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Irregular 32
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「はい、お願いします。」
それからSは時間を目一杯使って黙々と作品を仕上げて行った。
工程の中で失敗する恐れもあるので、同じものを3つ作り上げた。かつてNに話していた通り、花を3~4本飾れる細さのシンプルな花瓶だ。
目立たないように一珍(イッチン)を入れるデザインの為、自然乾燥が始まった最初に作った花瓶から鉛筆で下絵を入れ、100均で購入してアレンジした道具で模様を入れていく。
「染色はしないんだった?」
「いえ、白の薬剤を掛けていきます。」
花を挿す口径が外側に開いている為一つはその表にに小さく模様を入れた。二つ目は口径の裏側に、三つめは花瓶の一番裾に入れた。
「それは・・・野球ボール?」
「ええ、先生にもそう見えたのなら、成功ですかね?」
Sは嬉しそうに笑った。
「その横は?」
「ああ・・・数字をデザイン化したものです。」
「何の数字?」
「ええ・・・分かるひとだけ分かればいいかな。秘密です。」
Nの背番号”28”を一見何が書かれているか分からない程に解体・デザイン化されていた。
アマチュア野球で”8”番はセンターの背番号だ。そこに空いている番号”2”を付けたと聞いていた。深い意味は無いと言っていたが、プロチームでは”26”は正ストッパー、”27”は正捕手と相場が決まっている。その次に活躍できるように・・・の願いも込めていただろうとSは想像していた。
「じゃあ、今夜乾燥させて、明日素焼きでいいのかな?」
「はい。明日、僕がお邪魔していい時間帯はいつですか?」
「いつでもいいよ?俺の手が空いてなけりゃ君に講師を頼んで、その間に準備するしさ。」
「え~」
「何だよ、忙しいの?」
「明日は大丈夫なんですが・・・その件もあってご相談したかったんです。」
「じゃあ、片付けてご飯食べに行こう。何食べたい?」
「う~ん・・・お肉が食べたいけど、静かな方がいいし・・・」
「じゃあ、こないだの俺の親戚の店に行く?いい肉があればステーキで出して貰うから。」
「はい。あのお店の料理、全部美味しかった・・・お酒も・・・」
「だったら、泊っていきなよ?明日の作業もあるんだしさ。」
「あ~それはちょっと・・・先生、片付けを終えたら電話してきてもいいですか?」
「いいよ?もしかして、君のいい人と会う約束でもしてた?それなら、食事と話だけ済ませて酒はまた今度にしようか。」
「・・・聞いてみます。」
朝の見送りの時に自分から「必ず帰宅する」と言ったばかりだ。舌の根も乾かないうちに、それを覆すのか・・・言ってみるだけ・・・そして、Nが自分を叱責してくれたらいいのに・・・
Sは利己的にそんな願いを込めながら壁掛け時計に目をやった。この時刻なら、練習を終えて帰り支度をしているところだ。祈るような気持ちでNに電話を掛けた。
「おう、どうした?メッセじゃないのか?」
「今、大丈夫?」
「ああ、片付けの最中だ。これが済めば帰る。」
「あのね、僕も今終えてこれから先生に相談するんだけど・・・明日も出品用の作業があってね・・・泊っていけって言われたんだけど・・・」
「・・・・・」
「あはは、僕から必ず帰るって言っておいて、それは無いよね?ごめんなさい、言ってみただけ。遅くなってもちゃんと帰るから。」
「店の住所、着いたらメッセしろよ。話が終わったら電話して。迎えに行くから。」
「え!悪いよ。」
「・・・飲んだ流れでおまえが帰って来ない方がもっと悪い。」
「怒った・・・よね?」
「いいや?飲むなら、ほどほどにしろよ?じゃあな、また後で。」
