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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌
閑話 とある詩人の創作日記 参
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そもそも仕事を紹介してくれる場がなければ仕事は来ない。
そんな当たり前の事に今さら思い出すなんて一生の不覚!
貴族の館にこれから赴こうか。
いや、初対面の人間にそうそう仕事をくれるわけないに決まってる。
父の名前を出そうか。
いやいや、それこそ恥ずかしい。
たかが写しの為にそんなことしたら、我が家の詩人一族に傷が付く!
そもそも詩と写本に一切の関連性が無い。
字がうまく書ければそれでいいのだ。
わざわざ偉大なる名前を出す必要がありはしない。
しかしどうしようか。
プライドがある以上、見知らぬ人間に聞くわけには………。
とりあえず宿の階段を降りると、なにやら懸命に本を写している若者を見つけた。
「ん?」
佇んでいると、こちらに気が付いたのか、目を向けてくる。
「おや?」
どこかで見かけたような気がする。
はて、どこだったかな。
…………もしや。
いつだかの成り上がり商人の娘と夕食を食べていた少年か!?
ローブを着ていた時は目元の部分が見えなかったが、手つきや口元、剣の鞘に体型から判断して
同一人物であると判断。
普段、詩の材料集めに観察眼を鍛えているため、それぐらいの事はすぐに分かる。
それにしてもあの写本、もしかして仕事か!?
間違いの可能性もあるか………。否! 自分を疑うのか!!? 目を覚ませ私! それでも伝説の詩人の血を引く者か!! 当たって砕けろ!!!!!
「ええと、同席してもいいかね?」
まずは印象第一。控えめに言ってみる。
「あぁ、どうぞ」
向かい側に座れと手でジェスチャーしてきた。
よし! 初めは順調!
が、座ったところで睨まれていた。
は!? なんだあの疑いのまなざしは!? 私が何をしたというのだ!
原因を探していると、一つの答えにつながった。
リバーファルコンの羽ペン。
何かで羽ペンが分からないよう隠してるが、あの若者は私に盗まれるかどうか警戒していたのだ。
ペンの先が高級品なので一目でわかった。
それよりも誤解を解かねば。
「そ、そんな怖い目つきで見ないでくれ! 私も同じのを持っているのだから心配は無用だ!」
盗る必要性がないと羽ペンを懐から取り出し、必死にアピール。
すると、
「悪い。でも客がいなくて幸いだったな。そんな堂々と出してると盗られるぞ」
警戒心を解いてくれた。
「大丈夫さ、これでも私は詩人。旅の危険は承知の上だよ」
何やら納得したようだ。
「で、用件は?」
ようやく聞いてくれる姿勢になってくれた。
しかし金が無く、追い詰められ、高ぶった気持ちのせいか、
「その写本の仕事、どこに行けば仲介してくれる!?」
声を荒くして叫んでしまった。
私ともあろうものが恥ずかしい。
対して若者は、
「あんた旅してたんだろ? 収入の確保は最重要項目だぞ」
あきれた口調で言われる。
ここで引き下がっては名折れだ。反論せねば!
「いや、私は一流の詩人だぞ? 詩で食ってく以外でどうやって金を手に入れるかなぞ知ったことか」
自身にあふれた口調で言う。詩人のプロゆえだ。
「じゃぁ、詩で食べていけばいいだろ?」
平坦な声だ。ドブネズミを見るような目で見られる。
詩だけで生きていきたいのに、帝都の住民が私の詩の良さを分からないから、苦労してるのだよ!!!!!
今すぐどこかに行きそうな雰囲気の少年。
これでは生きていく糧が無くなる!!!
「待ってくれ! 頼む! 瀬戸際なのだよ! 肉体労働は嫌だし、事務もロクにできないし! 字が人よりうまいことくらいしか詩の他で活かせないのだよっっっ!」
腰に手を回し力を最大限かけ、逃げられないようにする。
顔を少年のローブにぴったりつけてるため、彼の表情は不明だ。
あぁぁぁ、なんで大の大人たる私がこんな惨めな真似を!!
情けなくて涙が出てしまう!!!
「ちょっと待て! リバーファルコンの羽ペン持ってるだろうが! 困ってるなら売れよ!」
とうとう少年はキレた。
しかし、
「詩人に向かって最後の一本を、売れだと!? 私の詩人魂を売れと言うのか!!」
私も同じくらい頭に来た。
ペンは詩人業界では品格を表す大切な道具でもあるのだぞ!!! そもそも写本ごときにリバーファルコンの羽ペンを使うド素人が! ほとんど未使用な事など毛の荒れ様で分かるわ!!!
「分かった分かった! ベネット商会のギルドが近くにあるから、とりあえずそこに行ってくれ!」
とうとう相手は根負けした。
フン! 私の根気は誰にも負けん!
手をほどいてやる。
涙のせいで前が良く見えん。
「グスッ。礼を言おう」
鼻から出る水をすする汚い音がした。誰のだ? 私ではないと信じよう。
ベネット商会といったな。
早速だが行ってみよう。
騎士は食わねど檜匙? 下らん!
旅先で泥水をすするような屈辱的な味わいを受けても優雅に帰還する。
それが選ばれし、一流の詩人だ!!!
