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20.渦巻く独占欲 玲二side
しおりを挟む俺は一体何をしているのだろう。
隣で泥のように眠っているこはるを見て、思わず眉根を寄せる。
八つ当たりのように、自分の感情を制御で出来なかった。なぜか苛立ちが込み上げてきて、手ひどく抱いてしまった。
見を起こし、ベッドを出る。下着一枚だけだったので、その辺りに脱ぎ捨ててあったスウェットの下だけ身につけると寝室を出た。
そしてそのままキッチンへ足を向け、冷蔵庫にあったペットボトルの水を口に含んだ。
「…………一服するか」
呟き、俺は換気のスイッチを押しながらライターで煙草に火をつける。煙を肺の奥深くまで吸い込むと、ようやく頭が冷静になってきたような気がした。
子供みたいにこはるに苛立ちをぶつけるなんて、どうかしていると思う。
だが、あいつは俺のものだ。誰にも触れさせたくないし、触れさせるつもりもない。
だがその思とは反して、状況が許してくれない。こはるは女優なのだ。これから先もずっと。
苦い思いが湧き上がり、苛立ち紛れに煙草を口に咥えたあと大きく息を吐いた。白い煙がふわりと辺りを漂う。
俺は先日、部下から聞いた話を思い出した。
『月ノ島専務、奥方の所属している劇団に関わる過去の話、こちらにまとめておきましたのでここに置いておきます』
『ああ』
俺は部下の言葉に頷いたあと、キーボードを叩く手を止めた。チラリと視界に紙束が入り、おもむろに手を伸ばす。
そこには『月ノ島こはる(旧姓:花宮)の所属する劇団スペードについての報告書』と記されており、ぱらぱらと紙束を捲る。劇団の誕生した月日や客の動員数、今までやった公演の演目等、様々なことが丁寧にまとめられている。
ふと、視界に入ったのは『ここ5年の間に退団したもの』という欄だった。顔写真付きで掲載されており、確認するように名前を見ていくと途中で顔を顰めた。数ヶ月前にこはる自身から聞いた名前だったからだ。
遠藤朝陽。
爽やかなイケメン俳優として絶賛売出し中の男は、最近の若手俳優の中でも人気が高い。近頃は数多くの映画やドラマなどに出演。その演技力に加え、整ったルックス、なにより卓越した運動神経の持ち主で難なくアクションなどをこなしていくともっぱらの評判だった。
こはるが多く雑誌を所持しており、顔写真を見るだけで何故か胸の内がイライラとしてくる。俺はその男のプロフィールに目を通す。そして書かれた内容に思わず紙をぐしゃりと握りつぶした。
ーーーー過去1年半に渡り、奥方と交際していた。遠藤が劇団を離れる際、破局。
その文字を見た途端、今までにないほどの頭に血が上った。
なぜ、こはるはこの事実を隠したのだろうか。確実に故意だ。
あの雑誌の類はこの件に関係しているに違いない。
そう考えるだけでもはらわたが煮え繰り返り、癪に触って仕方がなかった。
なぜ隠す?
俺に知られたくなかったのか?
その後少しの間、仕事が手につかなかった。なんどももやもやとした考えが心の中を支配し、煩わしさに何度も舌打ちをした。
回想を終え、俺は睨みつけるように虚空を見上げた。
時間が経ち、少しは冷静になったはずだった。けれど、こはるが遠藤朝陽と共演すること、さらには恋人役だと聞いて怒りがぶり返したのだ。
こはると再開する前大まかなことは調べていたが、ここまで個人的な情報は調査させていなかった。だからこそ、遠藤と元恋人だと知ってどこか衝撃を受ける部分があった。
俺の中でこはるは誰の色にも染まっていない存在だった。だが、俺が離れた数年のうちに恋人ができ、勝手に恋愛ごっこに励んでいたなんて信じられなかった。
この件についてこはるが自ら話をしてくるまで、俺から話すつもりはない。
理由は特にないのだが、どこか後ろめたい気持ちになるからだった。仮に俺から話すとして、こはるが『実はまだ遠藤くんのことが好きなんです』なんて言われた日には何をしでかしてしまうか分からない。
泣き喚くまで犯し続けてから孕ませ、誰も来ないような所に閉じ込めてしまうこともあるかもしれない。
こはるは俺のものだ。
絶対誰にも渡さない。
吸っていた煙草を灰皿に押し付け、瞳を閉じる。苛立ちは膨れ上がり爆発しそうになり、考えることをやめようと思考をシャットダウンさせた。
こはると結婚してから、俺ばかり振り回されている。当初はあいつを自分のものにすれば気がするのではないかと考えていたのだが、すでにそれだけでは物足りなくなっていた。
こはるの髪から足の先まですべて俺だけのものにしたい。俺以外の人間を見つめるのは許さない。
そんな独占欲が今もなお膨れ上がり続けている。
それもこれも6年前、こはるが言った言葉のせいだ。
あの時は俺も26で、まだまだ若造だった。こはるはといえば高校2年で17歳になったばかりだった。
母親同士が大親友ということで、幼い頃はたびたびあっていた俺たちだったが、成長するにあたって会う頻度は減っていっていた。
理由としては俺がわざわざ母親に付き合うのを拒否したからというものと、あの頃の俺は窮屈な家に嫌気がさし、荒れていたからというのもある。
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