いつもはSが先に電話を切るのを待ってくれるNなのに、今はSの言葉を待たずに切られてしまった。静かな怒りが伝わって来て、Sの掌は汗ばんでいた。
「どうしたの?浮かない顔して。」
真っ黒な画面のスマホを見詰めたままぼんやりしていたSは、Kの声で我に返った。
「いえ、大丈夫です。お店に行きましょう。」
Sは作り笑いを浮かべ、リュックを背負った。
「良かったね、いいお肉が入ってたってさ。焼き方は?生焼け?コゲ焼き?」
Kのふざけた言い方は、電話後に笑顔を失ったSへの気遣いだっただろう。
「じゃあ、生焼けで。」
「ふふっ。生焼けならおろしポン酢が合うかな~じゃあ、オーダーして・・・あんまり遅くなるとまずいから、話をどんどん進めちゃおう。君の相談って?」
「はい、僕、就職先が決まりそうなんです。なので、教室助手の件はお断りしなくちゃならなくなりました。折角声を掛けて頂いたのに、ごめんなさい。」
「へえ、良かったじゃない!助手の件は気にしないで。モデルの方をやってくれたらそれでいいからさ。」
「ありがとうございます・・・」
「大して就活してたようには見えなかったけど、良い縁故でもあった?」
「ええ・・・まあ・・・僕の知らないうちにとんとん拍子って感じで・・・」
「へぇ~。ひょっとして、例の、Nさん?」
改めて名指しされてSはぎょっとしてKを見た。Sは続く言葉が見当たらず、次の言葉を待つKとで二人は寡黙にただ見詰め合っていた。
「そんなに、驚く事?」
緊張の糸を緩めたのは、呆れたように笑うKの言葉だった。
「君から教えてくれたんでしょ?俺に気を許して・・・信用してくれたからじゃないの?」
「・・・はい、そうです。」
「俺はNさんが何処の誰かも知らないし、会った事も無いんだから・・・そんなに身構えなくても、ね?」
「はい。ごめんなさい。」
「で?今後のスケジュールの事を相談したかったんだよね?君は、サラリーマンに戻るって事なのかな?」
話始めてすぐに先程特別オーダーしたステーキが、鉄板の上でじゅうじゅうと音を発てながらワインと共に運ばれて来た。
「さ、美味しいうちに食べよう。下ろしポン酢とよく合う筈だよ?」
KはSが一口食べるまで箸を付けずに、ただにこにこと見守っていた。
「どう?」
「美味しいです。」
「それは良かった。じゃ、俺も食べようっと。」
そのうち次々と料理が運ばれ空腹が満たされていくごとに、Sの頑なさを伴う空気が和らいできたようにKには見えた。
「サラリーマンには違い無いんですが・・・明後日、契約を控えていて・・・多分、嘱託社員になるのかなあ~」
「って事は、特殊な部署?」
「はい。先生みたいに上手に出来るか怪しいですが、一応、講師を・・・」
「ええっ?会社の専属の講師って?」
Sは社名は出さなかったが、部活動と課外活動の専任講師になる予定を説明した。
「良かったじゃない!大学に行った意味が無いって嘆いてたのに、ちゃんと役立つ仕事に恵まれてさ。」
「ありがとうございます。」
「君のいい人・・・Nさんが道を付けてくれたんでしょ?」
「・・・・はい。」
「どうして名前出すとそうやってまた構えるの?俺がアウティングするとでも?誰の得にもならない事、するわけないじゃん。」
「・・・・」
「それとも、俺を信用出来なくなった?」
「いえ!そんな事ありません!」
「じゃあ、いちいち身構えないで。俺相手になら、気軽に相談とかしてくれてもいいんだよ?」
「あの・・・ずっと気になってたんですが、先生の・・・その・・・恋愛対象って、どっちなんですか?」
「ええっ?俺の話?」
「だって、元・・・彼がって・・・」
「あ~所謂、ゲイなのかバイなのかって事?男は元彼が最初だったけど、あんまり気にした事無いなあ~」
「じゃあ、男女どっちも、ですか?」
「う~ん、元彼に出逢うまでは普通に男女交際?元彼の後は決まった人は居ない。深入りしない。気持ちが続かないんだ。年ばっかり食って行ってさ・・・このまま死ぬまで一人でふらついてるのかも。」
