【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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44.告白と求婚

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 その言葉を聞き、さらに頭に血が昇る。こんなに心臓が高鳴ったことなど人生で初めてだと感じるほど、私は胸を高鳴らせていた。

 ロレンシオは私に対して好きだと言った。
 これは紛れもなく告白だ。
 今までそんな素振りを見せなかった筈なのに、いきなりどうして。
 たしかに距離が縮まったなと思う瞬間はあったが、それは私の一方通行な感情だと思っていた。
 ロレンシオは王都でも優秀な騎士であり、由緒正しき伯爵家の出で、おまけにアデリーナという美しい婚約者候補にも恵まれている。

 それなのに私のような田舎令嬢で、迷惑ばかりかけている女を好きになるだなんて信じられなかった。

 けれど真っ直に私を見つめるその双眸には嘘を感じられない。それにロレンシオは虚実を述べるような軽薄な性格ではない。この告白は紛れもない真実なのだろう。

 そう結論に至った私の胸は喜びで満たされた。

 嬉しかった。
 
 思わずほろりと涙がこぼれ落ち、シーツにシミを作る。横に座っていたロレンシオは目を見張り、動揺している様子だった。

 私はそんなロレンシオに笑みを浮かべなら口を開く。

「私も…………私もロレンシオ様のことが大好きです!」

「の、ノンナっ!」

 言い切った途端、ロレンシオは横になった私の首に手を回し包容してきた。
 温かい熱が伝わり、悦びに満たされる。

 私はずっと気持ちを抑え続けていた。
 本当は出会ってから、ロレンシオのことが気になって仕方がなかった。
 彼のことを知れば知るほど近づきたいも思うようになった。

 好きだった幼馴染のアーベンのことなど忘れててしまうほど、ロレンシオばかり見つめていた。

 気がつけば私はロレンシオに恋をしていたのだ。

 真面目であり潔癖でもあり、それでも私のことを受け入れてくれる寛容さと慈愛の心を持つ彼のことを愛おしく思うようになっていた。

 けれど私は自分のことを死んだものとばかり思っていたため、この想いは伝えるべきでないと考えていた。
 ロレンシオには生きている美しい女性と家庭を作り、幸せになってほしいと願っていたのだ。
 
 だが実際に婚約になるかも知れないというアデリーナの姿を見た途端、もやもやと黒い感情が生まれてしまう。それは嫉妬だった。

 そんな嫉妬にまみれた私でさえ、ロレンシオは受け入れてくれた。余計に彼のことを好きになった。

「大好き、ずっと好きだったんです……で、でも言えなくって……」

 自然と溢れる涙は自分でコントロールすることは不可能だった。
 ロレンシオは苦笑いを浮かべ、私のこぼれ落ちた涙を拭いとる。

「俺はずっとわからなかったんだ。自分が誰かを愛せるなんて思いもしなかった。……でもノンナに出会って俺の中にも誰かを愛する心があるんだってことを知ったんだ」

「ロレンシオ様……」

「愛してる、ノンナ。だから俺と────結婚してくれないか?」

 いきなりのプロポーズに目を白黒させる。
 ロレンシオは穏やかに微笑みつつ、頬を赤らめていた。どこか熱に浮かされたような瞳から視線を外すことはできない。

 私はその熱に引きづられるように無意識に頷いていた。

「はい……私をお嫁さんにしてください……」

「….っ、ああ! ぜったいに幸せにする。約束するから」

「はいっ!」

 幸せに満ち溢れた空間に心がぽかぽかしていた。
 これからロレンシオと共に人生を歩んでいくことが楽しみでならなかった。

 私たちは自然と顔を寄せ合い、笑い合う。そして瞼を閉じ、引き寄せられるようにして唇を重ねた。

 そのキスは今までしたどのキスよりも甘く、そして温かいものだった。幸せに満ち溢れたキスをうっとりと味わう。

 だが。

 ガチャリ。

 突如、扉が開く音が聞こえ、その後にバタバタと人が床の上に倒れる音が耳に届く。
 思わず体を引き離し、音の下方向へと視線を向けると。

「ふ、フィンセント! それに父様と母様まで!」
 
 両親と弟が床の上へと倒れ伏し、思わず声を上げた。
 
「も、もしかして……今までの全部聞いてたの!?」

「ご、ごめんなさい、姉様……ど、どうしても気になるって父様が……」

「い、いやっ、私じゃなくフィンセントだ!」

 父と弟が言い合う様子をうまく倒れずにいた母様が見下ろし、笑っていた。
 呆然としていたロレンシオもいまや呆れている様子だ。

「ロレンシオ様と結婚するのは私としてもとっても嬉しいわ! さあ、ノンナの婚約祝いに盛大なパーティーを開かなきゃっ」

 嬉しそうに微笑みながら言うのは母様だった。満面の笑みを浮かべ、部屋を去っていく母様はぽつりと言い残す。

「今晩楽しみにしておいてね! いっぱい料理を作らなきゃっ!」

 貧乏な田舎貴族であるベルティーニ家にはメイドが一人しかいない。そのため、料理は母様が担当していた。

「楽しみだね、父様」

「ああそうだな、フィンセント」
 
 今まで床に転がっていたフィンセントと父はすっと起き上がり、体についた汚れを払う。
 そして楽しげに見つめ合って騒いでいた。

「本当にここの人たちは賑やかだな……」

 ぽつりとこぼすロレンシオの言葉に笑いが込み上げてきて、思わず彼の腕に抱きついた。

「今日からロレンシオ様も私たち家族の一員ですよっ! 色々と覚悟しておいてくださいね!」
 
 楽しげに言う私に対し。

「それは楽しみだ」

 ロレンシオは優しく微笑んでいた。

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