【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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42.ノンナの弟 ロレンシオside

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 俺はフィンセントと話すために口を開く。

「ここに君の姉様……ノンナがいる」

 手のひらの上に座るネズミに目を向けたフィンセントは目を潤ませた。
 どうやらネズミ姿でもノンナだとわかったらしく、眉を下げて見つめていた。

 ノンナはというとその小さな手を左右に大きく振り、自分をアピールする。
 チュウと鳴くその姿はまるで『大丈夫、心配しないで』と弟に伝えているようだった。

 おそらくノンナも場に似合わず自由気ままな心持ちなのだろう。彼女の性質からいって楽観的に捉えているのは想像がつく。

「姉様、本当にごめんなさい。あんなことになるなんて全然想像もつかなかったんです」

 フィンセントは震える声でネズミ姿のノンナに語りかけた。
 俺は手にいたノンナをフィンセントの手へと渡した。
 10歳を少し過ぎたくらいだろう、少年のフィンセントの手のひらは俺に比べて大分小さい。その中にすっぽり収まってしまうサイズとなってしまったノンナは一体どんな気持ちなのだろう。

 人間に戻ったらからかってやる材料が出来たと内心ほくそ笑みながら、家族の交流を眺めていた。
 俺とは違って暖かい家庭。
 互いが思いやっており、決してきれない絆がそこには合った。

 ぼんやりと眺めていると、フィンセントが俺の方へと顔を向ける。

「……ロレンシオ様、ここまで姉様を送ってくださり本当に感謝しております。この恩は決して忘れません」

「いや、気にするな。俺もノンナがネズミになってしまうまで何もすることができなかった。最初はノンナのことをいつも視界に入ってくる幽霊だと勘違いしていたんだ」

 俺はあの日々を思い出しながら語る。
 ノンナと初めて会ったときが遠い昔のようだった。まだ出会ってから数ヶ月しか経っていないはずなのに。

 その様子を見ていたベルティーニ男爵は頭を傾けなが俺に尋ねる。

「……娘が色々お世話になりました。ノンナのことです、色々とご迷惑をおかけしたことでしょう。あいつは昔から本当に落ち着きのないじゃじゃ馬娘で……」

「そうだな。あいつの破天荒ぶりには振り回され続けた」

 俺は呆れながらも笑った。
 弟のフィンセントは礼儀正しく、落ち着きのある様子であるのに姉のノンナはどうだ。まるで姉と弟ではなく、兄と妹のようである。
 
 するとそれを横で聞いていたフィンセントは純朴な視線を向け、口を開いた。
 
「あの……先ほどから姉様のことを呼び捨てにしていらっしゃるようですけど…………もしかしてロレンシオ様と姉様は……恋人同士になっちゃったりなんかして……」

「……ふ、フィンセント! く、口を慎まんか!」

 慌てた様子のベルティーニ男爵を尻目に、フィンセントはどこか探るような好奇心旺盛な目つきを向けてきた。この目線はノンナにとてもよく似ていた。

 俺はくっと言葉に詰まりつつ、フィンセントの手のひらの上にいるノンナに視線を送る。彼女はネズミ姿だから表情を読むことは出来ないが、顔を逸らしている様子からどこか気まずいと思っていることが伝わってくる。

「…………その話はまあ後ほど。先にノンナをネズミの姿から解放してあげましょう」

「あ、はい……そうでした。下世話な質問でしたね。このままでは姉様も可哀想ですしね」

 フィンセントは頭を掻きながら礼儀正しくお辞儀をした。口調がどこか空々しいのは気のせいだろうか。……もしかするとフィンセントは歳のわりに腹黒いのではと勘繰りそうになった。

 俺たちは部屋を移った。
 ノンナの肉体が寝かされている自室である。

 そこでベルティーニ男爵と夫人、そしてフィンセント立ち合いの元、ノンナの魂と肉体を融合させることとなった。

「僕、あれから一度も異能の力? ってやつを使ってないんですけど……大丈夫ですかね……」

 弱気な様子のフィンセントに俺はいう。

「まあとりあえずやってみよう。……もしダメならば王都にいる知り合いにでも相談するから気にするな。以前、ノンナの肉体と魂を切り離したときとは同じような気持ちと行動で行なってみるのがベストだろう」

「はい、分かりました」

 ネズミのノンナは現在、ノンナ自身の身体が寝かされているベッドのサイドに座っていた。
 フィンセントはそのネズミ姿のノンナの小さな手を取り、目を閉じる。
 うんうん唸りながら眉間に皺を寄せていると、やがてネズミの上にふわふわと白い塊が漂った。
 一方のネズミはくたりと力なくベッドへと沈んだ。死骸に取り憑いていたのでそういうことだろう。

 そしてその白いモヤはノンナの形に変化する。いつも見ていた幽霊のノンナだった。

 フィンセントは目を見開き、幽霊のノンナ見上げていた。

「あ、やっとネズミじゃなくなった! やったー!」

「ね、姉様……」

「フィンセント、感動の再会はあとでいいから、早く私を元に戻して!」

 きっぱりと言い切るノンナに彼女の両親もフィンセントも、そして俺も苦笑いを浮かべた。これでこそノンナだ。
 どうやら今の幽霊姿のノンナは全員に見えているみたいだ。

 俺たちが安心したところで、フィンセントは寝ているノンナの肉体の手を握る。先ほどと同じように行動すると、ノンナの魂はすっと体へと吸い込まれていった。

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