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第三章 魔女だなんて、とんでもない! わたしは聖女です!!

3 なんちゃって聖女様……と?

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 誰もいないと分かった途端。さっきとはまるっきり違う口調と態度になっている少女。様子からして、どうもさっきは演技であり。こちらが素のようだ。

「本当に無事に助けることが出来て良かった!
あたしの魔法で駄目だったら、どうしようって心配だったもの」


 知らない世界の知らない誰かであろうと、死んでしまうのは悲しい。
 親しい友人が目の前で息絶えるのを見るしか出来ない。そんなことはあってはほしくない。
 そう思いながら胸に手を当て、ほっと一息。

 さっきまでの自信に満ち溢れていた姿とは、まるで真逆の別人だ。


「……最初は地球じゃないんだってビックリしたけど。
住めば都というか、頑張ってみると何とかなるものよねぇ」

 そう呟くなり、ホロリと涙を流す。


 この世界【ストレンジ】で少女は、大好きな恋愛RPG【Memory of heart】略称メモハー。その主人公である聖女【リリア・イヴス】の中でも回復特化型となって存在していた。

 モデルみたいに綺麗な容姿になっている自分。こと回復に関しては凄い力。
 そして、今まで見たことのない不思議な生物や現実では使うことが出来ない魔法といったファンタジー満載な世界。

 そんな現実では有り得ない出来事に驚きながらも当初、この世界を新鮮な気持ちではしゃぎ楽しんでいた。

 しかし、それも最初だけだ。時間が経つにつれ冷静になってくると、記憶の異常や地球への帰還方法の不明といった自分がどんな事態になっているのかを嫌でも理解してしまう。

 そう思うと、ホームシックで故郷がひどく恋しくなる。家族や友人。地球の漫画や小説やゲーム。和食と大好きなスイーツ。

 気付けば、地球のことを延々と思い続けていた。


 これではいけない。そう思って始めたのが聖女の真似事。ゲームでリリアを強くさせる為にするべきことは色々とある。
 回復特化型の場合は主に癒やしの力を強化させることが重要。知力と魔力以外には、善行を積むこと。

 少女は思った。他にもあるけど、今この世界で出来るのは多分これぐらいだろうと。


(ゲームだったら、これ以上強くなるのは無理。でも、ここは違う。もしかすると更なる力を手に入れちゃうかも!?)

 気分転換を兼ねた自身が更にパワーアップ出来るかの検証。そうでしかなかった筈の行動は、いつしか親切をすることと感謝の言葉が貰えることを嬉しく思うようになっていった。
 今では、特にパワーアップの兆しは無くとも困っている人を助けて笑顔を見ることが喜びとなってしまっている。

(誰かを幸せに出来るっていいなぁ。
あたしはドジでノロマで役立たずだから、誰かを怒らせてばかりだったんだもの)


「──ハッ!? だ、駄目駄目! ここは地球じゃないんだから。暗い考えなんか厳禁!!」


 いつか地球に戻れるその日まで、この世界で頑張る。
そう前向きに思っていないと、へこたれてしまいそうになる。


「それにしても。路銀が尽きてたから、お礼は凄く助かったわ!これが持ちつ持たれつって言うの?
……う~ん。ちょっと違うかもしれないけど、まあいいか。とりあえず、これで美味しい物を食べて英気を養うぞ~!」

 ごはん、ごは~ん! 美味しいごは~ん!!と自作の歌に合わせて軽くステップを踏みながら去る少女。



 一部始終を眼球の付いた不気味な植物がジッと見つめていた。

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