【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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18.夜の風と手紙 ロレンシオside

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 ふと、気持ちよさそうに眠り続けるノンナの寝顔を見た俺は、己の中にくすぶる熱を自覚した。

 そういえば身体を重ねる前に彼女は眠るように気絶してしまったのだ。
 散々女の身体をいじくりまわしたせいで、下半身に集まる熱は発散したいという欲望を脳へと伝播させる。

 こくりと唾を飲み込み、安らぎな眠りこけるノンナの身体を見た。
 呼吸で緩やかに胸元が上下し、豊満な乳房がこれでもかというほど主張している。
 ノンナは情事によって脱がされた状態のままなのだ。
 ツンと上を向く先端は赤く色づき、俺を誘っているように錯覚した。

 初めてノンナの裸を見たのはともに入浴した日だった。
 会話した初日に肉体的に触れ合うというのも俺にとっては前代未聞のことだ。
 騎士団の中には花街通いをするものだって珍しくはない。副隊長のヨーゼフやノンナの幼馴染というアーベンもそうだ。

 だが俺にはそれが出来なかった。
 これでも貴族出身なため、閨に関する教育を受けた。その際に実践要員として初めて会った未亡人と混じり合ったことはあるのだが、それは教育の一環だった。
 そのときもどうしてだか気持ちが乗らず、苦労したものだ。

 それなのにノンナだけは違った。

 会話をしたのも初めてだったのに、彼女の裸体を目にした途端いいようもないほどの欲望を覚えたのだ。

 ノンナは胸がでかい。
 先端の色や形も、触ったときの柔らかさも俺好みだった。

 女の裸体を目にしただけで反応してしまうほど、歳を重ねてないはずなのに。

 俺は首を振って、少しでも体に灯る熱を逃がそうとする。
 だが隣に温もりがある限り、それも難しい。
 迷った末に俺は体の熱を覚ますため、バルコニーで風に当たることにした。

「……っとその前に……流石にこのままじゃまずいよな」

「んんんっ」

 むにゃむにゃと口を動かすノンナに寝巻きを着せてからベッドを降りる。
 バルコニーに向かう途中、机の上に出された一通の手紙が視界に入った。
 そのいかにも上流階級の人間が使用する手紙にはよく見覚えのある刻印がある。フォンターナ伯爵家──実家の紋様だ。

「なんでまたこんな時期に……」

 俺はぽつりと独り言をこぼしながらその手紙を手にバルコニーへと出た。
 月光と外にあるランプによってかろうじで文字を読み取ることができる。

 ノンナが部屋を訪ねてくる前に開けようとしていたのだが、結局見る機会を失った。至急の連絡ならば口頭伝達だろう。明日ゆっくり見ても問題はないが、もしものためにも目を通しておかねばならない。

「なんだ? ……どうして突然」

 手紙の内容を要約すると《明日、夜に王都のフォンターナ伯爵邸に来い》ということだった。どうやら父からの伝達のようで、これはまた面倒くさそうだと思った。

 俺はフォンターナ伯爵家でも三男のため、騎士団に所属してからは実家との関わりは少ない方だ。
 嫡子である兄はフォンターナを継ぐために父の補佐をしているし、次男のほうは遠く離れた領地をおさめる仕事をしている。ノンナの実家のように離れているわけでもないが、それでも馬車で3日ほどかかるところだ。

 三男の俺はというと昔から自由にさせてもらっていた。父も俺に関しては興味すらなかったように思う。

 家族との関わりは極めて薄い。
 正直にいえば他人とそう変わりないほど、幼少期から家族と隔絶されて育ってきた。それを特に不満に思ったことはなかったし、寂しいとも思わなかった。

 十分な食事や教育は与えられていたし、何不自由することもなかった。
 そのことをヨーゼフに話すと『お前は他人に対して期待してないんだな』と肩をすくめられることもあったが、確かにそうだと納得することも多い。

 誰かを信用して裏切られるのはもうたくさんだ。

 頬を撫でる風は程よく冷たく、俺の身体に残る熱を覚ましていく。あまり外にいて身体を冷やすのも良くはないが、俺は夜の風が好きだった。

 子どもの頃もこうして外に出て風に当たりながら色々と考えていた。
 なぜか感傷的になっている自分に苦笑し、俺は手紙を破る。

 細かく刻まれた手紙はただのゴミ屑で、俺はバルコニーを後にして部屋の中のゴミ箱に捨てた。

 すでに半刻ほど時間が経っていた。

 そろそろ眠らなければ明日が辛くなる。騎士団の仕事は体力が資本だ。

 寝息を立てて寝返りひとつうたず熟睡しているノンナの隣に身体を横たえる。

「呑気な顔だ……」

 小さく笑い、瞳を閉じる。
 こうして視界が閉ざされれば、より隣の温もりを実感した。

 人と眠るのは得意じゃないはずなのに。どうしてだか、この女の隣ではよく眠れそうだと思った。

 どこか安心できる自分がいることに再度苦笑し、俺はそのまま眠りについた。
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