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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
鮮血ヲ食ライシ断罪ノ鎌 2
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熱い。
意識を現実へ戻した俺の最初に思ったこと。
あぁ、そうか。
契約を結んだのか。
いつの間にか鎌が左手に握られている。
「やはり左利きかッッ!! この化け物がぁ!!!」
左利きって事は隠してたんだけどな、こう言うところでボロが出る。
この国では過去の歴史で帝国に対し大反乱を起こした大罪人が左利きで、その名残から反逆者の芽として無意味な殺生を繰り返してきた。
実際、理由は未だ不明だが生まれつき左利きの人間は魔術や呪術と言った特別な能力に長けやすい。
ヴァルトにいた頃は左だろうが右だろうが実力があれば何も関係無いし、基本的に各々の当主以外は世俗と関係無い世捨て人同然の暮らし。その上、王が与えた権力の盾、ヴァルトが持つ強大な力もあり、民衆や貴族達も恐れつつもその力に依存している。
だが、ヴァルトでない普通の人間だったらどうか?
当然、迫害を受ける。
迫害を受け続け、とうとう耐えられなくなった者は暴徒化。能力を用いて過激な行動をする者もいる。
そうなる前に手を差し伸べるのもヴァルト。才能がある者を見つけて魔術を覚えさせるのは実は、まず才能が発現しやすい左利きの子供を集めてその中から能力を使える子供を輩出して魔術師にする為だ。
そうすることで、世俗から彼らを隔離して、使役できる。
地方の資産家の家など新しい考えを持った親などは子供を風習から保護してもらうためにあえて自分達から子供を差し出す。
と言っても家ごとに教える対象は違う。
例えばヴァルテシモはそう言った利き手による区別はしないし、ヴァルターニャ、ヴァルチェ、ヴァルトーガは左利きのみをかき集める。ヴァルツァーに関して言えばそもそも教えてすらいない。ヴァルツァーにとっては傘下の魔術師を生産するより自分達を強くするだけでいいと言う理念から例外中の例外として行動している。
俺は既に回路が壊れている。となるとこれは、魔術で無いことは明白か。呪術だな。
それと不思議な事に、俺は何故かこの力の使い方を理解できる。
記憶の残滓か、あるいは…………。
と考えている間にも敵は俺を取り囲む布陣を敷き始めた。
どれ、少し試してみるか。
俺は一番近くにいた騎士に向けて走り出す。
すると自分でも驚くことに一瞬の内に敵の眼前に接近しているではないか。
「クッ! 『プロテクティオ』!」
思考が追い付かずともすぐに防御の構えを取る。何度も死地を乗り越えて磨かれた直感で、騎士は俺から身を守る様に光沢のある赤い障壁を展開した。
俺は鎌を軽く前方に振る。
「愚か者が! その様な力で突破できるとでも…………」
「出来るさ」
騎士の胴体がずれる。
「……………………え?」
障壁がガラスの砕ける音を奏で、それと共にグチャッと肉が支えていた足から落ちる。
俺の鎌は易々と障壁と騎士の重厚な甲冑に包まれた胴体ごと切り落としたのだ。
騎士本人は呆然としていた。
理解が追い付かないのだろう。
仕方がない、お前の障壁が脆かっただけだ。
だから、今の内に楽にしてやる。
俺は心臓めがけて鎌の先を降り下ろした。
そして、
「『戦場で散りし血よ…………集え、断罪なる鎌の元へ…………』」
詠唱と共に、騎士の体から血が抜けていく。
それらは俺の鎌の元へ勢い良く集まり、鎌に吸収される。
残された死体は骨と皮しか無く、目など残ってすらいなかった。
あぁ、感じる。鎌が俺に力を送り込んでいる事に。
「死ねェェェェェェッ!」
「化け物が! 成敗してやる」
力を感じる余韻に浸っていたら、愚かにも二人の騎士が剣を抜きながら迫ってくる。
魔術でどうこうできないと悟ったのだろう。
正面から来るその勇気だけは褒めるよ。
「『散った者の血を代償に発動せよ…………霧血ノ暴蛇』!」
左手の紋様と鎌から血が霧の様に吹き出す。
それは鉄の臭いで嗅覚を、霧のぼんやりとした光景が視覚を曖昧にする。
一瞬の内に俺は霧の中へ姿を消した。
「チッ! 目眩ましか……だが霧なら風で…………」
状況判断を即座にする騎士の一人が風激系統の魔術を使おうとするが…………、
「なん!? 蛇だと!?!?」
足元には薄赤色をした半透明の蛇が片足を拘束していた。
「くたばれ、くたばれよ!!」
剣で騎士は蛇を叩く。
しかし、叩かれた蛇は一度霧散するもまた巻き付く。むしろ先程よりも強く、腰辺りまで拘束しだした。
切れども切れども手応えの無い蛇に、騎士は次第に焦り出す。
やるなら今だ。
「卑怯ものが! 正々堂々とたたか……」
「眠れ」
騎士の首筋を鎌で引っかけ、俺は即座に引いた。
首が体から離れる。それは、俺を通り越し、はるか後方へ飛んでいった。
「『戦場で散りし血よ…………集え…………断罪なる鎌の元へ…………』」
血を集めることも忘れてはいけない。
血は力の源。
罪有るものを断罪するために。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
左利きを設定上、ベルギウス帝国で嫌われてるのは訳がありますが、詳細は次の章で明らかになります。
なお、モチーフは人類の歴史における左利きの迫害です(私は左利きです)。
意識を現実へ戻した俺の最初に思ったこと。
あぁ、そうか。
契約を結んだのか。
いつの間にか鎌が左手に握られている。
「やはり左利きかッッ!! この化け物がぁ!!!」
左利きって事は隠してたんだけどな、こう言うところでボロが出る。
この国では過去の歴史で帝国に対し大反乱を起こした大罪人が左利きで、その名残から反逆者の芽として無意味な殺生を繰り返してきた。
実際、理由は未だ不明だが生まれつき左利きの人間は魔術や呪術と言った特別な能力に長けやすい。
ヴァルトにいた頃は左だろうが右だろうが実力があれば何も関係無いし、基本的に各々の当主以外は世俗と関係無い世捨て人同然の暮らし。その上、王が与えた権力の盾、ヴァルトが持つ強大な力もあり、民衆や貴族達も恐れつつもその力に依存している。
だが、ヴァルトでない普通の人間だったらどうか?
当然、迫害を受ける。
迫害を受け続け、とうとう耐えられなくなった者は暴徒化。能力を用いて過激な行動をする者もいる。
そうなる前に手を差し伸べるのもヴァルト。才能がある者を見つけて魔術を覚えさせるのは実は、まず才能が発現しやすい左利きの子供を集めてその中から能力を使える子供を輩出して魔術師にする為だ。
そうすることで、世俗から彼らを隔離して、使役できる。
地方の資産家の家など新しい考えを持った親などは子供を風習から保護してもらうためにあえて自分達から子供を差し出す。
と言っても家ごとに教える対象は違う。
例えばヴァルテシモはそう言った利き手による区別はしないし、ヴァルターニャ、ヴァルチェ、ヴァルトーガは左利きのみをかき集める。ヴァルツァーに関して言えばそもそも教えてすらいない。ヴァルツァーにとっては傘下の魔術師を生産するより自分達を強くするだけでいいと言う理念から例外中の例外として行動している。
俺は既に回路が壊れている。となるとこれは、魔術で無いことは明白か。呪術だな。
それと不思議な事に、俺は何故かこの力の使い方を理解できる。
記憶の残滓か、あるいは…………。
と考えている間にも敵は俺を取り囲む布陣を敷き始めた。
どれ、少し試してみるか。
俺は一番近くにいた騎士に向けて走り出す。
すると自分でも驚くことに一瞬の内に敵の眼前に接近しているではないか。
「クッ! 『プロテクティオ』!」
思考が追い付かずともすぐに防御の構えを取る。何度も死地を乗り越えて磨かれた直感で、騎士は俺から身を守る様に光沢のある赤い障壁を展開した。
俺は鎌を軽く前方に振る。
「愚か者が! その様な力で突破できるとでも…………」
「出来るさ」
騎士の胴体がずれる。
「……………………え?」
障壁がガラスの砕ける音を奏で、それと共にグチャッと肉が支えていた足から落ちる。
俺の鎌は易々と障壁と騎士の重厚な甲冑に包まれた胴体ごと切り落としたのだ。
騎士本人は呆然としていた。
理解が追い付かないのだろう。
仕方がない、お前の障壁が脆かっただけだ。
だから、今の内に楽にしてやる。
俺は心臓めがけて鎌の先を降り下ろした。
そして、
「『戦場で散りし血よ…………集え、断罪なる鎌の元へ…………』」
詠唱と共に、騎士の体から血が抜けていく。
それらは俺の鎌の元へ勢い良く集まり、鎌に吸収される。
残された死体は骨と皮しか無く、目など残ってすらいなかった。
あぁ、感じる。鎌が俺に力を送り込んでいる事に。
「死ねェェェェェェッ!」
「化け物が! 成敗してやる」
力を感じる余韻に浸っていたら、愚かにも二人の騎士が剣を抜きながら迫ってくる。
魔術でどうこうできないと悟ったのだろう。
正面から来るその勇気だけは褒めるよ。
「『散った者の血を代償に発動せよ…………霧血ノ暴蛇』!」
左手の紋様と鎌から血が霧の様に吹き出す。
それは鉄の臭いで嗅覚を、霧のぼんやりとした光景が視覚を曖昧にする。
一瞬の内に俺は霧の中へ姿を消した。
「チッ! 目眩ましか……だが霧なら風で…………」
状況判断を即座にする騎士の一人が風激系統の魔術を使おうとするが…………、
「なん!? 蛇だと!?!?」
足元には薄赤色をした半透明の蛇が片足を拘束していた。
「くたばれ、くたばれよ!!」
剣で騎士は蛇を叩く。
しかし、叩かれた蛇は一度霧散するもまた巻き付く。むしろ先程よりも強く、腰辺りまで拘束しだした。
切れども切れども手応えの無い蛇に、騎士は次第に焦り出す。
やるなら今だ。
「卑怯ものが! 正々堂々とたたか……」
「眠れ」
騎士の首筋を鎌で引っかけ、俺は即座に引いた。
首が体から離れる。それは、俺を通り越し、はるか後方へ飛んでいった。
「『戦場で散りし血よ…………集え…………断罪なる鎌の元へ…………』」
血を集めることも忘れてはいけない。
血は力の源。
罪有るものを断罪するために。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
左利きを設定上、ベルギウス帝国で嫌われてるのは訳がありますが、詳細は次の章で明らかになります。
なお、モチーフは人類の歴史における左利きの迫害です(私は左利きです)。
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