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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
久しぶりの暇な一日 2
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身分、年齢によらず誰でも遊べるマルドラフは画期的な遊びだと思う。作った人素晴らしいな。
試合が始まってからというもの、
「はい、アークとったよ」
「そ、そんな…………おれ様の大地変成戦法が…………」
ガキ大将を、
「次は私が!」
「死霊術で包囲ね」
「魔術使って倒したのにいいぃ!」
朝起こしてくれた少女を、
「次はオイラだっっっっっ!」
「あ、ごめん。俺死霊術師だから、呪術師に圧倒的有利だ」
「ブブォォォォッッッッ!!?」
ちょっと太めの男の子を、
「なら、持久戦に持ち込んで『神罰』を使えば…………」
「俺、生まれたときからサイコロ運がいいんだよね」
「これが………神の一撃……か……」
何人も何人も倒した後、最後に小柄な少年を、
マルドラフで容赦なく蹂躙、叩きのめしていった。
死霊術、使いどころによっては強いな。今度、ツバキちゃんにリベンジしよっと。
というか8人中5人は『神罰』で勝敗を決したのだが、全て俺の勝ちという結果だった。
そして現状に至る。
…………ちょっとやり過ぎたかな。泣き出さなきゃいいけど。
だがその心配も杞憂に終わる。
「す、すげぇよ! こんなに強い人、初めてだっ!」
「勝てるコツとか教えてっ!」
そんなに強いわけではないが、子供からすると俺は相当の腕らしい。
好印象で見られるのは悪い気分ではないが、この状況で平和な時間を味わうのもかえっておかしくも感じる。
「なぁ、リトラル村に着いてからずっと気になってるんだけど。カレン様から村に盗賊団が来たって聞いたんだが、そんなに悠長にしてていいのか?」
「? それは隣のラプラル村だよ?」
「むしろ隣村が被害にあってるからこそ警戒をしないといけないんじゃ…………」
「え? だってカレン様がわたしたちを助けてくれるじゃない」
そう言われ、以来を受ける前に聞いたカレンの話を思いだし、反芻する。
確かカレンは…………、
『ノスタルジアの領地の一つもその被害を被ってるの、でも兵の数が少ないからって、お母様が勝手に進めた縁談の相手と共同出兵することになっちゃったのよ、だから断るために力を貸して! 給金はちゃんと払うから!』
と俺に説明した。あの時はカレンの愚痴まで一言一句忘れられず疲れたが、便利に使えるときもあるもんだ。
子供の言ってることはカレンの過去の言動と合致している。そのために近くに位置する二つの村も防衛対象にしたのだろう。
なら、なおさらこの村の危険度は高まるわけだが…………。
なぜなら一度略奪した村から再度略奪しても、前に奪ってる影響で盗れるものは少ない。大規模な集団なら周りにある村を襲うのが定石だろう。ラプラル村がやつらにとって枯渇資源地帯なら、まだ余力のあるリトラル村か、もうひとつの村に行くはず。なのに子供たちはそれをわかっていない。
熟考していると頭頂部の禿げかかった農夫が一人、鍬をもって歩いてきて、俺を見ると話しかけてきた。
「アベルさん、子供たちの面倒を見てもらって申し訳ねぇです」
「子供は好きだから気にしないで大丈夫だよ」
さて、大人の意見を聞いてみるとするか。
「盗賊が現れる可能性が高いのに、そんなに悠長に構えていいのか気になるんだが」
「あぁ、隣の村が襲われたときゃ驚いたけど、カレン様も来てくれたし、なんせあんなに強そうな騎士様達がいる。無駄に戦っても勝ち目のねぇあっしらがいても足手まといでしょう」
彼らの考えが分からなくもないが、この村の住民はいささかカレンに対する期待過剰と、盗賊に対する警戒心が異常に低いと思う。
