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二 小人の国 巨人
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はしゃぐようなアカリの声に急かされ、慌てて隣に立ってみれば、ぼくの眼下には、思わずため息が出てしまうほどの、神秘的な世界が広がっていた。
キラキラと光る木々、おかしな形に咲いた花、あべこべに伸びている水路。薄紫色をした透きとおるような湖も、どこか大人な感じで、違う意味でもぼくをドキドキとさせてくれる。だけれど、その光景で何よりも特徴的なのは、整然と無数に建てられた、ミニチュアみたいに小さな家のほうだろう。
「ほん……とうに、あったんだ」
ぼくは口をあんぐりと開けたまま、呆けたように独り言ちた。その横で、アカリもうっとりとした表情のまま、しきりに「キレイ」とつぶやいている。それに対して、ぼくもなんて答えたらいいのかわからなくて、また、声に出して気持ちを表せば表すほどに、なんだかそれが嘘になってしまう気がして、オウム返しのように、アカリと同じ言葉をくり返し発していた。
だが、やがてはアカリが思いついたように、目を輝かせながらぼくの顔をのぞきこんだ。ち、近い……恥ずかしいよ。
「ねえ、降りてみようよ!」
「うぇええ?」
思わず自分でも不思議なくらいに、すっとんきょうな声が出てきた。
「いいじゃん! 大丈夫だよ。まず、あたしが降りてみせるから。クライは、そのあとからついてきて!」
言うより早く、もうアカリは走っていた。次第に小さくなっていく背中を眺めながら、ぼくは絵本のことをぼんやり思い出していた。
本で見た二人の子供は、小人と仲良くなって、それから彼らの頼みごとを聞いた。そうして最後には、子供たちはお礼として、お返しにたくさんの贈り物をもらうんだ。
ぼくたちもそんなふうになれるのかな? なれたらいいな……。ううん、きっと、なれるさ! だって、ぼくの隣にはアカリがいるんだから。
ぼくはアカリの後ろ姿が、完全に見えなくなってしまう前に、大慌てで急斜面を降りた。アカリみたいには走れないので、すぐに尻もちをつく。
その状態のまま、ぼくは転がるようにして崖をくだった。なんだか、でこぼこな滑り台で遊んでいるみたいだった。
「あぅうぁあぅうぁあぅうぁ」
お尻がすっごくひりひりする。
ようやくのことで、地下の世界についたぼくたったが、肝心の興味は、小人がいるかどうかということよりも、自分のお尻にあった。どうなっているのか見ようとして、うんうんと唸りながら首をひねっていたら、アカリに大笑いされた。……とても恥ずかしいところを目撃されてしまった。
ぼくの代わりに、怪我の状態を確認しようとしてくるアカリを、どうにか押しとどめ、すぐに小人を探してまわる。
いないのではないか?
そんな心配は無用だった。彼らのほうが、ぼくらの前に姿を現したからだ。
ぼくらはまだ幼かった。だから、絵本の物語を本気で信じた。それ自体は悪くない。ただ、お話との違いがあるとすれば、小人はぼくらにやさしくなかった。
キラキラと光る木々、おかしな形に咲いた花、あべこべに伸びている水路。薄紫色をした透きとおるような湖も、どこか大人な感じで、違う意味でもぼくをドキドキとさせてくれる。だけれど、その光景で何よりも特徴的なのは、整然と無数に建てられた、ミニチュアみたいに小さな家のほうだろう。
「ほん……とうに、あったんだ」
ぼくは口をあんぐりと開けたまま、呆けたように独り言ちた。その横で、アカリもうっとりとした表情のまま、しきりに「キレイ」とつぶやいている。それに対して、ぼくもなんて答えたらいいのかわからなくて、また、声に出して気持ちを表せば表すほどに、なんだかそれが嘘になってしまう気がして、オウム返しのように、アカリと同じ言葉をくり返し発していた。
だが、やがてはアカリが思いついたように、目を輝かせながらぼくの顔をのぞきこんだ。ち、近い……恥ずかしいよ。
「ねえ、降りてみようよ!」
「うぇええ?」
思わず自分でも不思議なくらいに、すっとんきょうな声が出てきた。
「いいじゃん! 大丈夫だよ。まず、あたしが降りてみせるから。クライは、そのあとからついてきて!」
言うより早く、もうアカリは走っていた。次第に小さくなっていく背中を眺めながら、ぼくは絵本のことをぼんやり思い出していた。
本で見た二人の子供は、小人と仲良くなって、それから彼らの頼みごとを聞いた。そうして最後には、子供たちはお礼として、お返しにたくさんの贈り物をもらうんだ。
ぼくたちもそんなふうになれるのかな? なれたらいいな……。ううん、きっと、なれるさ! だって、ぼくの隣にはアカリがいるんだから。
ぼくはアカリの後ろ姿が、完全に見えなくなってしまう前に、大慌てで急斜面を降りた。アカリみたいには走れないので、すぐに尻もちをつく。
その状態のまま、ぼくは転がるようにして崖をくだった。なんだか、でこぼこな滑り台で遊んでいるみたいだった。
「あぅうぁあぅうぁあぅうぁ」
お尻がすっごくひりひりする。
ようやくのことで、地下の世界についたぼくたったが、肝心の興味は、小人がいるかどうかということよりも、自分のお尻にあった。どうなっているのか見ようとして、うんうんと唸りながら首をひねっていたら、アカリに大笑いされた。……とても恥ずかしいところを目撃されてしまった。
ぼくの代わりに、怪我の状態を確認しようとしてくるアカリを、どうにか押しとどめ、すぐに小人を探してまわる。
いないのではないか?
そんな心配は無用だった。彼らのほうが、ぼくらの前に姿を現したからだ。
ぼくらはまだ幼かった。だから、絵本の物語を本気で信じた。それ自体は悪くない。ただ、お話との違いがあるとすれば、小人はぼくらにやさしくなかった。
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