断罪のアベル

都沢むくどり

文字の大きさ
上 下
65 / 190
新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

貧村に現れた善良なる統治者 1

しおりを挟む
「カレン様だぁ!」

「なんと!?」

「儂らの為にカレン様本人が直接来てくださるとは…………!」

  集落に入った途端、続々と村人達が老若男女問わず、カレンを囲むように集まってくる。彼らの目は輝いていて心の底から拝んでいる目だった。それだけカレンの政策が民の為の物なのだろう。

「フフ、みんな久しぶり。ペーター、この前教えた肥料の作り方は覚えたの?」

「うん! カレンさまが丁寧に教えてくれたし、やり方を見せてくれたからすぐにできたよ!」

 ペーターと呼ばれた男の子は元気よく返事をする。

 それにしてもカレンってすごいなぁ。肥料って言うと家畜とか人の糞尿で作るから臭いとかで貴族、騎士は普通携わること自体あり得ないんだが。むしろそれをいやな顔せず教えるとは。領民も慕うわけだ。

 カレンは上からではなく同じ目線で彼らと共に歩んでいる。搾取ではなく共生しているといった方がいいだろうか。

 それにしてもぼっちゃん貴族一行の姿が見えない。

 いや、客人用の家だろうか。遠くに位置する館ほどではないが、それなりに大きい木造建築に主の承諾も得ずに、勝手に入っていった。俺が聞いてないだけで事前に取り決めでもしていたのだろうか。

「ねえ、おにいちゃんはだれなの? はじめてみるんだけど?」

 考え事の最中で小さい女の子から声をかけられた。黒のローブを羽織って顔を隠していたので怖そうに見つめられる。俺は急いでフード部分をたくしあげた。

「あぁ、俺はアベル。カレンの雑用係として、この前から雇われているんだよ。これからよろしくね」

 言われた本人以外はともかく、様、の部分でカレンは眉を少しだけ上げた。 普段俺には呼ばれないから少し違和感を覚えたのだろう。

「よろしく! ねぇねぇ! カレン様におつかえできてうれしいでしょ?」

 爛々と目を輝かせる少女。カレンのメイドにでもなりたいのだろうか。カレンならば雇ってくれそうだ。

「うん、カレンは優しいし、真面目で清楚なのが俺の誇りだよ」

 クラリーチェへの溺愛を除けば、な。

 一時的だが雇われてるので、デメリットは言わずに、少女の理想像を誇張するように言う。と言うよりも、俺よりもこの子達の方が付き合いが長いし、もう分かってるのかな。

 一方、俺がカレンを誉め称えていた時、カレンは他の領民の話の対応に追われていた。一瞬顔が赤くなった気がしたが気のせいだろう。

「羨ましいなあ、わたしも将来カレン様のメイドさんになって、お手伝いしたいなあ」

 当たった、俺の予想。

「頑張ってメイドさんの修行をすれば、もしかしたらだけど雇ってくれるかなぁ」

「こればかりは俺の口からはいえないな、でも物は試し。頑張ってメイドさんのお勉強をしてみたら?」

 子供の夢を壊さないためとはいえ、無責任な事をいってしまったものだ。基本的にメイドとは騎士階級の次女や三女、もしくはある程度の学がある女性しかなれない。

 それに村の発展具合から見て、搾取を行わなくても貧しい雰囲気がする。つまりは税収が低い。ノスタルジア家の収入が少ないのに、これ以上メイドを雇う余力はあるのだろうか?

 優秀なメイドもいるのだし。例えばカエデとかカエデとかカエデとか。

「うーん…………、そうだね! 頑張ってみるよ、色々と教えてくれてありがとう、お兄ちゃん!」

「うん」

 少女は俺に背を向けると、すぐにカレンの方に走っていった。

 さて、カレンは忙しそうだし、盗賊に備えて辺りを探索するか。地理の把握は戦況を左右する。




 ……………………気になることもあるしな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...