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上弦の章 帝国内乱
ダリアこそが世界を照らすの♪ 3
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「『散った者の血を代償に発動せよ、贄血ノ治癒』!」
折れた足首は膨れ上がり、完全に元へ戻る。
軽く曲げたりしてみたが、後遺症は当然だが無かった。
「それじゃあいくよ♪ カインッッッッッ♪」
速い、速すぎる。
俺の目が照準を合わせる前に死角に潜り込むパンドラ。
「ほらほらぁぁっっっ♪」
鎌同士が鍔迫り合い、俺の方が押されていく。
「チッ…………」
どっちにしろ押し込まれる俺は逆に体勢を引いてパンドラの重心を崩す。
「ありゃ♪」
空かさず短剣を取り出し、膝に投げた。
「あん♪ 痛いよぉカイン♪」
血がボタボタと流れ落ちる。
痛いと言いつつ顔は笑顔だった。
「わざと隙を作ったんだろ」
この余裕、体術の洗練さ。
あの程度で崩れることなどないはず。
「だったらどうする♪」
俺は即座に距離を取ると、パンドラの鎌が今までいた場所に突き刺さった。
「遊びなんだから君がそんなどうでもいいこと気にしなくていいのに♪」
鎌を引き抜き、傷を負った箇所に手を当てると、その手を舌で舐めた。
「あぁ♪ 鉄臭い血の味、匂い♪ これがあると生きてる実感が湧いてくるよぉぉ♪」
パンドラは身悶える。
「狂人め…………」
「そういう君も同種だよ、カイン♪」
「…………」
こいつと同種だと。
そう見えるのか、俺は。
「みんな、みーんな♪ 色々あるんだよ♪ アタシも、君も♪ ね♪ それが個性だよ♪」
迫り来るパンドラ。
「『戦場で散った者の血を代償に発動せよ、分血ノ尖兵!』」
目と手の紋様、鎌からドロドロとした血が地面に広がる。
それらは、俺のとなりに新たな存在を作り出した。
外から見れば全く同じ存在。
血で作り出された、俺の分身だ。
眷属と似ていて眷属でない。
視角も、聴覚も、嗅覚も感じることができる。
魔術で言うガルディアの応用に近いかもしれない。
「ふぅん♪ まぁこの状況じゃ憑血ノ魔犬は使えないもんね♪」
その言葉に対して、二つの鎌が彼女を襲う。
俺は彼女の足を、分身は首を切り落とそうと狙った。
「こうなるとどっちが本物かわからないくらいの正確な動きだよね♪ まぁ、その場で使ったから本体はこっちだけどさぁ♪」
分身の鎌にパンドラは鎌を引っ掛け、その要領で回転蹴りをすると、加速しながら殴りかかる。
「そうなるよな」
俺は呟き、わざと顔を殴られた。
「あれ?」
パンドラは不審に思ったのか、歌うような口調ではなくなる。
近づいてくる彼女に、俺はその小さな体を抱き締めた。
そして、
「…………ッガァッ!?」
パンドラは痛みで顔を歪める。
「き……み………………? 一体…………何を………………………アグッッ!」
俺から離れ、仰向けに倒れる。
「ケンザンって言うらしいな、これ」
俺は胸元からそれを取り出した。
見た目はただの鉄板に生えた針山。
「本当はイケバナって言うアズマの方で花を飾るための作法の道具らしいけどな、物は試しってことで使ってみたんだ」
カレンがカエデさんにイケバナを教わっているのを見て、花では無くケンザンに興味を持った俺。
ちょうど何個か予備があったらしく、カレンに頼んで貸して貰った代物だ。
鉄板部分を右胸に固定してローブを羽織ったお陰で、見ただけではそれがなにか判断できない。
抱き締めると、針山の部分が相手の心臓に突き刺さる算段だ。
「こんなに苦しそうにするなら、これからは使うのを止めよう。人が苦しむ姿を見ても楽しくないからな」
「……………………ゥッッ」
這い回るパンドラ。
「最後までカインがなんなのか不明だし、お前が俺の存在を知っているのが恐ろしいと感じたけど、俺は…………俺達はこれからやらないといけないことがある。遊びって油断してくれてありがとうな」
分身がパンドラの首に鎌を掛ける。
正直、ソフィーと似ているだけで俺はあまり彼女を傷つけたくないと少しだけ思ってしまった。
「まだ……………………」
「ん?」
「まだ終わってないよぉっっ! カイン!!」
「!?」
分身が吹き飛ばされ、消滅した。
「ハァ………ハァ……………君を連れ戻さないといけないんだよ………………それが例え、死体にしてでもねぇぇぇぇぇ!」
タガが外れた獣。
まさにそれだった。
「使えるものは何でも使う。やっぱりその考え方はあの頃と同じだよ……………………」
目を血走らせるその姿は見るに堪えない。
「もう眠れ」
「カインならともかく、アベル君はアタシの本当の力を見てないんだったね」
パンドラは手を前に組む。
「そんな状態で何をする気だ? お前の鎌はもう消えたんだ」
「あれは、君の能力の劣化させたものだよ。技法も使えない。でも、特殊な力を使えるのは君の特権じゃないんだよ…………」
『アベル!? 今すぐそこから離れてください!!』
えっ?
