Irregular

Irregular ２７

「・・・くっ・・・ううっ・・・・」
痛みに身体が強張るのを止められないSの掠れた声が漏れてバスルームに響いていた。
何とかしてSの痛みや緊張を和らげようとNは必死に叩き込んだ筈の知識を呼び起こそうとするのだが、未知の世界へ足を踏み入れているのはNも同様で、初めて知る感触と胸を占める感動でSを抱き締めるのが精一杯だった。
「N・・・さん、全部・・・入りましたか？」
息も絶え絶えに問うSの手を取って、Nは二人が繋がっている箇所へ導いた。
「え！？まだ、半分？」
「Sくん・・・無理しないで・・・・・」
そこでSは腕を突っ撥ねてNの顔をまじまじと見詰めた。
「僕の加減じゃダメそうです。Nさん、一気に来てくれませんか？」
「そんなっ！ダメだよ。君が辛い思いを・・・」
「もう、戻れないんです。」
それが二人の仲をも指している事もNは分かっていた。こうする事だけでも、相当な覚悟を抱いている筈だから。
「キス、しよう。辛かったら、俺の口を噛んでいいから。」
Sは無理に笑顔を作って頷き、自ら唇を寄せた。舌を噛んでは危ないので二人は唇を合わせるだけのキスをして・・・NがSの細い腰を両手で掴み一気に腰を突き上げた。
「あああっ！」
Sの身体が痛みにのけ反り、ぶるぶると震えていた。それを静めようとNは力いっぱいSを抱き締めたが・・・下半身が言う事を聞かなかった。熱く狭いそこがNを強く抱き締めては小さなうねりを絶やさずに撫でまわしている感覚だった。ペニスの根本を強く締め付けられて、あとは自分の意思など無視したかのように腰が勝手に動いては止める術も無かった。
「あっあっあっ」
Nの腰の進みに合わせてSの口から掠れた声が裏返ってはNの耳を刺激した。
激しく湯舟が波立ち、バスタブから飛沫が飛んだ。Nに縋るSの指が肩に強く食い込んで、爪の跡がついてしまったのを知るのはずっと後だ。二人は繋がるそこ一点だけに意識が集中し、他は何も感じられない程だった。
「ごめっ・・・Sくん・・・止まんない・・・・」
まるで抑え込むようにNの手はSの腰と背に回されて、Sは呻く声さえ音を失っていた。
「ああっ・・・S・・・Sっ！！」
Nが苦しそうに呟き、２，３度更に強く腰が突き上げられた。息を詰めSの体内に迸りを放ちすぐに脱力して深く息を吐き、そこで初めてNは我に返った。
自分の身体の上で抱き縋るでも無くぐったりとしているSに気付き、湯に沈みかけていた上体を慌てて起こし、繋がったままSを抱き起した。
気絶しているのか、脱力のままNにただ被さったままのSの頬を軽く擦った。
「Sくん、大丈夫か？おい・・・」
切羽詰まったNの掛け声に薄っすらと目を開き、Sは涙や鼻水や汗で汚れた顔のまま口元だけ微笑んだ。心臓を鷲づかみにされる程に眩しく美しく、Nの目には映っていた。
「良かった・・・Nさんと、ひとつになれました・・・・」
Nはその言葉に眉を寄せ、唇を戦慄かせた。
感動して泣くなど、野球以外にあり得ないと思い込んでいたのに。
「Sくん、ありがとう・・・・嬉しい・・・嬉しいよ・・・・」
Sを優しく抱き締め、その汚れた顔に頬ずりを繰り返した。
「Nさん、僕は・・・良かった・・・ですか？」
「ああ、あんな感覚、初めてだ。」
「・・・良かった。」
「Sくんは？痛くて・・・その・・・イケなかったんじゃないのか？」
Sはゆっくりと身を起こして湯舟を見渡した。
「・・・たまごの白身と同じだそうです。」
「？」
「お湯で固まって・・・排水溝が詰まっちゃうから、そのまま流したらダメだって・・・」
Sが身を捩って手に掬った湯の中に、なるほど小さな白濁したスライムのようなものがあった。
「へえ！」
Nの驚きの声が大きくバスルームに響いた。
