【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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41.いざベルティーニ領へ ロレンシオside

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 新たな発見にアデリーナは興奮していたが、それを置いて俺は城を出た。
 すぐにでもベルティーニ領へと出発するべきだと考えたからだ。
 
 一応2ヶ月半の休暇はもらっているが、なにか不足の事態が起こる可能性も加味しなければならない。
 あまり騎士団を休むのも気がひけるため大幅な休みを申請するのは気が引けたのでこの期間にしたので急がなければならない。

 ベルティーニ寮まで行くためにまずは御者を雇わなければならない。
 普段雇っていた御者はフォンターナ経由だったため、城下町で依頼するのがベストだろう。冒険者組合に頼むことができれば容易いことだ。

 そんなこんなで準備が全て整ったのは翌日だった。
 屋敷の管理を新たに雇ったメイドと家令に任せ、ネズミ姿のノンナと共に王都を出発した。

 ベルティーニ領までの旅は比較的平凡に過ぎていった。
 途中で魔獣に襲われことも数回あったが、俺でも倒し切れるほどの強さだった。

 そして1ヶ月後。
 無事、ベルティーニ領までたどり着くことができた。

「すみません、私ロレンシオ・フォンターナと申します。ノンナ嬢の件で少しお話を聞きたいと思い、お訪ねしたのですが」

「……フォンターナ様……ああ、フォンターナ伯爵家の御子息の方ですか! お、恐れ入ります。少しだけお待ちくださいませ」

 訪れる前に手紙などは出すことが出来なかったため、対応したメイドは驚愕の表情を浮かべていた。
 なにせこの馬車出でできる限り早くベルティーニ領へと到着するために飛ばしてきたのだ。早馬を飛ばして手紙を届けてもおそらく到着と同時くらいになる。

 それにそこまで気を遣っている時間も余裕もなかった。
 なにせノンナは今もまだずっとネズミの姿なのだから。
 
 俺は屋敷内に通され、応接間らしき場所で待機していた。
 フォンターナの屋敷に比べて質素なのは田舎だからだろうか。

 ノンナを手のひらに下ろし、周囲を見渡していると。

「大変お待たせいたしました! 私、このベルティーニ領を統括しております、ジルベルト・ベルティーニと申します。この度は長い道のりの中、お越しくださり誠にありがとうございます」

 そう言って目の前に現れたのはノンナの父親らしき壮年の男だった。
 ノンナの顔立ちにはあまり似ておりず、彼女は母親似なのかと内心考える。

「恐れ入ります。それで、本日お尋ねしたのはお宅のお嬢さん、ノンナ嬢の件なのですが」

「は、はい……の、ノンナは今病で臥せっておりまして……」

「存じております。そうではなく、ノンナ嬢がなぜ目覚めないのかということと────お宅の子息であるフィンセント殿に関することでお尋ねしたいのです」

 俺がノンナの弟であるフィンセントの名前を出すと、途端に男爵の顔色が変わった。
 一気に汗が吹き出し、落ち着かない様子にやはり何かあるのかと考える。

 けれど余計に警戒されてしまうことを恐れて、まず初めにその警戒心を解くことに専念すると決めた。

「……ご安心ください。別段、フィンセント殿を捕まえたり危害を加えるためにやってきたわけではございません」

「…………それでは、なぜ……」

 男爵は上目遣いで恐る恐る尋ねる。

「私はノンナ嬢がフィンセント殿の異能の力によって目覚めなくなってしまったことを知っているのです。そして私────俺は……俺の目的はノンナを目覚めさせたい。ただそれだけです」

「い、異能の力……あれはそう呼ばれているものなのですね」

「やはりすでにご存知でしたか」

 ある種の賭けであったが、男爵はぽろりとフィンセントに関することをこぼした事により予想が確信へと変わる。
 やはりノンナが魂だけの存在になったのは、フィンセントの異能の力のせいだったのだ。

 俺はノンナとの出会いから今までのことをすべて話すことに決めた。
 当初男爵はネズミの姿のノンナを見て怪訝な顔をしていたが、ネズミではありえない仕草やノンナに関する情報を伝えるとあっさりと信じてくれた。
 
 いかに動物の姿であっても実の娘ならばどこか繋がるところを感じ取ったのだろう。俺でもノンナだとなんとなく分かったのだ。生まれた時から知っている娘のことはすぐに分かったようだった。

「それで、フィンセント殿のお力を借りることはできますでしょうか? ノンナの魂をものの体にとさ戻すためには彼の力が必要なのです」

 その答えを男爵が口にする前に。

「僕が姉様を元通りにします」

 子供の声が遮った。

 その声の主に顔を向ける。
 彼は幼い少年で、ノンナの顔立ちによく似ていた。
 すぐに彼がフィンセントだと分かり、俺は席を立ち上がって彼の前へと移動する。

「君はノンナの弟のフィンセント殿だね? 先程の話、聞いていたのかい」

「はい……僕のせいで…………僕が姉様を救いたいと願ったせいで、逆に姉様が目覚めなくなってしまったんです……」

 少年は涙を流しながら訴えた。

 どうやら熱で寝込んでいたノンナに対し『早くよくなってほしい』と願いを込めて手を握ったところ、何か生気のようなものがスッと抜けたのを彼自身と両親が目撃したらしい。
 最初は幻覚だと疑った3人だったが、熱が下がっても全く目を覚ますことのないノンナをみて、これはフィンセントの力なのではと疑いを持ったそう。

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