【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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31.肉体と魂の分裂

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 私はアデリーナの言葉を聞いて考える。

 私という存在はその異能の力の延長線上にあるのではないかと。
 元々はただ熱を出して寝込んでいただけだったのに、気がつけば王都で魂だけの存在となっていた。なぜなのかわからないが。

「…………ロレンシオ様、私のこと、アデリーナ様に話してください。何かわかるかもしれません」

 ロレンシオは黙ったまま一瞬だけ私のいる方に視線を向けるが、すぐに逸らされる。

「お願いします。……これ以上、ロレンシオ様に迷惑をかけたくないんです!」

「……っ」

 息を呑み、眉間に皺を寄せるロレンシオ。
 私はその隣に腰掛け、袖口を掴んでいい募る。

「ダメで元々です。少しでも何か手がかりがあれば…………」

「わかった」

 ロレンシオは頷き、私の手を握った。
 アデリーナは小首を傾げてその様子を見ていたが、はっとしたようにロレンシオに視線を向けた。

「……もしかして、そこに何かいるんですか?」

「ああ。ここにはノンナと呼ばれる女性がいる。昨日あのバルコニーで俺と話していたのはこいつだ」

「ああ……」

 納得いったような面持ちで軽く頷いたアデリーナは私のいる場所に目を向ける。
 見えているわけはないのだろうが、その瞳の奥には隠しきれない好奇心が感じ取れる。
 人形のような空虚な普段の姿からは想像もつかないほど目をキラキラとさせ、まるで子どものようだった。

「すごい……私、魂だけの存在なんて初めて見ましたわ。実際に見えてはいないんですが……」

「アデリーナ様ってなんだか面白い人ですね!」

 私がにこやかに笑っていると、ロレンシオは呆れたようなため息をつく。
 その様子にアデリーナはどうしたのかと尋ね、私の言っていることを間接的に伝えてくれた。

「……魂だけの存在と間接的にはなしてしまいました……こんな機会滅多にないのに……わたくし、感動いたしました」

 アデリーナはどうやら異能の力関係の話題になると案外直情的なようで、あっさりと私の存在を認めてくれた。

「それで、このノンナというやつが一体どうしてこのような姿になってしまったのか、あとはこの状態から戻ることはできるのかどうかを知りたいのですが……」

「そうですね。わたくしがこれまで見てきた文献の中でいくつか思い当たる節はあります」

「本当ですか!?」

 思わず身を乗り出して尋ねる私に対し、ロレンシオはうるさいと言った視線を寄越してきたので大人しく席へと座り直す。
 少しだけ興奮しすぎてしまったのかもしれない。

「……それで、その思い当たる節とは?」

「いくつかあるんですが、一つは人を殺してその魂を悪霊へと変換させ、自身の配下に加える異能」

 ロレンシオは首を振って言い放つ。

「それはなさそうです。ノンナは悪霊ではありません。意思疎通も取れますし、悪霊のように醜くない」

「ロレンシオ様は悪霊を見たことがあるのですか!?」

 アデリーナも先程の私と同じくらい興奮して口を押さえながら叫んだ。
 彼女は自分の行動に照れを感じたようで、軽く咳き込み姿勢を正す。

「申し訳ありません。話を続けさせていただきます。……悪霊でなければ、あと一つ。──肉体と魂を分離させる異能の力というもの。それが太古に存在していたと記されていた文献を見たことがあります」

 私はアデリーナの言葉を噛み砕くように繰り返す。

「肉体と魂を切り離す…………それはどんな意味を持つんでしょうか。そんなことをしていったいなんの意味が……」

「空の肉体に自身の魂を入れることによって、別人に成り代わることができる。そしてもし仮に魂の入っていた肉体が致命傷を受けたとしても、新たな肉体があれば死ぬことはない……」

 ロレンシオの言葉に納得する。
 たしかにそう考えればものすごい異能かもしれない。

「そうです。その異能の力を持つものが自分ではない誰か──この場合ノンナさんに使われたと考えることが合理的な答えでしょう」

「でも……私、そんなの使われた記憶なんてこれっぽっちもありませんよ」

 熱でうなされていた私は自室のベッドで横になっていた。自室は家族や数名や使用人以外は立ち入ることはないし、わざわざ外部から侵入して私にその異能の力を使ったというのもおかしな話だ。

「ノンナは『異能の力を使われた記憶はない』と言っていますが……」

「それならば、使用者が無意識のうちに使っていたという可能性もあります。……ですが、使った本人でなければ何故そんなことをしたのかなんて分かりませんので、考えるだけ無駄です」

 アデリーナはばっさりと切り捨て、そして続け様に言った。

「たしかこの力にはある欠点があったと思います。…………魂のみで長時間い続けることは出来ないという欠点が」

 私とロレンシオは同時に絶句した。
 ロレンシオは恐る恐る尋ねる。

「もし長時間魂のままなら……一体どうなるんですか?」

「……消えてなくなってしまうらしいです」
 
 その話が本当であれば、私もいつか消えてしまうのかもしれない。
 
 たしかに考えとしては道理にかなっている。普通は肉体と魂で一つの人間であるはずなのに、それがバラバラになっているだなんて世界の法則に反しているとしか思えない。

 次第に消えてしまうということは予想がつく。
 
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