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上弦の章 帝国内乱
帝国議会議事録 上弦 二巻
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議会に参加していた有力者達は、ジョージの言葉にざわめきだす。
口々に囁かれるのは、エルヴァストと言う単語。
先代の第65代当主の名前である。
彼はほとんど話をしない寡黙な男だったが、法や掟に関しては厳格で、その姿を間近で見ていた人にとって娘が来ない事に動揺した。
そんな中、議会の入り口の一つが大きな音と共に開かれる。
彼らは自然とその人物に視線を向けた。
場に似合わぬ漆黒のローブを羽織った年頃の少女だ。
「遅れてしまい、誠に申し訳ございません! 当主のソフィー・ヴァルツァーに代わり、この不肖フレデリカ・ヴァルテシモが当主及び各師家の承認により、当主代理として出席致します!」
緊張で頬を少し引き攣らせながら、頭を下げる。
「まぁ、座るが良い……………………フレデリカ殿」
「はっ!」
ため息をついたウリヤノフに勧められ、とりあえず席に着くフレデリカ。
その時、彼と彼女はこう思った。
(なんだこの頼りなさそうなのは)
(あっちゃぁ…………………第一印象は最悪だよこれ、だから私出たくなかったのに)
フレデリカは帝国議会に出席したくないと散々父親に申し出たが、『これも経験だ』だの『あの当主から直接指名されて権限を貰ったのだから筋としてお前が出るべきだ』だの言われ、結局任される羽目になったのだ。
(私は元々人に教える立場だったのに、なんでよりにもよってこんな大役やんないといけないのよ!)
そんな様子のフレデリカを見たジークとジョージはそれぞれこう思う。
(初心な乙女…か。面白いことが起きそうだ)
(これは……………良い商談が発生しそうです)
「早速だがフレデリカ殿、落ち着かぬ間にすまぬが、そなたがたヴァルト家の動員を申請したい」
ウリヤノフは単刀直入に言う。
「それはドラグニア竜王国に対してでしょうか? それとも逆臣ユリアス・フォン・シュタインに対してでしょうか?」
(どうしよう……………………他の三家から送り出したいけど、すぐに集まる気がしない。この際未熟な魔導師でも、実践って事で駆り出そうかなぁ)
「………………そなたがたには南の防備を主に、その上で出来れば1人か2人ほど逆臣討伐に充てて頂きたい」
ユリアスと言う単語に顔を歪めてから、老いた議長は話す。
(あのユリアスを屠り、ドラグニア牽制にはヴァルトを利用せねばなるまい。西の遊牧民の脅威もあるが、先手はこちらだ。最悪、貴族連中に討伐をさせる他あるまい)
そんな時、横槍が入った。
「議長、私は今回の幾多の件、あれが関わっているのではないかと思うのだよ」
ジーク・グランドルである。
「ヴァルト家との話はまだ終わっていない! 喋りたいならその後にするべきじゃろう!」
(この小童、ヴァルトの了承を得る直前に口を出してきおって!)
「教団」
「「「「!!!」」」」
サラッと放たれたその言葉に、全てが固まった。
ウリヤノフはもちろん、フレデリカやジョージも同様である。
「おや? 何を黙る必要がある? 彼奴らはこの帝国の混乱期に度々現れる害虫であろう? かつて潰した救済の使徒の再来も大いにありえるではないか」
両手を広げ、楽しげに語るジーク。
教団と言う言葉は、かつての極秘戦争から口にすることすら許されない暗黙の了解だと帝国上層部では広まっていたが、それを知っていてなお、この大人数の前でわざと大声で話す彼の意図は何だろうか。
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
※あと1~2話くらいで帝国議会は終わらせます。少ない文で申し訳ありません。
話は変わりますが、次の章はサブタイ通り、教団メインです。
口々に囁かれるのは、エルヴァストと言う単語。
先代の第65代当主の名前である。
彼はほとんど話をしない寡黙な男だったが、法や掟に関しては厳格で、その姿を間近で見ていた人にとって娘が来ない事に動揺した。
そんな中、議会の入り口の一つが大きな音と共に開かれる。
彼らは自然とその人物に視線を向けた。
場に似合わぬ漆黒のローブを羽織った年頃の少女だ。
「遅れてしまい、誠に申し訳ございません! 当主のソフィー・ヴァルツァーに代わり、この不肖フレデリカ・ヴァルテシモが当主及び各師家の承認により、当主代理として出席致します!」
緊張で頬を少し引き攣らせながら、頭を下げる。
「まぁ、座るが良い……………………フレデリカ殿」
「はっ!」
ため息をついたウリヤノフに勧められ、とりあえず席に着くフレデリカ。
その時、彼と彼女はこう思った。
(なんだこの頼りなさそうなのは)
(あっちゃぁ…………………第一印象は最悪だよこれ、だから私出たくなかったのに)
フレデリカは帝国議会に出席したくないと散々父親に申し出たが、『これも経験だ』だの『あの当主から直接指名されて権限を貰ったのだから筋としてお前が出るべきだ』だの言われ、結局任される羽目になったのだ。
(私は元々人に教える立場だったのに、なんでよりにもよってこんな大役やんないといけないのよ!)
そんな様子のフレデリカを見たジークとジョージはそれぞれこう思う。
(初心な乙女…か。面白いことが起きそうだ)
(これは……………良い商談が発生しそうです)
「早速だがフレデリカ殿、落ち着かぬ間にすまぬが、そなたがたヴァルト家の動員を申請したい」
ウリヤノフは単刀直入に言う。
「それはドラグニア竜王国に対してでしょうか? それとも逆臣ユリアス・フォン・シュタインに対してでしょうか?」
(どうしよう……………………他の三家から送り出したいけど、すぐに集まる気がしない。この際未熟な魔導師でも、実践って事で駆り出そうかなぁ)
「………………そなたがたには南の防備を主に、その上で出来れば1人か2人ほど逆臣討伐に充てて頂きたい」
ユリアスと言う単語に顔を歪めてから、老いた議長は話す。
(あのユリアスを屠り、ドラグニア牽制にはヴァルトを利用せねばなるまい。西の遊牧民の脅威もあるが、先手はこちらだ。最悪、貴族連中に討伐をさせる他あるまい)
そんな時、横槍が入った。
「議長、私は今回の幾多の件、あれが関わっているのではないかと思うのだよ」
ジーク・グランドルである。
「ヴァルト家との話はまだ終わっていない! 喋りたいならその後にするべきじゃろう!」
(この小童、ヴァルトの了承を得る直前に口を出してきおって!)
「教団」
「「「「!!!」」」」
サラッと放たれたその言葉に、全てが固まった。
ウリヤノフはもちろん、フレデリカやジョージも同様である。
「おや? 何を黙る必要がある? 彼奴らはこの帝国の混乱期に度々現れる害虫であろう? かつて潰した救済の使徒の再来も大いにありえるではないか」
両手を広げ、楽しげに語るジーク。
教団と言う言葉は、かつての極秘戦争から口にすることすら許されない暗黙の了解だと帝国上層部では広まっていたが、それを知っていてなお、この大人数の前でわざと大声で話す彼の意図は何だろうか。
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
※あと1~2話くらいで帝国議会は終わらせます。少ない文で申し訳ありません。
話は変わりますが、次の章はサブタイ通り、教団メインです。
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