【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

雪井しい

文字の大きさ
上 下
34 / 44

33.悪人退治 啓一郎side

しおりを挟む

 紗雪からメールがあってから俺はどうしても気がかりで仕方なかった。

 梅本という男は大学時代から俺に敵愾心を向けている。ずっと気づいていた。
 正直なところ当時はそんなことをどうでもよかったし、勝手にしてくれとも思った。

 だが彼は大学病院の理事長の父親を持つ生粋のエリートの家系で、そんなやつといざこざを起こしたくない俺はうまく受け流しているつもりだった。

 それでも梅本の俺を見る目には日に日に嫌悪感や嫉妬を帯びていった。だがそれもどうでもよかったのだ。
 どうせ俺は海外へ行く予定だったし、離れれば俺のことなど忘れてくれるだろうと考えていたのだ。

 だが、あの日。
 懇親会で再会したあのときの目。

 俺に対する憎しみの感情と、紗雪に対する男の欲望、どちらも感じた。

 俺はどうされてもいいが、紗雪は関係ないし傷つけられでもしたら怒り狂う自信があったため、どうにか梅本には近づくなと忠告したのだが。

 偶然とは怖いものだ。

 紗雪との電話を終えた俺はどうしても気になって仕方がなかった。口では「送ってもらえるのならいい」と告げたが、本心ではそれでも不安だ。

 帰国してから日本の医療関係者の噂も色入り聞いたが、中でも梅本は群を抜いて悪い噂を聞くことが多い。
 どうしてそんなんで医者をやっていられるのかと思うほど悪事を働いているそうだ。

 それでも彼が当然のように医者であり続けられるのは全て父親のおかげなのだと皆知っている。

 色入りと気がかりだった俺はとある人物へと電話をかける。
 万が一のためだ。


 そうして翌日、俺のところに報告があった。

 『梅本がなにか動きそうだぞ』と。

 俺は急いで大阪駅へと移動し、新幹線で東京駅まで移動する。
 不幸中の幸いにも学会の責任者が前日の夜に食当たりを起こしたらしく、数日延期となったのだ。……あたった当人には申し訳ないのだが。
 

「待ってろよ、紗雪」

 悪い予感がした。
 不安で仕方がなかったが、紗雪に万が一のことがあればと考えただけで腹の煮えくりかえる思いだった。

 新幹線を降りた俺は駅内を歩きながら先程の電話相手にもう一度連絡する。数コールで出たあと、そいつは言った。

『駅から15分のビル街にある〇〇ホテル。そこの906号室だよ』

 俺はタクシーに乗り込み、すぐに目的地へ向かう。絶対に紗雪を助けると決めていた。

 もし仮に梅本が紗雪に手を出していたなら────俺は感情を抑えることなどできないだろう。
 生まれて初めて手に入れた愛おしい存在を傷つけるものがあれば、容赦はできない。 
 地獄の底まで追いかけてぶちのめし、魚の餌にしてやる自信がある。

 ちょうど街中で事故が起きたらしく、残り数キロのところで渋滞に嵌ってしまった。
 俺は聞こえないように小さく舌打ちをし、ポケットから一万円札を出す。

「ここで大丈夫です。お釣りはいりません」

「へ? え、あの……お客さん」

 戸惑いの表情を浮かべる運転手を置いて、俺は外へと飛び出した。
 走って走って、ここまで全速力で走ったのは学生以来だ。

 息が切れて額から汗が落ちるのも気にせず、俺はホテルまで急いだ。

 ようやく目的地に到着した俺はフロントの中を突っ切る。

「ああ、あのお客様!」

 初老のホテルマンの戸惑う声にはっとし、俺は汗を拭いながら話しかける。

「このホテルの906号室。そこに俺の妻がいるはずなんです。どうか繋げて欲しい」

「ええっと……その、今……そちらの部屋の方は、えーっと外出されておいでで────」

 すぐに嘘だと分かった。
 どうやらこの男は梅本に買収されているのかもしれない。
 俺はぎりっと歯軋りし、そばにいた若い────おそらく新人だろう女性のフロントスタッフの眼前へと移動する。

「あなたは何か知ってませんか?」

「わたしは、その……」

 暴力に訴えることもできただろう。だが、それをすれば気弱そうなフロントスタッフが萎縮して何も言わなくなってしまうと思った。

 だから俺はなりふりなど構わず頭を下げた。

「どうかお願いです。俺の妻が連れ去られてそこにいるかもしれないんだ。妻が大切なんだ」

 若いフロントスタッフは戸惑うように視線を揺らす。そして意を決したのか口を開いた。

「つい半刻ほど前に男が眠った女性を連れてきました。それで誰も近づけさせないようにって……大量のチップを渡してきて……おかしいと思ったんでわたしは受け取らなかったんです。でもマネージャーはそのまま受け取って……」

「おい、新人! 何を話しておる!」

「多分その眠った女性が俺の妻だ」

 怒鳴る初老ホテルマンを無視し、俺はフロントスタッフに訴える。

 どうか鍵を開けてくれないかと。

 良心が残っている彼女はこくりと頷き、引き止めようとするマネージャーを置いて一緒にエレベーターへと乗った。

 上に登るまでのたった数秒でも今は惜しい。

 俺は唾を飲み込み、心の中で願った。

 どうか紗雪が無事でありますようにと。梅本がなにかするというのも勘違いであることを。

 ようやく906号室の扉の前にたどり着き、フロントスタッフに鍵を開けてもらう。

 そこには紗雪と────彼女に覆い被さる梅本の姿があった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。

紫月あみり
恋愛
※完結! 焚き火の向かい側に座っているのは、メディアでも話題になったイケメン会社経営者、藤原晃成。山奥の冷えた外気に、彼が言い放った。「抱き合って寝るしかない」そんなの無理。七時間前にお見合いしたばかりの相手なのに!? 応じない私を、彼が羽交い締めにして膝の上に乗せる。向き合うと、ぶつかり合う私と彼の視線。運が悪かっただけだった。こうなったのは――結婚相談所で彼が私にお見合いを申し込まなければ、妹から直筆の手紙を受け取らなければ、そもそも一ヶ月前に私がクマのマスコットを失くさなければ――こんなことにならなかった。彼の腕が、私を引き寄せる。私は彼の胸に顔を埋めた……

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...