Irregular

neko-aroma(ねこ)

文字の大きさ
上 下
38 / 43

Irregular 38

しおりを挟む
「人ってさ、生きている間ずっと何らかの初体験を繰り返して・・・それが経験になるだろ?間違いでさえも、起きてみなけりゃそれが間違いだったって分からない。野球がそうだからな。ミスしないと上達出来ないんだよ。でもまた別のミスをする。その時の為に予防策や予備策を常に幾つか用意するようになるんだ。つまり・・・答えは一つじゃないし、白黒つけられないって事。」
「Nさんは、僕が間違いを起こした時にどうするか・・・方法を幾つか考えているって事なの?」
「・・・誰でも、その時が来てみなけりゃ実際どうなるかは分からない。結局・・・自分が一番傷付かなくて済む方法を選ぶものだよ。」
Sは顔を上げ、Nを見下ろした。思いのほか哀しい目をしているNに唇を噛んだ。
「僕はNさんを傷付けないよ・・・」
「うん。俺も傷付けないようにする。でも先の事は誰にも分からないんだ・・・そろそろ寝ないと始発に乗り遅れるぞ?」
「遅くまで待ってて貰ってごめんなさい。Nさん、どうしてもありがとうって伝えたかったんだ。明日の準備してシャワーするね。」
「明日、終わりそうな時間に連絡してこいよ。迎えに行くから。」
「うん。ありがとう。おやすみなさい。」
Sは身体を離す前にNの唇にプッシングキスだけして、寝室の灯りを消した。
壁掛け時計に目をやれば丁度0時を過ぎたところだ。
これから準備をして入浴を済ませ4時半の始発までに半端な待機時間がある。
一度横になってしまえばこの間に寝過ごしてしまうのは想定内で、かと言って今日一日の疲労が募り特に目を酷使するような時間つぶしは避けたかった。
Sは先程のNとの会話を何度も脳内でリピートさせていた。
同じ男性であること、その性(サガ)、恋人としての心配などを精一杯隠した上で言葉を選びながら言ったのがよく分かっている。
実際、この頃のKの対応を振り返れば、以前のように単なる先生と生徒の関係をとうに飛び越えている。関係のボーダーラインにKがじわじわと踏み入れて来るのを、見ない振りで許しているのは他ならぬS自身だ。
だが、Kのその目的が分からない。自分がそれら全てを許している理由も分らない。
例えば・・・モデルをする名目で一日中共に過ごす間、そのラインを軽々と飛び越えて捕まえられてしまう予想も無くは無い。その恐れよりも興味が勝っている。だからこそ、このタイトなスケジュールの中、わざわざKに会いに行くのだ。
その浅ましい下心など、とっくにNには見抜かれている。だからこそ、一見無関係にも思える一般論を語ったりしているのだろう。
「男なら、仕方ない事もある」予め逃げ道を用意してくれるパートナーなど、聞いた事も無い。それ程までに深く愛されていると知りながら、Sは好奇心を止められずにいるのだ。
Nに恋愛とは何か、欲望とは何かを教わるまでは、他人に対して”好奇心”など持った事が無い。
Kを知ったからと言って、その先にあるものは何だろう。
自分にはNという掛け替えの無い恋人が居る。では、SにとってのKは一体何なのか。
恋人になどなり得ない。友人と言うのも微妙に当てはまらない。師弟関係と呼べる程、Sは師事をしていない。
「どうなりたい・・・が、無いんだ。」
Sは間接照明だけのリビングでぽつりと呟いた。
ふと壁掛け時計に目をやればもうすぐ2時になるところだ。
次第に眠気も増してきている。このままソファーに背を預けたら間違いなく眠ってしまう。そう思いながらも瞼が重くなり掛けている。
Sは慌ててスマホのアラームを3時半から10分刻みで4時までセットした。
ふいにガチャっと寝室のドアが開く音がして、驚いてそちらに顔を向けると欠伸をしながらのっそりとNが出て来た。
「どうしたの?僕、うるさかったかな?起こしちゃった?」
「いいや。トイレと・・・水飲もうかなってさ。」
用を済ませたNは、テーブルの上の常温のペットボトルの水を一気飲みしてからソファーに腰を下ろした。
「明日・・・今日も仕事なのに、ごめんね。僕ががさがさしてるから、寝付けないんでしょ?」
「別にがさがさしてないから、大丈夫。S、こっちにおいで。」
Nが自分の膝をとんとんと叩いて、床に座っていたSに微笑んだ。
Sは立ち上がり、Nの首に両手を絡ませて膝の上に横向きに座った。
「明日は練習が無いから・・・」
「だったら余計に早く寝ないと。就業中に居眠りなんかしたら大変・・・」
「S、出発時間のアラームはセットした?」
「うん。あと・・・2時間後。」
「じゃあ、起きれるようにこのままうたた寝しよう。」
「Nさんが付き合ってくれなくていいよ?ちゃんとベッドで寝て?」
そう言ったのに、Nの手がするりとSの服の下に滑り込み、親指で胸の突起を何度も撫で始めた。
「そんな・・・んっ・・・やだっ・・・ちゃんと寝てよ・・・・」
SはNの頬に頬をすり寄せて、首に強く抱き縋っていた。
「Sを見送ったら寝直す。寝坊もしない。だから・・・マーキングさせてくれ。」
「え?」
「Sは俺の者だって・・・マーキング。」
「ダメだよ・・・準備してない・・・」
「挿れないよ。舐めるだけ。」
NはそのままソファーにSを押し倒し、敢えて服は全部脱がさずに捲り上げ、履いていたズボンも下着ごと太もも辺りまで擦り下ろした。