「じゃあ、俺が君の中に出しちゃったの・・・どうしよう・・・っていうか、君もイったんだ？」
「あ・・・はい・・・・」
Sが目線を伏せて恥ずかしそうに答える様を見ていると、突然Sの身体がびくりと跳ね上がった。そして信じられないと言った顔付でNを見詰めた。
「どうしてこれで、また・・・」
「いや、その、君が、俺のでイケたんだって分かったら・・・嬉しくなっちゃって・・・ごめん。辛いよな？」
「ええ・・・・少し・・・・慣れたので・・・そんなには・・・でも、掃除が気になります。」
自分の固まった精液を手にしながら、Sは困惑ながら笑っていた。
「じゃあ、お風呂場でスル時の対策も二人で考えなきゃな。」
「はい。」
「ティッシュとゴミ箱持って来るから・・・あ、抜かないと持って来れない。」
「・・・一旦、洗面器に避難させておきますか？」
一瞬の静寂があった後、二人は声を出して笑い合った。
「Sくん、ありがとう。凄く幸せだ。」
「はい。僕も、とても幸せです。」
「じゃあ、君の中に居る俺の出したのも一旦洗面器に避難させて、あとでまとめて掃除しよう。」
「・・・もう、終わりですか？」
「ん？君、大丈夫なの？」
「・・・・折角なので、一回では勿体ないのかな・・・って。」
またそこで二人は顔を見合わせて笑った。
腹筋の振動がダイレクトに二人の結び目に響いて、更にNがSの中で存在感を示していた。
「まとめて、掃除しよ？」
Sは頷いて洗面器の中に手を傾け小さなスライムを流し落とした。
「笑いながら抱き合えるのが、本当に幸せです。」
Sの呟きにNも又満面の笑みでSを抱き締めた。
そしてその体勢のまま、腰を突き上げた。
「えっ？あっ？あっあっあっ・・・・」
突然の再開にSは戸惑ったが、Nの放った残骸のせいで滑りが良くなり、衝撃しか感じなかった一度目とは異なり中を突かれる、擦られる、引き抜かれるその感触が全て快楽に繋がるようで、その感覚を逃すまいとNに強く抱き縋った。
浴室に響くNの粗い息遣いとSの掠れた呻きと波立つ湯舟の水音と、それが耳に入らない程に二人は夢中で抱き合った。
やがてそれらが全て静まると、Nは我に返ったのかSを抱き締めながら心配そうにか弱い声を出した。
「ごめん、乱暴だった・・・よな？平気？」
Nの身体の上で閉じていた目を薄っすらと開いたSは、目一杯口を横に引いた笑顔を浮かべて見せた。
「はい。大丈夫です・・・けど・・・・」
「けど？」
「掃除・・・そればっかり心配で・・・・」
一瞬無言になったが、Nは吹き出した。
「いや、笑いごとじゃないって・・・分かってるけど・・・」
笑う度にNの身体が揺れて、上に乗るSの身体までをも揺らした。勿論、まだ繋がったままの場所にも。
「後で、対策を会議しよう。」
「・・・はい。」
「水の中の方が出しやすいから・・・」
Nが身を引くと、今までNで塞がれていたそこにお湯が入り込んで来て、Sは思わず仰け反った。
「ごめんね、このまま、掻き出すから・・・今日の掃除は俺に任せて？これが済んだら君はベッドに行っててね。」
返事を待たずにNの指が緩んだSのそこへ忍び入り、自分の放った残骸を掻き出していた。どうにも気恥ずかしくてSは湯に浮かぶそれを直視出来ない。それも察してNはSの身体を持ち上げるようにしてバスタブから出るよう促した。
「シャワー軽く浴びて、ベッドで待っててね。」
よろめく足取りながらSはふらついて言われた通りにした。
Nは先程Sが洗面器に移したSの残骸と湯舟の中のそれとをティッシュに吸わせて、Sが気にするといけないと簡単に浴室の掃除をしてから出た。
ベッドに戻るとベッドボードに水のペットボトルが置いてあり、それを一気飲みしてから横たわるSの顔を覗き込んだ。
うとうととしているのか、顔を近付けた気配にも気付かないようだった。