【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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30.異能の力は秘密の力

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「わたくしは決してロレンシオ様を貶めようと考えて尋ねているわけではないのです。ただ、一つ思うことがありまして……」

「……思うこととは?」

 ふわりと微笑むアデリーナに厳しい目を向け続けるロレンシオは疑いの眼差しをやめようとはしない。
 私も宙に浮きながら緊張感のある空気に唾を飲み込んだ。

「……ロレンシオ様は幻覚を見ていたわけでも妄想の中で話していたわけでもなく────そこにいる見えない誰かと話していたんじゃないかと」

 背筋がぞくりと冷え、体全体が汗ばんできたような感覚を覚えた。
 ロレンシオもアデリーナの話に言葉を失っている様子だった。
 
 アデリーナの言っていることは合っている。的確すぎて恐ろしいほどに。

 固まる私たちを横目にアデリーナは続けた。

「わたくし、意外とそういう分野に詳しいのです。少しばかり昔から興味があって」

「……そういう分野、とは?」

「もちろん超自然的な分野、いにしえから伝わる黒魔術や錬金術に関する分野とも言えますわね」

 黒魔術? 錬金術?
 日常では聞くこともない言葉の連続に狼狽する。ロレンシオも戸惑いの面持ちを隠せない様子だった。

 眼前の淑女の中の淑女を絵に描いたようようなアデリーナの口からそのような言葉が出たことにも驚きを隠せないし、そもそも超自然的な分野など未知すぎて反応にも困る。

 アデリーナはその分野に興味があると宣言したのだ。驚くのも無理はないだろう。

「…………あなたの言い分は分かりました。それで、その黒魔術や錬金術が私とどのような関係があるんですか? ただ一人で話していただけなのに」

「こういう言い伝えがあります。……世の中には幼少期から人には分からないものが見えたり聞こえたりする人間がいる。例えば恨みを残して死んだ人間の幽霊、人の感情、これから起こる未来の出来事など。いわゆる異能の力のことです」

「異能の、力……」

 ロレンシオはぽつりと呟いた。
 その様子をみて口元に小さく弧を浮かべたアデリーナは続ける。

「ロレンシオ様もその異能の力をもつ人間に当てはまるのではと思った次第です。そして黒魔術や錬金術というのはそういう力を人工的に作り出そうとした結果、人の手によって生み出されたもの──いわゆる人工の異能力ってやつですわね」

 たしかに太古の時代には魔法使いや占術師、錬金術師などが存在したという伝記が残されている。そのことは王国に住む民なら誰でも知っているだろう。

 けれどそれはあくまで昔の出来事であり、今の時代では物語として語り継がれているもの。寝る前に子どもたちに読み聞かせる本のような不確かで、大人は誰も信じてはいないものである。  

 この王城には悪霊を寄せ付けないようにする結界が張ってあるらしいが、それ自体もただのおまじないのようなものだと考えられている。ロレンシオしかその結界を視認することは出来ないからだ。

 しかしながら考えれば私や、幽霊を視認できるロレンシオは常識はずれの存在であり、異能の力と言えば説明もつく。

 ロレンシオも私と同じように感じたようで、アデリーナに詰め寄るように話しかける。

「その異能の力というのを持っている人間は他にもいるのか? 人工的に生み出せる異能の力があるということは今も使われることがあるのだろうか?」

「……少し落ち着いてください。すべて教えて差し上げますから、そんなに急がなくてもよろしいですのに」

「す、すまない……」

 よほど必死だったのだろう。ロレンシオは額に汗を浮かべながら謝る。
 たしかにロレンシオは幼少期から幽霊を視認できると言っていた。人とは異なるその力は彼にとって多くの影響を与えてきたに違いない。
 自分と同じような力を持つ人間が他にもいるという可能性は彼にとって大きいのは予想もつく。

「まず、異能の力を持つものが他にもいるかという問いですね。──答えは、います。私も色々と異能に関する伝記を読んできましたが、何人か存在していたことは確認されてきました」

「そ、そうか……」

「けれど、異能の力というものは人の領域を超えた力。見つかった人は確実に権力者なは利用されていくものだということです。元々地位の高いものが持って生まれればどうにでもなるでしょうが、力も持たない貧民や奴隷であれば……」

 その言葉の続きは言われなくても簡単に想像がついた。
 異能の力を持つ人というのは何も持たない人間から見て、人ならざるもののとも言える。
 そんな人ならざるものの末路は地獄しかない。監禁拘束され搾取され続け、しまいにはボロ雑巾のように捨てられる。

 そう考えるだけで背筋に寒気が襲った。

 ロレンシオだってそうだ。
 ただ幽霊が見えるというだけならばほとんど支障はないが、私みたいな意思を持つ幽霊と協力関係を結べば、確実にバレない諜報活動などでも活用することができる。

「異能の力を持つものはほとんど表舞台には姿を表しません。確実にその時代の権力者の手によって利用されるということが分かるからです。……逆を言えば、その異能を使って権力者にまで上り詰めた人間もいたことがあると伝記には書かれておりましたが」

「……そうなのか。理解した」

 ロレンシオは硬い面持ちで頷いた。


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