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1.私と彼の関係※
しおりを挟む扉の隙間から甘く、艶やかな嬌声が漏れ出ている。
「ああっ……ああァァっ! イイのっ、もっとぉぉ!」
ギシギシと安物のベッドを軋ませ、息を弾ませる女の子。その上に覆い被さり腰を振る男は濃厚なキスをしてから言う。
「気持ちいいか? すごい、締め付けだっ! こんなにぐちょぐちょに濡れててお前も淫乱だな」
「だってぇぇ……あぁんっ、きもちよすぎるのぉっ、んんンンン!」
男が腰のストロークを長くして思い切り奥を抉るようにすると、女は大きく身体を震わせて痙攣する。その様子から彼女がイったのだと分かった。
そんな女の様子を知ってもなお、男は腰を緩めない。むしろピストンの速度を早め、息を弾ませる。
ぐちゅぐちゅ、と接合箇所から卑猥な水音が部屋に響き渡り、部屋中に性の香りを振り撒く。
「すごいっ、すごいのぉぉ! きもちぃぃ、またイっちゃうぅぅ!」
「イけよ、何度でも。見ててやるから! 俺も……そろそろっ」
女は長い髪を振り乱し、丸く膨らんだ乳房を揺らす。男は腰を振りながらも器用に指先で乳房の頂を捻り、全体を下から上へと揉み上げる。
「おい」
私はそんな様子を穴が開くほど目を見開き、扉の隙間から覗く。
こくり、と唾を呑み込むが目線は逸らさない。目前の激しい性行為の様子に夢中だった。
「おいっ」
男と女は貪り合う用にしてお互いの体を求めている。激しすぎるベッドの軋みによって、まるで地面が揺れているような錯覚さえ覚えるほどだった。
「おいっ!」
「もう、なんですか。うるさいですね! 集中しているんですから邪魔をしないでくださいっ」
そう言って肩に添えられた手を振り払う。そしてまた視線を室内へと向ける。
どうやらラストスパートのようで、先程以上に息をあげる姿はまるで獣のようであった。
「いいからこっちこいっ! 一体何をしているんだ」
「そりぁ、覗きを……………って、ロレンシオ様!? い、いつからそこにいたんですか」
「ずっと前からだ。お前に声をかけ続けていたのを気づかなかったのか。……って、こんなところでする話じゃないな。来いっ」
ロレンシオは私の腕を無理矢理引っ張り、扉から引きずり離される。大人しくとぼとぼと後をついていく私は、叱られた子どものようにしゅんと肩を落とす。
今から始まるの出来事を想像するだけで、気が滅入ってしまう。ロレンシオのお説教は非常に長いのだ。
そして『交合部屋』と密かに呼ばれている扉から離れた一室へと入ると、ロレンシオ様と二人きりになった。
私────ノンナ・ベルティーニは目前で鬼のような形相を浮かべている男────ロレンシオ・フォンターナに目線を向けた。
「お前は一体あの部屋の前で何をしていたんだ! 扉の前でお前を見かけたときは寿命が縮まる思いだったぞ!」
「えーっと、後学のためにも覗きを少し……」
「女が一人で覗き? しかもそれが『交合部屋』とは……。呆れてものが言えん。とんだど変態だな」
青筋を立てて怒るロレンシオはその美貌も相まって非常に恐ろしい。だが同時にこんなときでも別格に美しく、むしろ彼がこんなふうに怒鳴り散らしているのを見た人はぎょっとするに違いない。
なにせロレンシオ・フォンターナな無口な美貌の麗人であり、貴族たちからも一目置かれる存在なのだ。
彼は伯爵家の三男の生まれであり、現在は王国騎士団の第三部隊、部隊長をしている。その若さで部隊長に任命されるには稀に見る武の才が必要とのことらしく、幼い頃から剣の才能は突出していたらしい。すべて聞き耳を立てて集めた情報なのだが。
ロレンシオは輝くばかりの金髪をがしがしと掻き、大きくため息をついた。
「ノンナ、聞いてないだろお前」
「……バレちゃいました?」
私が上の空だったことはロレンシオ様にお見通しだったようだ。彼のお説教は怖くはないが、とにかく長いので非常に嫌いなのだ。今までなんど叱られたことか。
「それにしてもロレンシオ様はあの部屋の前で一体なにをしてたんですか? もしかして私とおんなじで覗きですか?」
「……んなわけあるかっ。なんで俺がわざわざ『交合部屋』まで行って覗かなければならない」
「んー、だってロレンシオ様ってお付き合いしてる人もいませんし、花街へ繰り出す様子もないですし……自家発電をしてるのだろうなって考えてたんですけど、まあそのネタに……」
私が笑いながらそういうと、ロレンシオは突如顔を真っ赤にさせ口を戦慄かせる。この顔はあれだ、『なぜそんなことお前が知ってる』という顔だ。
「大丈夫です、おひとり様の夜なんて覗いてませんから。安心して励んで下さいね!」
にっこりと微笑みながらその美貌に語りかけると、ロレンシオは先程以上の剣幕で怒鳴り出した。
「うるさいっ、そんなっお前には関係ないだろ。む、むしろ女のお前がそんなこと気にするなんて痴女じゃないか! もっと貞淑にしろ! 仮にも貴族の令嬢なら」
「元、令嬢ですよ」
私はそう言って空中に浮きながらふわりとその場で回る。まるで重力など関係ない様子は側からみれば目を疑う光景だろう。
そう、私、ノンナ・ベルティーニはすでに死んでいるのだ。
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