Irregular

neko-aroma(ねこ)

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Irregular 2

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Sは固まって何も答えなかったが、Kはレンジで熱々にしたタオルを心地よい温度になるまで広げて待ち、丁寧にSの顔の汚れを拭き取った。
その際、チェックをする為にKが顔を近付けて来るから、あの燻したような匂いがまたSの鼻孔を擽った。
「先生、煙草、吸うんですか?」
「あ、臭かった?ごめん。」
それでも拭き取る手を休めず、顔も近いままだった。
「髪かな、肌かな、服かな・・・染み付いているような?僕の周囲に吸う人が居ないから、何だか不思議で。」
「ヘビースモーカーじゃあ無いんだけど、止める切っ掛けも無いというか・・・君は吸わない・・・か。嫌だった?ごめん。」
「嗅ぎ慣れないから・・・好きか嫌いか分からないけど・・・あんまり・・・かな。」
「じゃあ、それを理由にして、禁煙チャレンジしてみるか。さあ、取れた。」
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。君の可愛い顔を間近で見れて、得した気分だ。あ!こういうのもセクハラになるのか?」
「可愛いとか・・・男なのに・・・」
そこでSは初めて笑った。その顔を優しい微笑みで見詰められているのに気付き、Sは慌てて顔を背けた。
「S君、今、休職中って言ってたよね?」
「はい。」
「教室の時間帯、変更は効く?」
「ええ、大丈夫かと。この中級クラスでは実力不足ですか?」
「いいや、そう言う事じゃなくてさ。人が埋まらない時間帯があるんだ。そこに移って貰えたら、今日みたいにゆっくり細かく指導出来るよ?そうしたら上級クラスに早く行けるし、窯も順番待ちしなくて済む。休職中に何かの品評会に出せる位になりたいって、最初に言ってたでしょ?早道かなあとふと思ったんだ。提案だよ。」
「依怙贔屓・・・になりませんか?」
「ぷっ。」
Kは口に拳を当てて、肩を震わせていた。
「依怙贔屓で、いいんだよ。ここは俺の工房で、講師は俺一人だから。俺がルール。しかも、学校じゃあない。教室だから。」
「・・・それなら・・・お言葉に甘えようかな。」
「じゃあ次から、こっちの曜日のコースに来てね。」
Kは教室のスケジュール表を印刷した紙に赤丸を着けてSに渡した。
「君に教えた事あったかな・・・俺の本業は陶芸じゃないんだ。スカルプター。クレイで人体やリアルフィギュアとか作る。いつか君にモデルになって欲しいな、とさっき顔を間近で見て思った。どう?」
「え・・・どうしてですか?そこら辺にある顔ですよ?」
「ふふっ。本人にはその魅力は分からないか。この話は追々で・・・次からはこの日に通ってね。今日は・・・色々とごめん。お疲れ様。」
「謝って頂くような事、何も無かったです。ありがとうございました。では、失礼します。」
ドアに手を掛けた所で、Kに肩を掴まれた。
Sが振り向くと
「禁煙の話、ほんと。君にモデルをOKして貰ったら、今日以上の接近戦になるから。不快な思いさせられない。」
「はい・・・じゃあ、見張ってますね。」
Sは笑顔でそう返して、工房を出た。何故か又胸の鼓動が高鳴り始めたので、自分に誤魔化すように駆け出していた。


