【完結】愛してたと告げられて殺された私、今度こそあなたの心を救います

雪井しい

文字の大きさ
上 下
4 / 7

救済

しおりを挟む



 その言葉を聞き、オデットの心臓は凍った。
 まるでその瞬間、時が止まってしまったかのような錯覚を覚えた。


 なぜ。どうして。


 言葉にしたいことはたくさんあった。
 だが、なにをどう言えばいいのか分からない。

「あいつは一体どうしてそんなことをしたんだろうな」

「ジョナが……自ら……」

 言葉がうまく紡げない。

「これは少し歯車が掛け違えば、避けられたはずの運命だった。ジョナは本来、死ぬ必要のない人間だったんだ。オデット、君が彼の運命を左右する鍵だった」

 その言葉を聞き、心が潰されそうになる。
 オデットの瞳からぽろりと涙が溢れ、それを手首で拭った。


「……私の、せいで……彼は……」


 息を詰め、オデットは脱力したかのように地面に平伏す。
 罪悪感と悲壮感、そして絶望がオデットの心を侵食していく。
 唇は蒼褪め、体は小刻みに震えていた。

「それは違う」

 シーボルトはそんな負の連鎖を断ち切るかのように、はっきりと断言した。
 オデットは青い顔をゆっくりとあげる。

「お前のせいだけというわけではない。運命は複雑に絡み合うものだ。だれか一人のせい、そんなことはありえない」

「でも……!」

 私がいなければ、ジョナは死ななかった。
 オデットはそう主張しようと女神を見据える。
 だが、先に口を開いたのは女神の方だった。

「だからお前に選択を課す。ジョナを救うか、それとも諦めるか」

「救うことが……出来るのですか?」

 オデットは絶望の入り混じった顔でシーボルトを見上げる。
 女神は鷹揚に頷く。


「救えるかどうかはお前次第ではあるが」

「……っ」

 オデットは息を呑む。
 先程までの絶望に支配された顔とはうってかわって決意が表れていた。
 答えは既に決まったも同然だった。

 そうしなければ、オデットは後悔するに決まっている。
 救えるはずの人間を救わずして、なにが神の元に使える信者か。

 オデットは殺されなければ修道院へ行き、修道女となる予定だったのだ。
 それは、罪を犯したことに対する償いだった。

 周囲には悟られないようにして、オデットのは父親を殺めた。
 犯人として名乗りをあげることをしなかったのは、弟に迷惑がかかるからだった。

 家名に汚名をつけることは未来ある弟を潰してしまうことと同じ。

 弟を自分の罪の犠牲にすることと、秤にかけたのだ。
 そしてオデットは己の罪は己の中だけにしまい続けることにした。

 オデットは重い体を起こし、立ち上がる。

「私は……ジョナを必ず救います。これで私の罪が無くなることは絶対にありませんが、救えるものを救わずしてなにが人でしょう」

「あい分かった。ただ一つ。救うという言葉の意味を履き違えてはならない。本当に救うというのならば、お前はジョナの心まで救わなければならない。それをよく覚えておくんだ」

 心を救う。
 そう易々といくわけがない。
 だが──。

「はい」

 オデットは小さくも、決意に満ちた声色で返事をした。

 シーボルトが小さく何かを唱えると、オデットの周囲に光が満ちる。
 それに包み込まれ、彼女の体は跡形もなく消え去った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

処理中です...