Sの両手をひとまとめにして片手で掴み激しく接吻けを与えた後、胸を舐めまわしながらもう片手で半勃ちになっているSのペニスをゆっくりと扱いた。
「やっ・・・僕ばっかり・・・やだよ・・・」
「じゃあ、俺にもマーキングして?」
Sが頷くと両手は自由を取り戻せた。接吻けをしながら二人共に下半身だけ裸になり、今度はNがソファーに寝そべった上にSは逆向きにNの身体の上に乗った。
SがNの片手に納まりきれない程の猛りに唇を被せれば、既に溢れ出ていた滴で微かな苦みが口腔に広がった。
「んっ!どうして・・・・」
Sが振り返ったのは、挿入はしないと言ったのにNがSの双丘を押し広げ、そこに顔を埋めていたからだ。
「入れないよ。後で前もたっぷりマーキングするから・・・」
「あっ・・・やめっ・・・ダメだよ・・・・」
Nの舌から逃げようとSは身悶えして腰を左右に振ってみたが、力強い両手に臀部を掴まれてびくともしない。
諦めて、Nに火を付けられた身体の奥底で燻り始めた熾火を払拭しようと、Sは夢中になって喉奥目掛けては嘔吐きながらもNの猛りを深くストロークを繰り返した。
すぐに熱い迸りがSの口腔と喉奥目掛けて駆け抜けて行った。それを、一滴残さずにSは飲み込んだ。
「S・・・こっちを向いて。」
粗い息遣いで言うNに従って口元を拭いながらSがNに跨ったまま、体勢を変えた。
Nは枕を二つ重ねて首が直立する程にした。
「おいで。」
Sの片手を掴んでそっと引っ張り、Sのまだ固く勃ち上がったままのペニスが唇に届くまで身体を引き寄せた。
たった今嘔吐いた拍子に泣いたのであろうSの目の際が赤く染まっていて、疲労と眠気とが入り混じった蕩けるような眼差しで見下ろされ、Nはすぐに固さを取り戻していた。
Sの先走りが溢れている先端に唇を触れた時、Sは眉を潜めた。
「どうした?」
「・・・あんなに・・・されたら・・・欲しくなっちゃう・・・今は、ダメなのに・・・」
消え入りそうな声で呟くSの腰に両手を掛け、NはぐいっとSを引き寄せて口腔に猛りを治めた。
「んっ・・・」
Sがもどかしそうに漏らした声にNは薄笑みを浮かべるとSの両手を掴んで自分の髪を掴ませた。
「腰、振って。」
口に含んだまま囁くNにSは何度も首を振ってはみたものの、勝手に動いてしまう腰の動きを止められ無かった。
「やだっ・・・こんなの・・・・」
そう呟いたもののNの髪を握る手に力が入り、Nはその痛みに眉を潜めたが首を持ち上げてより深くSを吸い込んだ。
「ああっ!」
何度か強くNの唇に自身を押し込んだかと思うと、大きく身震いをした。Nの喉奥目掛けて勢いよくSの精は放たれて行った。
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
肩で粗い息を吐いたかと思ったら、Nの身体の上そのまま仰向けにSは倒れ込んで行った。
「大丈夫か?」
すぐにNは上体を起こし、紅潮したSの頬に手を添えた。
「酷いや・・・」
涙ぐみながらNを見上げ、Sは口を結んで尖らせてみせた。
「何が酷いの?気持ち良かっただろ?」
宥めるようにNはSの頬を擦ったが、Sは目を閉じて顔を振った。
「こんなの、Nさんを道具みたいにするの・・・僕は嫌だ。」
Nは苦笑を浮かべてSの身体を抱き起し、膝の上で抱き締めてその背を擦った。
「ごめんごめん。時間が足りないかと思って焦ったんだ。」
その時、出発前の一番目のアラームが鳴った。
「ほら、寝過ごさずに済んだ。顔洗って、出掛けておいで。」
軽々とSの身体を持ち上げて、ソファーから床に下ろした。
「キス・・・したいけど、生臭いから・・・帰って来たらキスして下さい。」
照れ隠しなのか目を合わせずに素早く下着を身に着けてSは洗面所に駆け込んだ。
すぐに出てきたSは掻き上げた髪の生え際が濡れていて、粗雑に顔を洗い口を漱いだのだろうとNは思った。
パンツ一枚姿で玄関先まで見送ったNは、ポールハンガーに掛けてある野球帽を手に取りSの頭にぽんと被せた。
不思議そうに見上げたSに微笑んで
「そんなに色っぽい顔して街を歩くのは危険。出来ればマスクもプラスしてほしいな。」
と静かに言ったのを聞いて、Sは顔を赤らめすぐに掌をNに差し出した。Nは玄関ボードに常備しているケースからマスクを一枚取り出してそこにそっと乗せた。
「気になったら、例のアプリで僕を追跡して下さい。」
「分かった。終わりが見えたら連絡して。迎えに行く。寝不足だから、色々気を付けろよ?」
「はい。Nさんも寝過ごさないでね。じゃ、行って来ます。」
マスク越しに軽くキスをしてみせたSは、掌をひらひらとさせてすぐにドアを閉めた。オートロックが掛かる音を聞き届けてから、Nはアラームを確認してベッドへ横たわった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

白衣の下 拝啓、先生お元気ですか?その後いかがお過ごしでしょうか?

アーキテクト
恋愛
その後の先生 相変わらずの破茶滅茶ぶり、そんな先生を慕う人々、先生を愛してやまない人々とのホッコリしたエピソードの数々‥‥‥ 先生無茶振りやめてください‼️

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...