一瞬だけ、ノアの声が聞こえた。
姿は見えない。
「『遺骸ヲ冒涜セシ大罪ノ棺よ…………』」
薄暗く輝く丸い物体がパンドラの周りを舞う。
それだけでなく、それらは人の断末魔、悲鳴のような甲高い音を出し続けていた。
「お前、まさかっ!?」
「『儚い命の灯火を使い………………』」
身の危険を感じて、ノアの忠告通りその場を後退する。
「『業を背負った者の為……………………』」
パンドラの背中に巨大な箱形の何かが出現する。
「『盟約に従い、アタシに力をっっっ!!』」
小さい体が自然の理を無視して浮いた。
そっと彼女は舞い降りる。
背負っていたのは女性が心臓を抜き取られている絵が描かれている巨大な棺桶だった。
叫び声がそれから聞こえる。
「残念だよ……………………鎌の能力を使いすぎるか時間が経てば意識を乗っ取られて、もしかしたらカインに戻るかもって期待したアタシが馬鹿だった……………………」
「さっき死んでって言ってたよな?」
「遊びで言っただけだよ…………」
光る球体を握り潰すと、淡い輝きを散らした。
「カインと約束したんだ…………………生まれだけで何もかも決められる歪んだこの国を終わらせようって…………………………」
先程まで爛々と輝いていた瞳は死んだ魚の目のように濁りきっている。
「アタシはヴァルトが…………ベルギウスが許せない…………。アタシ自身が身を持ってヴァルトの汚い所業を味わった………君が受けなかったいろんな事を……………………」
俺を見つめず虚空を見続けるパンドラ。
「罪には罰を…………腐敗には浄化を………」
俺は鎌を再度握る。
「アハッ……………………アタシの復讐には君がどうしても必要なんだ、カイン……………でも、いつまでも戻らないなら………………」
パンドラは叫び狂う。
「蘇らせてあげるから……死んで!!!!!」
パンドラの匣が今、開かれた。
「ダリアこそが……世界を照らすのっ!!!」
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
※ケンザンの威力を心臓に受けても立ち上がるパンドラ。そして、ヴァルト家への憎悪。もしかして…………?
折れた足首は膨れ上がり、完全に元へ戻る。
軽く曲げたりしてみたが、後遺症は当然だが無かった。
「それじゃあいくよ♪ カインッッッッッ♪」
速い、速すぎる。
俺の目が照準を合わせる前に死角に潜り込むパンドラ。
「ほらほらぁぁっっっ♪」
鎌同士が鍔迫り合い、俺の方が押されていく。
「チッ…………」
どっちにしろ押し込まれる俺は逆に体勢を引いてパンドラの重心を崩す。
「ありゃ♪」
空かさず短剣を取り出し、膝に投げた。
「あん♪ 痛いよぉカイン♪」
血がボタボタと流れ落ちる。
痛いと言いつつ顔は笑顔だった。
「わざと隙を作ったんだろ」
この余裕、体術の洗練さ。
あの程度で崩れることなどないはず。
「だったらどうする♪」
俺は即座に距離を取ると、パンドラの鎌が今までいた場所に突き刺さった。
「遊びなんだから君がそんなどうでもいいこと気にしなくていいのに♪」
鎌を引き抜き、傷を負った箇所に手を当てると、その手を舌で舐めた。
「あぁ♪ 鉄臭い血の味、匂い♪ これがあると生きてる実感が湧いてくるよぉぉ♪」
パンドラは身悶える。
「狂人め…………」
「そういう君も同種だよ、カイン♪」
「…………」
こいつと同種だと。
そう見えるのか、俺は。
「みんな、みーんな♪ 色々あるんだよ♪ アタシも、君も♪ ね♪ それが個性だよ♪」
迫り来るパンドラ。
「『戦場で散った者の血を代償に発動せよ、分血ノ尖兵!』」
目と手の紋様、鎌からドロドロとした血が地面に広がる。
それらは、俺のとなりに新たな存在を作り出した。
外から見れば全く同じ存在。
血で作り出された、俺の分身だ。
眷属と似ていて眷属でない。
視角も、聴覚も、嗅覚も感じることができる。
魔術で言うガルディアの応用に近いかもしれない。
「ふぅん♪ まぁこの状況じゃ憑血ノ魔犬は使えないもんね♪」
その言葉に対して、二つの鎌が彼女を襲う。
俺は彼女の足を、分身は首を切り落とそうと狙った。
「こうなるとどっちが本物かわからないくらいの正確な動きだよね♪ まぁ、その場で使ったから本体はこっちだけどさぁ♪」
分身の鎌にパンドラは鎌を引っ掛け、その要領で回転蹴りをすると、加速しながら殴りかかる。
「そうなるよな」
俺は呟き、わざと顔を殴られた。
「あれ?」
パンドラは不審に思ったのか、歌うような口調ではなくなる。
近づいてくる彼女に、俺はその小さな体を抱き締めた。
