【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

文字の大きさ
上 下
39 / 48

39.老女との会話 ロレンシオside

しおりを挟む

「失礼する」

 俺はボロ屋の扉をくぐった。
 牢へと閉じ込められておそらく4日ほどは経過している。ここへくる途中、新聞売りの少年から一部購入して日付とここ数日あった出来事について確認した。

 出来事についてはどうやら王太子が廃嫡となり、第二王子が王太子となることが決定したという驚きのニュースがあったが。
 だがそれ以外は特に目立つニュースはなかった。普通ならばヨーゼフあたりが何かしら騒ぎ出すはずだ。

 けれど俺がいなくなった言葉別段騒ぎになっておらず、予想するに父が裏で手を回したのだろう。

「……なんじゃ、約束よりもずいぶん早いね。まだ身体は届いてないよ」

「ああ、わかってる。実は身体をこの王都へ持ってきてもらうのを取りやめたいんだ。もちろん金は全額払う」

「急だね。……一体どうしたんだい? 何かあったのかね」
 
 老女は怪訝な顔つきで尋ねてくるが、俺は首を横に振った。

「実は俺自身が直接ベルティーニ領まで赴こうと思っていて。いろいろあったんだ」

「そういや主は父親にとっ捕まったんじゃったな。それで地下牢にでも入れられて、なにか心境の変化でもあったのか?」

 この情報屋はやはりなんでも知っていると空恐ろしく思ったが、顔に出すことなく「さあ」と肩をすくめた。
 教えてやる義理はないからだ。

 あったのは心境の変化ではなく、状況の変化だ。ノンナの身体ももちろん必要ではあるが、その前にネズミの身体から魂を引き離すことが第一の目標となった。

「まあこちとら金さえ払ってくれればなんでもいい。まだ身体はベルティーニから運んでもいないし、こちらにはなんの損害もないからの。……じゃが、ひとつ教えておくぞ」

「……? 一体なんですか」

「ノンナ・ベルティーニの両親は何か秘密を抱えておる。その秘密が原因で、お嬢ちゃんが死んだという噂がたったともっぱらの予想じゃ」

 ノンナが死んだという噂の原因は彼女の両親?

 予想外の事実に面くらい、老女の言葉を追及した。

「その秘密っていうものは一体なんですか? ご存知であれば教えてください」

「ほうほう、教えてやるのもやぶさかではない。じゃがな。その前にほら、これ」

 老女は金を催促してきたため、懐を探る。だが。

 そういえば牢屋から直接この店へやってきたため、持ち合わせがなかった。先程使った新聞代でほとんど使い切ってしまっていたのだ。

「……すみません、今は持ち合わせがないので後日きちんとお支払いします。ですので今教えていただくことは出来ませんか?」

「しょうがないのぉ。まあよい。お主は約束を平気で破る男ではないからな。今までの信頼に応えた先に教えてやる」

 そう言って老女はニヤリと口を歪めた。
 胸ポケットのノンナもどこか落ち着かないのかゴソゴソと動き回っているのを感じる。俺は『落ち着け。そして大人しくしていろ』とのメッセージを込めて、軽く胸ポケットを撫でた。

 ノンナもどこか落ち着いたのか動きが止まる。

「おそらくお嬢ちゃんの両親が隠しているのは二人のもう一人の子ども──ノンナ・ベルティーニの弟、フィンセント・ベルティーニについてじゃと予想しておる」

「ノンナの弟?」

「そうじゃ。その弟とやらがお嬢ちゃんに関する何かに関わっており、それを両親が隠すための隠れ蓑として死の噂を流したのではないかと」

 俺は思わず納得を覚えた。
 たしかに何か重要なことを隠すための隠れ蓑にするためにノンナの死の噂をばら撒くのはメリットになる。
 
 そしてその重要なことのというのは、ノンナの肉体と魂が分断されてしまったことと何かしら関わりがあるのではないかと予想がついた。

 なにせこの1ヶ月以内でこのような重大なことがベルティーニ領内で立て続けに起こっているのだ。それら全てに何かしらの関わりがあるのではないかと考えるのは当たり前だろう。

 もし仮にその弟──フィンセント・ベルティーニがノンナの魂と肉体を分断した張本人であれば、逆にノンナを直せるのは彼しかいない。
 
 ベルティーニ領へ行く理由がまた一つ増えた。

 そう思い胸ポケットに視線を向けると、ノンナネズミも顔を出し、俺の顔を眺めていた。真っ直ぐな瞳からノンナの意思が伝わってくる。

 おそらく彼女もベルティーニ領へ行きたいのだろう。

 弟のことが心配ということもあるだろう。なにせ家族なのだから。
 俺のようなバラバラな家族とはわけが違う。

「……情報提供感謝いたします。またまとめて情報に関する代金をお待ちします」

「ふぅ、お主は真面目な若者だねえ。まあ今回の情報はタダでいい。いつも利用してくれてる礼だ。……ただ、以前頼んできた身体を持ち出す依頼に関しては全額払ってもらうからね」

「分かっております。本当に感謝します」

 俺はそう言って頭を下げ、店を出た。

 路地裏でノンナネズミを掌の上に出し、語りかける。

「なるべく早く王都を出発してベルティーニ領へと向かうことにする。だが騎士団のことなど色々と準備が必要だ。なにせベルティーニ領までは1ヶ月近くかかるからな」

 チュウッ!

 ネズミは大きく鳴き、俺の意見に肯定してくれた。

 動物になってしまったノンナを見て内心、寂しく思う。以前ならば元気よく語りかけてくれていた。鬱陶しいとも思った日もあったが、あの日々が今は懐かしくさえ思う。
 
 俺は早くノンナをネズミの身体から解放してやりたいなと内心思ったのだった。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

風のまにまに ~小国の姫は専属近衛にお熱です~

にわ冬莉
恋愛
デュラは小国フラテスで、10歳の姫、グランティーヌの専属近衛をしていた。 ある日、グランティーヌの我儘に付き合わされ、家出の片棒を担ぐことになる。 しかしそれはただの家出ではなく、勝手に隣国の問題児との婚約を決めた国王との親子喧嘩によるものだった。 駆け落ちだと張り切るグランティーヌだったが、馬車を走らせた先は隣国カナチス。 最近悪い噂が後を絶たないカナチスの双子こそ、グランティーヌの婚約者候補なのである。 せっかくここまで来たのなら、直接婚約破棄を突き付けに行こうと言い出す。 小国の我儘で奔放な姫に告白されたデュラは、これから先を思い、深い溜息をつくのであった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...