断罪のアベル

新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

療養生活 2

　階段を降りて、四人掛けテーブルに座る。

　いちいち上に取りに戻るのも面倒くさいし、仕事道具一式を椅子に置くためだ。

　今の時間帯は本来混むはずなのだが、人がほぼいない状態である。

　カレンと食べたときもそうだったな。格安の理由と関連してるのだろうか。

　あとでちょっと理由とやらを調べてみよう。

　ウエイトレスがたまたま通りかかったので、早速注文する。

「すみません、蒸し鶏と黒パンを！」

「かしこまりました。しばしお待ちくださいませ」

　営業スマイルと共にメモをとる。

　さて、蒸し鶏は時間がかかる料理だ。待ってる間、張り紙の転写を進めよう。

　常に持っている携帯用羽ペンとインクを机の上に置く。

　水色に輝くリバーファルコンと呼ばれるモンスターの羽を材料に作られた逸品だ。

　リバーファルコンは文字通り、体と水、空の色を表したのに加え、川でさえ羽ばたくように華麗に泳げる水空両用の肉体を持っていることに由来する。

　背丈は大人の男の半分程度。

　川辺沿いの森林に生息していることが多く、基本的に五、六羽の群れで行動する。

　雄と雌の違いは尾羽にあり、雄はギザギザした羽を、雌はフワフワした羽を生やしている。

　だが、狂暴な習性をその身に宿しており、肉食だ。

　ウサギや自分たちより小さい鳥類、リスを食べるが、森に迷い込んだ人間も襲うらしい。

　基本的に狩りは雄しかしない。

　先端が尖りに尖ったくちばしでつついたり、金属ナイフレベルの鋭利な尾羽を相手に飛ばしたり、強靭な脚力で獲物を殺す。

　その反面、血生臭いのが嫌いで、仕留めた獲物は、川でジャブジャブ洗うという矛盾的な行動を抱えている。

　丁寧に食べるため、体毛までむしり取るとか。

　なので汚い場所、死体が転がる戦場には一切近づかない。

　ようするに綺麗好きなちょっと変わった肉食モンスターなのである。

　本来ならば希少価値が高く羽すらそうそう手に入らないが、以前滞在していた町の宿で行商人と賭けをし、勝って入手したものだ。

　売れば十万ウォルスはくだらないらしいが、気に入ったので使い続ける事にした。

　一流作家や名の残る詩人が愛用したとされる羽ペンを使えるのはとても嬉しい。

　書くことが本業じゃないから宝の持ち腐れなんだろうが……。

　盗まれる危険性もあるので、羽の部分にペンをしまう木製のケースの半分をつけたまま使用する。

　それから幾ばくかの時間が経ち、十枚の転写すべてを終えた瞬間、

「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ」

　ウエイトレスの一声と共に、待望の料理が届けられた。