Irregular

neko-aroma(ねこ)

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Irregular 14

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「先生は、常連客なんですか?」
「うん。親戚がやってる店だから。繁忙期に、よくただ働きしてる。」
「はぁ~なんか、凄い。」
「言ったでしょ、俺の地元。そこらへんに親戚が居るよ。乾杯だけ、お酒OKって言ってたね。二日酔いにならないのは・・・蒸留酒だけど、S君は強いお酒はダメだもんねえ。」
「はい。苦いのもちょっと。」
「甘党かぁ~じゃあ、ホワイトリカーの梅酒辺りが無難かな。」
「お願いします。」
「じゃあ、まずは乾杯ね。飲み口がいいからって急ピッチで飲まないように。」
「はい。お疲れ様でした。」
二人は軽く音を発ててグラスを重ね、呑み方を注意したKがジョッキビールを一気に飲み干した。
「わぉ。」
「のんべえは、いいの。」
そう言いながら今度はボトルで頼んだ白ワインを新しいグラスに注ごうとしたので、慌ててSが中腰になりそのボトルを受け取った。
「会社の上司じゃあるまいし、気にしないで。」
「始めの一杯だけです。」
Sがワイングラスに半分注ぐと、Kは乾杯の意でグラスを目前に掲げて見せた。
「出品のデザインはあれでF.Aなのかな?」
「はい。試作が上手く焼けたら、少しだけ模様を入れたいなって。先生のモデルの件はいつからですか?」
「今からでもいつでも。君に許可取りしなきゃならない事が幾つかあるんだ。条件に納得してくれたら、それを書面化するから。俺が君との約束を反故にしない為にね。万が一破った時は、それを証拠に訴える事も出来るから。」
「有難いんですが、慎重過ぎな気もします。以前、何かトラブルでもあったんですか?」
「俺、モデルを依頼するの、君が初めて。誰にも頼んだ事は無いよ。」
「ええっ?じゃあ、どうしてそんなに慎重なんですか?」
「モデルでのトラブルじゃなくて・・・講師でちょっとね、数回、面倒な事があってさ・・・予防線だよ。セクハラとかストーカーとかそういう類の。君に嫌な思いをさせたくない。ちょっとの誤解や行き違いで・・・君と疎遠になりたくないの。」
「先生は格好良いし優しいから、勘違いする人も多いかもですね・・・僕の何処を買って下さってるのか分かりませんけれども・・・お気遣いをありがとうございます。」
「買ってるっていうか・・・君そのものだよ。今は講師と生徒だけど、どんな関係性でも繋がりは持っていたいって事。」
「・・・・」
「やだなぁ。深刻に受け取らないで。これじゃ、俺が君に告白して答え待つ構図みたいじゃん?」
「はい、分かっています。先生みたいな洗練された方が、僕みたいなうんと年下のモブにそんな気起こさないの、誰が見てもそうじゃないですか。」
「何言ってるの?誰がどう見ても・・・は関係無いでしょ?君と俺のここだけの関係なんだから。」
Kは笑って自分の胸を指差した。真正面からじっと見詰められて、Sは目のやり場に困り慌ててグラスを煽ってしまった。
「ちょっ。言ってる側から一気飲みとかもう・・・ノンアル、何か頼もう。コーラ?」
「いいえ・・・まだ、平気ですので・・・同じものを。」
「少し薄めて、ソーダ割にしたらどうかな?」
「はい、お願いします。僕、先生の経歴に凄く興味が出ました。陶芸教室の講師なのに、本職は違うって。大学も芸術系ですよね?専攻は何だったんですか?」
「俺に興味?嬉しいねえ~人が興味を持つ意味は”好きの始まり”か”憎しみの始まり”かの二つだからさ。まさか俺を憎し・・・じゃないよね?」
「まだ何も知らないのにどうして憎しみを持てるんですか。」
