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18.心の中の濁り
しおりを挟む「こはの言ってること私もわかるな。恋ってさ、色んな形があるんだよ。こはが月ノ島玲二に向ける感情だってそう」
「本当ですか?」
「うん、私だって結婚するまで色々あったけど、こうやって今は落ち着いてるし」
香澄は苦笑いを浮かべて過去を思い出すかのように遠い目をした。
香澄には婚約者の男性がおり、その彼は幼馴染のようで。私と玲二の関係性とそっくりだった。
「だからさ、恋か恋じゃないかは置いておいて、とりあえずこはの気持ちを伝えてみるのが一番ベストだと思う。……何かあってからじゃ遅いの。後悔しないようにね」
「そう、ですよね……伝えなければ、何も始まりませんもんね」
「うん。…………あーでも、さっきはああ言ったけどさ。私、こはが月ノ島玲二のこと、好きになった気持ち分かるよ。だって、自分が一番大変な時期に救ってくれたんでしょ? しかも口では結構俺様でも、細かい気遣いも出来るっぽいし。顔も良くてお金も持ってる、そんなん好きにならない方可愛い可笑しいって」
香澄の言葉に思わずポカンと面食らだだ私は目を瞬いた。たしかに言葉だけを並べてみれば、玲二は私にとっての救世主なのだ。
女にだらしなあとはいっても、実際に今その現場を見たわけでもないし、時が経って落ち着いている可能性もある。
再開した当初、出会い頭に偏見の目を向けてしまったことが少し申し訳なく思った。
「んじゃ、こははこれから自分の恋に向けて頑張っていくとして! ……私、もっと色々芸能関係の話、聞きたいんだけど! なんかないの、この芸能人は実はこんな人だったとか」
「ええと……実はまだ、表立って女優としてのはほとんどしていなくて……」
「えええ! うっそ! なんで、どうして? 今、あんなにも世間で話題になってるのに? 『花宮いつきの娘、花宮こはる。ルナトーンのイメージモデルに抜擢!』って芸能雑誌にも取り上げられてたし、ネットでもすごい話題になってるよ」
そう。
今、世間で色々と私のことについて取り上げられているのだ。おそらく事務所の方がいろいろ手を回しているのだろう。
私はほとんどネットなどは見ないために疎い方だが、劇団の団長や仲間たちからも『広告見たよ!』と連絡が来ていた。
気になってほとんど使わないネットサイトを覗いてみたところ、様々な意見が飛び交っていた。ーーいい意見も、もちろん悪い意見も。
『花宮いつきの娘? めっちゃ綺麗じゃん』
『こはるちゃん可愛い』
『一目見てファンになった! さっそくルナトーンのコスメ買ったよ』
前向きなコメントも有れば。
『うわ、また2世かよ。母親が有名だからってゴリ押しすんな』
『母親の力で表に出れるなんて羨ましい。顔だけじゃない?』
『今までのルナトーンのコンセプトの方が好きでした。こはるさん? 誰それ?』
このようにネット世界の人はあれこれと書き込んでいた。
傷ついたかと言われればなんとも思わないわけではなかったが、こう言われることは元々予想がついていたためにダメージはなかった。けれど、私のせいでルナトーンのコスメを買わなくなってしまう人が出ることに対して罪悪感は覚えてしまう。
それでも。
予想以上に前向きに捉えてくれる人が多くて最初は驚いた。意外と『2世の人は母親のせいで期待値高くつけられて可哀想』などといった同情的な意見も多く、それにも驚愕させられた。
「でも、明後日からは本格的に現場でのスケジュール決められてて……結構忙しくなりそうだったので、今日香澄先輩とお話しできてよかったです」
「そうなの? うわあ、こはがテレビに出るの楽しみだなあ。全部チェックしなきゃ!」
香澄は自分のことのように喜んでくれて。
私も釣られて笑顔になる。
玲二と未だきちんと話せていないことのモヤモヤも吹き飛んでいくようで、香澄と女子会を開けて本当によかったとしみじみ感じた。
明後日からは新たな広告の撮影に加えて、はじめてのテレビ番組の収録にも呼ばれている。バラエティ番組だ。
会話にはあまり自信がないため、今このフリーな時間は練習をするために用意されたものでもあった。もちろん、それだけではないのだが。
私はマネージャーとして動いてくれている内山からもアドバイスをもらっていた。
どうやら女優として売り出し中の私はトーク力より、ただ自分のイメージから外れた行動や発言をしないことを重視しなければいけないとのことらしい。つまり、ボロを出すなということだ。
『こはるさんは基本的に真面目で口も悪くはなく、外見通りの性格であまり心配はしていませんが。ただ、玲二さんといるときはかなり攻撃的…………いや、まあアクティブになることがありますので、それを番組内で出さないようにするのが第一目標です』
内山のアドバイスを心に刻み、イメージトレーニングをしている。
「あと、実はここだけの話なんですけど、初めて映画に出ることになったんです」
「すごいじゃん! やったね! ……という割にはあまり嬉しそうな顔つきじゃないけど……何かあったの?」
「いえ、実は……」
映画はまさかの主演としての抜擢だった。
さすが月ノ島プロダクションだと報告を聞いて思ったのだが。
私は曇る顔色で香澄の質問に答える。
「この映画に出演する人……つまり共演する人たちが問題なんです」
私がその人たちの名前を告げたとこり、香澄は大きく目を見開く。その後、「うわぁ、それは大変かもね」と顔を歪めて呟いていた。
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