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8.異端幽霊の願い
しおりを挟む「じゃあどうして私はロレンシオ様と話せるんですかね?」
「さあな。俺にもわからん。分かることといえば、お前は異端でおかしいということだけだ。……お前には心当たりはないのか?」
私はロレンシオの言葉に頭を悩ませる。
だがら特に思い当たることはなかった。
率直に「ないです」と答えると、ロレンシオは頭を抱える。金色の髪がサラリと揺れた。
「まぁいい。とりあえず、これからお前はどうするつもりなんだ?」
「そうですね……特にやるとこはなくて……」
「はあ? 幽霊になったのなら何かこの世に未練があったのだろう。その未練をさっさと叶えて成仏してくれ」
ロレンシオは大袈裟にため息ため息をつき、私に視線を向ける。
困ったことに私の死ぬ前の1番の願いはすでに叶ってしまっている。それなのに未だ成仏していないということは一体どういうことなのだろうか。
幽霊なのに人と意思疎通が取れる件と言い、わからないことが多すぎる。
「それが……」
私は幽霊になってからこれまでのことをあらかたロレンシオに伝えた。
するとロレンシオは嘲るような面持ちで私を小馬鹿にした。
「アーベン・ジュスタ? 幼馴染で好きだったから死んで王都に来た? それで女とデートしてるところをみて失恋とは……なんともアホらしい」
「あ、アホって言わないでください! 私は真剣なんです!」
「お前、アーベンのこと何も知らないだろう? あいつは田舎やその田舎に住む人間が大嫌いで騎士になったと言っていたぞ。それにあの男の女遊びは有名だ。あんなやつに恋していたなんて、ノンナ、お前って可哀想なやつなんだな」
私はロレンシオの言葉に心底腹が立った。
アーベンのことは真実なら心底ショックだが、それよりも恋をする人を馬鹿にするこれの態度が癇に障って仕方ない。
「……ロレンシオ様って案外子どもなんですね」
「…………なに?」
私の物言いにロレンシオは苛立ちの表情を浮かべ、口元を引き攣らせた。
構わず私は言葉を続ける。
「恋をすることは可哀想なんかじゃない。それがたとえ最低のクズ相手でも。……もしかしてロレンシオ様って誰かに恋をしたことないんですか?」
「……それの何が悪い」
乙女の勘は当たっていた。
ぶっきらぼうな言葉は刺々しく、私をじろりと睨みつける。
大人げないその様子に先ほどから腹に溜まっていた怒りはまるでなかったかのように消えた。
逆に笑いすらこみ上げてくる。
「ふふっ、だからそんなことが言えるんです。もったいないですよ! きっとロレンシオ様も恋をすればわかります。いつか死んでもなお、会いたいと思う人に出会えますよ。ふふっ」
「おい、笑うな!」
私の笑いに気が抜けたのか、いつしかロレンシオは呆れている様子で私を見ていた。
「ええと、それで未練の話に戻るんですけど。私、実はアーベンのこと以外にもいくつか未練があるんです。もしかしてそれが叶ってないから成仏できないんじゃないかなって思うんですけど、どうですかね?」
「未練は普通一つじゃないのか。ノンナ、お前本当に欲張りなやつだな。……でも確かにその可能性はありうるな。心残りがすべて無くならなければ、このまま現世に居残り続けねばならないかもしれないし」
ロレンシオの言葉に背筋がゾッとした。
何日、何週間、何ヶ月ならまだ耐えられる。だが、何年、何十年、下手をすれば何百年も霊体のまま彷徨い続けるなんて退屈で死んでしまうに違いない。想像するだけでも恐ろしい。
私は焦燥感に身を駆られながらロレンシオに訴える。
「お願いします、ロレンシオ様! どうか私の未練を断ち切ることに協力していただけませんか!」
「な、なんで俺が……」
「私が一生付き纏い続けてもいいんですか?」
私の言葉に冷や汗を浮かべたロレンシオは一瞬にして顔を青白くした。
どうやら死ぬまで付き纏われるのは勘弁願いたいらしい。
「一人では叶えられない願いもあるんです! どうかお願いします!」
「はぁ……仕方がない。生涯ストーカー幽霊に憑かれ続けるのは死んでもごめんだからな。俺に出来る範囲でなら協力してやってもいい。……だがな! 最初に言ったと思うが、人前では絶対に口を聞かないからな。狂人と思われるのは勘弁願う」
ロレンシオといつ協力者によって光明が差し込み、私は喜びにふわふわと宙を飛び回る。
それを見たロレンシオはあからさまなため息をつき、ぐったりと椅子に腰掛けた。
「私、幽霊なので諜報くらいなら出来ますし、是非これからは私のことを相棒だと思ってくださいね!」
「誰が相棒だ。……お前は悪魔だ、悪霊だ! 俺に災難を呼び込む疫病神だ」
「いやー小悪魔だなんてちょっと照れますね」
ロレンシオは「話聞いてないだろ」とぽつりと呟き、がっくりと項垂れる。
そんな姿でもさすが王国一の美男子。様になるのが羨ましい限りだ。
「そうだ!」
私は宙に浮かんでいた身体をロレンシオのそばまで近づける。そして彼の美貌に自分の顔を近づけ────。
ちゅっ。
「契約の印です!」
唇をロレンシオの白磁の頬に押し付けると意外と柔らかくて少しだけ照れた。
対してロレンシオはというと。
「……お前っ!」
唇の触れた箇所を入念に擦っている。
どうやらこの男は潔癖気味なのかもしれない。
「私はバイ菌じゃないので目の前で拭わなくてもいいじゃないですか」
「無理だ。得体もしれない女と触れ合うなんてっ虫唾が走る!」
私が文句を垂らし、ロレンシオがそれに応じる。
そんなこんなで彼との出会い1日目は過ぎていくのだった。
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