「じゃあ、これからも憎まないでね。俺は大学は法学部だよ?」
「・・・今のお仕事と全く無関係じゃないですか!」
「世の中、そんなもんでしょ?教員免許とか行政書士とか税理士とか取れるものは取ったけど、それはほら、その手の大学に行きました!っていう証拠、保険?みたいなものだから。皆そうじゃない?好きなものと向いてるものが違う、運やタイミングや・・・自分の思う通りには行かないよ。俺はラッキーにも好きな事が見付かって、何とか形に出来たけど・・・人生って長いスパンで見て幸せかどうかも分からないしね。」
「・・・でも、僕みたいにまだ何も掴めて無い人よりは幸せですよね。」
「そう?俺は今特定の誰かに心配して貰える立場じゃないから、君が羨ましいけどな。所詮、無いものねだりで隣の芝生は青いって事だよ。そんなつまらない比較論理で自虐してるより、自分の価値観を高めた方が建設的じゃない?」
「価値観を高めるって・・・?」
「よそはよそ、うちはうちって事。自分が楽しく幸せになる為には、自分と、自分を見詰めてくれる人を中心に毎日生きたらいいんじゃない?時間だけは皆に平等だけど、幸せの答えなんか誰にも出せないんだから。」
「・・・大人の人の言葉だ。」
「何言ってんの。」
Kは一人で笑っていた。
「何の話だっけ・・・あ、俺の本業ね。作品、見る?こっちにおいで。」
Kに手招きされ、Sは素直に隣に席を移した。
「これ、俺の販売サイト。今まで受注したやつを許可取って載せてる。製作販売しても掲載NGの人も居るんだ。自分だけの世界、自分だけのものって強く線引きしている人とかね。」
掲載されている作品は、分野外のSも一度はネットで目にした事のある2頭身の可愛いキャラクターもあったし、信じられない程リアルなものもあった。一貫しておらず、客のニーズに合わせてここまで多様化したものが作れるものなんだろうか・・・Sは驚いてKの右手をじっと見詰めた。
「ん?なに?」
「この指で・・・あんなに繊細な作品を?」
「ええ?」
Kは笑いながら右手をSの目前に差し出した。
「触ってみる?」
Sは頷いて指一本一本を自分の指全部を使って感触を確かめていた。
「君から触れば、俺のセクハラ疑惑じゃないからね?」
Sは間近にKを見上げて唇を結び、ペチンと手の甲を叩いた。
「先生はセクハラばっかり気にし過ぎですよ!それに僕、男だし!何か、脛に疵持つ・・・感じですか?」
「ないない、前科持ちじゃないよ。用心するに越したことはないだろ?しかも・・・君にはいい人が居るじゃないか。その人以外に身体的接触はさ・・・誤解の元だろ?」
「じゃあ、なんで先生から触ってみる?なんて言うんですか。同じことですよ?」
「そうかな?」
笑顔で目を見詰めたまま、Kはたった今自分の手の甲に置かれたSの手に、くるりと手のひらを返した。そして、人差し指でゆっくりとSの中指の先から掌、手首、その先へと辿って行った。
何をされているのか分かっていないSも、視線を逸らせないでいる。息を詰めているのか、Sの胸元が呼吸の上下を止めていた。
「君のこの手はさ・・・物を作ったりスケッチを描いたり色んな日常の動きをするんだろうけど・・・・」
言いながら、Kの手はSの親指と人差し指を何度も往復させていた。
「君のいい人、君のこの指の癖、覚えちゃってるんだろうね?」
囁くように言ったKに、Sは自分の指に収まりきれないNの猛りを思い浮かべ、途端に赤面し慌てて手を引いた。
「ふふっ。そういう顔を沢山見たいんだよ。で、俺の作品に投影したいの。」
「そ、そ、そういう顔って・・・・」
「官能。分からなければ後でGoogle先生にでも聞いて?」
そこに料理が運ばれて来たのでSは少し距離を置いて座り直したが、依然Kの隣に居た。
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