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運動競技大会

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 『運動競技大会』は、その名の通り体を動かしながら仲間と競い合うイベントだ。

 種目には『馬術』『剣術』『体術』の三つの種目に分かれており、それぞれの種目を得意とする生徒たちが競い合うのだ。

 残念なことにココは運動が得意ではない。
 3つの種目も人並みにも出来ないほどだ。
 代表ではない生徒は応援を担当するのだが、例に漏れずココも応援だった。

「ロイ兄様は剣術だよね?」

「ああ。応援してくれるかい?」

 にっこりと微笑み大きく頷く。
 ロイは昨年、剣術の種目で準優勝した。
 武を極めている生徒も多い中で、ここまで良い成績を抑えることができる人はそうそういないだろう。
 それほどまでに剣術が得意なのだ。それはココの誇りでもあった。 

 そういえば昨年剣術の優勝者は。

 ────それはあまり今思い出したくない人物だった。

 エドモンド・スライダー。

 昨年の剣術優勝者は彼だった。
 三年生にも関わらず、圧倒的なセンスと実力で優勝を勝ち取った。  
 エドモンドも剣術を極めて、騎士になろうとしているわけでもないのに。

 本当に何でも出来る人過ぎで、近寄りがたい。
 それなのに向こうから近づいてくるなんて何故か。
 それは恐らくは、ココのような不器用な人を見てイラついているのだろうと予測していた。
 ココのことが嫌いだから、目の敵のように意地悪をしてくるのだろう。
 その確信には、非常に納得を覚えていた。

「学校着いたね。ココは……魔法学だったよね」

「うん。それじゃあ、また帰りにね」

 二人はそう言って学舎内で分かれた。
 ココは、魔法学の教室に足を急いだ。





「おい、ブス」

 教室内に入ると、聞き馴染みのある声がした。昨日、睡眠不足に陥った原因の人物の声だ。

「……」

 ココは何も反応が出来なかった。
 本人を目の前にし、恐怖心で震えそうになる。
 だがここで震え蹲っては、昨日二人の間に何かしらの出来事があったのだとバレバレになってしまうような気がして、耐えた。
 これ以上話しかけられる前に席へ着こうと、エドモンドを無視して席へ向かった。
 しかし。

「いたっ」

 彼はココの細い腕を掴んできた。
 込める力が強く、痛みを感じるほどで、目尻に涙が溜まる。

「ブス。無視すんな」

「……い、たい。離して……」

 勇気を込めて口を開けども、エドモンドは離さない。
 ココは彼に「離してほしい」という視線を送り、解放を訴える。
 だが当人は、ニヤリとした嗜虐的な笑みを浮かべ、涙目になるココに目を寄越した。
 しばらく攻防がつづくかと思われたが。

 ガチャッ。

 教室の扉が開く音で中断となった。

 エドモンドはさっと腕を離したため、ココは急いで後ろの方の窓際の空いている席に腰を下ろす。
 すると彼もココの真横に腰を下ろした。

「な、んで」

「俺がどこに座ったって、お前には関係ないだろ。ブスの癖に、文句付けるんじゃねえよ」

 エドモンドが隣に座ってきたのは今日が初めてだ。
 何故、嫌いな人の隣の席にわざわざ座るのか分からなかった。

「この授業のあと、お前暇だろ。終わったら談話室に来い」

 そう言って、彼は席を立った。
 きっとまた授業を抜ける気だろう。
 座ったから授業を受けるつもりだったのかと思えば、違ったようだ。

 エドモンドは成績優秀だが、あまり真面目ではない男なのだ。





「これで今日の魔法学の授業は終わりです。しっかりと、復習しておくように。……ああ、そうだ。今日課題を忘れた生徒は部屋の片付けをしておくように」

 講師が教室を出て行くと、一斉にざわざわと生徒たちの話し声が広がった。
 ココは早く行かないとエドモンドに酷い嫌がらせをされると思い、急いで魔道書や筆記用具を片付けた。
 先を立ち上がり、教室を出ようとすると。

「コーコーちゃんっ!」

 後ろから声をかけられ、振り向くと三人の女の子たちがいた。
 声をかけてきたのは真ん中に立っている、キツイ化粧をした女の子だろう。

「えっ……と。どうしたの」

 聞かずとも要件は察していた。それでも一応、形式的に尋ねる。

「あのさー、私たち今からちょっと用事あるんだよね。でも私、今日課題忘れちゃってさー。教室の片付けしないといけないんだよね。ってことで、ココちゃんやっといてくれない?」


 やっぱりだ。


 そう思いながらも顔には出さないようにする。
 そして反射的に「いいよ」と答える。
 これもいつもの事だった。

「あっりがとー、ココちゃん優しー」

「「ねー」」

 三人の女の子たちはお礼を言うと、そそくさと教室を後にした。
 ざわざわとしていた部屋も、三人と話しているうちに皆出て行き、今はココ一人になった。
 静まる教室の中でココは頭を悩ませた。
 正直、片付けを任されることは全然いいのだ。
 彼女たちは掃除など、自分の手を汚してまでやる必要のない環境で生まれ育った。きっとお手伝いさんなど雇っていたのだろう。
 ココも、デイリー家に来てからは家事を自分ですることを良しとはされなかった。

 掃除をすると、なんだか心までピカピカになるような気がするから好きなんだけど、みんなには分かんないかな。

 ココはよく周りの子から雑用を頼まれたりする。
 それをいつも引き受けているため、いいように扱われているのだとは思う。
 だが、合法的に掃除などをできる環境は逆にココには好都合だった。
 だが今日は。

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