【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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21.ドレスと令嬢

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「こんなドレス……私、初めて着ました! 家にあったのは型の古くなった母様のものか、中古の安物ばかりで。裾とかボロボロになっていたのでそれを繕って着てたんです!」

 私はふわりと裾のチュールが広がる薄紫のドレスを翻しながら子供のようにはしゃいでいた。
 そう。
 今日は王宮で盛大な舞踏会が催されるのだ。私の2つ目の未練である《舞踏会に参加してみたい》というものを叶えるのにぴったりのタイミングだ。

 先日、ロレンシオからもうすぐ舞踏会が開かれることになるが参加するかと尋ねられ、私は二つ返事でもちろんしますと答えた。
 そのときのロレンシオはなんとも形容し難い表情を浮かべていた。

『実はこの舞踏会には私の婚約者になる可能性のある女性が来る。そのエスコートを父から頼まれたので、お前の相手はできんかもしれない』

 ロレンシオはいまいち納得できないない様子でいい募る。どうやら婚約者の話は寝耳に水だったようだ。

 婚約者。
 ロレンシオのその言葉を聞いて、ちくりと心臓が傷んだ気がしたのは気のせいだろう。
 最近一緒に過ごしすぎたせいだ。
 彼が名門貴族の出で、将来は名のある名家の令嬢と結ばれることは分かりきっている事実なのに。

 共にいる時間はそれを忘れさせてしまっていたのだろう。

『もちろん、私は大丈夫です! 気にせずご令嬢のエスコートをしてくださいね。私は勝手にふわふわパーティー会場内を飛んでますので。ああ、パーティー料理楽しみだなぁ』

 頭から受け入れたくない事実を追い払うようにして一息に話す。
 私は大丈夫なのだと言い聞かせ、ロレンシオに笑顔を向けた。

『……っ、私のことは気にせずってなんだよ……』

 対してロレンシオの方はと言うと、何故か不機嫌そうな面持ちで私の方を睨みつけていた。不思議に思いつつ、頭を傾けているとロレンシオは何か小声で呟いていたが、生憎とききとることはできなかった。

 そんなわけで、今夜舞踏会が催されるのために私たちは正装していた。

 私の目の前には騎士団の軍服を身に纏ったロレンシオが立っていた。彼はいつもに比べて胸元に多くの勲章をつけており、これが騎士の正装なのだと感心する。

 いつもは耳にかかるほどの金髪はきっちりと整えられ、額を露わにしている姿に胸を高鳴らせた。……これは顔面が麗しすぎるロレンシオが悪い。

 赤くなった顔を誤魔化すように私は口を開いた。

「このドレス、いつ用意されたんですか? というかロレンシオ様ってこういう器用な真似、出来たんですね」

「お前は本当に失礼なやつだな。俺をなんだと思ってるんだ。……ちなみにそのドレスは王都の中でも有名な服飾店に飾られていたものの中からお前に似合いそうなものをチョイスさせてもらった。ただそれだけだ」

「……っ、ロレンシオ様…………ほんとうにありがとうございます」

 思わずわ目を潤ませながら、私は腕を組んでそっぽを向きながら答えるロレンシオに抱きつく。小さな気遣いが嬉しくて、笑みがあふれる。

 ロレンシオは最初は「おい、鬱陶しいぞ」と言っておきながらも、最後には「しょうがないやつだ」と言って許してくれた。

 そして私たちはそのままパーティー会場へと赴く。
 ロレンシオは王宮に着くとパーティー客とは別の方向に歩き出した。

「令嬢を迎えに行く。お前は先に会場に行ってていいんだぞ」

 周囲の人間には聞こえないほどの小声で呟いたロレンシオに私は首を振りながら答えた。

「いいえ、ご令嬢がロレンシオ様に相応しい人かちゃんと見極めなければいけませんのでお供させていただきます!」

「いや、もし相応しくないと判断したらどうするんだ……」

「うーん、そうですね……幽霊なので取り憑く? とかどうでしょうか……ポルターガイストは起こせそうもないですし、なんかうまいてありますかね」

 頭を捻りながら答えると、ロレンシオは「俺に聞くな」と言って肩をすくめた。

「こちらにアデリーナ・ビクセーネ公爵令嬢がいらっしゃいます」

 王宮の案内係の使用人に連れられたどり着いた扉をロレンシオがノックする。
 女性の声が聞こえ、入室するとそこには豪奢な真紅のドレスを身に纏った黒髪のご令嬢と、使用人であろう老女がいた。

「お初にお目にかかります。わたくし、フォンターナ伯爵家が三男、ロレンシオ・フォンターナと申します。本日はお美しいご令嬢のエスコートの任をいただき、至極光栄に存じます」

「顔をお上げください。はじめまして、わたくし、アデリーナ・ビクセーネと申します。あなたのことはフォンターナ伯爵からよく聞き及んでおります。どうぞ、今夜はよろしくお願いいたします」

 そう言って一寸も狂いのない完璧なカーテシーを披露したアデリーナは口元に弧を描きながらロレンシオを射抜くようにして視線を向けた。口元の真っ赤な紅が印象的な令嬢は、まるで人形のように美しかった。
 だが、それ以上に気になったのはその覇気のなさだった。美しさで人形に形容したが、その生気のなさも人形のようだ。


  
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