【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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48.恋を叶えちゃいました【完】

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 そんなこんなで家族で昼食を終え、その後遊び回っていたアベルとヘレナは暗くなる前には疲れたのかぐっすりと眠ってしまった。

「アベルとヘレナも馬車に乗せたし、そろそろ屋敷に戻りましょうか!」

「…………そう、だな」

 どこか歯切れの悪いロレンシオに気が付き、私は思わず顔を覗き込む。
 どこから躊躇うような顔つきに目を瞬かせた。

「どうしたの、ロレンシオ様。お腹でも痛くなった?」

「そうじゃない……が、いや、あのな……最近二人でこうしてゆっくりすごく時間なかったし」

 私は「ああ」と納得し、くすりとひとりでに吹き出した。最近は夫婦としての触れ合う時間が取れず、ロレンシオとしてももやもやしたままだったのだろう。
 いつもは澄ました顔をしている彼が内では焦燥感に苛まれ続けていたことを考えるだけで面白くなってしまった。

「……おい、なぜそこで笑う」

「ううん、ロレンシオ様が可愛くって。あと……すっごく嬉しいから!」

「……っ、そうか」

 横顔からでも頬が紅潮しているのが見て取れるのだが、あえてそこは触れずにおく。
 そして私は勢いに任せてロレンシオに抱きつく。突然のことに目を丸くしながらも、「しょうがないな」と言って甘やかせてくれるところが好きだった。

「あったかいです……」

「そうだな。少し冷えてきたし、上着でも取ってこようか?」

「大丈夫です。ロレンシオとこうしてひっついていれば風邪なんて引くことありません!」

「風邪を拗らせて、結果幽霊にまでなったのはどこのどいつだったか……」

 ロレンシオの言葉に思わず懐かしさを覚える。私たちは幽霊と、幽霊が見えるものだった。それだけの関係だったはずなのに、いつしか結婚し、子供を成し、家庭を作るまで至ったのだ。

「あのとき、ロレンシオ様が私を見つけてくれて本当によかったです」

 本音が漏れでるのは二人きりだからだろう。私は当時のことを回想しながら懐かしさに目を細める。

「最初はうるさくて鬱陶しい奴だと思ってたんだがな……」

「でも、好きになった?」

 私の問いに呆れた表情を浮かべたものの、ロレンシオは少しだけでれた様子で肯定する。

「私もロレンシオ様の優しさとどこか寂しそうなところ、好きになりました! あれがあったからこそ今、とっても幸せです」

「ほんと、フィンセント殿には感謝しなければな」

 そう言いながら私の栗色の頭を撫でていたロレンシオは一度その手を止め、身体を遠ざける。温かい体温から離され、目を丸くした私の耳元にロレンシオは口を寄せる。


「俺はお前と出会うことができて本当によかった。……ノンナ、俺はずっとお前のことを愛してる」


 普段は照れ屋で愛の言葉など囁かないロレンシオの予想外の行動に心臓が脈打つ。ドキドキしすぎて心臓が飛び出してしまいそうな気がした。

 顔を赤くしながらも、私はロレンシオに向き直って精一杯の笑顔を向ける。



「私もロレンシオ様のこと、ずーっと愛してますから。あのとき、恋しちゃダメだとずっと思ってたけど……恋が叶って良かったです」


 
 自分のことを幽霊だと思っていた私は恋などしてはいけないと思っていた。
 どんなにロレンシオが魅力的な男性で惹かれてしまうことは必至でも、私は幽霊で彼は現世の人間。運命が交わることなどないと思っていた。

 けれど結局のところ数奇な運命を辿りながら、私たちは結ばれた。
 私は言葉を続ける。


「ロレンシオ様、私のことを好きになってくれて本当にありがとうございます」


 幸せに満ち溢れた人生はこれからも永遠に続くだろう。ときに喧嘩したりとすれ違うことがあったとしても、今のこの気持ちを悪せることはない。

「ああ、俺はお前のことを好きになることができて本当によかった。これからも一生お前と共に歩んでいく」

「はい、あなたとともにーーーー」





 こうして幽霊だった令嬢と、王国一の美貌を持ちながらもその潔癖具合で女人を遠ざけていた男は幸せになりました。

 この二人の幸せは生涯続きましたとさ。めでたしめでたし。

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