「なんか・・・不思議・・・」
「そういう君はどうなの?Nさんは男性でしょ?それ以前も?」
Sは困惑に唇を結び、上目遣いにKを見上げながら首を振った。
「人を好きになるってのが・・・Nさんが初めてだったのかもしれません。だから、自分でも分らないんです。一応、大学生の時にガールフレンドは居たんですけど・・・すぐ飽きられて・・・僕よりも・・・Nさんが・・・ずっと女性の恋人が居た人だから・・・」
「あ~~~いつかは女性の元に行かれてしまうかも?って?」
Sは鼻で溜息を吐いて梅酒ソーダのグラスを煽った。
「人それぞれだろうけど、心配すべきは男女の性別じゃないと思うよ?気持ちがすれ違う時は身の回りの全てが起爆剤になっちゃうものだからさ。」
「・・・分かるような分からないような。」
「君は今はそういう心配の時期じゃないでしょう?俺が見る君は、幸せがダダ洩れしてるもの。」
そう言ってKは手を伸ばして向かいの席に座るSの頬を突いた。
「人間関係ってさ、誰でもある種の爆弾抱えているもんなんだよ。何がいつの切っ掛けで着火するか分からない。燃え上がるにしてもダメになるにしても、それを運命って言うんじゃないの?」
「・・・発言がアーティストだ。」
Sの真面目な呟きにKは吹き出して暫く一人笑いをしていた。
「あ、先生、電話が来ました。ちょっとごめんなさい。」
席を立とうとしたSをジェスチャーで制して、Kは
「ここで取りなよ。」
と言ったのでSはスマホ画面を指でスライドさせた。
『住所送れって言っただろ?』
「あ、ごめんなさい。」
『口頭でもいいよ。メモするから。』
「えっと、ここの住所・・・」
『店の名前でもいい。こっちで調べるから。』
Sはテーブルの端に立てかけられているメニューホルダーの中から店名と住所を見付け、Nに告げた。
『今から出るからな。』
「うん。ごめんね、ありがとう。運転、気を付けてね。」
今度はSが電話を切るまでNは待ってくれた。それに安心して、Sはほっと溜息を吐いた。
それからSは時間を目一杯使って黙々と作品を仕上げて行った。
工程の中で失敗する恐れもあるので、同じものを3つ作り上げた。かつてNに話していた通り、花を3~4本飾れる細さのシンプルな花瓶だ。
目立たないように一珍(イッチン)を入れるデザインの為、自然乾燥が始まった最初に作った花瓶から鉛筆で下絵を入れ、100均で購入してアレンジした道具で模様を入れていく。
「染色はしないんだった?」
「いえ、白の薬剤を掛けていきます。」
花を挿す口径が外側に開いている為一つはその表にに小さく模様を入れた。二つ目は口径の裏側に、三つめは花瓶の一番裾に入れた。
「それは・・・野球ボール?」
「ええ、先生にもそう見えたのなら、成功ですかね?」
Sは嬉しそうに笑った。
「その横は?」
「ああ・・・数字をデザイン化したものです。」
「何の数字?」
「ええ・・・分かるひとだけ分かればいいかな。秘密です。」
Nの背番号”28”を一見何が書かれているか分からない程に解体・デザイン化されていた。
アマチュア野球で”8”番はセンターの背番号だ。そこに空いている番号”2”を付けたと聞いていた。深い意味は無いと言っていたが、プロチームでは”26”は正ストッパー、”27”は正捕手と相場が決まっている。その次に活躍できるように・・・の願いも込めていただろうとSは想像していた。
「じゃあ、今夜乾燥させて、明日素焼きでいいのかな?」
「はい。明日、僕がお邪魔していい時間帯はいつですか?」
「いつでもいいよ?俺の手が空いてなけりゃ君に講師を頼んで、その間に準備するしさ。」
「え~」
「何だよ、忙しいの?」
「明日は大丈夫なんですが・・・その件もあってご相談したかったんです。」
「じゃあ、片付けてご飯食べに行こう。何食べたい?」
