【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

雪井しい

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31.電話で

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 私は長谷川くんに送ってもらったあと、言われた通りに啓一郎さんへと連絡しておくことにした。

 ただ、忙しい啓一郎さんに緊急でもないのに電話を掛けるのは迷惑になるかなと思い、メールに『今日梅本先生に会って色々ありそうなところを長谷川くんに助けられました。今送ってもらって、明日は妹さんのお見舞いに行きます』と簡略化して送る。

 するとメール送信後、5分も経たずして電話がかかってきた。
 あまりにも気付くのが早くて若干驚き、慌ててスマートフォンの画面をタップした。

「もしもし……?」

『紗雪? 大丈夫か! 梅本となんかあったって見たけど!』

 余りにも鬼気迫った怖入りに一瞬腰が引けそうになるが、それだけ自分のことを心配してくれたということにほっこりする。
 愛されているなという実感に口元を緩ませていると。

『紗雪? ねえ、本当に大丈夫なのか? 今からでも抜け出してそっち帰ろうか。うん、そうしよ──』

「待ってください! 大丈夫です。メールにも書いた通り、長谷川くんがちょうど居合わせてくれたので無事でした。明日も長谷川くんに病院まで送り迎えしてもらうので……」

 そう言って誤解を解こうとすると、啓一郎さんは突如黙る。

「……? どうかしましたか、啓一郎さん」

『紗雪は……あの後輩の長谷川くんと今日はずっと一緒にいたってことか?』

「ええっと……ずっとってわけじゃないですけど、午後は一緒にお見舞いの品選んだりとか、沙彩ちゃん──長谷川くんの妹さんのお誕生日が近いのでそれを買ったり……」

 私は聞かれたことを答えたが、電話口で小さく聞こえた言葉に口をつぐんだ。

『長谷川くんのこと好きなのか?』

 あまりにも真面目な口調に呆気にとられるが、啓一郎さんの言いたいことをだんだんと理解する。

「ふふっ……長谷川くんは後輩で、まあいわゆる男友達ですよ? あり得ません」

『でも…………紗雪、長谷川くんのこと話すの楽しそうだし…………俺は一人寂しく頑張ってるのに妬けるっていうかなんというか……』

 たしかに啓一郎さんが学会で勉強中なのに私の方は浮かれすぎていたと少し反省する。
 だが長谷川くんは言葉通りの友達で、たしかに告白されたこともあったが今まで一度もそういう目で見たことはなかった。

 告白されたということは啓一郎さんに伝えていない。
 長谷川くんの個人的な気持ちを他の誰かに話す気にはなれなかったし、あとは啓一郎さんへの意趣返しでもあった。

 啓一郎さんは昔はよく女の人と遊ぶことも多かったと正直に話してくれたが、やはり女心として複雑な気分になったのだ。
 だからこそ私にも秘密の一つや二つあっても許されるだろうと思った。

 電話口でトーンを落とす啓一郎さんに声をかける。

「ごめんなさい。私、啓一郎さんの気持ちちゃんと考えられてなかったです。啓一郎さんは私が長谷川くんと一緒にいるの……嫌ってことですよね?」

 数秒の間を空け、『うん』と小さく返事がある。
 そういえば以前の足湯のときも啓一郎さんは長谷川くんに嫉妬したって言っていたことを思い出す。
 あのときは正直愛しているから嫉妬したというより、自分の妻が他の男と仲良くしているのが気に食わない程度に考えていたが、今思えば前者なのだろう。

「啓一郎さんって案外嫉妬深いんですね」

『紗雪のことに関してだけはね。だって全部独占したくてたまらないし。多分、紗雪が考えている以上に』

 あけすけに答える啓一郎さんに愛しさが募る。
 こんなに自分のことを大好きでいてくれる人はこの世に他に誰もいないだろう。
 そしてそれほど情念深く、愛を伝えられて嬉しく思わない人はいないに違いない。

 私は思わず顔を綻ばせる。

『ねぇ、紗雪。俺のこと愛してる?』

「愛してますよ」
  
 照れながらも答えると、向こうで『ああ可愛い、今すぐ会いたい』と聞こえ、私は苦笑した。
 啓一郎さんの大きなため息が聞こえる。

『俺も紗雪のこと愛してる。今すぐ抱きしめてキスしたい』

 呟く啓一郎さんの声はいつもの愛してるに比べて少し低く聞こえる。
 電話で話しているせいだろうが、何故だかいつもと違う愛の言葉に心臓が高鳴る。
  
 こうして啓一郎さんの声を聞くだけで脈が速くなり、安らぎの気持ちを覚えるだなんて1年前には想像もしていなかった。

 前の生活にも未練がないと言い切ることは出来ない。
 大勢の観客の前で舞台に立ち、大好きなバレエを踊る。
 あの瞬間が人生で最高の時間だと思っていた。けれども今は違う。
 私にとっての今の最高は啓一郎さんとお話しし、キスをして、抱き合って眠ることだった。

 啓一郎さんとの結婚という甘い檻は私の心を癒してくれた。

「私も逢いたいです。……早く帰ってきてくださいね。美味しいローストポークも見つけましたし、美味しい料理を作って待ってます。まあ、啓一郎さんよりも料理はまだまだ下手ですけど……」

『そんなことない。紗雪の作った料理が世界で一番美味しいよ。だから待ってて』

 甘い言葉に浮き足立つ。
 このあと長谷川くんの妹である沙彩ちゃんのことを話すと、どうやら啓一郎さんは知っていたみたいで。
 どうやら病院の廊下を歩いている沙彩ちゃんと何度か話したそうだ。
 彼女は好奇心旺盛で、調子の良い日は病院内の色々なところに出向いてたくさんの人とお話をしているそう。 
 沙彩ちゃんの話題で盛り上がったあと、私たちはお休みの挨拶をする。

 一人で寝るベッドはいつもに増して冷たかったが、啓一郎さんの心地よい声を思い出すとぐっすり眠ることができた。

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