そして、
「…………ッガァッ!?」
パンドラは痛みで顔を歪める。
「き……み………………? 一体…………何を………………………アグッッ!」
俺から離れ、仰向けに倒れる。
「ケンザンって言うらしいな、これ」
俺は胸元からそれを取り出した。
見た目はただの鉄板に生えた針山。
「本当はイケバナって言うアズマの方で花を飾るための作法の道具らしいけどな、物は試しってことで使ってみたんだ」
カレンがカエデさんにイケバナを教わっているのを見て、花では無くケンザンに興味を持った俺。
ちょうど何個か予備があったらしく、カレンに頼んで貸して貰った代物だ。
鉄板部分を右胸に固定してローブを羽織ったお陰で、見ただけではそれがなにか判断できない。
抱き締めると、針山の部分が相手の心臓に突き刺さる算段だ。
「こんなに苦しそうにするなら、これからは使うのを止めよう。人が苦しむ姿を見ても楽しくないからな」
「……………………ゥッッ」
這い回るパンドラ。
「最後までカインがなんなのか不明だし、お前が俺の存在を知っているのが恐ろしいと感じたけど、俺は…………俺達はこれからやらないといけないことがある。遊びって油断してくれてありがとうな」
分身がパンドラの首に鎌を掛ける。
正直、ソフィーと似ているだけで俺はあまり彼女を傷つけたくないと少しだけ思ってしまった。
「まだ……………………」
「ん?」
「まだ終わってないよぉっっ! カイン!!」
「!?」
分身が吹き飛ばされ、消滅した。
「ハァ………ハァ……………君を連れ戻さないといけないんだよ………………それが例え、死体にしてでもねぇぇぇぇぇ!」
タガが外れた獣。
まさにそれだった。
「使えるものは何でも使う。やっぱりその考え方はあの頃と同じだよ……………………」
目を血走らせるその姿は見るに堪えない。
「もう眠れ」
「カインならともかく、アベル君はアタシの本当の力を見てないんだったね」
パンドラは手を前に組む。
「そんな状態で何をする気だ? お前の鎌はもう消えたんだ」
「あれは、君の能力の劣化させたものだよ。技法も使えない。でも、特殊な力を使えるのは君の特権じゃないんだよ…………」
『アベル!? 今すぐそこから離れてください!!』
えっ?
一瞬だけ、ノアの声が聞こえた。
姿は見えない。
「『遺骸ヲ冒涜セシ大罪ノ棺よ…………』」
薄暗く輝く丸い物体がパンドラの周りを舞う。
それだけでなく、それらは人の断末魔、悲鳴のような甲高い音を出し続けていた。
「お前、まさかっ!?」
「『儚い命の灯火を使い………………』」
身の危険を感じて、ノアの忠告通りその場を後退する。
「『業を背負った者の為……………………』」
パンドラの背中に巨大な箱形の何かが出現する。
「『盟約に従い、アタシに力をっっっ!!』」
小さい体が自然の理を無視して浮いた。
そっと彼女は舞い降りる。
背負っていたのは女性が心臓を抜き取られている絵が描かれている巨大な棺桶だった。
叫び声がそれから聞こえる。
「残念だよ……………………鎌の能力を使いすぎるか時間が経てば意識を乗っ取られて、もしかしたらカインに戻るかもって期待したアタシが馬鹿だった……………………」
「さっき死んでって言ってたよな?」
「遊びで言っただけだよ…………」
光る球体を握り潰すと、淡い輝きを散らした。
「カインと約束したんだ…………………生まれだけで何もかも決められる歪んだこの国を終わらせようって…………………………」
先程まで爛々と輝いていた瞳は死んだ魚の目のように濁りきっている。
「アタシはヴァルトが…………ベルギウスが許せない…………。アタシ自身が身を持ってヴァルトの汚い所業を味わった………君が受けなかったいろんな事を……………………」
俺を見つめず虚空を見続けるパンドラ。
「罪には罰を…………腐敗には浄化を………」
俺は鎌を再度握る。
「アハッ……………………アタシの復讐には君がどうしても必要なんだ、カイン……………でも、いつまでも戻らないなら………………」
パンドラは叫び狂う。
「蘇らせてあげるから……死んで!!!!!」
パンドラの匣が今、開かれた。
「ダリアこそが……世界を照らすのっ!!!」
🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓
※ケンザンの威力を心臓に受けても立ち上がるパンドラ。そして、ヴァルト家への憎悪。もしかして…………?
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