断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

強行軍にて 五

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 戻ってからぼっちゃん貴族に何か嫌みを色々言われたが、聞く気もなかったので内容は分からない。

 そのまま目的地まで駆けている。胃の中が空だといざというとき動けないため、この前さばいた一角兎スティングラビットの塩漬け干肉をつまむ。塩気を強くしすぎたのが引き金となり、強烈な喉の乾きが起きたのは言うまでもない。無論、小川で掬ったきれいな水を動物の内臓で出来た水筒で飲んで解決した。

 不規則に揺さぶられる馬上で食すのはなかなか骨が折れる。そういう点で西方にいる遊牧民は尊敬できた。

 延々と続くかと思われた一本道。それがフォークのように三ツ又に分かれている。カレン達先頭は迷わず右へ。俺や騎士も主の後ろを追走する。先に行って偵察と敵がいる場合は攪乱したかったが、先ほどの失態でなかなか独断行動に移る勇気がない。さらに俺たちはその他で全く歩みを止めていないため、俺が先に行く計画が潰えた。人生とは思い通りにならないものだ。しかしそれが面白い。

 殆ど休憩してないのに全く疲れたそぶりを見せないカレンに感心する。ぼっちゃん貴族はふぅふぅ息を切らしながら、顔に浮き出た大量の汗を高級そうなハンカチで拭う。痩身ではあるが、体力がないのだろう。そんな主人だが、騎士達は一つも疲労を見せるそぶりもない熟練者揃いだった。

 景色はただの平地から畑へと変わる。汗水をたらして耕作に勤しむ農奴、もしくは独立自営農民は丸い玉の葉っぱを作っていた。ここはキャベツ畑か。規則性に基づいたキャベツの植え方は一種の模様に見えなくもない。

 だが、そんな我ら一行はここを素通りする。目的地ではなかった。

 村から遠ざかる瞬間、看板にアール村と書かれた上に、巨大な紋章エンブレムが描かれている。羽の生えた馬、つまりは天馬ペガサスが天高く飛翔する場面。どこの領有かは不明だが、都市に在住する貴族で間違いはないだろう。

 ただひたすら走るのは意外と退屈になるものだ。そよ風の心地よさも、その内飽きてくる。相変わらずクラリーチェは俺の手をなめ続けていた。

 延々に続くかに思われた旅路。

 それもようやく終わりを告げる。

 俺達は目的地の一つに到着したのだった。

 ノスタルジア家所有、リトラル村に。
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