魔術や呪術が使えない以上、防衛用の柵とか立てるべきだ。
「それに、隣の村じゃあ死んだのもいねぇんだす」
「死人が出ていない?」
「えぇ、なにやら親玉みてぇなのが、貢ぎ物さえすりゃ女子供に手はださず、無用な殺しはせんと言ってたそうで。まあ、来たとしてもカレン様が追い払ってくれるでしょう」
奴等は死人を出したくないんじゃなく、死人が出ると次に略奪するとき生産力が減って収穫が減るからだと思う。まるで自分が領主であるかのような振る舞いだな。それを彼らは殺されないし、女子供に危害が加えられないからと安心している。
それこそ相手の思うつぼだ。殺されないと思って一生懸命物資を捧げても、向こうにとって不利な状況、例えば今の俺達のように、領主の軍が到着したことを知れば、問答無用で殺されるだろう。村を燃やし、逃げる算段を立てる時間稼ぎの為に。
「……………………」
「お、おにいちゃんどうしたの? なんか顔が怖いよ…………」
考え事をしている俺を見て、少女が少し怯えていた。
何だろう。俺って考え事をするとそんなに怖いのか…………。
「ごめんごめん、ちょっと考え事をね」
周りが動かないなら俺が動く必要があるな。むしろその方が都合もいいしな。
「みんな、ちょっと野暮用ができた。悪いけどマルドラフはおしまいにしよう。それと、今日は今から家で過ごしてほしい」
「ええ? 大丈夫だよ。来てもアベルのアニキがなんとかしてくれるだろ? それにカレン様も夜には帰ってくるし」
呑気な声でガキ大将は言う。
「俺はカレン様と違って魔術が使えない。それにそんなに強くもない」
「えっ!? てっきりアニキも使えるかと思った」
どうやら俺は魔術が使えると思っていたガキ大将。主人が使えるからと言って、従僕が使えるとは限らないんだよ。
「あなたは急いで村の人達を集めて入り口に柵の準備だけしておいてくれ。今後のカレン様の役にたつと思うから」
「はぁ、大丈夫だと思いやすがこれからカレン様の負担を軽くできるんなら喜んでやりましょう」
「じゃあ、後は任せた」
迷わず西の方角へ歩く。
俺達が話してる最中、遠くで人影が不自然に揺れていたからな。
試合が始まってからというもの、
「はい、アークとったよ」
「そ、そんな…………おれ様の大地変成戦法が…………」
ガキ大将を、
「次は私が!」
「死霊術で包囲ね」
「魔術使って倒したのにいいぃ!」
朝起こしてくれた少女を、
「次はオイラだっっっっっ!」
「あ、ごめん。俺死霊術師だから、呪術師に圧倒的有利だ」
「ブブォォォォッッッッ!!?」
ちょっと太めの男の子を、
「なら、持久戦に持ち込んで『神罰』を使えば…………」
「俺、生まれたときからサイコロ運がいいんだよね」
「これが………神の一撃……か……」
何人も何人も倒した後、最後に小柄な少年を、
マルドラフで容赦なく蹂躙、叩きのめしていった。
死霊術、使いどころによっては強いな。今度、ツバキちゃんにリベンジしよっと。
というか8人中5人は『神罰』で勝敗を決したのだが、全て俺の勝ちという結果だった。
そして現状に至る。
…………ちょっとやり過ぎたかな。泣き出さなきゃいいけど。
だがその心配も杞憂に終わる。
「す、すげぇよ! こんなに強い人、初めてだっ!」
「勝てるコツとか教えてっ!」
そんなに強いわけではないが、子供からすると俺は相当の腕らしい。
好印象で見られるのは悪い気分ではないが、この状況で平和な時間を味わうのもかえっておかしくも感じる。
「なぁ、リトラル村に着いてからずっと気になってるんだけど。カレン様から村に盗賊団が来たって聞いたんだが、そんなに悠長にしてていいのか?」
「? それは隣のラプラル村だよ?」
「むしろ隣村が被害にあってるからこそ警戒をしないといけないんじゃ…………」
「え? だってカレン様がわたしたちを助けてくれるじゃない」
そう言われ、以来を受ける前に聞いたカレンの話を思いだし、反芻する。
