【完結】スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜

雪井しい

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10.懇親会

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 その催しは都内の会場にて行われた。

 若手医師による懇親会──いわゆるコミュニティ作りや議論を交わすための社交パーティーといってもいい。

 日本全国の将来有望な医師を一挙に集めて切磋琢磨してくださいという名目で開かれていた。

 年齢層は20代から30代ほど。
 稀に大学生らしき人間もいるが、やはり顔ぶれは若い。
 
 そんななか、私は啓一郎さんの隣でがちがちに身を固くしていた。


 身を包むのは淡い水色のマーメイドタイプのドレス。
 足先まですっぽりと隠している。
 明るい色ではあるものの、同時に落ち着いた雰囲気も感じさせるそのドレスをみたとき私は感嘆の息を漏らしてしまった。

 舞台での衣装──チュチュと呼ばれるバレエ様の舞台衣装を着ることがあり、煌びやかな衣に身を包むことは慣れているはずだった。  
 だがそんな私にとってもこのドレスは心惹かれるデザインだ。

 そして首元には青い宝石──サファイアのネックレスをし、足元は足に負担わかけない構造になっている低めのヒール。
 ほぼぺったんこと言ってもいい靴だが、床ぎりぎりまで覆い隠すドレスによって見えないよ工夫されていた。

 これらすべて啓一郎さんが私のために用意してくれたものだ。
 懇親会にドレス着用が必須だと聞いた当初は戸惑ったが、啓一郎さんは「それじゃあ俺に贈らせてほしい。きっと似合うものを用意するから」と言ってくれたので甘えてしまった。

 隣に立つ啓一郎の横顔を見つめる。
 いつもの格好とは異なり、タキシードに身を包んだ姿はとても凛々しい。
 普段はしないような額をあらわにするような髪型もよく似合っていた。

 私は心臓をバクバクさせながら啓一郎さんの隣を歩く。

 啓一郎さんと共に歩いていあると何度か話しかけられることがあった。
 
 話の内容はよく分からないことも多かったが、啓一郎さんがこの医学の分野でもかなり有名な人材なのだということがわかった。

 以前とある外科手術における革新的な論文を発表し、たちまち注目されるに至ったそうだ。

「蓮見先生……この方はもしや?」

「ええ、私の妻の紗雪です」


 啓一郎さんが話しかけてきた男に私を紹介する。
 私もお辞儀をし、相手の男を見つめた。
 
「そうなんですね……蓮見先生がご結婚されただなんて……いや~、私もどんどん置いてかれてしまいますね」

「梅本先生にもいいお相手がきっと見つかりますよ」

    そう言って笑った啓一郎さんに私はどこか違和感を覚える。
 私はその違和感を探ろうと二人に視線を送る。
 すると啓一郎さんと話していた──梅本と呼ばれる男が私に視線をよこす。

 その視線はどこか粘っこく感じ、私はぞくりとした寒気を感じた。

「それにしても蓮見先生の奥方は本当にお綺麗ですね。スタイルもいいですし……もしかしてモデルさんとかされていらっしゃったんですか?」

    梅本が私の足から頭の先まで舐るようにじっくりと見る。
 そのまま私に質問を投げつけた。

「…………えっと私は元バレリーナで……」

「ああ! だからそんなにスタイルがいいんですね! 納得しました」

 相変わらず気味の悪い視線を向けてくる梅本の存在に居心地が悪くなった私。
 それに嫌悪感を感じるが、無理に何か揉め事を起こして啓一郎さんに迷惑をかけることはしたくない。
 私はじっと耐えようと下を向く。

 その間にも梅本は私に質問を投げかけてきたが、早くこの場を離れたかった。

 

「梅本先生、申し訳ないのですが──妻の顔色が悪いので少し休ませていただくために一度この場を離れさせていただいてもよろしいでしょうか?」


    啓一郎さんの声だった。
 私は呆然と啓一郎さんに視線を送る。

「……ええ、分かりました。またいつかお話ししましょう」

「ええ、さようなら」

    梅本はあまり納得した様子ではなかったが渋々この場を後にした。

 私も啓一郎さんに腕を引っ張られて会場の外に出る。
 掴まれた手が熱く感じた。
 周囲には人ひとりいなくなった場所で啓一郎さんは開口一番に言う。

「ごめん、すぐに助けられなくて」

「そんな! 啓一郎さんは助けてくれくれたじゃないですか」

    美貌を歪めて話す啓一郎さんに対し、私は前のめりになりながら答えた。
 梅本の前で感じていた気持ち悪さはもうない。

 啓一郎さんは「それでもごめん」と何度も私に伝えてきた。

「あの人──梅本先生は大学からの同期なんだけど、昔から綺麗な女に目がなくて。恋人がいようと夫がいようとターゲットになった女の人にちょっかいをかけてさ。周囲の人間にすごい迷惑をかけてたんだ」

「……そうなんですね」

「しかもあの人の関西にある有名大学病院の院長で、すごい権力とか持ってるんだよ。だから梅本先生が何か悪事を働いてもすぐ揉み消してしまって。…………紗雪、絶対にあの人に近づいては駄目だよ。ほんとこんなところに連れてきたのが間違いだったかも」

    そう言って啓一郎さんは頭を抱えた。
 
 最後の言葉にちくりと心臓が痛みを訴えた。
 私は啓一郎さんに迷惑ばかりかけてしまっている。
 私が梅本に目をつけられなければ、今頃啓一郎さんは懇親会で有益な時間を過ごすことが出来ていただろう。
 
 そんなネガティブな思考に落ちてしまった私に気づいて、温かい手が頭を撫でる。

 子供扱いをされた気になって少しだけムッとしたが、それでも心が落ち着いてきた。
 ……私としても単純なことだが。
 
 結局、私たちは帰ることになった。
 啓一郎さんは「こんな場所に紗雪に置いておくことなんてできない」と過保護なことまで言い出したからだ。

 そうして私たち帰ることを主催者の方に伝えようと会場へ向かって歩き出した。

 そして会場にたどり着いてすぐ──。

「あれっ、啓一郎じゃないか! 久しぶり、元気だった?」

 啓一郎さんに声をかける人物がいた。
 啓一郎さんを呼んだ人物は30くらいの男性であり、もう一人隣に寄り添う金髪の女性がいた。


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