断罪のアベル

都沢むくどり

文字の大きさ
上 下
91 / 190
新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

鮮血ヲ食ライシ断罪ノ鎌 2

しおりを挟む
 熱い。

 意識を現実へ戻した俺の最初に思ったこと。

 あぁ、そうか。

 契約を結んだのか。

 いつの間にか鎌が左手に握られている。

「やはり左利きかッッ!! この化け物がぁ!!!」

 左利きって事はんだけどな、こう言うところでボロが出る。

 この国では過去の歴史で帝国に対し大反乱を起こした大罪人が左利きで、その名残から反逆者の芽として無意味な殺生を繰り返してきた。

 実際、理由は未だ不明だが生まれつき左利きの人間は魔術や呪術と言った特別な能力に長けやすい。

 ヴァルトにいた頃は左だろうが右だろうが実力があれば何も関係無いし、基本的に各々の当主以外は世俗と関係無い世捨て人同然の暮らし。その上、王が与えた権力の盾、ヴァルトが持つ強大な力もあり、民衆や貴族達も恐れつつもその力に依存している。

 だが、ヴァルトでない普通の人間だったらどうか?

 当然、迫害を受ける。

 迫害を受け続け、とうとう耐えられなくなった者は暴徒化。能力を用いて過激な行動をする者もいる。

 そうなる前に手を差し伸べるのもヴァルト。才能がある者を見つけて魔術を覚えさせるのは実は、使える子供を輩出して魔術師にする為だ。

 そうすることで、世俗から彼らを隔離して、使役できる。

 地方の資産家の家など新しい考えを持った親などは子供を風習から保護してもらうためにあえて自分達から子供を差し出す。

 と言っても家ごとに教える対象は違う。

 例えばヴァルテシモはそう言った利き手による区別はしないし、ヴァルターニャ、ヴァルチェ、ヴァルトーガは左利きのみをかき集める。ヴァルツァーに関して言えばそもそも教えてすらいない。ヴァルツァーにとっては傘下の魔術師を生産するより自分達を強くするだけでいいと言う理念から例外中の例外として行動している。

 俺は既に回路が壊れている。となるとこれは、魔術で無いことは明白か。呪術だな。

 それと不思議な事に、俺は何故かこの力の使い方を理解できる。

 記憶の残滓か、あるいは…………。

 と考えている間にも敵は俺を取り囲む布陣を敷き始めた。

 どれ、少し試してみるか。

 俺は一番近くにいた騎士に向けて走り出す。

 すると自分でも驚くことに一瞬の内に敵の眼前に接近しているではないか。

「クッ! 『プロテクティオ』!」

 思考が追い付かずともすぐに防御の構えを取る。何度も死地を乗り越えて磨かれた直感で、騎士は俺から身を守る様に光沢のある赤い障壁を展開した。

 俺は鎌を軽く前方に振る。

「愚か者が! その様な力で突破できるとでも…………」

「出来るさ」

 騎士の胴体がずれる。

「……………………え?」

 障壁がガラスの砕ける音を奏で、それと共にグチャッと肉が支えていた足から落ちる。

 俺の鎌は易々と障壁と騎士の重厚な甲冑に包まれた胴体ごと切り落としたのだ。


 騎士本人は呆然としていた。

 理解が追い付かないのだろう。

 仕方がない、お前の障壁が脆かっただけだ。

 だから、今の内に楽にしてやる。

 俺は心臓めがけて鎌の先を降り下ろした。

 そして、

「『戦場で散りし血よ…………集え、断罪なる鎌の元へ…………』」

 詠唱と共に、騎士の体から血が抜けていく。

 それらは俺の鎌の元へ勢い良く集まり、鎌に吸収される。

 残された死体は骨と皮しか無く、目など残ってすらいなかった。

 あぁ、感じる。鎌が俺に力を送り込んでいる事に。

「死ねェェェェェェッ!」

「化け物が! 成敗してやる」

 力を感じる余韻に浸っていたら、愚かにも二人の騎士が剣を抜きながら迫ってくる。

 魔術でどうこうできないと悟ったのだろう。

 正面から来るその勇気だけは褒めるよ。

「『散った者の血を代償に発動せよ…………霧血ノ暴蛇ネスティオン』!」

 左手の紋様と鎌から血が霧の様に吹き出す。

 それは鉄の臭いで嗅覚を、霧のぼんやりとした光景が視覚を曖昧にする。

 一瞬の内に俺は霧の中へ姿を消した。

「チッ! 目眩ましか……だが霧なら風で…………」

 状況判断を即座にする騎士の一人が風激系統の魔術を使おうとするが…………、

「なん!? 蛇だと!?!?」

 足元には薄赤色をした半透明の蛇が片足を拘束していた。

「くたばれ、くたばれよ!!」

 剣で騎士は蛇を叩く。

 しかし、叩かれた蛇は一度霧散するもまた巻き付く。むしろ先程よりも強く、腰辺りまで拘束しだした。

 切れども切れども手応えの無い蛇に、騎士は次第に焦り出す。

 やるなら今だ。


「卑怯ものが! 正々堂々とたたか……」

「眠れ」

 騎士の首筋を鎌で引っかけ、俺は即座に引いた。

 首が体から離れる。それは、俺を通り越し、はるか後方へ飛んでいった。

「『戦場で散りし血よ…………集え…………断罪なる鎌の元へ…………』」

 血を集めることも忘れてはいけない。

 血は力の源。

 罪有るものを断罪するために。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 左利きを設定上、ベルギウス帝国で嫌われてるのは訳がありますが、詳細は次の章で明らかになります。

 なお、モチーフは人類の歴史における左利きの迫害です(私は左利きです)。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...