「う~ん・・・お肉が食べたいけど、静かな方がいいし・・・」
「じゃあ、こないだの俺の親戚の店に行く?いい肉があればステーキで出して貰うから。」
「はい。あのお店の料理、全部美味しかった・・・お酒も・・・」
「だったら、泊っていきなよ?明日の作業もあるんだしさ。」
「あ~それはちょっと・・・先生、片付けを終えたら電話してきてもいいですか?」
「いいよ?もしかして、君のいい人と会う約束でもしてた?それなら、食事と話だけ済ませて酒はまた今度にしようか。」
「・・・聞いてみます。」
朝の見送りの時に自分から「必ず帰宅する」と言ったばかりだ。舌の根も乾かないうちに、それを覆すのか・・・言ってみるだけ・・・そして、Nが自分を叱責してくれたらいいのに・・・
Sは利己的にそんな願いを込めながら壁掛け時計に目をやった。この時刻なら、練習を終えて帰り支度をしているところだ。祈るような気持ちでNに電話を掛けた。
「おう、どうした?メッセじゃないのか?」
「今、大丈夫?」
「ああ、片付けの最中だ。これが済めば帰る。」
「あのね、僕も今終えてこれから先生に相談するんだけど・・・明日も出品用の作業があってね・・・泊っていけって言われたんだけど・・・」
「・・・・・」
「あはは、僕から必ず帰るって言っておいて、それは無いよね?ごめんなさい、言ってみただけ。遅くなってもちゃんと帰るから。」
「店の住所、着いたらメッセしろよ。話が終わったら電話して。迎えに行くから。」
「え!悪いよ。」
「・・・飲んだ流れでおまえが帰って来ない方がもっと悪い。」
「怒った・・・よね?」
「いいや?飲むなら、ほどほどにしろよ?じゃあな、また後で。」
いつもはSが先に電話を切るのを待ってくれるNなのに、今はSの言葉を待たずに切られてしまった。静かな怒りが伝わって来て、Sの掌は汗ばんでいた。
「どうしたの?浮かない顔して。」
真っ黒な画面のスマホを見詰めたままぼんやりしていたSは、Kの声で我に返った。
「いえ、大丈夫です。お店に行きましょう。」
Sは作り笑いを浮かべ、リュックを背負った。
「良かったね、いいお肉が入ってたってさ。焼き方は?生焼け?コゲ焼き?」
Kのふざけた言い方は、電話後に笑顔を失ったSへの気遣いだっただろう。
「じゃあ、生焼けで。」
「ふふっ。生焼けならおろしポン酢が合うかな~じゃあ、オーダーして・・・あんまり遅くなるとまずいから、話をどんどん進めちゃおう。君の相談って?」
「はい、僕、就職先が決まりそうなんです。なので、教室助手の件はお断りしなくちゃならなくなりました。折角声を掛けて頂いたのに、ごめんなさい。」
「へえ、良かったじゃない!助手の件は気にしないで。モデルの方をやってくれたらそれでいいからさ。」
「ありがとうございます・・・」
「大して就活してたようには見えなかったけど、良い縁故でもあった?」
「ええ・・・まあ・・・僕の知らないうちにとんとん拍子って感じで・・・」
「へぇ~。ひょっとして、例の、Nさん?」
改めて名指しされてSはぎょっとしてKを見た。Sは続く言葉が見当たらず、次の言葉を待つKとで二人は寡黙にただ見詰め合っていた。
「そんなに、驚く事?」
緊張の糸を緩めたのは、呆れたように笑うKの言葉だった。
「君から教えてくれたんでしょ?俺に気を許して・・・信用してくれたからじゃないの?」
「・・・はい、そうです。」
「俺はNさんが何処の誰かも知らないし、会った事も無いんだから・・・そんなに身構えなくても、ね?」
「はい。ごめんなさい。」
「で?今後のスケジュールの事を相談したかったんだよね?君は、サラリーマンに戻るって事なのかな?」
話始めてすぐに先程特別オーダーしたステーキが、鉄板の上でじゅうじゅうと音を発てながらワインと共に運ばれて来た。
「さ、美味しいうちに食べよう。下ろしポン酢とよく合う筈だよ?」
