【完結】好きな人に会いたくて幽霊になった令嬢ですが恋を叶えてもいいですか?

雪井しい

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11.デートin城下町

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 お風呂騒動があり、数日が経った。
 『ノンナの未練リスト』を翌日に見せ、お叱りを受けたばっかりだ。

 この日は雲ひとつない晴天で、絶好のお出かけ日和だ。

「よしっ! 今日は王都に買い物だー」

 リストを見せたあとにこってり嫌味を言われたあと、ロレンシオの明日以降の予定を聞いたところ。

『ああ、明日は週に一度の休暇だが?』

『それじゃあ一つ目の未練の《王都にお買い物に行きたい》に付き合ってください!』

『一人で行け』

『いやです! お買い物に一人で行っても楽しくありません。誰かと一緒に行くから楽しいんです。……それともなんですか、お買い物に行ってくれなければ未練は永遠に残ったままになっちゃいますよ? ずっとロレンシオ様に付き纏っちゃいますからね』

 私ほ言葉に顔を歪めたロレンシオは納得いかない表情を浮かべたものの、最終的に了承してくれた。

 周囲には大勢の人が行き交っており、道の端には露天を開く商人や客引きが大勢いた。

「すごいですね! こんなに賑わう街なんて私の領にはありません」

「…………」

「うーん、今日はどこに行きましょうか……やっぱり王都に来たんだから流行りのお洋服とかは押さえておきたいです」

「…………」
 
 沈黙を保つロレンシオにちらりと視線を向け、私はふくれっつらになった。

 ロレンシオからここへと来る前に言われていたことを思い出す。

『人前では絶対にお前と会話しないからな』

 どうやらロレンシオは私という見えない幽霊と話すことで、見えない人間から独り言を言っていると思われることが嫌らしい。……気持ちは分からなくもないが、それでは反応がなく見えてない人に話しかけるものと同じで虚しくなる。

 まあでも生きているロレンシオにとって偏見の目を向けられることは耐えられないだろうから妥協するしかない。

「よしっ、じゃあまずはあのお店から行きましょう!」

 私は気を取り直して目的の店へと歩く。今日は幽霊のノンナではなく、人間のノンナとして普通に歩いて王都散策をすると決めているのだ。

 私はむっつりと口を結ぶロレンシオの腕に自分の腕を絡ませ、引っ張っていった。

「いらっしゃいませ……えーっと男性お一人でいらっしゃいますか」

「……ああ、少しその……そう、母に送る服を見立てに来たのだ。だから俺のことは気にしないでくれ」

 定員とロレンシオの会話を聞きつつ、私は店内を歩き回る。そこは女性客で賑わう人気の服屋で、男性一人で来店したように見えるロレンシオは異様に見られるだろう。

 だがうまいこと誤魔化しが効いたのか、店員は納得の表情を浮かべた。むしろロレンシオの美貌に当てられたのか、逆に頬を赤らめて熱い視線を送っていた。

 店内の女性客たちも突然の美貌の騎士の来店にざわざわとし始めた。
 それを尻目に私は飾られた服を手に取り、自身の体に当ててみる。

「わっ、これ可愛い!」

 鏡で身体に服を当てた自分の姿を写し、はしゃぎ声をあげる。
 テンション爆上げの私に対し、ロレンシオは周囲に集まる女性たちにげんなりと様子だった。

 一通り見て回った私はロレンシオに声をかける。

「お待たせしました。次にいきましょう!」

 周囲から女性たちをうまく追い払ったロレンシオは周りに聞こえないほどの小声で尋ねる。

「……お前、買わなくてもいいのか?」

「大丈夫です!」

 私はロレンシオに向けてはにかみ笑いを浮かべた。
 少しばかり怪訝な顔をしたロレンシオだったが、すっと視線を逸らすとそのまま店を後にする。

 その後ろ姿を見て私は小さな笑みを浮かべ、追いかけた。

 私には服なんて必要ないんだから、買うなんて勿体無いことは出来ないのだ。
 寂しい気持ちもあったが、これでいい。

「で、次はどこにいく?」

 周囲には人がいないことを確認したロレンシオは私に顔を向けて言う。
 私は目的の店を指差して答えた。

「あの甘味処です!」

 ロレンシオはげんなりした顔で大きくため息をついた。

 そこから私たちは甘味処でお菓子とティーセットを1セット頼んだ。どうやらロレンシオは甘味が得意ではないらしく、私の分のみらしい。自身は無料で配られるただの水を口に含んでいる。

 甘味処の店員にはわざわざ客が周囲にいない端の席を用意してもらったので、これでようやく普通に会話ができる。


 私は口端についたクリームを拭いながら口を開いた。

「それにしてもこういう食べ物を食べていても、さっきみたいに服を身体に当てても全然気づかれないのってすごいですよね」

「ああ。どうやらお前のことが見えない人間にはこの菓子も、服も動いているように見えないみたいだな。……認識が出来ないって言った方が正しいか?」

 ロレンシオの言葉に頭を傾ける。
 特に何も考えず発言したことだった。
 だがロレンシオは遠回しな物言いでこの不思議な現象を分析しているようだ。

「たとえばこの甘味。お前は全部食べ切った。皿の上にはもう何もない。これはお前と俺の共通認識で、そしてお前を見えない人間からの認識でもある。つまり全員この皿の上には何もないと認識するわけだ」

「……は、はい……」

「だが、お前がこの甘味を食べている最中は例外だ。俺とお前は甘味が腹に消えていく過程を認識できるが、お前を見えない人間にとってはそうじゃない。突然消えるわけだ。……だが、その消えたことを異常だと思わないってわけ」

 私は頭を捻りながら考え込む。
 つまりロレンシオが言いたいことというのは、私のことが見えない人間にとって私の行った行為の変化は異常だと認識されない──ということらしい。

「んー、難しいっ! よくわかんない!」

「まあお前ならそう言うだろうな」

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