【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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14.添い寝おねだり

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「いや、まだだ」

 短くとも答えてくれる情の厚さに心が喜びで波打った。
 広い背中を見ていると、どこか安心感を覚える。

「私、こうやって誰かと一緒に眠るのって初めてなんです! なんか新鮮でワクワクしますね」

「俺にはただ迷惑なだけだがな」

「ふふふ。それでも一緒に眠ってくれるロレンシオ様っていい人ですね」

 悪態をつくロレンシオだったが、それでも嬉しかった。人の温もりを感じながら寝ることははじめての経験だ。それにしては距離が離れ過ぎているが。

 ベッドの左半分を陣取る私に対し、ロレンシオは端に寄っている。
 ふと、湧いた悪戯心でロレンシオへと体を近づけた。

「な、なんだ……」

「そんな隅っこで寒くないですか? 一緒に温まりましょうよ。今日はなるべく変なことはしませんから」

「なるべくってな……それは普通年頃の娘が言う言葉じゃないだろ」

 背中ごしに話していたロレンシオは嘆息を漏らしたあと、ゆっくりと私の方へ寝返りをうった。

 ロレンシオの美貌が眼前に広がり、急速に心臓が早鐘を打つ。
 その様子に気づくことのないロレンシオは身体をベッドの中央に寄せた。
 足が少し触れ、自分が赤面していることがわかった。

 何故だろうか、王都でのお買い物のときはあまり気にならなかったのに、今はロレンシオの存在を感じるだけで落ち着かなくなる。
 あまりの美貌に心臓がおかしくなっているのだろうか。

「ノンナ? 大丈夫か?」

「……っ、はい」

 名前を呼ばれ、声に詰まりながら返答する。いつもならば『お前』呼びがデフォルトなのに、どうして今『ノンナ』と呼ぶのだろうか。
 そわそわとする私を尻目に、ロレンシオは口を開いた。

「温かいな、お前。……こんなふうに誰かと一緒に寝るのなんて想像もしてなかった」

「幽霊なのにあったかいなんて変ですよね」

 ロレンシオは「そうだな」と短く答え、口元を緩ませて笑った。
 その笑みにつられて私も微笑んだ。

 私はなんとなくロレンシオともっと近づきたいと思った。

「……ロレンシオ様。あの……もう少し……そばに行ってもいいですか?」

「……それは」

「だめ、ですか?」

 月光に照らされてほのかに輝く碧眼をまっすぐに見つめる。ロレンシオは戸惑いの表情を浮かべたあと、何も言わずに私を強引に引き寄せた。

「あっ……」

「寒いだけだ。あんまり動くなよ」

「はいっ!」

 ロレンシオの腕に包まれ、視界は彼一色になる。清潔な石鹸の香りが胸元から漂い、少しだけ胸を弾ませる。  
 彼の鼓動の音も私と同じように高鳴っているのが分かり、嬉しく思う。
 逞しい腕に抱かれていると安心感を覚えると同時に先ほど以上に落ち着かない気分にさせられた。
 けれどそれは離れたいという気持ちではなく。

「ありがとうございます」

 私はロレンシオにお礼をつげた。
 言葉に対する反応はなく、なんとなしにロレンシオの顔を見ようと頭を上げようとするが。

「動くなっていったろ。そのままでいろ」

「えー、でも」

 頑固一徹なロレンシオは私の頭を押さえつける。何故そこまでするのか疑問に思った私は無理矢理腕の中を抜け出し、ロレンシオを視界に収める。

 ロレンシオは顔を真っ赤な染めていた。

「わっ! ロレンシオ顔がすごく赤いですよ! もしかして照れちゃいました?」 

「うるさいな。お前の見間違いだ。俺の顔が赤いだなんてあるはずがない」

「いやいや絶対赤いですよ。私こう見えても視力はいい方で、狩のとき遠くにいる獣だって一番に発見してたくらいなんですから」

 自慢げに胸を張ると、明らかにロレンシオは呆れた面持ちだ。
 だが彼はどこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせており、私はじっくり観察した。

 ロレンシオは私の顔を見ることなく、虚空を見つめたかと思えば私の胸元に──。

「あっ……」

 そういえば今、私の格好は寝巻きなのだと気がつく。それに伴い下着はドロワーズのみだ。厚手の生地のおかげで胸元は透けてはいないが、普段に比べて強調されている。

 ちなみにこの寝巻きは屋敷に来た頃、ロレンシオが用意してくれたものだ。
 メイドに頼んでいたとき彼女たちに怪訝な顔をされていたが、知らぬ存ぜぬで押し通す姿は見ものだった。

 先程までぴったりとくっついていたということは強調された胸を押し付けていたということで。
 気づいた途端、顔から火が出るほどの羞恥に襲われる。

 触るのはよくても触られるのは恥ずかしいという乙女心が炸裂し、私はロレンシオ以上に赤くなっているだろう。

「ふっ。お前こそ、すごく赤くなってるが大丈夫か?」
  
 先ほどから一変、ロレンシオは揶揄うような口調で言う。
 
「さっきまで私に胸を押し付けられてもじもじしてたロレンシオ様に言われたくありませんっ」

「なっ、もじもじなんてしてない。お前なんて赤子と同じだ。そんなやつに俺が赤くなったり、ましてやもじもじするわけないだろっ」

 その言葉に頭に血が昇った私は行き当たりばったりに自分の胸をロレンシオに押しつけた。

 自慢ではないが、私は胸だけは人一倍大きいのである! 
 領内でも何を食べればそこまで巨乳になるのかと頻繁に尋ねられたものだ。そんな問いをされてもさっぱりと分からないのだが。

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