【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

文字の大きさ
上 下
20 / 48

20.頭を悩ませる色々 ロレンシオside

しおりを挟む

 俺は言われた通りな席へと着く。
 メイドたちが次々と温かい食事を運んでくるのを尻目に、父は口を開く。

「婚約者候補を見繕った。そろそろ身を固めなさい」

 父は口元をナプキンで拭いながら言う。
 俺はその言葉にまたか、と呆れ果てた。婚約者を押しつけてくることはこれまで何度もあった。だがそのたびに何かしらの理由をつけて断ってきた。

 理由としてはまだ騎士団の仕事に集中したかったからということ。そして騎士団に所属する限り、命の危険と常に隣り合わせだということだった。
 もし俺が戦いで命を落とせば、結婚相手の女性は未亡人となる。相手にも申し訳ないし、俺としても面倒なしがらみは避けたかった。

「父上、以前も申し上げましたが、俺はまだ結婚するつもりはございません」

「……そういうと思った。だがな、今回はお前の意思など関係ない。相手が相手だからだ」

「…………その相手というと?」

 嫌な予感がした。
 父は隣国から帰ってきたばかり。
 帰国してから婚約者など見繕う時間など限られていた。ということは。

「帝国のビクセーネ公爵家令嬢、アデリーナ嬢だ」

 俺は思わず眉をしかめた。
 帝国は父が赴いた隣国であった。
 ということは、外交先で話を受けたのだろう。

「俺は隣国に行く気はさらさらありません」

「それは心配しなくてもいい。アデリーナ嬢は王国に留学後、そのまま定住することが決まっておる。ちなみに彼女はすでに王国内に到着し、現在は王城内にて来賓として迎え入れている」

「それは嫁ぐために、ということですか?」

 俺は全て勝手に進められている現状に胸糞悪さをおぼえながらも口を開く。
 せっかくの食事もこう迷惑な話では味わうことも出来ない。

「もちろんそれもあるのだが……彼女は王国の文化に興味があり、学びたいのだと自ら志願したのだよ。勤勉な方だ。でだ、アデリーナ嬢と共にビクセーネ公爵もこの度王国へといっとき滞在されることとなったのだ。まあいわゆる外交という奴だ」

 父が外国に赴くのと同じことだろう。

「それを祝して歓迎の舞踏会を催すことになったのだ。そこでお前にはアデリーナ嬢のエスコートを頼みたい」

「……なぜ俺なんですか? 他に身分の高いお方は大勢いらっしゃるでしょう」

「簡単なことだ。お前は王国の騎士であり、未婚の男。さらに婚約者候補になる可能性も高い。そしてなによりその美貌だ。アデリーナ嬢もたいそう美しい女性だと聞き及んでいる。お前と並べばさぞかし舞踏会も盛り上がることだろう。王もそれを望んでいる」

 くだらない。
 俺は思わずそう吐きそうになった。
 だが、貴族の一員として、そして王国騎士として、王の望みを無碍にすることはできない。

 やるしかないのか。
 鬱々とした感情が心を支配する。

 そのアデリーナ嬢とやらの婚約者候補などうまく断らなければならない。
 また胃痛の種が増えた俺は、誰にも気付かれないようにうんざりした表情を浮かべた。





 そのまま父との会話も終わり、俺はその足で知り合いの情報屋を尋ねた。
 情報屋の店は城下町の賑わう市場を外れたとこりに存在する。
 ひっそりと佇むボロ屋ではあるが、俺は成人してからたびたび利用していた。

「いらっしゃい、フォンターナのお坊っちゃん。以前の依頼の件、報告がきてるよ」

「すまない、感謝する」

 話しかけてきたのはこの店の店主である老婆だった。枯れ木のような容貌をしている彼女だったが、この国で1番の情報網を持っているという噂もあるほどの影の支配者だった。

 初めてこの老婆を見たときは、いつも勝手に視界に入ってくる幽霊だと勘違いしたものだ。ぎょっとした俺に「化け物を見るような目で見るんじゃないよ」と一喝した老婆の記憶は記憶に深く刻まれている。

「男爵家のお嬢ちゃんの件だったね」

「はい……彼女はやはり既に亡くなっているのですか?」

「それがねぇ。噂ではノンナ・ベルティーニは死んではいないって言われているんだよ」

 俺はその言葉に驚きと、そして同時に納得を覚えた。
 老婆は続ける。

「だが死ぬのは時間の問題だと言われてる。嬢ちゃんの両親はいろんな名医に見せてるらしいが、一向に目を覚ます気配はない。むしろどんどん衰弱していってるらしい」

「そう、ですか……」

「まあこれは全て噂なんだがね。調査している奴は領内でその話を聞いたものの、実際にお嬢ちゃんを見ることは叶わなかったらしい。……一部領民の間では、すでに彼女は亡くなっているのだがそれをあえて両親が隠しているっていう噂もあるくらいだ」

 一体どういうことなのか。
 なぜ領内で生存説と死亡説の両方の噂が飛び交っているのか不思議だった。
 俺は老婆にお礼を言い、依頼料を渡す。引き続きノンナに関する情報を探るように依頼をした。

「うむ、料金よりも多いようだが?」

「ああ、もう一つ依頼を頼みたいのだが──」

 俺は依頼内容を話し、店を出た。
 
 すでに暗くなった辺りには酔っ払いの姿や娼婦などが夜の街を賑わせていた。
  
 そのまま帰路に着きながら、俺は考え込んだ。

 ノンナは本当に幽霊なのか。
 出会った当初から思っていたことだった。
 意思疎通もとることができる彼女は今までに出会った幽霊とは全く別物の存在のように感じた。だからこそ、影でノンナに関する情報を集めていたのだ。

 もしノンナが幽霊でなければ、彼女は生きた体も持つ魂が実体化したものになる。

 そういえば老婆はどうやってノンナの情報を集めたのだろうか。ベルティーニ領までは馬車で1ヶ月もかかるらしいし、現実としてこの数日で調べることが出来ることはおかしい。

 俺は頭を悩ませながら屋敷へと歩いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

風のまにまに ~小国の姫は専属近衛にお熱です~

にわ冬莉
恋愛
デュラは小国フラテスで、10歳の姫、グランティーヌの専属近衛をしていた。 ある日、グランティーヌの我儘に付き合わされ、家出の片棒を担ぐことになる。 しかしそれはただの家出ではなく、勝手に隣国の問題児との婚約を決めた国王との親子喧嘩によるものだった。 駆け落ちだと張り切るグランティーヌだったが、馬車を走らせた先は隣国カナチス。 最近悪い噂が後を絶たないカナチスの双子こそ、グランティーヌの婚約者候補なのである。 せっかくここまで来たのなら、直接婚約破棄を突き付けに行こうと言い出す。 小国の我儘で奔放な姫に告白されたデュラは、これから先を思い、深い溜息をつくのであった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...