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39.老女との会話 ロレンシオside
しおりを挟む「失礼する」
俺はボロ屋の扉をくぐった。
牢へと閉じ込められておそらく4日ほどは経過している。ここへくる途中、新聞売りの少年から一部購入して日付とここ数日あった出来事について確認した。
出来事についてはどうやら王太子が廃嫡となり、第二王子が王太子となることが決定したという驚きのニュースがあったが。
だがそれ以外は特に目立つニュースはなかった。普通ならばヨーゼフあたりが何かしら騒ぎ出すはずだ。
けれど俺がいなくなった言葉別段騒ぎになっておらず、予想するに父が裏で手を回したのだろう。
「……なんじゃ、約束よりもずいぶん早いね。まだ身体は届いてないよ」
「ああ、わかってる。実は身体をこの王都へ持ってきてもらうのを取りやめたいんだ。もちろん金は全額払う」
「急だね。……一体どうしたんだい? 何かあったのかね」
老女は怪訝な顔つきで尋ねてくるが、俺は首を横に振った。
「実は俺自身が直接ベルティーニ領まで赴こうと思っていて。いろいろあったんだ」
「そういや主は父親にとっ捕まったんじゃったな。それで地下牢にでも入れられて、なにか心境の変化でもあったのか?」
この情報屋はやはりなんでも知っていると空恐ろしく思ったが、顔に出すことなく「さあ」と肩をすくめた。
教えてやる義理はないからだ。
あったのは心境の変化ではなく、状況の変化だ。ノンナの身体ももちろん必要ではあるが、その前にネズミの身体から魂を引き離すことが第一の目標となった。
「まあこちとら金さえ払ってくれればなんでもいい。まだ身体はベルティーニから運んでもいないし、こちらにはなんの損害もないからの。……じゃが、ひとつ教えておくぞ」
「……? 一体なんですか」
「ノンナ・ベルティーニの両親は何か秘密を抱えておる。その秘密が原因で、お嬢ちゃんが死んだという噂がたったともっぱらの予想じゃ」
ノンナが死んだという噂の原因は彼女の両親?
予想外の事実に面くらい、老女の言葉を追及した。
「その秘密っていうものは一体なんですか? ご存知であれば教えてください」
「ほうほう、教えてやるのもやぶさかではない。じゃがな。その前にほら、これ」
老女は金を催促してきたため、懐を探る。だが。
そういえば牢屋から直接この店へやってきたため、持ち合わせがなかった。先程使った新聞代でほとんど使い切ってしまっていたのだ。
「……すみません、今は持ち合わせがないので後日きちんとお支払いします。ですので今教えていただくことは出来ませんか?」
「しょうがないのぉ。まあよい。お主は約束を平気で破る男ではないからな。今までの信頼に応えた先に教えてやる」
そう言って老女はニヤリと口を歪めた。
胸ポケットのノンナもどこか落ち着かないのかゴソゴソと動き回っているのを感じる。俺は『落ち着け。そして大人しくしていろ』とのメッセージを込めて、軽く胸ポケットを撫でた。
ノンナもどこか落ち着いたのか動きが止まる。
「おそらくお嬢ちゃんの両親が隠しているのは二人のもう一人の子ども──ノンナ・ベルティーニの弟、フィンセント・ベルティーニについてじゃと予想しておる」
「ノンナの弟?」
「そうじゃ。その弟とやらがお嬢ちゃんに関する何かに関わっており、それを両親が隠すための隠れ蓑として死の噂を流したのではないかと」
俺は思わず納得を覚えた。
たしかに何か重要なことを隠すための隠れ蓑にするためにノンナの死の噂をばら撒くのはメリットになる。
そしてその重要なことのというのは、ノンナの肉体と魂が分断されてしまったことと何かしら関わりがあるのではないかと予想がついた。
なにせこの1ヶ月以内でこのような重大なことがベルティーニ領内で立て続けに起こっているのだ。それら全てに何かしらの関わりがあるのではないかと考えるのは当たり前だろう。
もし仮にその弟──フィンセント・ベルティーニがノンナの魂と肉体を分断した張本人であれば、逆にノンナを直せるのは彼しかいない。
ベルティーニ領へ行く理由がまた一つ増えた。
そう思い胸ポケットに視線を向けると、ノンナネズミも顔を出し、俺の顔を眺めていた。真っ直ぐな瞳からノンナの意思が伝わってくる。
おそらく彼女もベルティーニ領へ行きたいのだろう。
弟のことが心配ということもあるだろう。なにせ家族なのだから。
俺のようなバラバラな家族とはわけが違う。
「……情報提供感謝いたします。またまとめて情報に関する代金をお待ちします」
「ふぅ、お主は真面目な若者だねえ。まあ今回の情報はタダでいい。いつも利用してくれてる礼だ。……ただ、以前頼んできた身体を持ち出す依頼に関しては全額払ってもらうからね」
「分かっております。本当に感謝します」
俺はそう言って頭を下げ、店を出た。
路地裏でノンナネズミを掌の上に出し、語りかける。
「なるべく早く王都を出発してベルティーニ領へと向かうことにする。だが騎士団のことなど色々と準備が必要だ。なにせベルティーニ領までは1ヶ月近くかかるからな」
チュウッ!
ネズミは大きく鳴き、俺の意見に肯定してくれた。
動物になってしまったノンナを見て内心、寂しく思う。以前ならば元気よく語りかけてくれていた。鬱陶しいとも思った日もあったが、あの日々が今は懐かしくさえ思う。
俺は早くノンナをネズミの身体から解放してやりたいなと内心思ったのだった。
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