1 / 48
1.私と彼の関係※
しおりを挟む扉の隙間から甘く、艶やかな嬌声が漏れ出ている。
「ああっ……ああァァっ! イイのっ、もっとぉぉ!」
ギシギシと安物のベッドを軋ませ、息を弾ませる女の子。その上に覆い被さり腰を振る男は濃厚なキスをしてから言う。
「気持ちいいか? すごい、締め付けだっ! こんなにぐちょぐちょに濡れててお前も淫乱だな」
「だってぇぇ……あぁんっ、きもちよすぎるのぉっ、んんンンン!」
男が腰のストロークを長くして思い切り奥を抉るようにすると、女は大きく身体を震わせて痙攣する。その様子から彼女がイったのだと分かった。
そんな女の様子を知ってもなお、男は腰を緩めない。むしろピストンの速度を早め、息を弾ませる。
ぐちゅぐちゅ、と接合箇所から卑猥な水音が部屋に響き渡り、部屋中に性の香りを振り撒く。
「すごいっ、すごいのぉぉ! きもちぃぃ、またイっちゃうぅぅ!」
「イけよ、何度でも。見ててやるから! 俺も……そろそろっ」
女は長い髪を振り乱し、丸く膨らんだ乳房を揺らす。男は腰を振りながらも器用に指先で乳房の頂を捻り、全体を下から上へと揉み上げる。
「おい」
私はそんな様子を穴が開くほど目を見開き、扉の隙間から覗く。
こくり、と唾を呑み込むが目線は逸らさない。目前の激しい性行為の様子に夢中だった。
「おいっ」
男と女は貪り合う用にしてお互いの体を求めている。激しすぎるベッドの軋みによって、まるで地面が揺れているような錯覚さえ覚えるほどだった。
「おいっ!」
「もう、なんですか。うるさいですね! 集中しているんですから邪魔をしないでくださいっ」
そう言って肩に添えられた手を振り払う。そしてまた視線を室内へと向ける。
どうやらラストスパートのようで、先程以上に息をあげる姿はまるで獣のようであった。
「いいからこっちこいっ! 一体何をしているんだ」
「そりぁ、覗きを……………って、ロレンシオ様!? い、いつからそこにいたんですか」
「ずっと前からだ。お前に声をかけ続けていたのを気づかなかったのか。……って、こんなところでする話じゃないな。来いっ」
ロレンシオは私の腕を無理矢理引っ張り、扉から引きずり離される。大人しくとぼとぼと後をついていく私は、叱られた子どものようにしゅんと肩を落とす。
今から始まるの出来事を想像するだけで、気が滅入ってしまう。ロレンシオのお説教は非常に長いのだ。
そして『交合部屋』と密かに呼ばれている扉から離れた一室へと入ると、ロレンシオ様と二人きりになった。
私────ノンナ・ベルティーニは目前で鬼のような形相を浮かべている男────ロレンシオ・フォンターナに目線を向けた。
「お前は一体あの部屋の前で何をしていたんだ! 扉の前でお前を見かけたときは寿命が縮まる思いだったぞ!」
「えーっと、後学のためにも覗きを少し……」
「女が一人で覗き? しかもそれが『交合部屋』とは……。呆れてものが言えん。とんだど変態だな」
青筋を立てて怒るロレンシオはその美貌も相まって非常に恐ろしい。だが同時にこんなときでも別格に美しく、むしろ彼がこんなふうに怒鳴り散らしているのを見た人はぎょっとするに違いない。
なにせロレンシオ・フォンターナな無口な美貌の麗人であり、貴族たちからも一目置かれる存在なのだ。
彼は伯爵家の三男の生まれであり、現在は王国騎士団の第三部隊、部隊長をしている。その若さで部隊長に任命されるには稀に見る武の才が必要とのことらしく、幼い頃から剣の才能は突出していたらしい。すべて聞き耳を立てて集めた情報なのだが。
ロレンシオは輝くばかりの金髪をがしがしと掻き、大きくため息をついた。
「ノンナ、聞いてないだろお前」
「……バレちゃいました?」
私が上の空だったことはロレンシオ様にお見通しだったようだ。彼のお説教は怖くはないが、とにかく長いので非常に嫌いなのだ。今までなんど叱られたことか。
「それにしてもロレンシオ様はあの部屋の前で一体なにをしてたんですか? もしかして私とおんなじで覗きですか?」
「……んなわけあるかっ。なんで俺がわざわざ『交合部屋』まで行って覗かなければならない」
「んー、だってロレンシオ様ってお付き合いしてる人もいませんし、花街へ繰り出す様子もないですし……自家発電をしてるのだろうなって考えてたんですけど、まあそのネタに……」
私が笑いながらそういうと、ロレンシオは突如顔を真っ赤にさせ口を戦慄かせる。この顔はあれだ、『なぜそんなことお前が知ってる』という顔だ。
「大丈夫です、おひとり様の夜なんて覗いてませんから。安心して励んで下さいね!」
にっこりと微笑みながらその美貌に語りかけると、ロレンシオは先程以上の剣幕で怒鳴り出した。
「うるさいっ、そんなっお前には関係ないだろ。む、むしろ女のお前がそんなこと気にするなんて痴女じゃないか! もっと貞淑にしろ! 仮にも貴族の令嬢なら」
「元、令嬢ですよ」
私はそう言って空中に浮きながらふわりとその場で回る。まるで重力など関係ない様子は側からみれば目を疑う光景だろう。
そう、私、ノンナ・ベルティーニはすでに死んでいるのだ。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる