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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
惨劇 9
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「……………………」
「大丈夫か!? カレン! 無事なら返事しろよ!!!」
「……………………」
返事はない。
「思い出を守るんじゃなかったのかよ!!!!」
「……………………」
ピクリとも動かない。強力な雷撃は、カレンの心の臓に深い衝撃を与えたのか、息すらしていない。
「カレン、君が倒れたら…………子供達の無念はどうするんだ!!」
俺はかくも無力だ。いくらあの家で頭脳を鍛えられようと、肝心な場面で役に立たない。俺は優秀などではない。ただ単に能力で劣ることを、姑息さで誤魔化してきただけだ。
「茶番は終わりかね?」
いつの間にかすぐ目の前に坊っちゃん貴族が立っている。
「安心しろ、カレン嬢は死なせない。こちらには腕利きの回復魔術を扱う騎士がいるのだ。まぁ…………私の事を侮辱した罪はカレン嬢にとってもらうがね」
坊っちゃん貴族は口元が歪める。
「なんだと?」
「全て…………全て貴様のせいなのだ!!! 貴様さえ現れなければ、今頃互いに幸せだったのにっ! 貴様の存在が…………! カレン嬢の結婚に対する抵抗をさらに強めたのだッッッッ!!」
剣を仰向けに倒れている俺の喉元に突きつける。
「だから私はっ! カレン嬢の手足をもいででもッッッッ!! 私のものにするのだ!」
「お前がそんなことして、カレン様が喜ぶと思うのかよ?」
「カレン嬢の意思など関係ない!! 私の、私の意思こそが優先事項なのだッッッッ!」
歪んでやがる。カレンもさっきいっていたが、こいつは家の権力を傘にわがままをわめき散らす典型的な傲慢貴族だ。
「言うことを聞かずとも薬で無理矢理言うことを聞かせて従順な犬にしてやる!! その前に貴様を八つ裂きにしてからなぁっっ!!」
唾が飛び、俺の顔にかかる。
「一つ、質問がある。賊達が親分といっていたが、それはお前のことだろう?」
「…………」
威勢が良かったのが急に静かになる。それは動揺で口が閉じたのではなく、今さら遅いと言わんばかりの冷笑を浮かべるための静寂だった。
「フ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 良いだろう。冥土の土産に教えてやる。そうだ、賊どもを先導させたのは私だッッッッ!! 理由? そんなの言わずとも明白よ!! 少しの物資援助、わずかな金のばらまきで尻尾をふる使い捨ての道具が手に入るからだ! 貴様が現れなければ手駒の賊を我らが討伐し、カレン嬢に恩を売り、婚約まで迫れたのだよッッッッ! 貴様が、貴様が全てを台無しにしたのだッッッッッッッッ!」
やっぱりな。金をあれだけ持ってたのは不思議だったが、的中した。汚れ役だけ用意して、最後は切り捨てる。まさに権力闘争に使う手段。
クソ、会話で時間を稼ごうにもまだ体が動かない。
もうだめなのか。
死ぬ。無様に死ぬ。こんな下衆野郎に殺されて死ぬ。
「死ぬがいいいいいっっっっっっ!」
剣を逆手にとった坊っちゃん貴族、いや、クソ野郎が剣を俺の喉元に刺そうとする。
だが、
「あっけないですね」
柔らかい声が耳元で囁かれる。
刹那、世界が止まった。それは白く、この世を精密に調べ上げ、彫刻で作った様な一面が幻想風景と化す。
俺に突き刺さるはずだった剣が、喉の皮膚に触れたまま止まっていた。
まさに首の皮一枚。
純白。
穢れを知らぬ神聖な領域。
現実からかけ離れた異空間。
そうだ、ここは……………………
「あなたの無意識の願いを待っていました」
横で彼女が囁く。
白夜の箱庭だ。
「大丈夫か!? カレン! 無事なら返事しろよ!!!」
「……………………」
返事はない。
「思い出を守るんじゃなかったのかよ!!!!」
「……………………」
ピクリとも動かない。強力な雷撃は、カレンの心の臓に深い衝撃を与えたのか、息すらしていない。
「カレン、君が倒れたら…………子供達の無念はどうするんだ!!」
俺はかくも無力だ。いくらあの家で頭脳を鍛えられようと、肝心な場面で役に立たない。俺は優秀などではない。ただ単に能力で劣ることを、姑息さで誤魔化してきただけだ。
「茶番は終わりかね?」
いつの間にかすぐ目の前に坊っちゃん貴族が立っている。
「安心しろ、カレン嬢は死なせない。こちらには腕利きの回復魔術を扱う騎士がいるのだ。まぁ…………私の事を侮辱した罪はカレン嬢にとってもらうがね」
坊っちゃん貴族は口元が歪める。
「なんだと?」
「全て…………全て貴様のせいなのだ!!! 貴様さえ現れなければ、今頃互いに幸せだったのにっ! 貴様の存在が…………! カレン嬢の結婚に対する抵抗をさらに強めたのだッッッッ!!」
剣を仰向けに倒れている俺の喉元に突きつける。
「だから私はっ! カレン嬢の手足をもいででもッッッッ!! 私のものにするのだ!」
「お前がそんなことして、カレン様が喜ぶと思うのかよ?」
「カレン嬢の意思など関係ない!! 私の、私の意思こそが優先事項なのだッッッッ!」
歪んでやがる。カレンもさっきいっていたが、こいつは家の権力を傘にわがままをわめき散らす典型的な傲慢貴族だ。
「言うことを聞かずとも薬で無理矢理言うことを聞かせて従順な犬にしてやる!! その前に貴様を八つ裂きにしてからなぁっっ!!」
唾が飛び、俺の顔にかかる。
「一つ、質問がある。賊達が親分といっていたが、それはお前のことだろう?」
「…………」
威勢が良かったのが急に静かになる。それは動揺で口が閉じたのではなく、今さら遅いと言わんばかりの冷笑を浮かべるための静寂だった。
「フ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 良いだろう。冥土の土産に教えてやる。そうだ、賊どもを先導させたのは私だッッッッ!! 理由? そんなの言わずとも明白よ!! 少しの物資援助、わずかな金のばらまきで尻尾をふる使い捨ての道具が手に入るからだ! 貴様が現れなければ手駒の賊を我らが討伐し、カレン嬢に恩を売り、婚約まで迫れたのだよッッッッ! 貴様が、貴様が全てを台無しにしたのだッッッッッッッッ!」
やっぱりな。金をあれだけ持ってたのは不思議だったが、的中した。汚れ役だけ用意して、最後は切り捨てる。まさに権力闘争に使う手段。
クソ、会話で時間を稼ごうにもまだ体が動かない。
もうだめなのか。
死ぬ。無様に死ぬ。こんな下衆野郎に殺されて死ぬ。
「死ぬがいいいいいっっっっっっ!」
剣を逆手にとった坊っちゃん貴族、いや、クソ野郎が剣を俺の喉元に刺そうとする。
だが、
「あっけないですね」
柔らかい声が耳元で囁かれる。
刹那、世界が止まった。それは白く、この世を精密に調べ上げ、彫刻で作った様な一面が幻想風景と化す。
俺に突き刺さるはずだった剣が、喉の皮膚に触れたまま止まっていた。
まさに首の皮一枚。
純白。
穢れを知らぬ神聖な領域。
現実からかけ離れた異空間。
そうだ、ここは……………………
「あなたの無意識の願いを待っていました」
横で彼女が囁く。
白夜の箱庭だ。
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