KはSが一口食べるまで箸を付けずに、ただにこにこと見守っていた。
「どう?」
「美味しいです。」
「それは良かった。じゃ、俺も食べようっと。」
そのうち次々と料理が運ばれ空腹が満たされていくごとに、Sの頑なさを伴う空気が和らいできたようにKには見えた。
「サラリーマンには違い無いんですが・・・明後日、契約を控えていて・・・多分、嘱託社員になるのかなあ~」
「って事は、特殊な部署?」
「はい。先生みたいに上手に出来るか怪しいですが、一応、講師を・・・」
「ええっ?会社の専属の講師って?」
Sは社名は出さなかったが、部活動と課外活動の専任講師になる予定を説明した。
「良かったじゃない!大学に行った意味が無いって嘆いてたのに、ちゃんと役立つ仕事に恵まれてさ。」
「ありがとうございます。」
「君のいい人・・・Nさんが道を付けてくれたんでしょ?」
「・・・・はい。」
「どうして名前出すとそうやってまた構えるの?俺がアウティングするとでも?誰の得にもならない事、するわけないじゃん。」
「・・・・」
「それとも、俺を信用出来なくなった?」
「いえ!そんな事ありません!」
「じゃあ、いちいち身構えないで。俺相手になら、気軽に相談とかしてくれてもいいんだよ?」
「あの・・・ずっと気になってたんですが、先生の・・・その・・・恋愛対象って、どっちなんですか?」
「ええっ?俺の話?」
「だって、元・・・彼がって・・・」
「あ~所謂、ゲイなのかバイなのかって事?男は元彼が最初だったけど、あんまり気にした事無いなあ~」
「じゃあ、男女どっちも、ですか?」
「う~ん、元彼に出逢うまでは普通に男女交際?元彼の後は決まった人は居ない。深入りしない。気持ちが続かないんだ。年ばっかり食って行ってさ・・・このまま死ぬまで一人でふらついてるのかも。」
「なんか・・・不思議・・・」
「そういう君はどうなの?Nさんは男性でしょ?それ以前も?」
Sは困惑に唇を結び、上目遣いにKを見上げながら首を振った。
「人を好きになるってのが・・・Nさんが初めてだったのかもしれません。だから、自分でも分らないんです。一応、大学生の時にガールフレンドは居たんですけど・・・すぐ飽きられて・・・僕よりも・・・Nさんが・・・ずっと女性の恋人が居た人だから・・・」
「あ~~~いつかは女性の元に行かれてしまうかも?って?」
Sは鼻で溜息を吐いて梅酒ソーダのグラスを煽った。
「人それぞれだろうけど、心配すべきは男女の性別じゃないと思うよ?気持ちがすれ違う時は身の回りの全てが起爆剤になっちゃうものだからさ。」
「・・・分かるような分からないような。」
「君は今はそういう心配の時期じゃないでしょう?俺が見る君は、幸せがダダ洩れしてるもの。」
そう言ってKは手を伸ばして向かいの席に座るSの頬を突いた。
「人間関係ってさ、誰でもある種の爆弾抱えているもんなんだよ。何がいつの切っ掛けで着火するか分からない。燃え上がるにしてもダメになるにしても、それを運命って言うんじゃないの?」
「・・・発言がアーティストだ。」
Sの真面目な呟きにKは吹き出して暫く一人笑いをしていた。
「あ、先生、電話が来ました。ちょっとごめんなさい。」
席を立とうとしたSをジェスチャーで制して、Kは
「ここで取りなよ。」
と言ったのでSはスマホ画面を指でスライドさせた。
『住所送れって言っただろ?』
「あ、ごめんなさい。」
『口頭でもいいよ。メモするから。』
「えっと、ここの住所・・・」
『店の名前でもいい。こっちで調べるから。』
Sはテーブルの端に立てかけられているメニューホルダーの中から店名と住所を見付け、Nに告げた。
『今から出るからな。』
「うん。ごめんね、ありがとう。運転、気を付けてね。」
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