断罪のアベル

都沢むくどり

文字の大きさ
上 下
181 / 190
満月の章 ダリアの黙示録

Stigma/権能羽化 5

しおりを挟む
「…………………………ん?」

 目を開けると、そこは白い空間だった。

 白夜の箱庭エリド

 自称管理人ノアがいる不思議な世界。

 俺は妙に現実味を帯びた夢だと定義している。

 そんな世界に、本来俺とノア以外いないはずの人物が、焦点の合わない生気の消えた瞳を虚空に漂わせながら沈黙していた。

「カレン?」

 返事はない。

「昼間の事はここと関連があったと捉えるしかないな」

 なおも返事はない。

 認識していないのか、はたまた俺の夢の中の産物か。

「………………………」

 変化が無さそうに見えたが、カレンの周辺に突如として蜃気楼が漂う。

「……………………………ううっっ」

 それと並行して俯いていたカレンが呻き始めた。

 ガタガタと震え始める肉体。

 痛みに耐えかねるように伸びる華奢な腕。

 その手が触れた部分に、白く、精巧な紋様をした刻印が浮かびあがる。

 その刻印を繋ぐように、白い線が首に巻き付くように出現した。

「………………………あれはやはり、罪の能力か?」

 まるで束縛するように出現した刻印。

 そのまばゆい光が輝きを増すほど、カレンが苦しみだす。

 そして、

「うっっ…………………あああっっっっ、ッゥ!!!」

 その苦しみから逃れるように、痛みそのものをちぎり取るように、刻印に手を当てて、引き抜いた。

 厳密に言えば、刻印から何かが引っ張り出された。

 抜きたては半液状だった物質が、理に従うように形を整える。

 螺旋状に形作られた、されどその形状は直線。

 ノアが握っていた大理石の様な白い剣とは違い、ガラスのような透明さを持つ槍が、カレンの喉にある刻印から腕によって抜き取られた。

「……………………………」

 槍を抜いたカレンが、片膝をひざまずかせながら、荒い呼吸を繰り返している。

 その瞳には先ほどと同じく何も映らず、ただ下を向いていた。

「………………………ワタ……………シ……………………は」

 そんな中、心のこもらない声がカレンの口から紡がれる。

「ワタシ………………………が守……………らないと」

 突如向けられた空虚な瞳。

 俺に視線を向けたそれは、

「全ての罪から…………………皆を……………………」

 何かに操られたように、

「いいえ………………………………」

 俺を捉える。

「全ての罪を……………………消滅…………させないと…………………………」

「…………………ッ! 『鮮血を喰らいし、断罪なる鎌よ!』」

 左手の甲に浮かび上がる刻印、それが赤く輝くと同時に真紅の液体が流れ落ちる。

 迫りくるカレン。

「『盟約に従いッ……………我に力を!!』」

 鉄臭い血をぼたぼたと流しながらも虚空に手を伸ばし、引き抜いた。

 肉を整え、棒状にしたような見た目の柄。

 赤黒く輝く三日月型の巨大な刃。

 ‘’鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌‘’

 その等身大にも匹敵する武器を居合の要領でこちらを突こうとするカレンの槍に振るう。

 鎌で槍を引っ掛け、近づいた足を払う。

 それで転ばせた後に、槍を奪う算段であったが、

「…………………………………………」

 足を払われたカレンは引っ掛けられた槍を巧みに使い、地面に柄の部分で立てたと同時に体を後転させた。

 槍に力を込めた腕は、獲物を離すことなく、持ち主を後ろへと移動させ、着地に導く。

「………………………………見つけた、罪……………………」

 抑揚の無い声。

 今のカレンは何かに操られたようにフラフラと立ち上がる。



「まさか、こうなるとは私も予想しませんでした」



 いつの間にか隣にノアが現れる。

「どういうことだこれは!?」

「それは御本人に聞いて見たほうが良いのでは?」

 指を差した先にいるカレンはノアの方をじーっと見つめていた。

 抜け殻のような瞳で。

🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕

※大分遅れて申し訳ございません。

 カレンの事についていくつかネタを考えていてる時間、平日が忙しかったので隙間で作れなかった事、etc。

 設定として公表しますが、罪の能力は発動者の体に刻印を浮かべます。

 特に発動者の感情(過去の出来事のトラウマ等)や罪の名前と関連して決められます。

 まだ公表されていませんが、パンドラの刻印がある場所はわかる人はもうお気づきではないでしょうか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...