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満月の章 ダリアの黙示録
??? 冷眠
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(行かないで……………………)
少女はうなされていた。
(嫌………………………兄さん……………)
静かな月明かりに照らされた悲しい表情が、暗い一室と対比されてより一層強調される。
(兄さん……………………待って………………………)
左右にゆっくりと頭が動くと、綺麗な銀髪の毛が擦れる音を出す。
(寒い……………………………)
うなされている原因。
(寒いの……………兄さん)
それは遠い過去の夢。
少女は兄の手を握っていた。
離れたくないと、小さな手で懸命に。
だが、やがて終わりは訪れる。
兄が歩きだしたからだ。
『兄さん……兄さん…ッ!』
嗚咽混じりながら、明確に、何度も兄を呼び続けた。
自然と離れてしまった手を追い、そばまで走ろうとする。
しかし、
『すぐに戻って来るさ』
陽光を背景に振り向いた兄が、表情に影を作りながら残酷な一言を放つ。
伸ばした華奢な腕が、目当ての物の前で止まった。
その言葉を聞いた少女は思う。
優しすぎる嘘だと。
彼の瞳は既に諦めたかの様に暗くなっており、それでもなるべく心配をかけまいと努めるその姿に、少女は絶望する。
このままではもう会えないかも知れない、と。
『待って…………………………待って……………………』
自力では立てなくなり、生まれたての子鹿のように震えていた足が崩れ落ちる。
離れていく兄を目で追い続けながら、少女は思った。
『こんなの夢……………………だよね?』
ありえない。
『ソフィーと兄さんが引き離されるなんて、ソフィーは信じない』
少女を中心に冷気が地面を凍らせていく。
『兄さん……………………………………………』
赤い瞳は虚ろになり、流していた涙が枯れる。
『兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん………………………………』
うわ言を繰り返す。
そして、現実から目を背けるように、もう姿が見えなくなった兄を思いながら、
『ニ……イ…………サ………………………ン…………………』
少女は気を失った。
「……………………………」
蕾が花開くように、瞼が開く。
「……………………………」
何度も見た夢。
いや、過去の記憶。
「……………………………」
寝具を見てみると、冷たい結晶が少女を取り巻くようにシーツから生えていた。
氷だ。
それを触ると、
「冷たい…………………」
とだけ呟いた。
やがて、氷をいじるのも飽きたのか、月の明かりに誘われる。
その月に照らされた少女の顔は、どこかに消えそうな儚げなものだった。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※追憶の欠片Ⅰの別視点を軽く書きました。
少女はうなされていた。
(嫌………………………兄さん……………)
静かな月明かりに照らされた悲しい表情が、暗い一室と対比されてより一層強調される。
(兄さん……………………待って………………………)
左右にゆっくりと頭が動くと、綺麗な銀髪の毛が擦れる音を出す。
(寒い……………………………)
うなされている原因。
(寒いの……………兄さん)
それは遠い過去の夢。
少女は兄の手を握っていた。
離れたくないと、小さな手で懸命に。
だが、やがて終わりは訪れる。
兄が歩きだしたからだ。
『兄さん……兄さん…ッ!』
嗚咽混じりながら、明確に、何度も兄を呼び続けた。
自然と離れてしまった手を追い、そばまで走ろうとする。
しかし、
『すぐに戻って来るさ』
陽光を背景に振り向いた兄が、表情に影を作りながら残酷な一言を放つ。
伸ばした華奢な腕が、目当ての物の前で止まった。
その言葉を聞いた少女は思う。
優しすぎる嘘だと。
彼の瞳は既に諦めたかの様に暗くなっており、それでもなるべく心配をかけまいと努めるその姿に、少女は絶望する。
このままではもう会えないかも知れない、と。
『待って…………………………待って……………………』
自力では立てなくなり、生まれたての子鹿のように震えていた足が崩れ落ちる。
離れていく兄を目で追い続けながら、少女は思った。
『こんなの夢……………………だよね?』
ありえない。
『ソフィーと兄さんが引き離されるなんて、ソフィーは信じない』
少女を中心に冷気が地面を凍らせていく。
『兄さん……………………………………………』
赤い瞳は虚ろになり、流していた涙が枯れる。
『兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん………………………………』
うわ言を繰り返す。
そして、現実から目を背けるように、もう姿が見えなくなった兄を思いながら、
『ニ……イ…………サ………………………ン…………………』
少女は気を失った。
「……………………………」
蕾が花開くように、瞼が開く。
「……………………………」
何度も見た夢。
いや、過去の記憶。
「……………………………」
寝具を見てみると、冷たい結晶が少女を取り巻くようにシーツから生えていた。
氷だ。
それを触ると、
「冷たい…………………」
とだけ呟いた。
やがて、氷をいじるのも飽きたのか、月の明かりに誘われる。
その月に照らされた少女の顔は、どこかに消えそうな儚げなものだった。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※追憶の欠片Ⅰの別視点を軽く書きました。
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