確かカレンは…………、
『ノスタルジアの領地の一つもその被害を被ってるの、でも兵の数が少ないからって、お母様が勝手に進めた縁談の相手と共同出兵することになっちゃったのよ、だから断るために力を貸して! 給金はちゃんと払うから!』
と俺に説明した。あの時はカレンの愚痴まで一言一句忘れられず疲れたが、便利に使えるときもあるもんだ。
子供の言ってることはカレンの過去の言動と合致している。そのために近くに位置する二つの村も防衛対象にしたのだろう。
なら、なおさらこの村の危険度は高まるわけだが…………。
なぜなら一度略奪した村から再度略奪しても、前に奪ってる影響で盗れるものは少ない。大規模な集団なら周りにある村を襲うのが定石だろう。ラプラル村がやつらにとって枯渇資源地帯なら、まだ余力のあるリトラル村か、もうひとつの村に行くはず。なのに子供たちはそれをわかっていない。
熟考していると頭頂部の禿げかかった農夫が一人、鍬をもって歩いてきて、俺を見ると話しかけてきた。
「アベルさん、子供たちの面倒を見てもらって申し訳ねぇです」
「子供は好きだから気にしないで大丈夫だよ」
さて、大人の意見を聞いてみるとするか。
「盗賊が現れる可能性が高いのに、そんなに悠長に構えていいのか気になるんだが」
「あぁ、隣の村が襲われたときゃ驚いたけど、カレン様も来てくれたし、なんせあんなに強そうな騎士様達がいる。無駄に戦っても勝ち目のねぇあっしらがいても足手まといでしょう」
彼らの考えが分からなくもないが、この村の住民はいささかカレンに対する期待過剰と、盗賊に対する警戒心が異常に低いと思う。
魔術や呪術が使えない以上、防衛用の柵とか立てるべきだ。
「それに、隣の村じゃあ死んだのもいねぇんだす」
「死人が出ていない?」
「えぇ、なにやら親玉みてぇなのが、貢ぎ物さえすりゃ女子供に手はださず、無用な殺しはせんと言ってたそうで。まあ、来たとしてもカレン様が追い払ってくれるでしょう」
奴等は死人を出したくないんじゃなく、死人が出ると次に略奪するとき生産力が減って収穫が減るからだと思う。まるで自分が領主であるかのような振る舞いだな。それを彼らは殺されないし、女子供に危害が加えられないからと安心している。
それこそ相手の思うつぼだ。殺されないと思って一生懸命物資を捧げても、向こうにとって不利な状況、例えば今の俺達のように、領主の軍が到着したことを知れば、問答無用で殺されるだろう。村を燃やし、逃げる算段を立てる時間稼ぎの為に。
「……………………」
「お、おにいちゃんどうしたの? なんか顔が怖いよ…………」
考え事をしている俺を見て、少女が少し怯えていた。
何だろう。俺って考え事をするとそんなに怖いのか…………。
「ごめんごめん、ちょっと考え事をね」
周りが動かないなら俺が動く必要があるな。むしろその方が都合もいいしな。
「みんな、ちょっと野暮用ができた。悪いけどマルドラフはおしまいにしよう。それと、今日は今から家で過ごしてほしい」
「ええ? 大丈夫だよ。来てもアベルのアニキがなんとかしてくれるだろ? それにカレン様も夜には帰ってくるし」
呑気な声でガキ大将は言う。
「俺はカレン様と違って魔術が使えない。それにそんなに強くもない」
「えっ!? てっきりアニキも使えるかと思った」
どうやら俺は魔術が使えると思っていたガキ大将。主人が使えるからと言って、従僕が使えるとは限らないんだよ。
「あなたは急いで村の人達を集めて入り口に柵の準備だけしておいてくれ。今後のカレン様の役にたつと思うから」
「はぁ、大丈夫だと思いやすがこれからカレン様の負担を軽くできるんなら喜んでやりましょう」
「じゃあ、後は任せた」
迷わず西の方角へ歩く。
俺達が話してる最中、遠くで人影が不自然に揺れていたからな。
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