅ...どうしたの?ミウ......いつもはあんなに私を求めてくれるのに。嫌いになっちゃった?」
「ぁん♡......はぁ、ハルカ先輩♡......だって、そんなこと♡...ひんっ♡...こんなところで♡......それに...ぁ♡...そんなにキスしちゃ♡......」
「なぁに?...ユウスケに見られるともっと感じちゃうのかしら?妬いちゃうわね......ミウは男の子が好きなんだもんね?」
「そんな♡ぁ...んぐっ♡......ぁ...ハルカ先輩にキスされたら♡......私...はぁ♡......ぴちゃ♡...」
ハルカはミウの顎を優しく掴んで、ユウスケの方を向かせながら唇を奪っていく。どこまでも甘く溶けるように舌をミウの口の中で絡めて、柔らかな朱唇を淫らに咥える。ミウの口腔にはしっとりとした甘い唾液が溢れてきて、ハルカの悩ましい息づかいをミウに感じさせながら甘美な姿をユウスケに見せつけていくと、次第にミウもねっとりと舌が絡め始める。
「あれ?...ミウちゃんは彼氏いなかったっけ。今、目の前にいるのは彼じゃなくて俺だよ。いいの?そんなに蕩けそうな顔を俺に見せて......」
俺はミウやハルカに触れることはしないが、ミウの羞恥心と背徳心を刺激した。ハルカはミウの甘い唾液を吸いつくすと、今度は自分の唾液を舌に絡めて流しこんでいく。ミウの喘ぎや吐息が少しずつ激しくなってくると、ハルカは自分の足の間にミウを抱き、ミウの背中を自分の胸に預けさせ...バスタオルを剥ぐと湯の外に出した。
「お風呂の中でバスタオルはマナー違反だから、外しましょうね」
ハルカは自分自身のバスタオルを取り、両手でミウの乳房を優しく包み揉みほぐしていく。決して乳房の突起に触れないように丁寧に...耳たぶに唇を這わせ軽く咬み、舌先でくすぐり。ミウの唇を再び奪うと、舌と舌をからませながら髪を撫で、耳たぶに触れて、次第にミウの吐息が荒くなってきた。
「ミウ、今日は時間がたっぷりあるから...いっぱい愛してあげるね?」
「あぁ♡...くちゅっ♡......んはぁ♡...やだ......ユウスケさんが見てる♡......んくっ♡......恥ずかしいよ、ハルカ先輩♡...こんなの嫌♡......ひぁんっ♡...そんなにいっぱいしちゃ、おかしくなっちゃう♡...」
「ミウは恥ずかしがり屋さんね、では恥ずかしくならないようにこうしてあげる...」
ハルカは手元にあった手ぬぐいを掴むとミウの目を塞いでいく。濡れた手ぬぐいがきつく目隠しとなってミウの視覚を奪った。
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