【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ

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16.ゴンドラデート

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 玲二に連れてこられたのはとあるゴンドラの前だった。
 そこにはボーダーシャツをきた男性が待機しており、私たちに笑顔で話しかけてくる。思わず隣に立つ玲二に顔を向けると「乗るぞ」と端的に答えて腕を引かれた。

 驚いている間にゴンドラはゆっくりと進み始める。どうやら私と玲二の貸切のようで、このような準備をいつしていたのか疑問が湧く。

「ああ、先程言って準備させた。ちょうど夕暮れ時で、ロケーション最高だと思ったからな」

「いつの間に……」

 私は手際のいい玲二に苦笑いを浮かべるも、心の中では感謝していた。今回の撮影ではゴンドラではなく、水上バスに乗ったがやはり撮影のためとあっては景色ばかり見ているわけにもいかなかった。
 だから、今、この瞬間が嬉しい。

 私は胸を弾ませながら、壮観な街並みは夕日に照らされ、より美しさを増している。目に映るすべてに見惚れながら景色を楽しんでいると、隣に腰掛けていた玲二の手が腰に回ってきてーー。

 その瞬間、心臓が跳ね上がった。
 数日前には体を重ねた仲で、触れ合う事ことなど数多だったのに。今はどうしてだか落ち着かない。

 自分の気持ちに困惑しつつ、ちらりと横目で玲二に視線を送れば。

「……なんだ、変な顔して。少しくらいいいだろ?」

 どこか拗ねたように口を尖らせる。
 その表情は年上の男性であるのにもどこか幼く思えてしまって。私はふわりと顔を綻ばせた。

 おそらく私の顔は赤くなっているだろう。照れる気持ちもあれど、いつもとは異なる環境に感化されてか素直でいたいと思った。

「……玲二さん。今日は…………いえ、今まで色々とありがとうございます。あなたに出会えて……よかった、と思います」

「な、なんだ突然……」

 私の言葉に動揺してか、僅かに頬が紅潮していた。

 玲二と再開して、様座なことが変化していった。目まぐるしい日々に疲弊しつつも、それ以上に有意義なときを過ごすことが出来た。

 劇団を助けたくれたことに加え、仕事や事務所まで斡旋してくれたことに引け目を感じる心もある。私なんかがここまで幸せでいいのか、親の七光りを利用しているということに罪悪感すら覚える。

 けれどそれを差し引いても私は幸せだった。この選択に悔いはないと今この時この瞬間、胸を張っていえる。

 芸能界というものは実力も大事だが、それ以上に運も必要とされてくる。お偉いさんに気に入られて、スターダムに上り詰めるものも多い。
 私のしている事はそれと同じであると自覚している。数多の芸能人志望の人間がいる中で、スポットライトを浴びることができるのはほんの一握り。その中の一つの席を私が奪ってしまうことになる。

 それでも、私はーー女優として演じていきたい。母のような名実ともに素晴らしい女優になるのが私の夢だから。

「いいえ、なんとなく言いたくなっただけです」

「変なやつだな」

 呆れたような物言いは玲二のお箱で。
 すでに慣れたものだった。


 夕日が沈んでいく。
 水路を進むゴンドラは狭い道を進んでいく。多少の揺れがあるために外へ身を乗り出す事は出来ない。夜風が吹き始めるも、玲二の持ってきてくれたコートのおかげで寒くはなかった。

 優雅な景色にため息をついていると玲二が口を開いた。

「そろそろためいき橋の下を通る頃合いだ」

「……ためいき橋ですか?」

 不思議な名称の名前に私は首を傾げなが繰り返す。すると何故か口元をニヤつかせ、私に顔を寄せてきた。

「知ってるか? ためいき橋の言い伝え」

「言い伝え……知りませんが」

「日没に橋の下でキスした恋人同士は永遠の愛が約束されるそうだ」

「え、永遠の愛ですか……」

 玲二の意地悪げな面持ちとその言葉に心臓が早鐘を打つ。
 永遠の愛が約束されるだなんてただの噂であり、信憑性などないものだ。けれど。

 すでに日は沈んでおり、ちょうどいい時間帯だった。周りにはロマンティックな雰囲気が漂い、より体を強張らせる。

 先程は素直になれると思っていたのに、今はどうしてだかそうはなれそうにない。頑なな心が芽を出してしまっており。
 
「わ、私たちはカップルじゃないですから関係ないですよね!」

 我ながら可愛くない言葉が口から漏れ出てしまう。後悔しても仕方がないが、自分の情けなさにほとほと呆れてしまいそうだった。

 気持ちを認めるのが怖くて仕方がないのだ。

 言葉を聞いた玲二は眉根を寄せる。
 いつものように憎まれ口でも飛び出すのかと思いきや、どこか寂しそうな感情をその切長な双眸に宿していた。

 その様子に胸がぎゅっと掴まれたように痛み、唇を振るわせる。
 
 
 ーーなぜ、そんな顔をするの?


 そう問いたかった。
 玲二の表情はまるでーー恋が叶わなかったあとのようで。

 ためいき橋は目前だった。

 玲二は一体どんな気持ちでこの話をしたのだろうか。私は彼の気持ちを一切考えたいなかったのではないか。

 そう思うとどうしても落ち着かなくなり。

 私は顔をあげ、こくりと唾を飲み込んだ。そして心を決めるように胸元で手を結ぶ。手汗が滲みつつあるのは緊張しているからだろう。

 私は玲二に向き直り、その腕を取った。そしてーー。

 自ら唇を重ねた。

 頭上にはためいき橋がかかっていた。
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