………。
………。
でも冷静になって見ると今回の件………。
悪いのって………。
………私………?
そんな当たり前の事に今さら思い出すなんて一生の不覚!
貴族の館にこれから赴こうか。
いや、初対面の人間にそうそう仕事をくれるわけないに決まってる。
父の名前を出そうか。
いやいや、それこそ恥ずかしい。
たかが写しの為にそんなことしたら、我が家の詩人一族に傷が付く!
そもそも詩と写本に一切の関連性が無い。
字がうまく書ければそれでいいのだ。
わざわざ偉大なる名前を出す必要がありはしない。
しかしどうしようか。
プライドがある以上、見知らぬ人間に聞くわけには………。
とりあえず宿の階段を降りると、なにやら懸命に本を写している若者を見つけた。
「ん?」
佇んでいると、こちらに気が付いたのか、目を向けてくる。
「おや?」
どこかで見かけたような気がする。
はて、どこだったかな。
…………もしや。
いつだかの成り上がり商人の娘と夕食を食べていた少年か!?
ローブを着ていた時は目元の部分が見えなかったが、手つきや口元、剣の鞘に体型から判断して
同一人物であると判断。
普段、詩の材料集めに観察眼を鍛えているため、それぐらいの事はすぐに分かる。
それにしてもあの写本、もしかして仕事か!?
間違いの可能性もあるか………。否! 自分を疑うのか!!? 目を覚ませ私! それでも伝説の詩人の血を引く者か!! 当たって砕けろ!!!!!
「ええと、同席してもいいかね?」
まずは印象第一。控えめに言ってみる。
「あぁ、どうぞ」
向かい側に座れと手でジェスチャーしてきた。
よし! 初めは順調!
が、座ったところで睨まれていた。
は!? なんだあの疑いのまなざしは!? 私が何をしたというのだ!
原因を探していると、一つの答えにつながった。
リバーファルコンの羽ペン。
何かで羽ペンが分からないよう隠してるが、あの若者は私に盗まれるかどうか警戒していたのだ。
ペンの先が高級品なので一目でわかった。
それよりも誤解を解かねば。
「そ、そんな怖い目つきで見ないでくれ! 私も同じのを持っているのだから心配は無用だ!」
盗る必要性がないと羽ペンを懐から取り出し、必死にアピール。
すると、
「悪い。でも客がいなくて幸いだったな。そんな堂々と出してると盗られるぞ」
警戒心を解いてくれた。
「大丈夫さ、これでも私は詩人。旅の危険は承知の上だよ」
何やら納得したようだ。
「で、用件は?」
ようやく聞いてくれる姿勢になってくれた。
しかし金が無く、追い詰められ、高ぶった気持ちのせいか、
「その写本の仕事、どこに行けば仲介してくれる!?」
声を荒くして叫んでしまった。
私ともあろうものが恥ずかしい。
対して若者は、
「あんた旅してたんだろ? 収入の確保は最重要項目だぞ」
あきれた口調で言われる。
ここで引き下がっては名折れだ。反論せねば!
「いや、私は一流の詩人だぞ? 詩で食ってく以外でどうやって金を手に入れるかなぞ知ったことか」
自身にあふれた口調で言う。詩人のプロゆえだ。
「じゃぁ、詩で食べていけばいいだろ?」
平坦な声だ。ドブネズミを見るような目で見られる。
詩だけで生きていきたいのに、帝都の住民が私の詩の良さを分からないから、苦労してるのだよ!!!!!
今すぐどこかに行きそうな雰囲気の少年。
これでは生きていく糧が無くなる!!!
「待ってくれ! 頼む! 瀬戸際なのだよ! 肉体労働は嫌だし、事務もロクにできないし! 字が人よりうまいことくらいしか詩の他で活かせないのだよっっっ!」
腰に手を回し力を最大限かけ、逃げられないようにする。
顔を少年のローブにぴったりつけてるため、彼の表情は不明だ。
あぁぁぁ、なんで大の大人たる私がこんな惨めな真似を!!
情けなくて涙が出てしまう!!!
「ちょっと待て! リバーファルコンの羽ペン持ってるだろうが! 困ってるなら売れよ!」
とうとう少年はキレた。
しかし、
「詩人に向かって最後の一本を、売れだと!? 私の詩人魂を売れと言うのか!!」
私も同じくらい頭に来た。
ペンは詩人業界では品格を表す大切な道具でもあるのだぞ!!! そもそも写本ごときにリバーファルコンの羽ペンを使うド素人が! ほとんど未使用な事など毛の荒れ様で分かるわ!!!
「分かった分かった! ベネット商会のギルドが近くにあるから、とりあえずそこに行ってくれ!」
とうとう相手は根負けした。
フン! 私の根気は誰にも負けん!
手をほどいてやる。
涙のせいで前が良く見えん。
「グスッ。礼を言おう」
鼻から出る水をすする汚い音がした。誰のだ? 私ではないと信じよう。
ベネット商会といったな。
早速だが行ってみよう。
騎士は食わねど檜匙? 下らん!
旅先で泥水をすするような屈辱的な味わいを受けても優雅に帰還する。
それが選ばれし、一流の詩人だ!!!
………。
………。
でも冷静になって見ると今回の件………。
悪いのって………。
………私………?
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