「おーい、いつまで入ってるんだぁ~?」
ドアの向こうで気の抜けたようなNの声に催促され、Sは回想から我に返った。
「今、出るよ~」
煙草の匂いが付いているかもしれない今日着た服を洗濯籠に入れて、Sは随分前にスイッチが切れた乾燥機からジャージを取り出した。
「早くおいで。」
リビングのソファーに座っているNが両手を広げてSを待ち受けていた。まるでダイブするように腕の中に飛び込んでも、体格が雲泥の差のNはびくりともしない。そのまま強く抱き締められて、わざとくんくんと鼻を鳴らして顔付近を嗅ぎ回された。
「くすぐったいよ。もうっ!ちゃんと洗って今日の埃は全部落としてきたからっ!」
「1週間振りなんだぞ?もっと、嗅がせろ。」
「変態。」
「なんだと?」
二人はじゃれ合って、触れ合って、動きが止んだのは唇が重なったせいだ。
「時間掛けて、抱きたい。」
唇が離れきらないうちにNに囁かれて、Sは両手でNの頬を包んだ。
「ウーバーの発注タイミングは?」
「最悪、カップ麺か、俺一人でコンビニ。」
「カップ麺って・・・折角合宿で身体作りの食事してただろうに・・・勿体ないじゃん?」
「仕方ないだろ?誰かさんが俺の帰宅日間違えて、何も用意してくれなかったんだから。」
「それは本当に、ごめんなさい。」
「いいよ。飯より、おまえを食いたいんだよ。」
「言い方が、変態チック。」
「ベッドに行こう?ほら?」
Nは言いながらソファーの何処かからローションのボトルを取り出した。
「足に挟んで温めておいたんだ。これが冷める前にさ・・・」
「ありがと。」
「ゴムの買い置き、間に合うかな・・・足らなかったら、結局コンビニかぁ。」
「ふふっ。一体、何枚使うつもりなの?」
「あるだけ。おまえを抱くのだけを楽しみに合宿頑張ったんだ。ご褒美をくれよ。」
「いいよ。好きなだけ、どうぞ。」
Sは立ち上がってNの手を引いた。


Nの事前宣言通り、その夜の二人の時間はゆっくりと流れていた。
しかし、Nは野球選手でもあるから身体の構造と精力の強さは並では無い。Sから提案してまず始めに時間を掛けて口で愛撫するつもりだったが・・・
キスをしたときからはち切れそうだったNの分身は、Sが口に含んで舌を這わせた瞬間に、その口腔を青臭さで満たしていた。
とても飲める量では無かったので、Sは片手でごめんとポーズをしながら枕元のティッシュボックスに手を伸ばそうとしたのを、Nが慌てて勢いよく数枚引き抜きSの口元に当てた。
「ごめんな・・・溜まってた。」
「いいよ。今、綺麗にしてあげるね。」
口に残る粘着度の高い体液を唾液で薄めるようにして、Sは今度こそ丁寧に時間を掛けてNの昴まりを舌と唇と指先で愛撫した。
「顎、疲れただろう?今度は俺にやらせて?」
顔を動かす度に揺れるSの緩くカールしたくせ毛を撫でながら、Nは満足げに微笑んでいた。
「ん?ふぁら(まだ)・・・」
咥えながら上目遣いをするSの顔が、Nはとても好きだった。
時には嗚咽に耐えながら涙を溜めて、時には今のようにアイスキャンディーを美味そうに舐めるような顔つきをして。
「男だらけの合宿所で浮気する相手も居ないだろうけど・・・溜まってたんだね?」
サイドボードに置いたペットボトルドリンクで口を漱ぎながら、悪戯っぽく笑うSの顔が薄明りに部分的に見えて艶めかしかった。
Sのセリフは、Nがゲイでは無いと物語っている。二人共、同性と付き合うのが初めてだからだ。
「スポーツ選手は溜めすぎるとプレーに響くから、適当に抜かなきゃだけどな・・・俺は毎日は我慢した。」
「ふふっ。どうして?」
「俺の手より・・・おまえの中で果てたかったから・・・」
「Nさん、エッチだね。」
「それでさ、抜かない日はネットサーフィンしてたんだけど、スローセックスってのが目に入って。」
「どんな検索したらそこに辿り着くの?」
SはNの首に両手を絡ませながら笑っていた。
「眠気が来るまでどんどんリンク辿ったら、元々はポリネシアンセックスって言って強制的に”遅漏”にする技だったんだよ。」
「強制的?まあ、早漏の人には良い治療かもだけど・・・Nさんは必要無いでしょう?」
「必要あるんだ。今夜、試してみたい。おまえが良かったら、以降はそのスタイルで抱きたい。」
「どうして?今までの僕じゃ、満足出来なかった?」
「その逆だよ。もっともっと満足させたいんだよ。おまえが良ければ、俺も良くなる。ほら、俺らは男は初めて同士だろ?もっと世界が広がればいいかなって。何が正解か分からないけど、とにかくおまえをもっと悦ばせてやりたい。」
「ふふっ。ありがとうございます。でも、こうして抱き締めてキスしてくれただけでも十分なんだけどな。」


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